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愛の告白?

 俺とアンナはついに当面の目的地であったアルジオに到着した。 

 門番はいたけど、土地の人間であるカルロスといっしょにいることもあって、特に何かを詰問されることもなかった。

 アルジオの街並みは、オルバティアとそう違わないというのが俺の受けた印象。近場の街であるのだからそうおかしいことでもないのだろうと自己完結する。カルロスの案内で宿に向かう途中、辺りをそれとなく観察していたが、空いている店は見当たらず、この街全体が休息に入ろうとしていることを感じさせられた。もう空もすっかり暗くなり、レンガ造りの街並みに人の姿は疎らとなっている。


「そう言えば、どうしてあんなところにいたんです?」


 道中、アンナがカルロスにそう問いかける。

 確かに俺も気になるところだ。夕暮れ時に街の外で何をしていたのだろう?


「僕はギルドに所属してるんだけど、今日はウルフの討伐依頼を受けていて、その帰りだったのさ」


 ギルド。いわゆる職業別組合か。


「俺、余所者なんでよくわかってないんですが、この街のギルドってどういうものですか?」


 ギルドという言葉が気になったので、そこについて質問してみる。

 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ってな。ちょっと使う場面が違う気がしないでもない。


「ギルドと言っても、他所に比べればそんなにしっかりした組織ってわけでもないよ。うちはうちの中で完結してるし。基本的に仕事は何でも引き受けるけど、有事の際には王国の依頼で傭兵を派遣するのも大事な仕事だね」


 カルロスは素直に俺の問いに答えてくれた。

 正直他のギルドがどういうものかわからない現状では、特段の感想も浮かんでこない。とりあえずそういうものとして捉えておく。

 カルロスが話を続ける。


「ウルフ一匹だけならどうにでもなるんだけど、同時に三匹はちょっと無理だったよ……その点、君はすごいね。あんなにあっさりウルフを蹴散らすなんて」


憧憬を含んだ声で俺を称賛してくれる。

別に構いはしないのだけど、正直なんて返せばいいのか困る。


「さて、着いたよ」


 そんなこんなで、宿に到着する。

 失礼を承知で言わせてもらえば、そこまで大きな宿というわけでもないようだ。厚かましいにも程があるし、絶対言わないけどね。

 カルロスが宿の扉を開けて中に入っていく。俺とアンナはその後に続いた。


「あらっ、お帰りなさい……そっちの人たちはお客さんだね? いらっしゃい」


 中に入ると、恰幅及び人の良さそうなおばさんが俺たちのことを出迎えてくれた。

 いわゆる女将的な存在なのだろうと当たりをつける。


「ただいま、母さん。今日この二人に助けられたから、その恩返しとしてタダでうちに泊めてあげたいんだけど」


 この人はカルロスの母か。なるほど、人の良さそうな顔は母親譲りってわけだ。

 おばさんが俺とアンナを見つめ、愉快そうに笑う。


「息子がお世話になったのなら断る理由もないさ。大したもてなしもできないだろうけど、ゆっくりしていっておくれ」


「ありがとうございます」


 俺たちは深々と頭を下げる。良かった、これでゆっくり休むことができる。しかし、この親子は本当に人が良いな。


「あんたたち恋人だろう? 取るのは一部屋でいいね?」


「……そう来たか」


「こ、こ、恋人!?」

 

 おばさんの言葉に不意を突かれ、呆気に取られる俺。あからさまに動揺するアンナ。

 若い男女が二人で宿に泊まりに来る……確かに冷静に考えれば、恋人と見られるのが普通か。むしろそうじゃなかったらおかしいという話だ。

 まあ、恋人云々はともかく、俺たちは無料で泊めてもらう身だ。借りることができるのが一部屋だけでも文句を言うつもりなど毛頭ない。


「確かにユーマは恩人で大切な人ですけど……私たちは……」


 アンナは釈明の言葉を口にしようとしているのだろうが、動揺しているせいか、やけに声が小さい。

 しょうがない、誤解を解くのは俺に任せておけ。


「俺たちは恋人じゃありませんよ?」


「えっ、そうにしか見えなかったけど違うのかい?」


 カルロスが意外そうな顔をして言う。その気持ちはわからないこともない。


「……そんなにはっきりと否定されますと……いえ、確かにその通りですけど」


 寂しそうな声に反応し、そちらを見ると、アンナが不満げな顔をしている。

 そんな顔するなって。もう俺にとっては、そんな言葉で片付けられるほどアンナの存在は小さなものじゃないんだよ。


「恋人ではありませんが……今の俺にとっては、かけがえのない人です」 


 そこに偽りは微塵もない。真摯に俺を受け入れてくれたこの娘よりも大切なものなど、少なくとも現時点においては存在しない。この世界における俺の唯一の拠り所と言ってもいい。出会ってから一日も経っていないのに、このようなことを言う俺はきっとまともではないのだろう。だが、それの何が悪い? 俺はこの娘に救われた。だからこそ、この娘のことが大切なのだ。誰に何を言われようとも、この想いが揺るぐことはないと断言できる。


「へぇ、言うもんだねぇ」


 そう言って、おばさんは意味深い笑みを浮かべる。

 一方アンナと言えば、これでもかというほど顔を真っ赤にして、硬直していた。


「お~い、アンナさん?」


 なかなか現実に戻って来てくれない彼女に呼びかける。


「ユーマはずるいです」


 ぷいっとそっぽを向かれてしまう。その頬は相変わらず真っ赤なままだ。なんとも可愛らしいものだが、女心というものはどうにも難しい。第一、アンナもけっこうずるいと俺は思うぞ。その可愛さ的に。


「二階の一番奥の部屋を使ってね。はい、これが部屋の鍵」


 俺はおばさんから鍵を受け取り、アンナと共に部屋へと向かった。


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