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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−10 神様の不都合

(そろそろ……魔法も完成間近、でしょうかね?)


 ダンタリオンとバルドルに魔法の完成を託し、自身は単騎で神様のお相手(囮)に興じるのは、憂鬱の真祖・アケーディア。最初は貧相なロバの姿だったが……大量の「餌」を食い散らしては肥え太り、体(主に腹)がとっても重そうだ。それでも、「発散」を挟めばなんて事はないと、まだまだ余裕の笑みも絶やさない。

 なぜなら、精霊も天使も悪魔も……魔力を使えば、その場で「腹が減る」のだ。しかも本来、真祖のバーサーク状態は維持するだけで大量の魔力を消費する、諸刃の剣でもある。だから、今のアケーディアは息をしているだけでも魔力を消耗するはず……だったのだが。


(それなのに、こうも魔力が余るとなると……ふむ。流石に神様を名乗っているだけはある、ということでしょうか?)


 魔力ジャンキーでさえも、未だ食い尽くせない圧倒的な魔力量。その補填を可能にしているのは、彼の背後に堂々と浮かぶグラディウスの存在ありきだろうと、アケーディアは踏むものの。そもそも、単体でこれだけの魔力を持ち出せると言うことは、要するに搭載されている魔力の器……神様の血統は魔力因子との結合率が高い事を示している。


(おや……? もしかして……もしかしますか? これは願いを叶える絶好のチャンスなのでは……?)


 魔力を扱う上で気をつけなければいけないのは「枯渇」であって、「余剰」ではない。潤沢にある分には、全くもって問題ないし……消化しきれないのであれば、魔法として排泄すれば事足りる。なので、この場を凌ぐだけであれば、食い散らかして、魔法を連発する……そのサイクルだけで、十分だった。

 しかしながら、彗星の如く閃いた「ナイスアイディア」を実行するには、魔法をただ闇雲に使うだけでは達成できない。確実に……相手を「心身共に」弱らせなければ。それこそ、身も心もへし折る勢いで。


「この量は一気に食べきれませんか。と、言うことで……補給した後は、しっかりと発散させていただきましょう。それでもって……あなたには少し、弱っていただく必要がありますね」

「ふ、ふん! 何を偉そうに! 僕は新しい神となる存在! 弱ることなんて、絶対にあり得ない!」

「ふむ……神様というのは本当に未熟かつ、自分勝手なのですね……。言っておきますが、まだこの世界はあなた中心には回っていませんし、そんな世界は誰も望んでいませんよ。とりあえずは、今後は不都合から目を背ける癖は直した方がいいと……忠告しておきましょうか」


 それでも……神様の不都合も込みで、丸ごと貰い受けるつもりでいるのですけれど。ボソリと物騒なことを呟きながらも、アケーディアはやっぱり白い歯を剥き出しにしながら、ほくそ笑む。


(ボディディプライブの「改良版」を試す、またとないチャンスです。ですが……こうも自己肯定力が高いと、失敗するリスクも想定せねばなりませんか)


 自分を「新しい神」と言って憚らない、セフィロトの体を「無条件で奪う」のは、まずまず不可能と言っていい。そもそも、ボディディプライブは必ず成功するタイプの魔法ではない。もちろんターゲットが生きることを諦め、「抜け殻になった」肉体へ魂を移すだけでいいのなら、成功率は100%に近い数値を叩き出すだろう。しかしながら、生きることに固執し、「自分が自分である事」を捨てようとしない相手の肉体を奪うのは、難易度が高い上に……奪ってからの気苦労も多大なものとなる。


(ボディディプライブの副作用を考えた場合、持ち主の心は健康なままだと、奪った側は圧倒的に分が悪い。生への執着は即ち、個人の維持……記憶の維持に繋がります。心を弱らせるには、肉体的に痛めつけるのが手っ取り早いのでしょうけど。しかし……晴れて僕が持ち主になった時に、体がボロボロでは意味がありません……いや? 今となっては、そうでもないですか?)


 相変わらずの猛攻を特殊能力任せに、上の空で回避しつつ。既にアケーディアの頭の中は、不遜にも神様の肉体を乗っ取る方向に舵を切ろうとしていた。

 心に傷を負わせるには、体に痛みを与えるのも有効な手段。肉体的な苦痛は付随して「死ぬかも知れない」という恐怖を与えることができる。しかしながら、今回の標的は(自称とは言え)神様に近い存在だ。その肉体を奪うとなると、相当レベルの「荒事」が必要になるだろう。……「心をへし折る」ことを達成した暁に、肉体が使い物にならなくなっている可能性も高い。


(情けない事に、今の僕には天使の加護が付いています。彼女達にかかれば、肉体的なダメージは回復魔法で補うことも可能……ですね。手当をしてもらうまで、痛みに耐えなければなりませんが……)


 その程度の苦痛はどうってことないと、アケーディアはまたも悪巧みの黒い笑みを浮かべる。

 アケーディアは大天使・オーディエルと契約済みの身でもあるため、彼女を始め、天使達を頼ることもできるだろう。しかも、相手は「向こう側」の最重要人物であると同時に、「新しい世界の神様」らしい。ボディディプライブが醸し出すマイナスイメージも、そんな神様……要するに、「敵陣の首魁」に対する抵抗手段も兼ねているともなれば。天使達も諸手を挙げて「肉体の強奪」に賛同してくれるに違いない。


「セフィロト……セフィロト! 今はこんな所で遊んでいる場合じゃないわ!」

「おや?」


 神様墜としに向けて、あれこれとアケーディアが考えを巡らせていると。彼の思考を強制停止させるかのような、甲高い女性の声が響いてくる。そうして、見やれば……セフィロトの平たい頭に燦然と降り立ったのは、初々しい雰囲気の女神だった。


「別に遊んでいるわけじゃないよ。ただ、想定外があっただけで……」

「……その想定外、結構不味い方向に進んでいると思うわ。ほら……見てよ、あれ。あなたがロバの相手をしている間に、あいつら……ちゃっかり魔法を発動させているじゃない」

「……!」


 女神は何気なく、ありのままを溢しただけなのだろう。だが、個人的な悪巧みに夢中で「本懐」を忘れていたアケーディアにしてみれば、彼女の軽はずみは1つの合図へと変換される。すっかり互いに夢中になって、気づきもしなかったが。無事にダンタリオンとバルドルが魔法を完成させたともなれば。……甘んじて、アケーディアが囮役を演じる必要は既にない。

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