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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−17 どっちにしても、危険物には違いない

「っとっとっと……さっきから、なんだって言うんだ⁉︎」


 マモンの猛攻に恐れをなしたのか、それとも、他の場所で屯ろしているのか。もうそろそろ、玉座にたどり着く……と思われる最後の角を曲がったところで、ラディウス天使達の潜伏と襲撃がピタリと止まった。だけど、その代わりと言ってはなんだが……今度は地響きを伴う揺れに、何度も襲われている。


「もしかして……」

「お?」

「きっと、グラディウス本体が攻撃を受けているんだろう。だからグラグラと揺れてばかりなのだろうし、機神族達もいなくなったのかも。多分、あいつらはグラディウス自体の修復に向かったんだと思う。彼らの体はグラディウスの補填材としても活用できそうだし」

「あ、なるほど……そういう事か」


 肩の上から、嫁さんに指摘されて……こんなにも単純なことに気づけないなんてと、肩を落としてしまう。……そう言や、お外は激戦真っ盛りだったな。グラディウスの揺れは寧ろ、「こちら側」の猛攻の結果だと思えば安心こそすれ、不安がる必要もないだろう。


「そんなに揺れが気になるんなら、飛べばいいんでない? お前さんの翼、飾りじゃないんだろ?」

「アハハ……それもそうだな」


 これまたご尤もなご意見を強欲の真祖様から頂いて、揺れからおさらばしようとフワッと浮き上がってみる。おぉ、こっちの方が断然快適な気がする……って、おや?


「……何だろうな。また、変な匂いがするな」

「ハーヴェン、どったの? 今度はどんな匂いなの〜?」

「もしかして、ダイダイホオズキか? ダイダイホオズキなのか? どうなんだ⁉︎」

「……残念ながら、お花のフローラルな香りじゃないな、これは。どっちかと言うと、何かが腐っているような……」


 しかし、ちょっと待て。嗅げば嗅ぐほど、かなりの悪臭なんだけど⁉︎ ヴッ……は、鼻が曲がる……!


「なんだ、そうなら先に言えよ。それ……やっぱり、ダイダイホオズキじゃないか」

「へっ……?」


 俺がスンスンと曲がりそうな鼻を鳴らしていると。悪臭もなんのそのと言わんばかりに、マモンがウキウキモードで浮かれ始めた。と言うか……どうして、腐敗臭でマモンまで浮かれるんだよ。悪臭に興味津々なのは、ベルゼブブだけにしておいてくれよ……。


「ダイダイホオズキはいわゆる、アミホオズキ状態がデフォルトでな。実った後に外皮を腐らせて、毒を作り出すんだよ。そんな事情なもんだから……腐敗臭が強ければ強い程、質のいいアミホオズキが出来上がっているって、寸法だ」

「そうなんだ……?」


 アミホオズキって何だ……は、聞かないでおこう。マモンの事だから、聞けばきちんと教えてくれるだろうが。……間違いなく、それは今必要な知識でも余興でもない。しかし、毒……ねぇ。どっちにしても、危険物には違いないじゃないか。


(それにしても、霊樹の落とし子というのは揃いも揃って、毒を生成する趣味がある……のだろうか?)


 でも、いつぞやに差し入れてもらった「ヤマブキノコウイ」は無毒だったみたいだが。その辺、どうなんだろう? ……と、モゴモゴと俺が声ならぬ声で呟いていると。やや冷めた表情に戻ったマモンが、更に蘊蓄を垂らしてくる。


「あ? それは違うぞ、ハーヴェン。あの時持って行ったのは、花びらが5枚だったろ? ヤマブキノコウイは4枚の花びらで咲いた時に、ツルベラドンナ顔負けの毒を出すんだよ。あれはあれで、しっかり毒持ちだ」

「そ、そうだったの……?」


 霊樹の落とし子は漏れなく毒草……と。やっぱり色々と物騒だな、落とし子は。


(って、そんな事に感心している場合じゃなくて)


