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1.酔った勢いで異世界召喚?

 俺、月島春馬はつい先日21歳になったばかりの会社員だ。専門学校を卒業して、働き始めてからもう半年経つ。

 時が過ぎるのは本当に早い。社会の荒波に揉まれる日々に精神が参ってしまいそうだ。


 そんな時、役に立つのが酒である。


 というわけで昨日は、会社の同期と居酒屋で上司の愚痴をツマミに酒を飲んだ。


 全力で飲みまくった。店員さんが引くレベルで。


 結果、酔い潰れた。


 同期と別れた後、コンビニへ向かったところまでは記憶がある。


「さて……どうしたものか」


 周りを見渡す限り木と雪しかない。

 寒すぎる。お陰で酔いは覚めたけど。


 俺が住んでいるのは、途方もないビルの山で埋め尽くされたような場所だ。木々が生い茂るような隙間など存在しない。

 今いる田舎っぽいとこに行くには、少なくとも電車で1時間半はかかる。


 酔っ払った勢いで、ここまで歩いてしまったのだろうか。いやそれは絶対にあり得ない。

 そもそも昨日は雪なんて降ってなかったし、お天気お姉さんも「しばらく晴れが続くでしょう」とおっしゃっていた。


 それに10月が始まったばかりだ。


 東京でこの時期に雪が降って、しかも積もったなんて話は聞いたことがない。


「俺は一体どこに迷い込んでしまったんだ!!!!!!」


 こんな独り言に、返事など返ってくるわけもなく、ただ虚しくなるだけだった。


 じっとしていてもしょうがないか。スマホのナビで、近くの駅かバス停を探すとしよう。


 上着の右ポケットからスマホを取り出し、電源ボタンに手をかける。


 んっ?


 スマホの電源が入らない。


「はははっ…………」


 笑うことしかできなかった。

 知らない土地に一人で遭難。絶望的な状況だ。


 俺はその場に腰を下ろした。


 特にやることもない。そこら中の雪を掻き集めて雪だるまでも作ってみるか。


 早速、雪に手を伸ばす。


 凄く冷たい。しかし、不思議と手が止まることは無かった。


 あっという間に雪だるまの完成だ。


「我ながら上出来だな。センスあるかも…………あーーーー!!!」


 このまま誰にも見つけてもらえず、一生を終えるのだろうか。


 ふとそんな考えが頭をよぎる。


 雪だるまをうまく作れたって命は助からない。わかっていたことだ。


 誰か「ドッキリ大成功!」と言って、目の前に現れてはくれないだろうか。

 今ならクソ上司でもウェルカムだ。それくらい俺は追い込まれている。


 少し寒くなってきた。凍死するのも時間の問題かもしれないな。


 そんな縁起でもないことを思っていると、キシキシと雪を踏む音が聞こえてきた。


 またとないチャンスの到来だ。


「すみませーん! 遭難しました。助けてくださーーい!!!」


 俺は腰を上げて、喉を枯らす勢いで力いっぱい叫んだ。すると声に反応するかのように、足音がだんだん近くなってきた。


 これで無事に帰れるだろう。

 そう安心できたのも束の間のこと。


「ヴオオオオオオオオ!!!!!!」


 殺気全開の咆哮をあげながら、俺の目の前に現れたのは、それはもう規格外の大きさの猪だった。


 外来種にしたってこいつはデカすぎる……


 極め付きは長く鋭い牙。金属のような光沢を帯びたそれはまるで刀だ。こんな猪は世界中どこ探したっていない。


 ヤバイ殺される。


 そう思った途端、恐怖のあまり足がすくんで動けなくなってしまった。猪の鋭い牙が今にも振り下ろされそうだというのに。


 俺は死を覚悟した。


 せめて痛いのは一瞬にしてくださいと願いを込める。


「今夜はイノシシ鍋にしようかしら……」


…………ズババッ!


 何が起こったのか理解できなかった。白い景色に銀髪の少女と鮮血が舞う。

 猪が咆哮と呼ぶには程遠い微かな悲鳴を上げた時には全てが終わっていた。


 銀髪の少女と目が合う。その表情はいまいち読めない。彼女は刀に付いた血を払い刀を鞘に納めると、無言のまま立ち去ろうとする。


「ちょっと待ってくれ!」


 俺は少女の足を止めた。


 非現実的な光景を目の当たりにして戸惑ってはいたが、お礼くらいはしっかり言わなければならない。社会人だし。


「助けてくれてありがとう……」


「別に助けてない…………夕食の食材調達をしただけ」


 この猪を食うのか……?


 シンプルに凄いと思った。


 刀で獣を切り倒すのもそうだが、誰かの仕組んだドッキリにしてはクオリティが高すぎる。まるで漫画の世界だ。


 酔った勢いで異世界にでも迷い込んでしまったのだろうか。


「ハハッ……けど間接的に助かったからさ。それで1つ質問なんだけど、ここどこ?」


「スノーシアの森よ。あとイノシシは食べない……冗談を言ったの」


「だよね……ビックリした」


 スノーシア? 外国の地名でも聞いたことがない。どうやら本当に異世界へと迷い込んでしまったらしい。


「それにしても変わった格好ね。隣の国から来たの」


 銀髪の少女の服装は中世ヨーロッパ風、対して俺は灰色のパーカーにジーンズ。変わった格好と言われても仕方がない。そして隣の国というか、この子からすれば俺は異世界人だ。


 異世界から来たなんて言うと、彼女を困惑させてしまう恐れがあるので「まあそんなところかな」と言葉を濁した。


「そう…………しばらく南に進めば王都があるわ。人もたくさんいる」


「王都? わかった。教えてくれてありがとう!」


 思わぬ情報ゲットだ。王都とやらへ行けば、元の世界へ帰る手がかりが見つかるかもしれない。


「それじゃあ私はこれで」


 サバサバした女の子だな。けど色々と助かった。


「ありがとう! この恩は忘れない」


 去っていく銀髪の少女の背中にお礼を言って、俺は南に向かって歩き出した。


 目的地はスノーシアの王都だ。

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