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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−27 愛憎劇の蓄積物

 左手に残したソードブレーカーも相当な特注品ではあるが、右手に装備した槍は特注品どころの代物じゃなかったりする。こいつはヨルムツリーが気まぐれに寄越した、武器の1つで……銘を教えてもらえることはなかったが。長さの割には軽やかな使い心地といい、刃に仄暗い光が巻いているのといい。……どこをどう見ても、普通の得物じゃない。


(ほぅ……! これはまた、随分と懐かしい得物を持っておるの、小僧は)

「カリホちゃんはこいつを知っているんだ?」

(無論ぞ! 憎たらしい陽の国が英雄の盗み出した、神槍であろう!)

「盗み出した⁇ その話、もっと詳しく……って、おっと!」


 カリホちゃんの解説には当然、興味はある。自分の武器が「どんなモノなのか」は使い手にとって、是非に押さえておきたい情報だ。だけど……。


「話は後の方が良さそうだな」

(そのようじゃな、主様。しかし……麻呂は寂しいでおじゃるよ)

(うぅむ……こうも拙僧らの出番がないとは……! 何と情けなく、口惜しいことか……!)

「悪いな、お前ら。後でたっぷりお喋りも手入れもしてやっから、しばらくいい子にしていてくれ」


 どう頑張っても悠長にお喋りしている場合じゃないんだよな、これが。それでも倒し方さえ分かれば、後はセオリー通りに捌くだけ。ソードブレーカーで相手の攻撃を防ぎつつ、ルシエルちゃんに倣ってデュランダルのコアを貫く。そうしてやれば……リッテルの情報通りにようやく、甲冑野郎も大人しくなる。


「リッテル!」


 だけど、そのままガッチャンとデカブツに墜落されたら、床が思いっきり凹みそうだ。それでなくても、俺達はこのフロアに「天井を打ち破って」潜入している。要するに、元天井だったここの床にもビッシリと魔力の通信経路が通っているわけで。……壁以上に、床の方が危険地帯な気がする。


「分かっているわ! 床に衝撃吸収系の補助魔法を展開します! 母なる大地に思いを馳せ我が肌となれ、我は空間の守護者なり! サンディバッファー!」


 リッテルはどうも、回復魔法や防御魔法よりも補助魔法の方が圧倒的に得意みたいだな。

 彼女が展開したサンディバッファーは、いわゆる砂の緩衝材を作り上げる魔法で……意外と構築難易度が高い魔法だった記憶がある。サンディエッジにサンディシェルター、そんでもってサンドスニーキング……ナドナド、地属性には「砂」を媒介にする魔法も多いのだが。如何せん、極小の砂粒を媒介にしなければならない以上、相当の神経を持っていかれるのが特徴だ。しかも、集合した砂の形状は流動的でもあるから、きちんと使いこなせるようになるにはかなりの修練も必要だろう。


「リッテル、ナイス! 悪いが、この調子で残りのフォローも頼むぞ!」

「えぇ、任せておいて! こうなったら、2人でゴリゴリ押しちゃうんだから!」


 おぉ、いつになく嫁さんが頼もしい。リッテルさえいれば、俺も存分に相手を叩き落とせるってもんで。


「うっし、そうと決まれば……全員、まとめて撃沈させてやんよ! ほれほれ、死にたい奴からかかってこい! ……って。う〜ん、反応はイマイチかぁ……」

(そのようでおじゃるな。……主様、格好悪いでおじゃる)

「うっせぇ!」


 すーん……折角、ちょいちょいとおちょくるポーズで見得を切ってみたのに、無視されちまった。機神族は頭の中もガッチガチに硬いみたいで、お仕事一筋な姿勢も相変わらず。……しかし、やっぱ機神族はつまらないな。無感情で、無欲だなんて。こんな状態で、生きている意味……あるんだろうか?


(って、違うな。……今のこいつらは元の霊樹を引っこ抜かれた後……なんだよな)


 ローレライが拐かされた時点で、機神族は本来の生命線を奪われている。だけど、グラディウスが生み出したらしい新・機神族達が盲目的に突っ込んできたのを考えても……新しい世界とやらが出来上がっても、機神族の未来はあまり楽観視できるモノでもない気がするな。


「つー事で……無視されようが、反応なしだろうが。ここらでキッチリ、引導を渡して差し上げま〜す。……もう、お前らの王様はいないんだ。後腐れなく、眠っちまいな!」


 ビュオっと空を切り裂く剣戟を、ソードブレーカーで押さえ込みながら。相手の武器を封じた所で、神槍とやらで急所をひと突き。途端に、ガラガラっと崩れ落ちていく甲冑の残骸を、リッテルの魔法が優しく受け止める。嫁さん印の棺桶はそりゃあもう、さぞ寝心地もいい事でしょう。キャッチコピーは「安眠どころか、永眠間違いなしですッ★」……だったっけ?


