第2話 入学式の日の遭遇(4月9日)
ここからが本格的な本編となります。
第一話はもう一つのプロローグみたいな感じです。
―これは男子トイレの遭遇の一週間前のことである―
朝は好きだ。静かなところも好きだし、一日の始まりであるというところも好きだ。特にこの春の始めの頃の朝は好きだ。静かで、少し寒いけれど、昇ってきたばかりの朝日が暖かい。この日差しの中で深呼吸をすると活力がわいてくる。
でも、今日の朝は少し特殊だった。
今日は俺にとっての高校生活の初日、入学式の日なのだ。
ここでひとつ自己紹介を。俺の名前は「日下秀信」。今年新しく高校に入学することになったピッカピカの高校一年生である。性別はもちろん男性だ。女装趣味も無い。いたって普通だと自負している。
…さて、入学式ってみんなはどのような気持ちで臨むのだろうか。
新しい生活が楽しみでわくわくしてたり、はしゃいでいたりしているのだろうか。それとも勉強はどれだけ大変なんだろうとか、友達は出来るだろうかとか考えて不安な気持ちなのだろうか。俺はどうかって言うと、多分後者だと思う。その理由は勉強が大丈夫かとかもあるけど、一番大きいのは、
友達に嫌われないか という理由だと思う。
ここで俺の通う高校について説明しておこう。
うちの学校はよくある大学付属高校だ。いわゆるエスカレーター式とかいうやつで、がつがつ勉強するような学校ではない。校則も緩く、髪を染めてもOKという自由っぷりである。しかしなぜかトイレの個室は二人以上で入ってはいけないという校則がある。何故だ…。
共学校で人数はかなり多い方だと思う。そして私立の学校だから、やたらと学校の施設に金がかけられている。そのためか部活動も非常に多岐に渡っている。
中学もあり、そこから内部進学するものも多い。かくいう自分もその中学から内部進学してきた生徒の一人である。因みにその中学っていうのは男子校だったので共学というのは実に小学生以来であったりするがまぁそれはどうでもいいか。
さて、そんなんだから完全にひとりぼっちの入学式ではない。中学の時の友達はほとんどがこの高校に上がっているので寂しくはない。いわゆる、『内部生』といわれるポジションにいるわけである。それでも少し緊張しながら、中学の隣にある高校の門の前に立っていた。そう、今俺は高校の門の前に立っている。隣では門の前で写真を撮っている親子や、高校でも一緒だねーとか言いながらしゃべっている生徒なんかがいたりする。俺はというとなかなか門の中に入る勇気が無くて立ち止まったりしていた。
そうして門の前で一人立っていたら不意に後ろから声をかけられた。
「お? もしかして秀信か?」
その声は良く聞いた声だったので普通に振り返った。するとその声の主はやっぱりという顔で
「あぁ、やっぱりお前か。久しぶりだな。」と言った。
彼の名は佐藤祐揮。俺の中学の時からの友達である。見た目はまあまあいいやつなんだが中身というか趣味がおかしいやつでいわゆる変人なんだと思う。
するとやつがにやにやしながら話しかけてきた。
「こんなところで何やってるんだ-?もしかして女子がいることに感動してうごけないのかー?」
「そう考えてるのはお前だけだっての」
「ふーん」やっぱりにやにやしている。なんかうざいな。
「お前じゃ無いんだから別に女に飢えてなんかいねーよ」
「そうは言いつつも中学からの同士じゃないかー。うりうり」
そういいつつ肩を組んでくる。やはりうざいやつである。
「ふん、とにかく行くぞ」そう言って肩にかけられた手を外して歩き始める。
「へーいへーい」
なんか気持ちを整えてから入ろうと思っていたのに普通にはいってしまっていた。
下駄箱まで行くと掲示板があり、そこには新入生のクラス割りが張ってあった。うちの学校は先ほども言ったが、かなり大きい高校である。だからクラス数も多く、自分を見つけるのが大変だった。
「おっ。俺とお前の名前見つけたぞ」
そしたら佐藤が見つけてくれたようだ。
「同じB組みたいだな。また同じクラスか。まぁよろしくな」
最悪のクラスに入ったかもしれないなこりゃ
「おい!今最悪のクラスに入ったとか思っただろ!」
「別にそんなことかんがえてねーよー」
「しらばっくれただろ。絶対考えていたよな!おい!」
とりあえず隣で騒いでいる佐藤をおいといて、B組のクラスの名前を確認してみる。すると、このクラスは39名のクラスと判った。普通は40人だからどうも一人少ないらしかった。しかし、このクラスに俺の友人と呼べる人は佐藤一人だけの様だった。まぁ元々友人が多いわけでもないから当たり前かとかそんなことを考えながら見ていたら、ふと一人の女子生徒の名前が目に入った。
(『木村沙恵』?はて、どこかで聞いたような名前だが…)
張り紙から目を離し、自分のクラスに向かう。後ろで佐藤が「おい!人の話は最後まできけぇい…」とか言っていたが完全に無視。
