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24.ですよねえ……

 俺は小麦の種を植えたはず……それがどうしてこんなことになるんだ?

 意味が分からない。

 プリシラやイルゼの異常な強さなんて霞むくらい、斜め上過ぎて乾いた笑いしか出なかった。

 

 いつまでも四つん這いになって頭を垂れていても仕方がない。

 そろそろ、立たないと。俺の畑が待っている。

 うおおおおお。

 

 気合を入れて勢いよく立ち上がる。

 前を見た。


「やっぱり、おかしいってこれ!」


 ダ、ダメだ。

 思考を放棄して「やったー。畑に植えた種が育ったー」と無邪気に騒ぎたかった。

 だけど……。

 

 プリシラが作業をした方――。

 捻じれた枝が特徴的な灰色の木がまばらに並んでいる。

 まだまだ成長途中なのか高さは一メートル半もないくらいかなあ。葉っぱは一枚もなく、枝先に毒々しい紫色をしたリンゴのような実がなっている。

 この木はたった一晩で、ここまで成長したんだよ。

 昨日の夕方には中央部分と同じように緑色の草だったんだ。

 訳が分からないって俺の気持ちも分かるだろう?

 

 木の傍まで歩いて行くと、リンゴもどきが突然金切り声をあげた。


「……」


 これは酷い。

 リンゴもどきに人面が浮き出て叫んだ後、元のリンゴもどきに戻った。

 畑を愛してやまない俺でさえ、この木を蹴り倒そうとしたほどほどだ。

 なんとか堪えた俺は、もう一方へ目を向ける。

 

 イルゼが作業をした方――。

 こっちも高さがプリシラのところと同じくらいの木が立ち並んでいる。

 たった一晩で一気に成長しているところも似ていた。

 青々とした新芽が枝先から伸び、スモモほどの大きさの実が成っている。見た目だけなら、おいしそうに見えるけど……。

 スモモへ手を伸ばすと、


『わたし、まだ、食べられたくありません』


 呼応するように他のスモモが、

 

『娘だけは許してやってください! 食べるなら私を』

『ダメ。ママが食べられるなんて!』


 と謎の茶番劇が始まってしまったんだ……。

 

「……」


 無言でクルリと踵を返し、家の扉の前で再び四つん這いになる俺。

 

「どうしたのー?」

「バルトロ殿、敵襲だな!」


 ちょうどそこにプリシラとイルゼが家の中から顔を出す。

 

「何も無かった。俺は何も見ていない」


 今は彼女達に構っている余裕が俺には無かった。

 一刻も早く、この記憶をデリートしなければ気が変になりそうだ。

 

 二人の肩に手を乗せポンと軽く叩き、重い足を引きずりつつ家の中へ戻る。

 そのまま屋根裏の自室へ入った俺は、ベッドに突っ伏す。

 

 悩ましい。

 どうするか迷う。

 種を撒き、芽が出て育成していくのはこの上ない喜びだ。

 だけど、リンゴもどきもスモモみたいなのも農場に相応しくなさ過ぎるだろ?

 あれは酷い。酷すぎる。

 ここが魔境だったり、珍しい植物を集めた庭園なら話は別だけど……。

 

「ぐううおおお」


 伐採すべきか、そのまま天塩にかけて育てるべきか決めることができない。

 ゴロゴロとベッドを転がり、ギリギリと歯ぎしりを繰り返す。

 

 その時、俺の頭に天啓が浮かぶ。

 畑には目当ての植物以外に望ましくない植物が生えることがある。

 畑ってのは、豊富な肥料に水があり植物が育成しやすくなっているんだ。

 なので、自分が植えた種以外の植物にとっても生育しやすい環境になる。

 

 そう、畑には雑草ももさもさ伸びてくるもんなんだよ。

 リンゴもスモモも、雑草だ。

 そうだ。あれは小麦とかブドウなんかじゃなく雑草。雑草なのだよ。

 だから、切り倒しても問題ない。

 

 心の整理がついたところで、ベッドからカッコよく立ち上がり階段を降りる。

 

「な、なんじゃこらああ」


 木のぬくもりを感じさせる手作りのテーブルの上に、溢れんばかりに積み上げられたリンゴとスモモが……いや、溢れて床にまで転がっていた。


「おー。収穫したよー」


 プリシラがスモモを握りしめ、手をブンブンと振る。


「お、おう」

「食べていい―?」

「あ、うん」


 無邪気ににへえと笑うプリシラにもうどうにでもしてくれという気持ちで許可を出す。


『娘だけは!』

『マ、ママー』


 しゃりっしゃりっ。

 茶番劇など気にした様子もなくプリシラがスモモをかじる。

 うーん。いい音が鳴るなあ。

 瑞々しくておいしそうだ。

 

 彼女が一口食べたら、スモモも喋らなくなった。

 

「おいしー」

「イルゼが撒いた種だぞ」

「イルゼ―、ありがとう」


 プリシラが自分と同じようにリンゴもどきを手に持つイルゼに礼を言う。

 面と向かって礼を言われたイルゼは、少しばかり頬を紅潮させ「種を撒いただけに過ぎん」と顔を逸らせた。

 

「では、私も頂くとするか」


 い、いやでも、イルゼ。

 そのリンゴ……人面が浮き出てきているぞ……。

 しかし、イルゼがリンゴを睨みつけると人面が引っ込んだ。

 

「おいしー?」


 もっしゃもっしゃと食べるイルゼへプリシラが下から見上げるように彼女へ尋ねる。


「悪くない。魔族の食べ物もなかなかのものなのだな。感謝するプリシラ」

「ううんー。わたしも食べてみるー」


 二人で頷き合い、床に転がったリンゴとスモモを拾いお互いに交換し合う。

 なんとも微笑ましい光景に見えるが、リンゴもどきとスモモらしき物体が怖気を誘う。

 よくあれを平気で食べることができるな……。

 

 二人の様子を眺めながら、とっておきの雑草ブレンドを煎じる俺なのであった。

 

「バルトロも食べないのー?」

「あ、いや、俺は……」

「そのまま渡したらダメじゃあないかプリシラ。ちゃんと切り分けないとバルトロ殿も食べ辛いだろうに」

「そっかー」

「そうだぞ」


 ちょっと待って。

 俺、食べるとか一言も言ってないよな?

 

 納得したようにいい笑顔で頷きぴょんと跳ねるプリシラと、果物ナイフを手に人面リンゴの皮をスルスルとむいていくイルゼ……。

 あ、案外手先が器用なんだな。イルゼって。

 実は料理も得意なのかもしれない。

 

 って、そんなことに感心している場合じゃあねえ。

 

「ほら、バルトロ殿」

「え、あ……」

「すまない。私としたことが」


 ようやくわかってくれたかイルゼよ。

 俺の微妙な顔を見て察してくれたらしい。

 彼女は切り分けたリンゴの乗った皿を引っ込めると、再び果物ナイフを手に取った。

 え?

 あ、ちょっと。

 

 今度はスモモを真っ二つに切って、一体何を?

 

「ですよねえ……」


 うん、皿にスモモが追加された。

 

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