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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−11 お供できるのは、ここまでですぅ

「不浄なる大地に根を這わせ、未来の絶望を摘み取らん! 贄が血肉を食せ、贄が魂魄を貪れ。大いなる父へ、その吐息で厳格たる自由を与えん……プルエレメントアウト!」


 アリエルが神様の不都合をつらつらと提示している、その頃。アケーディアの背後でまんまと魔法を発動させたダンタリオンは、足元で歯を食いしばっているバルドルをチラと見やる。


「ところで、バルドル……大丈夫ですか? とても辛そうですけど……」


 両手一杯に抱えていた怨嗟を詰め込んだ人形を「捕獲用」の魔法陣に放り込み切っても尚、バルドルの呼吸は浅い。確かに、お人形達はそれなりに頑丈な作りをしているため、目方は結構ズシリと来るものがある。だが、バルドルの体躯からすれば、決して重い部類には入らないだろう。なので……彼の疲弊は決して、自分と人形達を運んできただけのものではないはずだと、ダンタリオンは予測する。


「もう少し、我慢してくださいね、バルドル。……このまま順調にいけば……」

「いいえ、それだけじゃダメなのです。それに、バルちゃんは大丈夫ですよ〜! ちゃんとお役目、果たすのです!」

「お役目……?」


 バルドルは飛び立つ前に、自分は「このために残された」と嘯いてもいたが。どうやら、軽薄な口調とは裏腹に相当の覚悟をしていた様子。プルエレメントアウトで確実にグラディウスを引き摺り下ろすためだろう、ようよう手ぶらになったと同時に、当人はジリジリとグラディウスへと近づいていく。そして……丁度、グラディウスと魔法の発動ポイントとの中間地点に到着すると。バルドルが思いもよらぬ事を言い出した。


「……ダンタリオン様。申し訳ないのですけど……バルちゃんがお供できるのは、ここまでですぅ。すぐに避難して下さい〜」

「避難ですって? それはどういう意味ですか? バルドル……君は一体、何をするつもりなのです⁉︎」

「バルちゃんは、元の持ち主から使命を託されたのです。あの霊樹に奪われた物を取り戻すために……そして、ディバインドラゴンの魔法を穢した奴に復讐するために……バルちゃんは、たった1つ残されたのです」


 そこまで言って、バルドルがダンタリオンを振り落とそうと、大きく頭を振る。全身を使ったバルドル全力の揺さぶりに、普段から非力で通っているダンタリオンは、なす術もなく振り落とされてしまうが……。


「バルドルッ! ちょ、ちょっと待ってください! 私には何が何だか……」


 慌てて翼を広げ、墜落は免れたものの。肝心の「バルドルの使命」の中身は結局、聞けず終い。それでも尚、名残惜しそうに彼が飛び去った先を見やれば……そこには、プルエレメントアウトの魔法陣とグラディウスとをしっかりと結びつける、純白の鎖と化したバルドルの姿があった。


***

「……なるほど、あれがバルドルの大元の姿ですか」


 グラディウスを引き摺り下ろそうと、彼女をグイグイ締め上げる1本の鎖を見つめては……アケーディアは感嘆の溜息を漏らさずにはいられない。

 彼のディテールについては、それとなくバビロンからも知らされてはいたし、「かつての同僚」が纏っていた空気に近い波長を感じてもいたが。いよいよ露わになったその姿に……バルドルがギルテンスターンの忘れ形見だという事を、まざまざと思い知る。


「ふふ……アッハハハハ! 本当に……本当に竜族と言うのは、高潔で迂愚なのですから! どうしてこうも、自己犠牲を好むんでしょうかねぇ……?」


 バルドルの姿に、かつてギルテンスターンが作り出していた「白い鎖」の造形を重ねては、アケーディアはあまりに滑稽だと尚も笑いが止まらない。もちろん、彼の爆笑はギルテンスターンを愚弄するものではない。「彼ら」の崇高さを理解できたが故の、歓喜によるものである。