 ……これはちょっと、不味い状況か? 特に、強欲の真祖様のご趣味的な意味で。


「ハーヴェン、匂いはどっちから漂ってくるんだ?」

「あっ、えぇと……角を曲がらずに、奥の方からみたいだ。だけど……」

「おっ! そっちか!」


 別に無理に行かなくても……と、俺が言いかけたのを、キラキラスマイルで遮ってくるマモン。あっ、これはもしかして……。


(ハーヴェン! 何を余計なことを教えているんだ⁉︎)

(アハハ……うん、ゴメン)


 ですよね〜。嫁さんからすかさず、ヒソヒソとツッコミが入るけれど。でも、教えなかったら教えなかったで、大暴れするだろうし。


「よっし! だったら、俺はちょっくら駆除に……」

「あなた? だから、今はそんなことを言っている場合じゃないでしょ? ダイダイホオズキよりも、玉座に向かう方が先よ」


 おぉ! 流石は魔王様の奥様。リッテルがすかさずマモンを諌めては、プリプリと怒り出せば。マモンとて、ワガママは通せない……と、思っていたんだけど。うん? マモンの奴……シルクハットなんて取り出して、どうするつもりなんだ……?


「クククク! おや、このグリードめのパートナーともあろう者が、何と嘆かわしい! 私めに宝探しに行くなとおっしゃるのか!」


 そうして、躊躇もなくカポっとシルクハットを被ったと思ったら。とびっきりのスマイルで、チャーミングにウィンクしてくれちゃう怪盗悪魔。えぇと……すみません、マモン様。こんな所で、器用に怪盗紳士になり切る必要はないんですよ?


「そ、そんな事ないわ! ……そうよね。怪盗はお宝を盗み出すのが、お仕事ですものね」

「その通りです! ですから……」

「えぇ! どこまでも、お供しますわ!」

「クククク! それでこそ、我がパートナー!」


 ……どうしようかな、この状況。彼らの暴走(しかも、ダブルでアウトなヤツ)を止めるのは……多分、無理だろうな。


(ど、どうする? ルシエル)

(いや、どうすると言われても……マモンを止めるのは、私達には難しい気が……)

(だよなぁ……)


 情けないかな。舌鋒でも実力でも……今のメンバーでは、マモンに勝てる奴は1人もいない。


(であれば、しばらくは好きにさせてもいいか……)

(そうだな……。ここまで来れたのは、間違いなくマモンのお陰だし。……先に進むだけであれば、私達だけでも問題ないと思う)


 ロンギヌスを見つめて、嫁さんがコクコクと頷けば。仕方がないなと、ルシファーも肩を竦めて見せる。……この様子だと、天使長様的にも止むを得ずの判断になったっぽい。


(功労者にはご褒美も必要……か)


 それに、マモンはダイダイホオズキとやらがどうしても欲しいんだろうな。あんなにも嫌がっていた怪盗紳士になり切るという暴挙にまで及んだのだから、なりふり構っていられない必死さもよく分かるというもので。そんでもって……リッテルも躊躇いもなく、アッサリと彼の術中にハマっているし。何やらお揃いの仮面までもらって、彼女も「宝探し」に満更でもなさそうだ。


(しかし……いつもながらに準備がいいな、マモンは……)


 リッテル用に作っていたらしい仮面は、しっかりとお揃いの雰囲気も醸し出していて。二人で「シャキーン」とか言いながら、フルフェイス仕様にして見せられると、ちょっと羨ましい。


「と、言うことで……皆様、ご機嫌よう! なぁに、有事があれば戻って参りますので、ご心配なさらず!」

「うふふふ! 誠に申し訳ありませんが、ここからはちょこっと別行動をさせて頂きますわ。主人と一緒に、冒険に行ってきま〜す!」


 いや、心配はしてないよ? マモンだったら、余裕でリッテルを守りながらでも修羅場を切り抜けてくるだろうし。でも、さ……。


「あぁ〜、いいなぁ、いいなぁ。グリちゃん、超楽しそう〜」

「そうですね。……僕もボスみたいに、お嫁さんと楽しい思い出を作りたいなぁ……」


 連れ立って走り去っていくマモン様ご夫妻の背中を見つめながら、ベルゼブブとミカエリスさんがそんな事を言っているけれど。それこそ、そんなことを言っている場合じゃないんだよなぁ。


(なんだか、前途多難な気がしてきた……。大丈夫かな? この先、こんな調子で……)

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