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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第22章】最終決戦! 鋼鉄要塞・グラディウス
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22−7 見敵必殺どころか、見敵瞬殺

「あぁ……ダイダイホオズキは咲いてないか……」


 ここはグラディウスの懐中、玉座へ続くらしい廊下。そんな敵地で呑気にため息をついているのは、最強の悪魔でもあらせられる、強欲の真祖様。その長閑な様子に相変わらず、時と場合は選ぼうか……なんて、またも思ってしまうけれど。


(それこそ、こんな状況でなんだけど。……俺、今回も出る幕がないっぽいか……?)


 玉座を目指す道中には結局、衛兵らしき機神族が屯していて……いや。どちらかと言うと、これは「沸いてくる」がピッタリな表現かも知れない。例のクロゲッカビジンを駆除した後あたりから、俺達を侵入者として認識したのか、かなりの数のラディウス天使達に囲まれるようになっていた。


「な、なぁ……マモン。そんなに暴れて、大丈夫なのか……?」


 しかしながら、切り込み隊長を買って出てくれたマモンが、ザックザクととにかく切り込む、切り込む。しかも……こいつは完全に手加減してやがるな? 廊下を埋め尽くす勢いの数を相手にしながらも、息1つ乱していない。この調子じゃ、マモンの消耗具合を心配する必要もなさそう……か?


「あぁ? こういう時は、ストレスをぶつけるのが賢いやり方なんでないの? ついでに、揺さぶって落とし子の在処を吐かせる……は、できねーか」

「そ、そうだな……」


 うん……ストレス発散でしたか、この暴れっぷりは。霊樹の落とし子が見つからない腹いせなのか、マモンが相変わらずの飄々とした太刀捌きで、きっちりと道を作ってくれるもんだから。俺ができる事と言えば、ちょっぴり感度がいい耳と鼻による敵襲検知くらいなもんで。……ここまでの余裕を見せつけられると、俺の見せ場がなくなっちゃう気がする。


「だから、あなた。今はそんなことを言っている場合じゃないわ」

「ハイハイ、分かっておりますよーだ。……ったく。それにしても、こうも1つ覚えで出てくるだけじゃ、こっちは退屈だっつの。あぁ、マジで面倒臭せー、超ダル〜い」


 そう言いながら、冗談抜きで面倒臭くなったのだろう。物凄く不機嫌そうながらも、噂の雷鳴七枝刀を掲げると……さっきの聖水砲と同じノリで、マモンがラディウス天使達の駆除を実施し始めた。


「つー事で、雷鳴。お前もいっちょ、派手に行ってみよー!」

(御意! 今度こそ、きちんとお役目を果たしてみせましょうぞ!)


 ……こうも独壇場だと、本当に出る幕がないな。


「ボスは本当に、楽しそうに戦いますよね……」

「ま……なんだかんだで、グリちゃんは戦闘狂だからねぇ。魔界じゃ磨いた腕を披露する機会も、あんまりないし。あっ、違うね。グリちゃんとマトモにやりあえる相手がいない、が正しいかなーん? そんなワケで……ここぞと暴れるのも、仕方ないっしょ」

「しかし、こうも大暴れされては、向こうに気づかれないかが心配なのだが……」


 なお、俺のポジションは最後尾の後衛。一応は鋭いらしい五感で、敵襲を察知するのが主なお仕事だったりする。で、そんな最後尾から皆様方の様子を伺っては……ルシファーの懸念もご尤もと頷いてしまうけれど。しかし、気づかれるも何も、出てきたら即スクラップだもんなぁ……。見敵必殺どころか、見敵瞬殺な状況に……強欲の真祖様は頼りになる以上に、ひたすら恐ろしい。


***

「……やっぱり、出てきましたか」

「うーん……何か、出てきましたね〜、アケーディア様ぁ」


 足を引っ張る「お邪魔虫」に気づいた女神様から降臨したのは、やっぱり神様らしき少年。単独でやってくるところを見る限り、相当に自分に自信があるのだろう……そんな事を勘ぐっては、アケーディアはバルドルの背の上で、クツクツと嘲笑を咬み殺す。


「ふ〜ん……神に楯突く愚か者が、どんな顔をしているのかと見に来たけど。なーんだ、君……例の落ちこぼれ真祖じゃないか」

「おや、随分な言われようですね? 一応これで、兄と慕ってくれる真祖の弟がいたりするのですが?」

「へぇ〜、そう?」


 さも興味がないとヒラヒラと手を振っては、少年……セフィロトがつまらなさそうに、1つ大きな欠伸をする。だが、彼の欠伸は「退屈だから」のものではなく、一種の準備らしい。大気を思いっきり吸い込み、体を膨張させたかと思えば……グラディウスの神子・セフィロトが使者としての牙を剥く。きっと、霊樹の使者としての「公式の姿」なのだろう。変化した彼は蛇の姿を模しながらも、瑞々しい若葉で彩られた翼を悠然と翻した。