そしてB組を見つけ扉を開ける。すると机に座って本を読んでいた一人の少女が目を上げて、俺と目が合った。するとその少女は顔を明るくしながら声をかけてきた。
「久しぶり-。ひでくん」
そんなことを言いながら一人の少女が顔を見上げてきた。
「え?ええ!?」なんか隣で佐藤が驚いている。確かに初対面なはずの女子が俺のことを、あだ名で呼んで来たら驚くか。しかし,俺としては、昔の友人に会えたことの方が嬉しかったから佐藤を無視して(さっきから無視してばっかの様な気がするが)話しかけた。
「久しぶり、沙恵ちゃん」
「なにぃ!!」突然佐藤が俺に驚愕の目線を送ったかと思ったら、詰め寄ってきた。どうしたおい
「おい!秀信。これはいったいどういうことだ。」
「なんだよ急に」
「この人とはいったいどういう関係なんだと聞いているんだ!」
「どういう関係って…。そのまんまだけど」
「なん…だと…。それってつまり…」
「何だよ」
「恋人関係だったということかっ!!」
「ちげーよ!」思いっきり変な誤解をされた。
彼女の名前は、木村沙恵。小学生の時、中学受験の為に通っていた塾で知り合った。塾にいたころはそれなりに仲良くしていたから再開した時は少し嬉しかった。そういえば彼女は俺が通っていた中学の姉妹校に通っていたはずだから…、なるほどそこからこの高校に進学してきて再開したといった感じか。
「…というわけ。」
「なるほど…。いやしかしお前にも女友達がいたんだなぁ。」
「一人もいないやつに言われたくは無いな」さらりと俺に対して失礼な事言ってきたので毒のある言葉を返してやる。
「イ、イナイワケナイジャナイデスカー」
「なんで片言なんだよ」図星だったらしい。
「いやーだって俺、小学校の頃の女子と交流なんて全然無かったですから…。名前で呼び合えるほど親しい女子なんていないし…」
「しかも中学は男子しかいなかったしな」
「…うわあああん。秀信に女子の事で負けたぁぁ。」
「…」泣き始めたぞこいつ。と思ったら急に教室の端にいって壁に手をついて落ち込んだ。相変わらず喜怒哀楽が激しいやつである。
そしてこのやりとりを笑いながら見ている木村沙恵こと沙恵ちゃんに向き合う。
「しかしまさかこんなところで再開するとは思わなかったな」
「そうだね~。ひでくんも同じ学校にいるとは思っていたけど、まさか同じクラスになるとは思っていなかったよ~」
「まぁ、それはそうだな」俺もそんなこと少しも考えていなかったしな。
「そういえばひでくんは席はどこなの?」
「ん?俺か?俺は12番だからえーと…」
「えっ?12番なの?わたしの後ろじゃん!」
「まじ?お前11番だったの?」
「そうだよ!わーすごい偶然だね~よろしく~」
「おう、よろしくな」なるほどこのクラスはとりあえず男女混合で出席番号順に前から1番、2番、3番…という順番で一列に7人ずつ座り、一列目は6人、6列目は5人ずつ座るという形になっている様だった。
「そういえば佐藤のやつは何番だ?おーい佐藤」
「(´・ω・`)ショボーン」
「…なんだその顔」なんか佐藤の顔が変な形になってる。しかも口に出していないのに脳内に直接「ショボーン」っていう言葉が聞こえてくる…。何だこれ…地味に怖い。こいつ直接脳内に…。…げふんげふん。
「おい佐藤!現実に戻ってこい!」
「いやだー。こんな非常な現実になんて帰りたくないー。俺に女友達が一人もいないのにこいつにはいるなんて夢に違いないー…」
「…とにかくだ、お前の出席番号って何番だ?」めんどくさいのでスルーした。
「話をそらされたか…くそ。…まあいい。俺の出席番号か?えーとだな…19番だ」
「…俺の隣かよー」
「なんでそこまで露骨にいやな顔をする」
「見るの飽きた」
「…飽きたってお前…」またしても佐藤が落ち込んで机に突っ伏してしまった。
すると隣からすっと手が伸びてきた。その手は佐藤に向けられていた。佐藤はその気配を察してがばっと起きた。誰だと思って見たらなんと沙恵ちゃんだった。
「ひでくんの隣っていうことはわたしの席の斜め後ろだね。よろしくー」
「はい!よろしくお願いします!えーと…」
「木村沙恵よ。よろしくね」
「俺は 佐藤祐揮だ!よろしく、木村さん!」
「ふふっ。よろしく佐藤君。後、わたしのことは沙恵でいいよ」
「まじですか!よろしく沙恵さん!」
どうやら2人の自己紹介も無事終わった様だった。しかし佐藤が物凄くうれしそうである。先ほどまでの落ち込みは何処へいったのかといった感じでものすごくニコニコしている。
すると佐藤が俺の方を向いてきた。
「しかし、お前もいい友達もってんな」
そんなことを言われた。
「そうか?」
「ああ、思わず惚れてしまいそうだ」
「…流石にチョロすぎるだろ…。お前」
こうして俺の高校生活は幕を開けたのだった。
続く
次回は今週中に投稿する予定です。
では次回もよければよろしくお願いします。