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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−29 悪趣味全開の一品

「じゃーんッ★ 完成! 完成したよん!」


 親玉があれこれと魔法術式を組んでいるのを、静かに見守っていると。本当にさして待たされる事なく、ベルゼブブが「ちょっとした魔法道具」を作り出す。だが、出来上がった「魔法道具」を見つめて……俺達一行は呆然とするしかなかったんだ。


「しかし、それは……何だ? 見たところ、武器ですらないような……」


 わざと地雷を踏みに行ったとしか思えない、理解に苦しむ出来栄え。その場にいる全員、ベルゼブブが作り出した「彼女」の有様に思考が追いついておらず……不意に重たい静寂が訪れる。そんな何となく気まずい沈黙を破ったのは、顔をヒクつかせて激オコ数秒前な雰囲気のルシファーだった。


(なんか、穏やかじゃない雰囲気だな……。嫌な予感がする……!)


 そう……ベルゼブブが作り出したのは、どう見ても武器や道具なんて言葉で片付けられる代物じゃなくて。「どうしてこの場面で、そんなものを作る⁉︎」と全員が心の中で突っ込んだだろう、悪趣味全開の一品。そして……そのあまりに既視感のあるお姿に、ルシファーがいつにも増してピシリと眉間に皺を寄せている。


「えっ? 見て分からない? これはハニー人形だよん! しかも、コスチュームはギリギリを攻めて大胆な感じに……」

「何をこんな所でふざけておるのだ! 悪趣味もいい加減にせんかッ⁉︎」

「フゲッ……⁉︎」


 鮮やかに顎に右アッパーを叩き込まれ、ベルゼブブが軽く吹き飛ぶ。いや、俺もよくルシエルに吹っ飛ばされているけれど。こんな下らない理由で吹き飛ばされた事はない……と思う。何れにしても、こうして器用に「お人形」を作られると色んな意味で恐ろしいな。


(それにしても……なるほど。ルシファーの羽を要求したのは、悪趣味を叶えるためか……)


 緊急事態に乗じて何をやってるんだよ、このクソ悪魔。

 ベルゼブブが無骨な相棒から作り出したルシファー人形は、ダイダロス製のリッちゃんも目じゃないくらいに精巧な仕上がり。そうして「彼女」もまた、状況があまり理解できないのだろう。目の前で展開されている夫婦漫才を渋いお顔で眺めていた。


「……ところで、ご主人様。私は如何様にすれば、よろしいので?」

「あっ、メンゴメンゴ。ハニー2号には、地図情報からサクッと逃げ道を探して欲しいんだよん。頼める?」

「承知した。して……地図情報は何処に?」


 しかしながら、ハニー2号(ルシファー2号?)は気難しそうな表情とは裏腹に、オリジナルに似て真面目な様子。純白の眩しい下着姿で腕組みをしつつ、ご主人様(ベルゼブブのこと……だよな?)の指示を待っている。


「ほら、ハニー1号! 早く2号ちゃんに地図を渡してあげてよん」

「誰がハニー1号だ! えぇい、仕方ない……ほれ。地図はこれだぞ、2号」


 ……ルシファーの奴、よくこの状況に適応できるな……。ちゃっかり彼女を「2号」と呼びつつ、素直にパネルごと地図を渡しているのを見せられると、天使長様の度量の深さをまざまざと思い知らずにはいられないんだ。……ここは臍を曲げてもいい場面だろうに。ワガママを言い出さないのは、流石は使命感も抜群な天使のトップ……と言うことなのかも知れない。


「……ベルゼブブ。後でお仕置きはするからな……?」


 しかしながら、当然の如くご本人様は納得していない様子。2号様の手際を見守りつつも、抜かりなくベルゼブブに厳罰を言い渡す。


「えっ? これ……お仕置き対象なの? お仕置き対象な感じなの⁇」

「……お前はどうして、これを平気だと思えるのだ……? しばらく“ダーリン”とは呼んでやらんからな」

「えぇ〜⁉︎ そうなる? そうなるのん、ハニー! 僕、一生懸命頑張ったのに……」


 いや……どうしてこの悲劇を平気だと思えるのか、俺もサッパリ分からないんだが。一生懸命頑張るポイントがズレているどころか、根本的に間違っている気がする。


「……私の旦那がハーヴェンで良かった……。こう言うと、なんだが……」

「ルシエル。それ以上はいいぞ。……それ以上は言ってやるな」

「うん……そうだな」


 いつの間にか定位置(俺の肩の上)にヨジヨジしていた嫁さんが、ポツリと小さく呟く。俺の耳たぶをキュッと握りしめ、心ばかりのモフで精神を落ち着かせようと、四苦八苦している様子。


