表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
1008/1100

22−9 生みの親

 自分は生みの親と同じように、「作り出すこと」はできないらしい。さっきまでは「新しい天使を作る」事さえも、簡単にできると根拠のない自信に満ちていたのに。だが、認めたくはないが……ラディエルは生命体としても、天使としても、歪な存在だった。


(……マナは私を生み出せたというのに……。どうして、私はきちんと天使を生み出せないのかしら……)


 まさか、こんな所でマナに感謝する日が来るなんて。

 ラディエルと比較したらば、自分はここまで歪ではなかったという安堵と同時に……悔しさが込み上げてくる。

 生み出された時だって、今だって。アリエルがマナを厭わしく思わなかった瞬間はない。それなのに、彼女にいつになったら認めてもらえるのだろうと、心の端で期待している自分が情けなかった。そして、その惨めさを努めて忘れようとすることで、アリエルは自分を守ってきた節があったのかも知れない。ただ自分は認められていないだけで、失敗作ではなかったのだ……と。

 そして、今まさにラディエルを前にすれば。……間違いなく自分は「失敗作」ではなかったと、アリエルは確信さえしていた。しかしながら……その事は、アリエルにラディエルに対する優越感をもたらすと同時に、マナに対する劣等感を植え付けることも忘れない。


「で? どうするのかしら? 行くの? 行かないの?」


 自ら生み出した「我が子らしき何か」に急かされ、アリエルの思考が停止して……再び、本題へと戻ってくる。

 そうだ、今は優越感と劣等感とに揉まれている場合ではない。グラディウスの異変を突き止め、霊樹を修復しなければ。


「もちろん、私も行くわ。ここは仲良く、手分けしてお城を守らないと」

「あら、そういうことなの? でしたら……ここの留守は誰が守るのかしら」

「別に、ここは空っぽでも構わないわ。そもそも、私自身も神様“代理”ですもの。私達には、その玉座に座る資格はないのよ」

「ふ〜ん……」


 「私達」と一緒に括られたことで、ラディエルは不満げな声と同時に、少しだけ嬉しそうに口元だけで微笑む。そんな彼女の様子に……一方のアリエルは、やはり彼女は「我が子」なのだと落胆の色を強めていた。……彼女の複雑な反応はまさに、自身が今まで神界で装ってきた「下級天使」のそれでしかない。この卑屈さは紛れもなく、アリエルの「資質」によるものだ。

 敢えて目立たないようにしているだけなんだと、下級天使であることに「好都合」を見繕っては、無理やり納得してきたが。本当は注目され、一目置かれたいという承認欲求は常にあったし、下級天使であるが故の「資格の幅」が狭いことは不満でしかなかった。

 そう……本当は分かっている。彼女が下級天使であり続けたのには、注目を避けていたという理由以上に、天使としての手柄と実力がなかったからだという事を。自分をマナが認めないのは、あくまで「取り立てる理由がないから」であり、アリエルの立居振る舞いが全ての理由ではない。それなのに、自身の演技が「功を奏している」せいだと思い込むことで、アリエルは下級天使であること自体を渋々と受け入れていた。


(だけど……私が生み出したにしては、ちょっと野心が過ぎるかしら? まぁ……これくらいの方が、強引にモノゴトを進められるのかもね……)


 しかして、まぁまぁ、自分が生み出した割には……ラディエルはどうにもこうにも、太々しい。そうして、そんな事も認めてしまっては、アリエルは今度こそ脱力と同時に力なく肩を揺らす。女神になってしまった今となっては、かつての自分はどうしようもなく卑屈だったと、アリエルは改めて自嘲せずにはいられない。そうだ。ラディエルのように「野心」があれば、ここまでズルズルと後悔ばかりすることもなかっただろうに。


「と、言うことで……悪いのだけど、あなたにはあるポイントの機神兵達の様子を見てきて欲しいの」

「とあるポイント?」

「えぇ。セフィロトという神様がこのお城を直すために、魔力を充満していたのだけど。一区画、反応はない場所があるの。そこを見てきて欲しいのよ。ちょっと待って。……今、情報を共有するわ」


 既に頭で考えるよりも、体の方が勝手に動く。女神が直感的に手を挙げれば、その足元からはニョキニョキと1本の蔓が生えてくる。次に、手を前に翳せば……蔓はアリエルの直感に従順に、ラディエルの方へ伸びていく。そうして、ラディエルも心得たように蔓の先端を握りしめては、自分の首筋に誘導した。


「……ふ〜ん……この区画、ね。分かったわ。それで? あなたは何をするの?」

「私は神様に非常事態を知らせに行くわ。……グラディウスの外に出ることになるから、少し長くかかりそうだけど」

「そう。……ま、母親としては賢明な判断かしらね。生まれたての我が子には危ないお外よりも、おうちで遊んでいなさい、って言いたいのでしょうから」

「母親……? 私が?」

「あら、違った? あなた、私の生みの親なのでしょう? だったら、母親になるんじゃないの?」


 太々しい態度はそのままだけれど。少しばかり、可愛げのある様子で「マミー?」と首を傾げられれば。アリエルの中に、今まで芽生えたことのない感情が満ちていく。


(……これが母性ってヤツの機能なのかしらね。今更……この子が可愛いと思えるなんて)


 さっきまでは、死んでしまっても構わないとまで思っていたのに。名前を付けたせいか、マミーと呼ばれたせいかは知らないが……アリエルの中には、確かに「母性」と呼ぶに遜色のない感傷が込み上げ続ける。


「そういう事よ。……お外は危ないから、出ちゃダメよ? それと、何かあったらここに戻って来なさい。……多分、ここは安全でしょうから」

「そうするわ。……生まれたばっかりで、死んじゃうのはつまらないもの。私はお城の中で遊ぶことにする」

「そう、ね。……生まれたばっかりなのにお別れだなんて、辛いわよね」


 そうだ。かつての自分は生み出されてからすぐに「いらない子」と容認され、強制的に人間界へ放逐された。しかも……野垂れ死ぬことを期待されたが故の、体のいい厄介払い。マナの行いは「薄情」そのものであり、「母性」とは程遠い。


(そう、よ。私はあなたとは違うわ、マナ。私は……この子も、新しい世界に芽吹く命も……全部全部、愛してみせる)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