22−26 君のハート一直線
ミカエリスの救難信号を受け取って、配下救出作戦を実行している道中。俺とリッテルは何かの儀式をしていたと思われる広間に足を踏み入れていた。グラディウスの魔力からも切り離されたように、ポツンと残されている祭壇はキラキラと白光りしていて、まだまだ現役な空気感を醸し出しているが。……そこには祭壇とお揃いのつもりなのか、機能もお役目もしっかりと残した機神族・デュランダルと呼ばれる白銀の甲冑野郎が待ち構えていて。挨拶もなしに、突然襲いかかってくるもんだから……俺は否応なしに、奴らに応戦している。
(エレメントの相性がひたすら悪りぃ。しかも……硬ってぇ!)
流石に元・守護者だけあって、地属性のエレメントを持つ上に、とにかく硬い硬い。風属性攻撃も通りが悪ければ、場所がグラディウス(元・ローレライ)の腹ん中だけあって、十六夜で切り刻んでみたトコロで、その場でアッサリと再生しやがる。しかも、ゴツい見た目の割にはビュンビュン飛び回って、攻撃の照準を合わせるのも一苦労だ。
(クッソ……! こっちは余計なモノを壊せない状況だってのに……!)
いくら甲冑野郎との相性が悪く、相手の防御力が抜群とは言え、思う存分応戦していいのであればやりようはいくらでもある。だが、生憎と激戦の舞台は魔力の導火線が縦横無尽に埋まった危険地帯。ついでにカスリ傷でも付けようもんなら、良からぬ魔力に取って食われる末路が待っている。
「チィ! 考えている暇もないってか⁉︎」
「あなた!」
「……心配すんな。この程度の攻撃を凌ぐくらいは、訳ないさ」
キィン! ……と、剣と刀とがぶつかり合う甲高い音を幾度となく響かせながら、既のところで相手の攻撃を受け流す。だが、更に悪いことに……相手はやる気マックスな上に、物騒な得物もお持ちでいらっしゃっていて。俺が攻撃を避けるだけでいいのなら、そんなに苦労はしないものの。……こいつらの武器で壁や床を傷つけられるのも、防がないといけない。
(さて……どうするかな)
……もう、いいや。クダラナイこだわりは捨てて、とりあえず敵さんの武器をへし折るか。
(おほ? 若……我らを全員鞘に収めて、どうなさるおつもりじゃ?)
「このまま斬り合ってても、埒が明かないからな。ここはちょいと、白兵戦と洒落込もうかと」
顔馴染み5人衆はそのまま、周囲に侍らせるとして。今回は刀じゃなくて、ちょっとした防衛用の武器を頼る事に決めると、呼び出したソードブレーカーを両の手それぞれに構える。
かな〜り、昔のことだけど。魔界トップだったかつての俺は、時間と権力だけはどうしようもなく持て余していて。……武器の研究と鍛錬、そんでもってコレクションがてら、一通り種類だけは揃えていたりする。そんで、ソードブレーカーみたいなニッチな武器も怠惰の悪魔に作らせていたんだよなぁ。
因みに、このソードブレーカーもアダマンクロサイト製の一級品だが……結局、手に馴染むのが刀だって分かってからは、あんまり出番もなかった。改めて考えると、かなり勿体なかった気がする。
「リッテル、悪い! 補助を頼む!」
「もちろん、任せて!」
だが、ソードブレーカーは積極的にガンガン攻撃していけるタイプの武器じゃない。しかも、俺自身も使いこなせているとは到底言い切れない武器だったりするから……ここはちょいと、嫁さんに援護もお願いしてみる。嫁さんに優しく癒してもらうのも、一興だけど。不用意に痛い思いをしたくないのは、当たり前ってもんで。
「慈愛と庇護を真砂に乗せ、汝を慈しみたもう! サンディシェルター! それと……瞬く命脈の畝りを読め、損なわれしものを今1度与えん! ライフリジェネート!」
スラスラと呪文を詠唱していたかと思えば、サクッと魔法を展開してくるリッテル。地属性の防御力増強魔法に、光属性の回復持続魔法か。うんうん、流石は俺の嫁さんだ。チョイスも的確なら、フォローも完璧。これなら、小傷を気にする事なく相手の懐に飛び込む事もできそうだ。
「ウラッ!」
嫁さんの援護込みで調子をぶっこいて、まずは相手の小手先を一捻り。魔界の名工メイドな逸品だけあって、手元のソードブレーカーからは頼もしい手応えが返ってくる。続いて、ガチッと挟まった敵さんの剣をもぎ取るように体ごとグルンと飛び退けば……ペキンと小気味よく音を立てて、相手の鋒がものの見事にへし折れていた。
悲しいかな、俺の図体はかなり「小ぶり」だと思う。そんな憐れな程の軽さを生かし、素早さをウリにしているものの。重量級の相手を真っ向からへし折れる力はない。だからこそ、こうして体全体を使うしかないのも分かっているし……自分に合った戦闘ノウハウに関しては、それなりに勉強もしているつもりだ。
「よっし、まずは1振り目……っと。どーやら、剣の部分は再生できねーみたいだな」
(そのようだな。だが……どうするのだ、小僧。本体の再生機能は相変わらずのようだが?)