(まぁ……この状況を見れば、ベルゼブブのお嫁さんにならなくて良かった……って、普通は思うよなぁ……)


 うん、お向かいのミカエリスさん夫妻も同じことを考えていそうだ。愛が爆発したにしても、旦那がお嫁さんそっくり(しかも自我持ちで勝手に動く)な人形を拵えたら、普通は気持ち悪さが先に来るワケで。これを純粋な愛だと受け止められるお嫁さんは、なかなかいないに違いない。


「……こっちだ。ここの壁はやや、魔力の波長が薄いように感じられる。なので……」


 妙な光景に若干脱力していると、キッチリとお仕事をするつもりらしい2号様が脱出の糸口を見つけた模様。ふむふむとやっぱり既視感が否めない仕草で、顎に手をやっていたかと思うと……ツカツカと探り当てたポイントへと歩み寄る。そして……!


「フンっ! トォォォォォリャァァァァッ‼︎」

「……⁉︎」


 勇ましい雄叫びと同時に、2号様が眩いばかりの脚線美を振り上げる。そして、躊躇いもなく壁に踵を縦一閃に振り下ろしたかと思えば。彼女のつま先をなぞるように、あれだけ突破不可能だと思われていた壁に、くっきりと裂け目ができていた。


「よくやったぞ、2号」

「無論だ、1号。この程度の事、造作もない」

「すまないが、この先も頼めるか?」

「あぁ、もちろんだ。任せておけ」


 いや、ちょっと待って。この光景に驚かないのも大概だが、なんで互いに「1号・2号」で呼び合っているんだよ。2人揃って、適応速度がおかし過ぎるだろ!


「何をしている? 皆も行くぞ」

「は、はい……。しかし、ルシフェル様はよくこの状況が平気ですね……?」

「まぁ……最初は驚いたがな。こうも見慣れた顔だと、少なくとも2号相手では怒る気にもならん。それに、今は文句を言っていられぬ状況だ。この程度の事は流すに限る」

「そうだな。流石は1号だ。私も今はとにかく進むのが、賢明な判断だと思うぞ」

「さ、左様ですか……?」


 恐る恐る、ルシエルがご機嫌を伺っても、このお答えともなれば。彼女達の言う通り、ここは進むべき場面なのだろう。だが、一致団結しているのはどうも、当人同士だけらしい。そこに「ご主人」が挟まろうとすると、途端に手厳しい制裁を加え始めた。


「うふふ〜! やっぱり、ハニーをモデルにして正解だったねーん! これからは仲良く3人で……」

「寄るな、この変態!」

「フゴッ……!」

「私もご主人様とくっつくのは、御免だぞ!」

「ゴフッ……⁉︎」


 仲良く3人で何をするつもりだったんだろうな……?

 何かを拒絶されたベルゼブブは1号からは激烈な右フックを頂戴し、2号からは鮮烈なハイキックをお見舞いされ、今度こそ盛大に吹き飛ぶ。そんな彼を横目に……残りの全員は2号様のご案内に従って、ようよう「ローレライの檻」から脱出せしめる。そうして俺達が通り過ぎた途端に、2号様が作り出した「裂け目」がシュルシュルと縮み始めた。あっ、これ……モタモタしていると、アウトなヤツなんだな。


「ま、待ってよ! 待って! もぅ〜、みんなイケズなんだからぁ!」


 置いていかれまいと、ムクっと起き上がるベルゼブブ。慌てに慌てて、ギリギリセーフと言わんばかりに、無事に「裂け目」に飛び込んでくる。だけど……お前は反省も兼ねて、もうちょっとピンチを味わっても良かったかも知れないぞ。お嫁さんのご機嫌が致命的にアウトなの、しっかり認識した方がいいと思うんだ。

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