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天使と悪魔の日常譚  作者: ウバ クロネ
【第3章】夢の結婚生活?
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3−30 抱っこと丸干し

 テーブルの上には、爽やかなグリーン色のジェノベーゼパスタに、カラフルなトマトのカプレーゼ。そして、ミートボールが入ったクリームスープが並ぶ。今日は色々と報告とお礼をしなければいけないのだが、それは子供達が眠ってからでもいいだろう。今は私も、子供達も……そして、一時的に2人に増えているウコバク達も、食事に夢中なのだから。


「それにしても、クロヒメちゃん……だっけ?」

「はい、お初にお目にかかります。私はウコバクのクロヒメ、と申します。本日は姐さんのお土産のおかげで、みんな大喜びでした。ウコバク一同を代表して、お礼申し上げます」

「あ、あぁ。……なんだか、とてもしっかり者みたいだね?」


 コンタローと随分違う雰囲気のクロヒメは……聞けば、女の子だという。本来はこちらの方がスタンダードに近いという長いフサフサの毛は、なるほど、モフモフをご所望のマハには打ってつけだろう。

 そんな彼女を尻目に、はぅぅと小さくしょげているコンタロー。定位置の椅子を取られてしまったみたいで、仕方なくハーヴェンの膝の上に収まっている。それはそれで特等席だと思うのだが、彼としては自分の席を取られてしまった方がショックなのかもしれない。


「コンタロー? 大丈夫?」

「あい……」


 様子を見かねて、エルノアが心配そうにコンタローを気遣う。2人とも子供達と一緒にお風呂を済ませたという事だったが、毛の量が多い分……モコモコ具合もクロヒメの方がウワテのようだ。


「さって、今日のデザートはイチゴのショートケーキでーす」


 しょげているコンタローを椅子にちょこんと置き去りにして、食事の終わりどきを見計らったハーヴェンがデザートを運んでくる。可愛いイチゴが乗ったケーキは、全体的にほんのりピンク色をしているところを見ると……クリーム自体もイチゴ風味なのだろう。そうして、全員にデザートを配り終えると、ハーヴェンが忘れずにコンタローを抱っこして、椅子に座り直す。


「コンタロー、元気出せよ。クロヒメはこれから、マハさんの所に行かなきゃいけないんだ。今夜くらいは、色々と譲ってやろうな?」

「あい……あの、お頭。ではせめて……元気のないおいらのために、ケーキをあ〜んしてくれませんか?」

「お? そうすれば、ケーキを食えそうか?」

「……あい」


 元気がないついでにあ〜んを要求し、見事にハーヴェンからお給仕を引き出す事に成功するコンタロー。……こういう甘え方をすれば、私も少しは可愛く見えるかもしれない。一方で、そんなコンタローをやれやれと言った表情で、クロヒメが優雅にカップでお茶を啜っている。しかし、ツンツンはしていても器用に肉球でカップを持ち上げている様子は、やっぱりどことなく癒し系だ。モフモフと肉球が揃うと、いろんな意味で最強かもしれないとつい、思ってしまう。


「お頭、今日は色々とご馳走様でした。しかし……どうして、お頭ともあろうお方が召使いのような事をされているのです?」

「う〜ん。どうして、って言われてもなぁ。好きでやっているだけだし……欲望に忠実になった結果、かな?」

「本当に?」

「……お?」


 何やら、クロヒメはハーヴェンの扱いに納得がいかないらしい。言葉では丁寧に接してはくるものの……時折、こちらを睨んでいるところから、私に若干敵意があるようだ。その様子を察知したのか、エルノアがクロヒメを妙な調子で諭す。


「あのね、ハーヴェンはルシエルが好きなの。でね、ルシエルのために美味しいお食事を作ってくれているの。それだけじゃ、ダメなのかな?」

「好き……なのですか? お頭が? 失礼ですが、本来は敵であるはずの天使を?」

「まぁ、そういう事。いいか、クロヒメ。誰かを好きになるのは、種族や立場は関係ない時も多いんだぞ? それでな、好きな人ができると……その人の笑顔を見てみたいと思ったり、その人を喜ばせたいと思ったりするもんなんだよ。お前が納得できないのも分からなくもないけど、それは理屈じゃないんだ。仕方ないだろ?」


 笑顔を見たい、か。未だに彼に笑いかけてやることすらできない私には、少々厳しいお言葉だ。


「あの……おいらは姐さんのこと、好きでヤンすよ?」


 内心で私がやや申し訳ない気分になっていると。既に「あ〜ん」を繰り返して、しっかりとケーキを平らげたコンタローがモジモジしながら、口を挟む。


「最初はもちろん、怖かったでヤンす。だって、天使は何もしていないはずの悪魔のことも、たくさん殺してきたし。でも、姐さんはおいらの事ちゃんと抱っこして、ニジヒメタラの丸干しまで用意してくれたでヤンす。姐さんが天敵なのは間違いないけど……だからって、敵じゃない事はおいらでも分かるでヤンす」


