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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−28 魔封じの氷

「……リッテルから、遅れそうだとメッセージがあった。どうやら、マモン達もローレライの忘れ形見に遭遇したらしい」


 ルシファーが手元のパネルと睨めっこしながら、そんな事を呟くが。どうも、マモン達は玉座フロアの前座になるらしい、祭壇の間までは辿り着いたものの……守護者としての本分を忘れていなかった機神族と交戦する羽目になったそうだ。


「出どころは不明だが、グラディウスの地図も入手したとかで、そちらの連携もあった。マモン達が手こずっているのは敵襲もあるだろうが、どうやら……魔力の経路が張り巡らされているせいで、経路をスムーズに確保できないようなのだ。情報からしても……1歩でも間違えると、例の魔力を思い切り被る事になりそうだな」

「ま、グリちゃんなら難なく突破してくるでしょ。腕も立つ上に、あの子はあの見た目で頭もいいからねぇ」


 ……しかし、いつも思うんだけど。見た目は頭の良さに関係ないと思うんだ。それに、マモンを「あの子」って。いくら弟チックな関係性とは言え、軽んじすぎじゃないか?


(ま、まぁ……このテの軽口は、ベルゼブブだから許されるんだろうけど。それでも、どうもマモンは見た目で損している気がするなぁ……)


 多分、妙に幼い顔立ちの上に吊り目がちなせいで、必要以上に「ヤンチャ」に見えてしまうのだろう。顔の作りは相当に整っていると思うが。身長がそれなりなせいもあって、子供扱いされがちなのは否めない。同格のベルゼブブはともかくとして、配下のダンタリオンさえも同じような事を言っていたし……不用意にナメられる、と言う意味では確実に見た目で損をしているな。


「それはさておき……ルシファー、その地図にはここからの脱出経路は書いていないのか?」

「あぁ、それも書かれてはいるのだが……マジックディスペルが封印されている以上、隠蔽箇所の魔法を解く手段がない。だから……」

「あっ、それだったら……これもイケるかな? でも……う〜ん、やっぱり無理か……?」

「ハーヴェン、何がイケそうなんだ?」


 最近機神族相手に振るっていたせいか、相棒の特殊効果を忘れがちだったけれど。考えたら……コキュートスクリーヴァにも魔法を切り裂く性能はあるんだよな。ただ、この場で通用するかどうかは微妙なことも思い出し、言いかけた言葉を飲み込む。……多分、相棒では今の状況打破は難しい気がする。


「一応、説明しておくと。コキュートスクリーヴァも、ある程度の魔法を切り裂くことができるんだ。だけど、こいつは純粋に魔法を切り裂くだけであって、無効化まではできないんだよ。コキュートスクリーヴァができるのは、あくまで魔法そのものを切る事であって、魔力の経路を遮断する訳じゃなくて……」

「なるほど? 要するに、若造のそれは魔法を一時的に凌ぐことはできても、発動自体のキャンセルはできないという事だろう?」

「そういう事。だから、マジックディスペルと同じ効能を期待するのは、無理なんだよなぁ……」

「そうか、それは残念だな……」


 ルシファーに同意を示した途端に、隣でルシエルが明らかに落胆し始める。とりあえず、俺は何も悪くないとは言え……嫁さんにウルウルされると、とっても辛いんだが。


(期待させるようなことを言っちまったかな。あぁ、そんなに悲しそうな顔をしないでくれよ……)


 閉じ込められている状況が窮屈であり、不安なのだろう。ルシエルがいつになく怯えた様子で、俺の腕に抱きついてくる。化けている時は腰にピトッとくっついてくるのだけど、今の姿だと腕に巻き付くのが精一杯……


「って、イテテテテ! ルシエル、何するんだよ!」


 しかし、これまた出どころ不明な怪力で締め上げられて、悶絶する俺。ちょっと待て。どうして俺はルシエルにアームロックをかけられているんだ⁉︎


「ハーヴェンのバカ! そんでもって、ピーマン男! 脱出できるかどうかはやってみないと、分からないだろ⁉︎ やる前から無理だって言うな!」

「い、いや、そうかも知れ……イタタタッ! とりあえず、ルシエル! 言いたいことは分かったから、腕から降りて! 俺から降りてッ!」


 このままじゃ、俺の腕がもげちゃう。


「そー言えば、ハーヴェンのそれって……フロストサイトで出来ているんだっけ⁇」

「あ、あぁ……最終的にはそうなるか? こいつはワハが結晶化した永久凍土を鍛えたもので……」

「そっか、そっか。だったら……ルシエルちゃんの言う通り脱出、イケるかもよ?」

「へっ?」


 おぉ痛いと……腕をさすりながら、意外な事を言い出したベルゼブブに応じるが。ベルゼブブ曰く、相棒の魔法を切り裂く効果は永久凍土由来の特殊性能によるものらしい。


「フロストサイトはハーヴェンの話通り、結晶化した永久凍土の事だぁね。で、コキュートスの永久凍土は別名・魔封じの氷とも言われていて……って、その辺はハニーもよく知っているかなん?」