***

「で? この槍、そんなに大層なもんだったのか?」

(なんぞ……小僧、これが何か知らずに振っておったのか?)

「……だって、教えてもらえなかったし。教えてくれって言っても、あいつはちょっとした因縁の品物だってしか、言わなかったし。十六夜も知らないんだよな?」

(そうじゃな。元の持ち主は薄っすら覚えておるが、槍自体の委細は知らぬ。しかし、まぁ……因縁の品物なのは、間違いないかの?)


 リッテルのガイドに従い、救難信号を辿る道すがら。ここらで昔話を聞かせて頂戴と、古株の刀2振りに話しかけてみれば。随分と素直にお喋りしてくれるよになったカリホちゃんが、槍のあらましを教えてくれる。


(……その槍は“天沼矛”と申してな)

「あめの……ヌボコ?」

(うむ。オリエント・ヤポネにおいて“国産みの矛”ともの呼ばれる、至高なる聖槍ぞ。ヤポネの神がかの地を生み出しし時に、使ったとされておる)

「……国産みとかって言われても、よく分からんが。響きからしても、秘宝中の秘宝だって事くらいは理解できるぞ。しかし……それがどうしてクソ親父が持っているだなんて、悲報に成り代わったんだ?」

(それは、だな……まぁ、有り体に言えば、英雄共が封印の禁を破ったのだ。無論、大地そのものを作り替える程の神槍故に、彼の地でも丁重に封印されておったが……クシヒメ様や小生らを欲した英雄が、ここぞとばかりに龍神退治に持ち出しよってに。……だが、かつてのヨルムンガルドはそれすらも飲み込んで、腹の中で弱体化させるまでに強大な神だったのだ。……今の落神には見る影もないがな)

「あはは……言うねぇ。ま、それは俺も同感。……あんなに情けないのが生みの親だなんて、それこそ悲報中の悲報だ」

(ふん……小僧もなかなかに言うではないか。意外と意見が合うな?)

「そいつはどーも」


 カリホちゃんの話からするに……神槍のルーツはクソ親父がまだまだ、東方の邪神をしていた頃に求められるらしい。なんでも、クソ親父が大昔の神様をしていた時に、一戦を交えた英雄様にブッ刺された得物だそうで。その英雄達との諍いも、熾烈を極めたそうな。


(……しかし、発端は詰まるところ、横恋慕なんだよなぁ……。あぁぁ……なんだろうな。歴史や神話って言うのは、揃いも揃って愛憎劇の蓄積物なんだろうか?)


 それはさておき……当時の奴は8つの頭と8本の尻尾を持つ、それはそれは大層な化け物だったと聞いている。災厄の化身だとも、欲望の権化だとも言われていたそうだが……ただ、それはあくまで「英雄側」の理由でしかないように思える。奴が本格的に悪さをし出したのはゴラニアにやってきてからで、向こうさんでは悪さらしい悪さはしていない(本人談)らしい。


「……結局、どこも同じような事をやってんだな。ホント、どこの英雄様も代わり映えしねーし、学習しねーなぁ……」


 英雄には、倒され役の邪神が必要。天使には、成敗するための悪魔が必要。それぞれの伝説を作るため。適当に悪役をでっち上げて、正義は我にあり……なーんて、声高らかに宣言してみても。実害がない相手を甚振るのは、正義じゃなくてタダの暴力だ。


「とは言え……過ちを認められた分、今の天使ちゃん達は捨てたもんじゃないか。俺達がグラディウスの神様を凹ますのが、正しいのかどうかは知らんけど。……少なくとも、俺はリッテルと一緒にいられるんなら、昔の事はどうだっていいや」

「うふふ……そう? だったら、今はこの世界を守らないと……ね。もちろん、こちらとしては穏便に済ませたいのだけど。ここまでこじれてしまった以上、みんなで仲良く一緒に……は、もう叶わないでしょうし」

「……かもな」


 こじれちまった……か。悪魔の身としては、みんなで仲良くはハナから望んじゃいないし、そんな綺麗事は耳障りが良すぎて反吐が出る。それに……生まれた時だって、俺は「みんなで仲良く」してもらえなかったし。俺が望むのは、ただただ嫁さんと一緒にのほほんと暮らしていける世界だけだ。「みんなで一緒」な必要は、これっぽっちもない。でも……。


(……嫁さんの望みはできるだけ、叶えてやりたいんだよなぁ……)


 リッテルの笑顔を守るのって、何だかんだで難易度が高いよな。仕方ない。俺は俺で、嫁さんの笑顔を守るついでに、「みんなで仲良く」の高望みも狙ってみますか。

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