 抱っこと丸干し。理由は稚拙かもしれないけど。一生懸命クロヒメを納得させようと、コンタローは私を庇ってくれているようだ。言葉が不器用な分、その配慮がとても嬉しい。それにしても……「何もしていないはずの悪魔のことも殺してきた」、か。それが事実なら、彼らが天使を怖がるのも無理はないし、私達を憎むのも仕方ないのかもしれない。


「そうですか。そこまで皆様が仰るのでしたら……姐さんはきっと、特別なお方なのでしょう。それでなくとも、ベルゼブブ様も姐さんを気に入っていらっしゃったみたいですし。そういうことでしたら、私の方からはこれ以上、申し上げる必要もなさそうですね」

「お、流石クロヒメ。ウコバク1の切れ者は、物分かりの良さも違うな〜」


 カラリと嬉しそうにしながら、ハーヴェンがクロヒメの頭をワシャワシャと撫でる。流石にお頭と呼ばれるだけあって、ウコバクの扱いは慣れているらしい。大好きなハーヴェンにそうされて……さっきまであんなにも刺々しい表情をしていたクロヒメも、嬉しそうに尻尾を振っている。


「はぅぅ〜……もうそろそろ、エルノア、眠たい〜。コンタロー、寝るよ〜」

「あい。今日もお嬢様のお布団でご一緒しても、いいでヤンすか?」

「うん。コンタローを抱っこしてると、とっても落ち着くの。今日も一緒に寝よ?」


 そう言われて、エルノアの元にパタパタと飛んでいくと……ぬいぐるみのように彼女の腕に収まる、コンタロー。そのまま2人はおやすみと言いつつ、屋根裏に引き上げて行った。


「では……私は坊っちゃまとご一緒でよろしいでしょうか?」

「うん、構わないよ。……寝相悪かったら、ごめんね」

「いいえ、とんでもございません。一宿一飯をいただいたのです。そのような事はお気になさらないでください」


 こちらはこちらで優等生ペア、というか。一通り片付けを手伝った後、きちんと挨拶をした上で……ギノとクロヒメも仲良く、2階の子供部屋に登っていく。


「なんだろう……ここまで差があると、個体差って大きいな?」

「あぁ……特に、クロヒメはウコバクの中でも超真面目な子でな。だから、ちょっとトゲトゲしいところもあって……。厳しい事を言ったみたいで、ごめんな」

「別に構わない。むしろ、あの子の反応の方が普通なのだろう。私が今まで契約に甘えて、お前をこき使ってきたのは事実だし……そう言われても仕方ないんじゃないかな。それにしても……コンタローがあんな風に言ってくれるなんて、思いもしなかった。……ちょっと嬉しい」

「コンタローはコンタローで、素直で単純だからなぁ。でもあれで、あの子は警戒心も人一倍強くてな。実際こうして、ルシエルにすんなり懐いたのには、ちょっと驚いている」


 お頭と呼ばれているだけあって、ハーヴェンはウコバク1人1人の特徴を把握しているようだが……そう言えば、ウコバクって実際は何人くらいいるんだろう?


「なぁ、ウコバクってどのくらいいるんだ? ……今日のお土産、足りたか?」

「今、ウコバクはコンタローやクロヒメも含めて、全部で8人だな。だから、お土産の数は足りたよ。1人5本ずつくらい行き渡ったから、みんな大喜びだった」

「そっか。……意外と少ないんだな?」

「前はもっといたらしいんだけど……大昔のコキュートスは、人間界にかなり近かったらしくてな。うっかり外に出てしまう子が多かったんだと。で、あの毛皮だろう? ……迷っていたのを、乱獲されたみたいでさ。一時期、天使の間でウコバクの襟巻きが流行った時代もあったらしい」

「……」

「ま、お前が生まれるよりも前の話だろうから、現代の天使には関係ないんだけどさ。でも、あの子達はそういう理由もあって、相手が天使ってだけで怯えたりするんだよ。ちょっと反抗的な態度をとっても、許してやってくれよな」


 初めてコンタローと会った時もそういえば、そんな事を言っていたな。天使は天敵……あの言葉はそういう背景もあっての事だったのか。


「なんだか、天使のしてきた事は間違いだらけだな。……今ようやく色々と変わりつつあるけど、もっと真剣に他の種族との関わり方も考えないといけないのかも」

「まぁ、俺達との関わりがキッカケになるのであれば、俺も、毎日楽しく料理を作っている甲斐があるってもんかな?」


 彼の表情を見る限り、嘘ではないらしい。初めての出会いから、3年と数ヶ月。彼と出会っていなかったら……今頃、私はどうしていたのだろう?


「あ、そうだハーヴェン。今日も色々と、話したいことがあるんだけど……」

「そか? それじゃ、また部屋でお茶を飲みながらにしようか?」

「そう……だな。でも……シトラスフローラルの入浴剤を用意したんだ。……で、えぇと」

「ふっふっふ……だったら、Bプランで行きましょうか?」

「Bプラン⁇」

「Bは……バスルームのBです!」


 あぁ、なるほど。


「では、そのBプランで……お願いします……」


 図らずとも、何かを言わされた気もしないでもないが。こういう時くらいは素直にならないと、却って損する気がして。つい……そんな返事をしてしまっていた。

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