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第一回バンド会議 その二

「質問いいかしら」

「どうぞ」

「気になってたんだけど、翔がそこまでバンドやりたい理由って、本当に私の声が気に入ったって理由だけなの?」

「それ今聞くこと? 個人的な質問は控えるように」


 翔が早口で答え流そうとしたところを目ざとく克己と優子がとらえた。


「やーっぱり翔、氷上さん勧誘するとき声に惚れましたーって言ったんだなー」

「へぇ。翔くん、女子と話してる印象あんまりなかったからどうやって氷上さん引き入れたか気になってたけど、そっかぁ、直球でいったかぁ」

「やめろください。俺の精神が崩壊する」

「あれ、てことは氷上さん、そんな翔の直球な想いにほだされてバンド決めたってこと!?」


 人の恋愛事情ほど面白いものはありませんぜダンナ、と優子が克己に目配せし、克己も、その通りだぜダンナ、とニヤニヤ笑いでもって応える。

 それを見て翔と氷上は一瞬憤怒の表情を作った後、静かにクールダウンした。


「はぁ~これだから陽キャどもは。何事もすーぐ恋愛に結びつけようとする」

「まったくね。私はただ純粋に、バンドというものに興味があっただけなのに。翔からの誘いはキッカケでしかなくてそれ以上の何かはないわ」

「氷上に同じ。そりゃ氷上の声、歌が優れたもので、それに触発されたってのはある。けどそれは氷上個人に恋愛感情を抱いてるということとイコールにならない」


 唇の端をピクつかせながら早口でまくしたてる両名。氷上の方が年期が入っていて、より冷静に見える無表情が作れている。

 流れが悪くなったことを肌で感じた克己は慌てて事態の収束にとりかかる。


「まとめると二人ともただバンドをしてみたかったと。そういうことでよろし?」

「よろし」

「よろしいわ」

「おっけ! オレもそうだし、ゆうちゃんも少なからずそうだろうし、ここにいる四人は仲間ってことでいいじゃんね。ナカーマ」

「イエス。ナカーマ」


 カタコトっぽく発音した克己に便乗した優子の発言に、思わず頬が緩む翔と氷上。


「んじゃバンドの話に戻ろうか。各々のパート確認まで終わってたよな? 続き頼んます司会の翔」

「おうよ。次は選曲だな。文化祭で使える三〇分のうち、どれくらいMCに割くか。何曲できるか。一曲多めに見積もって五分と考えると……いや、当日確実に克己、または俺が『走る』だろうから四分くらいとする、んで、セッティング、合わせ、撤収込み込みで二曲だな」

「えー、それだけしかできないの!?」


 真っ先に声を上げたのは優子だった。


「全部自分たちでやろうとした場合、な。経験者数人に協力してもらえれば三、四曲できなくもない。吹奏楽部の人たちとか」

「あ、オレ吹部なら知り合い何人かいる! ちょっち連絡してみるわ」


 克己が迅速にスマホをタップ。それから一〇分経たないうちに五人からの協力を取り付けた。


「これが、人気者。これが、リア充。これが、コミュニケーション強者……」

「どうしてくれるのよ姿月くん。翔がビビりすぎて高速貧乏揺すりをはじめてしまったのだけど。うっとうしいわ」

「いやオレに言われても。よかったじゃんか、これで三、四曲できるな!」

「ちなみにその中にバンド経験者は?」

「ん? いなかったはずだけど」

「じゃあ三曲だな。経験者がいたら手際よく準備できたんだけど。まあ一曲増えただけでも重畳。さて、では皆さんお待ちかね、選曲タイムです!」

「待ってたぜい!」

「ついに来たね~この時が!」

「私はみんなのやりたい曲でいいわ」


 ここで翔はあらかじめ用意していたリストをテーブルの上へ置いた。


「俺のベース歴は三年。だがバンド活動してたわけじゃないし自分の好きな曲しか弾いてこなかったから技術は素人に毛が生えた程度だ。克己はドラム歴一ヶ月そこそこ。氷上と優子はどうだ?」

「私は広く浅く楽器を触ってきたから、ギターに関しては翔と同じく素人に毛が生えた程度ね」

「私は一応高校一年の時からオルガンやってるけど、手遊び程度だし、オルガンとキーボードじゃ勝手が違うしで素人同然かなぁ」

「と、まあ全員素人レベルなのは予想はできていた。やりたい曲があっても俺たちの技術じゃ弾けない可能性が高い。しかも俺たちは受験生で勉強もしなきゃならない。そこで俺がバンド初心者が通るであろう低難易度かつ弾いて楽しい認知度が高い曲をいくつかリストアップしてきた。この中から決めてくれるとありがたい」

「さっすが翔! やっぱり翔に任せといて間違いなかった!」

「こら克己てめえ本来はこういうのお前がやらなきゃいけなかったんだぞ。一応バンドリーダーなんだから」

「あら、私はてっきり翔がリーダーなのかと」


 氷上が首を傾げる。そんな仕草教室では一切見せないものだから珍しくて翔は反応が遅れた。


「ま、まあこいつが発起人だしな。後俺はサポートタイプなんだ。陰から支えるのが好きなんだ」

「つまり日陰者だと」

「それはちょっと違うんじゃないかなぁ氷上クゥン」

「はいそこふざけてないで真面目に曲選ぼうよ!」


 優子はテーブルに身を乗り出してリストに見入っていた。

 翔が用意したリストには古今東西、今昔様々な曲が載せられており、どれを選んでも、聞いてくれている人たちの中の三割くらいは、これ知ってる! となる。はずだと翔は自負している。

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