日常3
「よし、今からお披露目タイムでもいきますか」
佐藤さんの天然エピソードや、お父さんと前島さんが「アニメ」について語り合ったり、お母さんの昔話などで盛り上がっていたとき、お父さんは待ちに待ったと言わんばかりに、みんなに視線を送っていた。
「うわぁ・・・やっと見れるんですね~楽しみですわ~スクール水着姿の女の子が見たいです~」
「興奮するものをまたこの目で見ることが出来るのかぁ。なんて有難きことなんだぁ」
「お!今日はどんな美少女を見せるのか見物だな!」
「今日はどんな美少女が現れるのかしらね」
「僕・・・とても気になります・・・もう興奮して鼻血が出そうです・・・」
「はやく見たいのじゃ!はやく見たいのじゃ!」
全員が高齢者だというのに、高齢者らしからぬ言葉が次々と出てくる。
もう慣れてはきたんだけど、今見ても、奇妙な光景だ。
みんなで、雑談に耽っていると、あっという間に時計の針が12時を指していた。
この時間帯になると、お父さんのお披露目の時間となっている。
お昼を迎えると、みんなは一斉に、お父さんに注目し、次は何のキャラクターが描かれているのかしらと、待ち遠しくなる。
私もその中の一人なのだ。
「今からケーキを持ってくるから、爆弾トークでもぶっちゃけながら待つんだぞ」
「いやぁ・・・爆弾トークですか~私、爆弾話ばかりですよ~」
「真に受け止めなくても大丈夫ですよ。佐藤さん」
「あら~そうなのかしら~」
お父さんの冗談に真摯に応えようとする佐藤さん。
いつかは詐欺に引っ掛かるのでないかとつくづく心配になるけど、その陽気さがあれば、きっと、詐欺師の方も怖気づくと思う。
ある意味、核兵器並みかもしれない。
お父さんが厨房へと足を運んでいる間、前島さんは、目を閉じて、犬のように、くんかくんかしていた。
「この匂い・・・まさか、今日は、スクール水着の女の子か!」
目を勢いよく開ける前島さん。前島さんの目に吸い込まれそうなほどの目力だ。
前島さんがそう自信持って言うのなら、今日は、誰しもが萌える、スクール水着の女の子なんだろうなぁ。
ムチムチ感を表現出来たのなら、完璧かも。
ちなみに、私は変態ではないからね。ただ、期待をしているだけなのだ。
「あら、今日はスクール水着ですか~」
「スクール水着かぁ・・・不覚にも興奮してきたなぁ・・・」
「あら、スクール水着ですか。夏を感じさせるようにしたのかしらね」
「スクール水着・・・うう・・・たまらないです・・・」
「スクール水着なのじゃ!スクール水着なのじゃ!」
みんな、前島さんの言葉を真摯に受け止め、今日はスクール水着だと騒ぎ出していた。
紹介が遅くなってしまったけど、前島さんは、語尾に「!」をつけるぐらい、バイタリティ溢れていて、みんなに元気をいつも与えている。
髪の毛は白色で、前髪が、少しだけ前に突き出ている。
ヤンキー系な髪型ではないけど、ちょっとだけ厳つい。
目を見開くと、とても大きくなって、肌は白く、まつげも白く、頬には皺がある。
凛のある声色をしていて、家庭教師みたいだ。
私も一度でもいいから、前島さんに怒られてみたいという願望があったりもする。
前島さんはとても温厚な性格をしているから、一度も怒られたことなんてないけども・・・
そして一番の特徴は、いや、特技というべきか、前島さんは、並々ならぬ優れた嗅覚を持っている。
ケーキから放たれた匂いを嗅ぎ取り、それを脳で読み取り、どんな姿をしているのか、どんな風景なのかなどを瞬時に見極めるという、私にも理解不明な特技を持っている。
本物の匂いがケーキの中に詰まっているわけでもなくて、ただただ、ケーキだけの匂いだけで、嗅ぎ取ることが出来る前島さん。
そう思うと、本当に、世界というのは、とても広いかもしれない。
「よーし、持ってきたぞー。これが俺の自信作だ」
お父さんは、箱の中に入っているケーキを両手に持ちながら、慎重にこちらへと近づき、そして、それをテーブルの上に置いた。
みんなは、まだかまだかと待ち望んでいるばかりにキラキラと瞳が輝いていた。
「それじゃあ、開けるぞ」
「うん!」
私は大きく返事をして、ケーキに注目することに。
みんなも、前のめりになりながら、目を見開いていた。
「今日は、これだぁ!」
気合を入れ、お父さんは、ケーキの蓋を開けた。
……
……
そこには、スクール水着のツインテールの大人びた女の子が、砂場の上で、ウィンクをして「こっちにおいでよ」というふうに手を差し伸べている姿が描かれていた。
そして、大きな胸が膨らんでいて、夏を感じさせるように、きちんと、女の子の後ろには、海が描かれていた。
か・・・可愛い・・・
ときめいちゃうかもしれない・・・
スタイルも顔立ちも、そして表情も、抜群に可愛いし、なんといっても、このムチムチ感が、たまらなく好き。きっと、誰しもが視線を向けると思う。大人びた女の子って、高嶺の花とか思われているかもしれないけど、この女の子は、誰しもが、話しかけやすいような雰囲気を持っているように感じる。表面上では、誰かを軽くいじったりしたりして・・・もしかしてドSだったりしちゃって・・・もう、妄想が膨らんじゃう。
「うわぁ・・・可愛らしいキャラクターですわ~気に入りました~」
