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2・はじまりはセーブから(後編)

「いやあしかし災難だったな!ほれ、食え食え。今日は気分がいいんでおごりだ!」


喧騒と酒と料理の匂いで満たされる夕方の酒場で、俺は目の前に広げられた料理の数々に圧倒されていた。

と言っても腹が減っていたのは事実で、一度その香ばしい匂いにつられて肉をひとかじりでもすれば、後は自然と口と手が動く。



うまい。正直言ってその辺のファミレスで食うようなものより格段にうまい。


「どうよ、この酒場の肉はな、そんじょそこらのファミレスとはワケが違うぜ」


が、そいつの一言で思わず口の中を噴出しそうになる。


「え、ファミレスあんの?」

「あるよ?」


マジかそれは興味がある、是非見てみたい。マジで現代まんまだったら笑うしかない。

なんて考えていると、前置きは済んだ、とでも言わんばかりに、そいつは続けて口を開いた。



「で、お前さん一体なんだってあんなとこにいたんだ?」




~~~~~~~~~~~




声がしたのは、頭の上からだった。


腰を抜かしかけて、情けない足取りで必死に逃げる俺の、上から舞い降りたのは、一匹のドラゴン。

その上には、槍を持った戦士。




そいつは、べらぼうに強かった。




俺に迫ってきていたトカゲの怪物を、ドラゴンが一回この場を通過しただけで半数くらいは蹴散らし、もう一度舞い上がって降りてきたときには、怪物は全て消え失せていた。

いや強すぎん?レベルいくつだよこいつ。



「よーし一丁上がり、おい、もう大丈夫だぞ」



そいつが、俺にそう言った。よろりと体勢を立て直し、まだ恐怖心が残るまま、俺は言葉を返そうとした。


それがいけなかったんだろうな。


「だ、大丈びゅフッ」





当然のごとく、笑いを買った。ああ死にてえ。





とまあそういうわけで、後は成り行きというか何というか、流されるまま酒場に連れて行かれた。

「一人で飲むのも味気ないから助けた礼に付き合えよ」とのこと。

初対面にここまで言えるのは、コミュ力カンストマンか、単にデリカシーがないだけか。



~~~~~~~~~~~



「何だそりゃ?」



それが俺が外にいた理由を聞いた戦士様の反応でございます。

さすがに異世界転生なんて単語は使えないのでぼかそうと思ったら、「自分にどんな素質があるのか知りたかったが、一般人を巻き込むといけないので外でやっていた」ということになった。そりゃそんな反応になるわな。


「自分の素質も見えてないうちから一般人を傷つけまいとかお前面白いな!?」

「我ながら俺もそう思った」



まあいいや、とそいつは俺の口にした肉よりもずっとでかいのをがつがつとほおばった。

ごくりと飲み込む音がこっちまで聞こえてくると、そいつは一言


「クラウス」


それが自分の名だと言った。

竜戦士クラウス。この道二十年の傭兵だそうだ。


「お前さんは?」

「たか―」


名を問われた俺は、そのまま自分の名前を口にしようとして一瞬ためらった。

タカシ=サイヅキと名乗ったとして日本人の名前ってこの世界で通るのだろうか?

そして何より、名字はともかくとして「たかし」という名前は多感なお年頃の俺にはコンプレックスである。異世界まできて皆にたかしたかし呼ばれるのは何か嫌だ。



「リュウ。」



隆の字の読みを変えてリュウ=サイヅキ。いいじゃん、かっこいい。

この世界の俺はリュウ=サイヅキなのだ!ほら、異世界主人公にぴったりの名前だろう?



「タカリュウっていうのか」

「やめろその何とかモンスターみたいなの!!!」



「しかしお前さん、その素質とやらは目処がついたのかい?」


俺は首を横に振る。素振りしたって戦闘スキルなんて自覚しようがないし、採集もやってみたけど採れるのは雑草ばっかり。いやむしろ雑草なのか何なのかもほとんど区別がつかない。歌も別に現代の自分と変わらないし、踊りも同様。この日の自分探しはものの見事に空振りだったのは、もう何度も言う必要もないだろう。



そもそも、俺にそんなものがあるのか?今ではそんな疑問すら頭をもたげている。



「何だか面白そうだな!お前さんのそのスキル探しとやら、俺も付き合ってやるぜ」



ついさっきまで肉がついていた骨をころりと皿に転がして、クラウスはヒザをばんと叩いた。

「いや、それはもう今日大体やったんだけど」

「いいじゃねえか、その様子じゃ仕事もしてねえんだろどうせ」

「おいおいバカにすんなよ、俺だって…」

「ではタカリュウさんはどちらでお仕事をしておいでですか?」

「…何もやってません」


そりゃそうだろう、俺は転生してからまだ数日。就活より先にスキルを探そうとした俺に、仕事などないに決まっている。

…なんだか言ってて我ながらとんでもなく愚かな選択をしていたように思えてくる。



が、それがクラウスには面白かったようで、結局翌日、再び自分のスキルを片っ端から試していくことになった。こいつ同伴で。もちろん、今度は町の中で。






俺の華々しく始まるはずだった異世界転生生活。



それは、まさかのノースキル、ノーフラグ、そして傭兵のおっさんに助けられるという展開からのスタートとなったのであった。



ねえ誰か代わってくれない?これ。

続きます。なんか世界観とかたかしくんの素性とかそういうのほったらかしだ

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