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氷の城  作者: 壱百苑ライタ
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永い廊下

三、永い廊下


 ぎぃと木戸は軋んだ。

覚束無い足取りで、女は一歩廊下へと踏み出す。通路には窓が無く、石壁に囲まれた其処はとても暗かった。一定の間隔で設置された蝋燭だけが、遠く先まで暗い廊下を照らしている。

 女の頭はどうも朦朧としていた。病気にでもかかっただろうか、それとも別の理由なのか、とにかく熱でも出た時のように意識は靄がかかり判然としない。その所為で浮いているような心持ちなのに、足取りだけは酷く重い。

 そうは言っても今は踏み出すほか無いのだから、女はまた一歩、また一歩と踏み出す。

「突き当たりの扉ですよ」

 遠くから神父の声がした。女が気づかぬうちに随分歩いたのか、或いは意識が遠のいていたからかは分からない。とにかくその声はひどく遠くから聞こえた。

ぼんやりと丸く赤い蝋燭の灯りだけを頼りに歩く。ひとつ、またひとつと蝋燭を通り過ぎる。次第に女の意識は更に薄れ、視界がゆらゆらと蝋燭の灯りのように揺らぎ出した。それでも女はただ突き当たりへ向かって歩み続ける。只管に歩み続けているのに、一向に突き当たりの扉に辿り着く様子は無い。自分の足取りはそんなにも遅いのか、ならば先ほどはやはり意識が遠のいていた所為で神父の声が遠く聞こえたのか。

 永い、長い廊下だった。

 自分はどれほど歩いたのだろうか。目を開いていることすら覚束無くなり、足はもう上げているのか下げているのか、それさえも分からず泥沼の中を泳ぐような心持ちで前に進んだ。このままこの廊下に倒れこみ眠ってしまえばどれほど楽だろうか。あとどれくらいで突き当たりに着くのかも、薄れ行く意識では確認出来ない。果てなく、終わりのない廊下を歩いているような錯覚がして、女は急に心細くなった。

 ならばどれほど自分は歩いただろうか。それだけでも確認しようと女は振り返る。

 振り返った筈のそこに、扉はあった。

 反射的にまた振り返る。そこは長い長い廊下が続いていた。蝋燭の灯りだけに照らされたその廊下の奥はどうにも見えない。けれども再び振り返ったそこに扉はあった。

 自分はどうかしているのだ、やはり熱があるのだ。女はそう思った。だから早く休まなければと、扉に手をかける。

 扉はまた、ぎぃと鳴いた。

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