「これはなんという輝かしい胸なのじゃぁ・・・美しすぎで目眩がしてくるなぁ・・・」
「お!こ、これは!なんという美貌を持った女の子なのだ!素晴らしすぎる!圧倒的な美しさを放っているのではないか!」
「この子みたいに、若い頃は、スクール水着をよく着ていたかしら。私も、この頃に戻りたいわぁ」
「う・・・これは・・・これは・・・眩しすぎます・・・もう、僕、このままだと、心臓が止まりそうです・・・もう、抱きしめたいです・・・」
「可愛いのじゃ!可愛いのじゃ!」
みんなは、その女の子の姿に、口付けになっていた。
確かに、みんなの言っている通り、この感情を抑えることが出来ない自分がいる。
見るもの全ての心を奪い取ってしまうほどの可愛さ、さすがお父さんといったところだ。
私まで胸がずくんずくんとうずいている。
誰にも取られたくないという気持ちがせり上がっているのかな。
目がハートマークになりそう・・・
もしかしたら、異性でも恋をしてしまう可能性があるかもしれない。
「これは、すごいですねー。私、このキャラクターを演じたくなってきちゃいました」
手をぎゅっと握って、胸の辺りに当てるお母さん。
ちょっと語尾を伸ばしてしまうと、無関心そうに見えるけど、実はそうではないんだ。
お母さんはお父さんの描くキャラクターが大好きで、特に、生き生きとした、豊かさのある表情が、お母さんの心を捉えているらしい。どうでもいいような返し方だと思われても仕方がないけどね。
「お!今日も生ボイスが聞けるというのか!」
「もちろんですよー。前島さん。みんなが笑顔になってくれたのなら、私は何度も何度もキャラクターの声を演じますよ」
「さすがだ!もう早く声を聞きたいな!」
前島さんは、もう、うずうずして仕方がないようだ。
私もお母さんの萌えボイスをはやく聞いてみたいです。
「分かりましたー。そのかわりに、ちょっとだけ時間を取らしてください。キャラクターの気持ちになりますのでー」
前島さんは、お母さんの生ボイスを聞けると心を躍らせているのがここからでも分かる。
前島さんだけではない。アニメなど全く無縁であるみんなまでもが、ごくりと生唾を飲み込み、そのボイスを聞こうと体勢を整えている。
「それではいきますねー」
そう言うと、目を瞑り、キャラクターの気持ちになっているのか、数秒間、水を打ったかのように、静まり返っていた。そして、お母さんは、目を大きく開け、口を開いた。
「早く早くー。こっちにおいでー。みんな待ってるよー。ん?みんながいない所で遊びたいって?しょ、しょうがないなぁ」
「少し、だ・け・だ・よ」
ばたん!
「大原さん、大丈夫ですか!?」
お母さんの凶悪的なボイスで、大原さんは、顔を真っ赤にしながら、顔を思いっきりテーブルにぶつけていた。
私は反射的に大原さんの肩を揺する。
「うう・・・幸せです・・・もう悔いはありません・・・僕・・・もう天国に行きます・・・」
大原さんは、本当に、本当に、幸せそうに、このままあの世に行ってしまうぐらいの笑みを浮かべていた。
お母さんは悪戯をしようと思ったのか、大原さんの耳元に、こう囁いた。
「大原さん。大原さん。わたしね、そのね・・・わたし・・・ずっと、ずっと、海辺で大原さんと一緒に遊びたかったの」
「だってわたし・・・そのね・・・えっとね・・・」
「大原さんのことが、だいすきだから・・・」
「~~~~・・・っ!」
「大原さん!鼻血が出てますよ!」
鼻から、どばどばと、とめどなく鼻血が出てくる大原さん。
私はポケットティッシュを取り出して、大原さんの鼻に押し当てる。
「もう大原さんったら~。本当にアニメが大好きなんですね~」
「さすがに大原さんに同情するなぁ・・・可愛いからなぁ・・・」
「これこそ、真にいくべきものかもしれんな!尊敬するぜ!」
「大原さんは変態というか、なんというか、可愛らしいですわね」
「へんたいなのじゃ!へんたいなのじゃ!」
みんなは、大原さんの姿に、微笑ましく、どこにも嫌悪感などないような優しい笑みで、大原さんの言動を褒め称えていた。褒め称えたというべきか分からないけども・・・
でも、わたしから見れば、微笑ましい光景で。
きっと、わたし自身がもうおかしくなってしまっているかもしれない。
本当に、このお店は、みんな、優しくて、一つ、ネジがはずれていて、キャラクターのイラストが大好きで、もし、違う島からきた人が、この光景を目にしたら、絶対に、ひいてしまうと思う。
だけど、いつか、この姿にも、微笑ましく感じるときがあるのかもしれない。
私だって、最初の時は、的確な突っ込みをしていたんだから。
でも、やっぱり、この島は、この島で、小さな、小さな、離島だけど、やっぱり、楽しくて。
楽しくて楽しくて仕方がなくて。
私は、これからも、みんなといっしょに、過ごしていきたいと思っている。
それが私の、唯一の願いなのだから。
設定を変更いたしました。
菜々美は、理子さんという女の方から、家を貸してもらったということ。
小さな町ではなく、離島ということになったこと。
この二つを修正いたしました。本当に、すいません・・・
そして、更新する時間が空いてしまい、すいませんでした・・・
ここのところ、忙しくて、また、更新する頻度が少なくなると思いますが、これからも、よろしくお願いします。