1・はじまりはセーブから(前編)
「リザードマンの群れ、なおも接近中!」
「防壁正門閉じたぞ!魔術師団いつでもどうぞ!」
「結界発動―」
今にして思えば
こんな段階で
自分が何をできるのかもわからない状態で
町を離れるなんて、どうかしていた
だって、しょうがないじゃないか。
異世界転生って言えば、主人公スキルがつきものだろう?
自分に何の力があるのか、知りたいじゃないか。
まさか、そんなものは何もなかっただなんて、思わないじゃないか―
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1・はじまりはセーブから
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そんなわけで、この俺斉月隆はファンタジーの平原真っ只中にほっぽりだされたまま唯一の拠点としていた町に閉め出されてしまっていた。
なぜ現代日本人である俺が、二足歩行のトカゲだったり、石造りのファンタジーな町の防壁だったり、それをすっぽり覆うドーム状の何かビームみたいなバリアを呆然と見つめているのかと言うと…
いや、細かい説明はいらないだろう。要するに、俺も転生者なのだ。よくある異世界転生ものってやつ。その経緯は諸君のご想像に任せよう。
しかしこんな言葉ですぐ理解してもらえるんだから、このパターンも飽和したもんだなと、感心とも呆れともつかぬ感想を、思わず口から漏らしそうだ。
今この現状さえなければ。
状況をまとめると、以下の通りである。
一つ、今俺は町の外にいる。
二つ、トカゲ型の怪物が町の北から襲来。結構な数いるっぽい。なんか奥のほうでドラゴンっぽいのまで飛んでいるように見える。
三つ、それを防ぐために、町には結界が張られたところである。入ろうとしたが入れない。弾かれる。そらそうだ。
そして四つ。
このままだと俺は怪物の攻撃に確実に巻き込まれる位置にいる。
何これ?せっかくの異世界転生の始まりがこれって何ぞ?ハードすぎない?
こういう時は決まって、かわいくて強い女の子が助けてくれるもんだが、残念ながら女の子なんて周辺にはさっぱり見当たらない。
ならば立ち向かう?主人公的なチートスキルを使って?無理無理!
だって一日あれこれ試して何一つそんなもの片鱗も見えなかったんだもの。
見るからに中世中世してるこの世界に転生した俺が真っ先にやったのは、やはりと言うべきか自分に備わったスキルを調べることだった。走ってみたり、精神集中してみたり、とりあえず考えつくことは大体試してみたつもりだ。
それも、町中でやればただの変な人だし、何かが発現したときに、周囲に迷惑がかからないとも限らない。だからこそこうして外に出てきたというわけだ。
だが、何一つ自分が転生した初期に持っているであろう「スキル」はその兆しさえ見せなかった。
やり方が違うとか、ただ偶然かすってないだけだとかそういうこともありそうだが、何にしても少なくとも即席で迫る怪物相手に太刀打ちできそうなものは、今は手元にないということがわかった。
これでヤツらの前に立って、奇跡的に何かが発動したとしてもそれが料理やらスリだったら目も当てられない。その時点で俺のTHE ENDは確定だ。
今考えつくことといえば、逃げるか隠れるかくらいなものだが、そんなことを考える余裕すら、今の状況にはなかった。怪物の群れはもう、俺を完全に視認してしまっている。そこまでの距離まで迫っていたのだから。
ここまできてようやく、自分の頭が危険を受け入れた。
その瞬間から、この場所は俺にとってファンタジックで他人事で対岸の火事な異世界転生ものから、自らの命が脅かされる、死を間近に感じる地獄となる。
迫ってくる異形の怪物は、緑色の鱗で埋め尽くされ、不気味な目をぎょろつかせ、器用にも手に持った斧やら剣やらを振り上げて、口から長い舌をちらつかせ、まるで二足歩行を覚えたての獣のように、左右に体を揺らしながら走ってくる。
背筋が凍った。
「嘘だろ、嘘だろうそだろうそだろおおお!」
叫ぶしかない。もう何でもいいから走るしかない。二択すら許されなかった。
そうしなければ、わずか数十m先にもうやってきている連中からは逃げ切れない。正直走ったところで逃げ切れるかもわからないが、そうしなければ、確実に死ぬ。
怪物の大半は町に攻撃を仕掛けようとしている。そりゃそうだ、俺はついでだ。こいつらはもともと町を襲撃するために来たんだろうから。
ただ、今俺にとってメインかそうでないかだなんていうのは問題にはならない。
そのうちの何匹かは、確実に俺をターゲットにしてまっすぐこちらに向かってきているのだから。
実際に思っていたより、驚異を前に走って逃げる、というのは容易ではないらしい。
恐怖心からくるパニックで頭が真っ白になって、体を動かす術を忘却する。走れたとしても十分な速度は出せようはずもない。
ああだめだこれ。恐怖心と同時にそんな言葉が脳裏をよぎる。
未来が見えた気がした。残念ながら、能力による幻視とかそういうのではない。
今の状況ではそれしか考えられないというだけのこと。
こうして、残念ながら俺が主人公となった当作品「ノースキルも悪くないッ!」は序章で完結を迎えるのであった。
―と、言いたいところだが、転生者のビギナーラックなのだろうか。
突如舞い降りたそいつによって、一話完結の流れは断ち切られることとなる。
「何だかこいつらの動きがおかしいと思ったら、やっぱりいたか、閉め出し食らったオマヌケさんが」
助けは、来たのだ。
こうして、何のスキルも持たず、かわいい女の子とのお近づきもないまま、俺の異世界生活は幕を開けたのであった。
ねえ、これもっとイージーになりませんかね?
はじめまして、烈風と申します。
知人に書いて投稿してはと言われたので、何となく思いつくままに書きなぐっていきます。
更新不定期の予定。
もし気に入っていただけるならば、どうかお付き合いいただけると嬉しく思います。