「……バルドル、ダンタリオン。ここは手筈通りに行きましょう」

「もちろんです、アケーディア様。しかし……」

「僕の心配は結構です。きちんと役目くらいは果たして見せますよ……さて。ここからは真祖としての本領を発揮、と行きましょうか。誰かさんの真似事なのが、ちょっと不服ですけどね」


 意味ありげな視線と言葉を残しつつ。バルドルの背から、自前の翼で飛び立って。アケーディアがオーディエルにあらかじめ開放してもらっていた祝詞へ、意識を集中する。そして……!


「刻まれし力を解放せん、我が根源の名に於いて汝の定めを覆さん! エンチャントエンブレムフォース・グルーム!」


 こちらはこちらで魔界の真祖としての「公式の姿」を顕現しようと、弟から逆輸入した魔法の「使い方」で本性を顕にするアケーディア。しかし、そうして変化した姿は黒いロバに黒い翼が生えただけの、有り体に言えば「貧相な」出立ちであったが……。


「ふふ……この姿は本当に情けないったらありませんし、非常に気に入りませんが。まぁ……いいでしょう。いくら情けなくとも……この姿にさえなってしまえば、霊樹相手には圧倒的に有利でしょうから……!」


 ロバの口元で、ニカっと歯を輝かせるアケーディア。そのいかにも愉快な表情とは裏腹に、一方のセフィロトは本能的な恐怖に震えが止まらない。カチカチっと鳴らされる歯の音は、セフィロトに痛みを受ける、受けない以前に……生命の根本的な危機を予感させた。


「ちょ、ちょっと待て! お前、まさか……悪魔のくせに、僕を食べる気なのか⁉︎ 魂じゃなくて⁉︎」

「ご存知ないのですか? 魔力の補給は食事でもできるのですよ? それに、なんと言っても……僕は常々、魔力に飢えている大食漢ですからね! 丸ごと完食して差し上げますから、安心なさい!」

「ヒィッ⁉︎」


 なお、ロバは決して大食いの動物ではない。いや……どちらかと言うと、食料に関してはかなり「低燃費」な動物だったりする。


(……もしかして、アケーディア様の言う“有利”って……草食動物的なものを言ってるのでしょうか?)


 目の前で起きている「異常な光景」をどう理解していいのか分からないと、ダンタリオンは気もそぞろ。そうして、ヒソヒソとバルドルへ話を振るが……。


(かも知れませんねぇ〜。ですけどぉ、ダンタリオン様ぁ。今はそんな事を言っている場合じゃなくてぇ……魔法、完成させましょうよ〜)


 だが、しかし。意外と、バルドルは抜け目がない。


(あっ、それもそうですね。……アケーディア様の奮闘を無駄にするわけにはいきません。この隙に、私達も仕事してしまいましょう)

(イエッサー!)


 小さな体に、底なしの貪欲。しかも、アケーディアは魔力量が少ない体を取り替えようと、「完璧な肉体」を求め奮闘してきた魔力ジャンキーである。そんな彼にしてみれば、蹄で降り立った「足元」に茂る大蛇の鱗は全て、餌……延いては魔力の塊に見えるらしい。憂鬱を吹き飛ばした爆食の権化を前にすれば、セフィロトの眼中にはもはや、目障りに飛び回る黒の毛並みしか入らない。


「ハムハムハムハムハム……!」

「やっ、やめろぉぉぉぉ⁉︎」


 しかも、悪いことに体をくねらせようとも、尻尾ではたき落とそうとも……小柄なアケーディアはヒュンヒュンと飛び回っては、楽しそうに手当たり次第にセフィロトの胴体に食らいつく。無慈悲に新芽を食まれる恐怖は、今まで地下に潜っていたセフィロトにしてみれば未知の体験でしかなかった。しかも……たまに「根っこごと持っていかれる」ので、ダメージも馬鹿にならない。


「いっ、痛ッ⁉︎ クソっ……このっ、このっ!」

「無駄ですよ! 僕の特殊能力がある限り、そんな攻撃はカスリもしません!」


 特殊能力・「絶対逃避」を最大限に発揮して、ケタケタとセフィロトを嘲笑うように、アケーディアが尚も歯を鳴らす。

 ロバが優雅に草を食んでいる……その字面だけであれば、これ程までに牧歌的な情景もないかも知れない。だが実際には、グラディウスの足元で展開されているのはロバが霊樹を食い荒らし、蹂躙していく地獄絵図でしかなかった。

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