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『闇に踊れ』と、邪神は嗤う~歪な少年の異世界冒険譚~  作者:
第二章・グリムヴェル独立領編
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腕比べ

 俺とシモンが空いた机を挟んで向かい合うと、店内の喧騒がその大きさを増した。


「本気かよ!? こんなの、やる前から結果が見えてるじゃねえか!」


「いや、少年の方も只者ではないだろう。番狂わせがあるかもしれんぞ」


「ないない。相手が悪すぎるって」


「よぉし! 俺はサエキが勝つ方に賭け……ウプッ……オロロロロッ」


「うわっ! 吐きやがったぞこいつ!?」


「吞み過ぎだ馬鹿野郎!」


 外野がうるさい。それだけでなく、何やら凄惨なことになってる気がする。まったく、揃いも揃って良い気なもんだな。別に騒がしいのは嫌いじゃないけど。

 総じて、客たちからすれば分が悪いのは俺ということになるらしい。そりゃ体格が一回りも二回りも違うし、当たり前っちゃあ当たり前だな。まあ見てろ、番狂わせとやらを起こしてみせるからよ。

 机の上に出されたシモンの右手に自分の右手を重ねる。空いている左手は机の端の方を掴んでおく。


「自信満々のようだが、そんな細腕で俺に勝てるとでも?」


 筋肉マッチョマンめ、あんたに比べれば誰だって細腕だよ。

 俺は不敵に笑ってみせた。


「当たり前だっての。でなければ勝負なんか挑まねえだろ?」


「フッ……愚問だったな」


 楽し気な様子でシモンが笑う。

 しかし、こうして前にすると、このおっさんもなかなか迫力があるな。凄みがあるというか威圧感があるというか……それは単に身体が大きいことからくるものではない。これが歴戦の戦士が纏う風格というやつなんだろう、知らんけど。


「それじゃあ私が手を離したら開始ね。」


 ナターシャが審判を務めてくれるようで、俺たちの手の上に自分の手を置いた。すぐに場がシンと静まり返り、緊張感が漂う。身じろぎ一つせず構え、開始の合図を待つ。

さあ、いつでも来い。

 バッ、とナターシャの手が勢いよく離される。それを認識するや否や、俺は右腕に思いっきり力を込めた。


「……っ!」


「むっ……!」


 始動のタイミングは同時、そして込められた力も同じだったらしい。初期位置である中央での鬩ぎ合いとなった。

 『闇』の力を使っていないとは言え、俺の膂力はただの人間とは桁違いのものとなっている。決して手を抜いているわけでも油断しているわけでもない。だというのに、互角であることには素直に驚かされた。やはりおっさんの鍛えこまれた筋肉により成せる業だろうか。


「マジかよ、完全に互角だぜ!」


「台がミシミシいってんぞ。とんでもないな」


「いけ、サエキ! シモンの鼻っ柱をへし折ってやれ!」


 互角の戦いを見て、観客たちがまた騒ぎ立てている。見てる分には楽でいいよなホント。


「なかなかやる、期待以上だ」


「はんっ、褒めても何も出ねえぞ?」


 シモンの称賛に軽口で返す。もちろん気は一切緩めやしない。その瞬間、一気に持っていかれてしまいそうだからな。

それにしてもビクともしない。何とかしてこの膠着状態を崩さなくてはいけないが……。


「では、そろそろ本気でいくとするか」


 嫌な呟きが聞こえた刹那、望まぬ形で均衡が崩されることになる。徐々にだが、俺の方が押され始めた。冗談きついぜ……まだ本気じゃなかったってのかよ。


「たちの悪いおっさんだぜ、まったくよ……」


 思わぬ事態に憎まれ口を叩く。

 シモンの思惑がどうであれ、遊ばれていたことに変わりはない。こうなっては意地でも負けたくないが、このままではじり貧だ。かと言って、腕相撲に一発逆転は基本ないからな。はっきり言って手の打ちようがない……クソゥ、まさか『闇』を使うわけにもいかないしな。手の甲と机との距離は幾ばくもないし、これは駄目かもしれん。


「ユーマ、頑張って!」


 諦めかけたそのとき。

 観客たちの喧騒に混じって尚、アンナの応援がしっかりと耳に届いた。

 大事な人に応援してもらっておいて、負けていいわけがあるか? いや、いいわけがない。

 これで頑張れないのなら男じゃねえよなぁ!


「くっ……!」


 俺が盛り返してきたことで、シモンが呻いている。その顔には一切余裕はないようだった。勝ちを目前にしていたことで、焦りも一入だろう。

 なんとか手の位置を中央まで戻すことに成功した。今度は俺の番だ。このまま押し切ってやる!


「させはせん……!」


 だが、シモンはそれを許してはくれなかった。再び中央位置で鬩ぎ合いが始まる。

 とうにわかっちゃいたけど、このおっさん只者じゃねえなやっぱ。

 誰もが固唾を飲んで見守る中、勝負は意外な形で終わりを迎えることになった。原因は俺たちの腕を支える机も木造だったこと……バキッと乾いた音を立て、机が真っ二つに割れてしまったのだ。


「ここまでね」


 ナターシャが終わりを告げる。

 引き分けか……ちょいと悔しいな。


「ハハハハハッ!」

 

 いきなりシモンが大口を開けて笑い出した。

 えっ、何、怖いんだけど……? 正直引くわ~。


「まさかこうも拮抗するとは思ってもみなかった……サエキ、ますますお前に興味が湧いたぞ」


 突然の告白。たかが腕相撲くらいで何を大げさな……。

 それは置いといて、だ。今は何とかしなくてはならない問題がある。


「そんなことよりこれ、机どうすんだ? 弁償か弁償?」


 盛大にぶっ壊してしまったため、修復はまず無理だろう。

 シモンと半々で弁償するにしても資金的には結構な痛手になっちまうだろうなぁ……。


「俺が受け持つ。何、これでも稼いでいる方だ」


 太っ腹だぜ、ミスターシモン。マジで助かる。


「アンナが声援を送った瞬間に盛り返したわね。現金な男」


 そう言って、ナターシャがジト目を向けてくる。バレてたのか。


 ふと気づくと、大将と呼ばれていた店主が料理を持ってきてくれていた。

 何とも言えない苦笑を浮かべながらだったけど。

PVが40000を突破していたみたいです。いつもありがとうございます。

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