「そうだな。コキュートスの氷地獄は罪人の魂を氷漬けにするためのものだからな。……永久永劫に堕ちてきた者の肉体を腐らせる事なく苦しめるために、魔法効果を遮断した上で、手酷い凍傷を与えるものだと聞き及んでいる」

「そうそう、それそれ。僕としては、腐らないって部分は気に入らないけどーん。ベルフェゴールなんかは時々、可哀想に……なーんて言いながら、“死にたくないなら、寝るな〜”って罪人を叩き起こしてたりしたね。アハハ、本当に彼は面白いよねぇ。死にそうな相手に起きろも何も、ないだろうに」

「……それ、却って残酷なんじゃ……?」


 普段からのほほんとしているベルフェゴールのこと。きっと、彼に悪気はないんだろうけど。折角、睡眠で苦難から逃れようとしているのに……それを起こすなんて、罰以外の何物でもないと思う。


「それはさておき。確か、ハニー達って素材複製の魔法を使えたよね?」

「マテリアルリプリケイトの事か? もちろん使えるが……って、そういう事か! 複製された若造の武器から、魔法道具を作ればいいのだな⁉︎」

「ウフッフフ〜! そういう事、そういう事ん! しかも、ここに居るのは魔法道具生成のスペシャリストだよん! ちょっと工夫すれば、ジャミング効果くらいは解除できるかもぉん」

「そうだな! ベルゼブブ……いや、ダ、ダーリンにかかれば、チョチョイのチョイだな!」

「うふふ、そうでしょう、そうでしょう!」


 ……よく分からないが、ルシファーは明らかに無理している気がするな。ここはベルゼブブを持ち上げるに限ると判断したんだろうが、「ダーリン」とスムーズに言えない時点で、まだまだな気がする。そんでもって、その辺はベルゼブブも気づいていると思うけど。まぁ、こうして夫婦仲が縮まるのはいい事なんだろう。


「では、早速……すまない、若造。お前の武器を貸してもらえるか?」

「もちろん、いいぞ? えぇと……床に置けばいい?」

「あぁ、それでいい。では……分け与えることを認めたまえ、生み出すことを許したまえ! 持たざる者に、新たなる希望を齎さん! マテリアルレプリケイト!」


 しかし、本当に便利だよな……複製魔法って。特殊性能は削ぎ落とされてしまうみたいだが、素材自体の複製が可能な時点でとんでもない魔法なのは、間違いない。


「本物はもういいぞ。それで、ダーリン!」

「ホイホイ、分かってるよん。ちょっと待っててね。……これを使って、脱出用のアイテムを拵えるから。それと、これも混ぜておこう、っと。あと、それでね……もし良ければ、ハニーの羽を分けてくれないかな? 3枚くらいでいいから」

「3枚でいいのか? だったら……ほれ」


 無事に返却された相棒を受け取りながら、夫婦共同作業を生暖かく見守る。いくらおちゃらけているとは言え、ベルゼブブは自他共に認める魔法道具作成のスペシャリスト。難なく、状況を打破する魔法道具を作ってくれそうだ。


(この調子だったら、あっという間に出来上がりそうだな)


 相変わらずの手慣れた調子で、ベルゼブブが虚空に魔法術式を展開していく。コキュートスクリーヴァ(コピー)と手持ちの鱗っぽい形をした金属片を掛け合わせるようで、素材の分量からしても、結構大きな魔法道具になるだろう。ルシファーの羽をねだった理由は今ひとつ、よく分からないが……きっと、これも意味があるのだと思う。多分。


「あぁ……ダンタリオン様にも見せてあげたかったなぁ。魔法道具生成の見学だなんて、師匠も飛び上がって喜んだだろうし……」

「ふふ。セバスチャンはなんだかんだで、師匠思いですよね。でしたら、しっかりとメモをとっておけば、いいのでは? こちらの様子も、マディエルがドラマティックに書いてくれると思いますよ」

「うん、そうする。ふむふむ……ベルゼブブ様が虚空に指を滑らせると、そこには光を帯びた魔法術式が……」


 ……こっちはこっちで、夫婦円満でいいことで。でも……なーんか、緊張感が抜けるなぁ……。今の状況が緊急事態なの、分かっているんだろうか……。

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