「う〜ん……確かに、どうすっかなぁ。……機神族のシメ方、俺も知らないし」
カリホちゃんのご指摘通り、向こうさんの本体だけは絶好調らしい。剣をへし折ってやった奴の様子を見ていても、得物が壊されたことに気づいていないみたいで、折れたままの剣をブンブン振っていたりする。その事から、今のこいつらには「知性」はないのかも知れない。……なお、元々知性があったのかどうかは、知らん。
「あなた! 機神族にはコアになっている魔力供給源があるの! えぇと……心臓部分に埋まっているそれを壊せばいいみたい!」
「あ? そうなの?」
「えぇ。ついさっき、ルシフェル様に“ちょっと遅れそう”とメッセージを送るついでに、地図も送信したのだけど……なんでも、向こうでも機神族の“ファランクス”に遭遇したらしくて。……ルシエル様は素手で心臓部分を抉り出して、破壊していたそうよ」
「……」
リッテルがゲットした情報はとっても有用なものに違いない。そんでもって、ファランクスとやらはもしかしたら、俺が相手をしているデュランダルよりも脆い可能性もあるだろう。だけど……。
「……素手で心臓を抉るとか、ヤバくない? 聞いただけでも、結構来るものがあるんだけど……」
(ほほ……これまた恐ろしいことをしよるの、あの大天使は。ヨルムンガルド様を一方的に伸しただけはあるぞえ)
「かもな〜。いずれにしても、ルシエルちゃんを怒らせるのはやめとけって事がよく分かったな。お前らも下手すっと、へし折られるかも知れないぞ?」
(おほほほほぉ⁉︎ へし折られ……へし折られるかも、だと⁉︎ グヘグヘグヘ……できれば、かように猟奇的な暴挙は若から頂戴したいものよの)
(……あいも変わらず、月読の悪趣味は解せぬの……。折られた後はどうするつもりなのやら)
(そんなの決まっておろう、酒呑! ここぞとばかりに、若の血を啜って……)
「ダァ! 俺にはお前らをへし折る理由もねーし! 血をチューチューされんのは、ゴメンだし! こんな所で、変な事を吐かすな!」
(おんや……それはまっこと、残念よのぉ……)
こんな所で、そんな事を残念がるなし! 毎度のことながら、もうちょい時と場所を選んでくれよ……。
「それはさておき……そう言う事なら、いっちょ心臓を狙うか。……ルシエルちゃんみたいに抉らなくても、壊せばいいんだろうし」
そうして、今度は右手側のソードブレーカーを「ちょっとした名槍」に持ち替えて。ここぞと狙うは、君のハート一直線……なーんて考えていたら、またネッドあたりに乙女チック認定されそうだな。しかし……このくらいおちゃらけておかないと、ルシエルちゃんの恐ろしさを忘れられそうにないんだよ。いや、本当に。