「い、いきなり、笑い出すなんて……本当に、こいつおかしいんじゃないの……?」


 しかしながら、アケーディアの内なる発奮に理解を示せる者もそうそういないに違いない。例え、神様であっても。


「おや、心外な。僕はいつだって、冷静ですよ? ま……今のはちょっとした精神の高揚と、事実の発見に伴う興奮だとお伝えしておきましょうか」

「……余計、訳分からないわよ、それ……」


 敵前かつ、戦闘の最中だと言うのに……突如けたたましく笑い出すロバの悪魔に、アリエルはいよいよ気味が悪いとセフィロトの頭上で後退りするものの。ロバの背後でグイグイと締め上げられているグラディウスの姿を見つめては、足元の神様に異常事態を囁く。


「と言うか……セフィロト。でいよいよ不味いわよ、あれ」

「……見れば分かるよ。しかも、僕が感じていたのは魔法の気配じゃなくて……あいつの気配だったみたいだし。ふぅ……僕もまだまだかもね……」


 セフィロトが慌てて様子を見にきたのは、「他のルートエレメントアップ」が発動されて、牙城・グラディウスが引き摺り下ろされてしまうと危惧したから。しかし、いざ現地に繰り出してみれば……魔法は完成間近ではあったものの、発動されてはいなかった。


「おかしいと、思ったんだ。僕が感じたのは間違いなく、グラディウスを根幹で支配していた魔法の波長だった。でも……実際には新しいルートエレメントアップは発動されていなかったし、変な奴らが屯ろしているし。だから、きちんと駆除しようと思ったのに……!」


 それなのに、あいつが僕の邪魔をしたんだ! ……と、子供っぽく喚いては、アリエルに訴えるセフィロト。

 意気揚々とグラディウス防衛を兼ねて、遊びに出たはいいものの。セフィロトを待っていたのは、想定内の栄光ではなく、想定外の悪夢。違和感の正体を見極める前に、腹ペコロバの猛攻に晒される羽目になっては、あれよあれよと混乱の坩堝に叩き落とされてしまった。しかも……元凶に新鮮な魔力を提供してしまうという、逆境の蛇足付き。


「とにかく、今はあっちの奴らを止めるのが先よ。……このままだと、本当にグラディウスが落っことされてしまうわ」

「悔しいけど、それもそう……だよね」


 憎たらしいロバを叩き落としたい気持ちはあるものの。アリエルの言う通り、明らかな緊急事態を解決する方が先だ。あちこちに痛みが残る体をくねらせて、アケーディアを半ば無視する形で飛び立とうとするセフィロト。何をやっても攻撃が当たらない不毛は、サッサと見限るに限る。しかし……。


「おっと! ここで僕を無視だなんて、連れないじゃありませんか! もちろん、この先もしっかりと邪魔させてもらいます! 空を奪え、地を踏む足を拒め! 我は汝の戒めぞ……捉えろ! ロゼクレードル……セブンキャストッ!」

「なっ……⁉︎」

「ふふふふ……こんなにも理想的な実験台を逃すなんて、悪手でしょうに。しかも……フフッ! そっちの女神様も、非常にいい素材だとお見受けします。まさに、研究材料にも打って付け……!」

「ちょっ……本当になんなのよ、コイツ! 気持ち悪すぎでしょっ⁉︎」

「それ程でもでもありませんよ。悪魔が悪趣味なのは、デフォルトですし。悪魔らしいと褒めていただき、光栄ですね」

「褒めてない、断じて褒めてないからね⁉︎ しかも、悪趣味がデフォルトって、どうなのよ……ウグッ? ゲホッ、ゲホッ……!」

「……無様に喚くから、いけなんです。ロゼクレードルの毒はそれなりに強烈なので、気をつける事です……と、もう手遅れですか?」


 たんまり溜め込んだ魔力は、しっかりと還元しませんと……と、「仕返し」も満面の笑みで嬉々とこなす、黒いロバ。実は「気持ち悪い」と言われた事に浅からぬショックを受けた彼にしてみれば、女神の軽率さも非常に心地いい。


(ふふ……檻の中で、たっぷりと絶望感を堪能してくださいね、神様達。……その絶望は、僕の糧になるのですから)

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