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絶望の宣告

 俺は一度周囲を見渡した。

 どこにもヴィンフリーデの姿は確認できないが、油断はできない。

 あのときのように、やつはいきなり現れる恐れがある。


「……あの方なら、ここにはいない」


 こちらの意図を見透かし、シュヴァルツが言う。

 その真偽の程はわからないが、警戒だけは緩めないようにしておくべくだな。


「またヴィンフリーデの指示で、俺たちに喧嘩を吹っかけにでも来たか」


「……そのような命は受けていない……そう身構えるな」


「別にこちらとしては、今ここで()りあっても一向に構わねえが」


 せっかく報復の機会が巡ってきたわけだしな。

 それに、危険の芽は早めに摘んでおくに限る。


「……それもいいだろう……雌雄を決しておくとするか」


 挑発に乗り、シュヴァルツは背負っている大剣に手を掛けた。

 やるからには負けるわけにはいかない。

 あのときのように無様な姿を晒すのは御免だ。


「ちょっとちょっと! どうなってるの!? 何で自然に闘うことになってるのよ!」


 足に力を込めて駆け出そうとしたまさにそのとき、張り詰めていた空気が台無しにされてしまう。

 俺はこれ見よがしに嘆息した。

 

「空気読めよな、ポンコツエルフ」


「誰がポンコツエルフよ!」


 俺の叩いた憎まれ口に、ナターシャは大層ご不満の様子。

 シュヴァルツは無言で大剣から手を離していた。


「どうした、()るんじゃなかったのか?」


「……興が削がれた」


 呆れたような口調でシュヴァルツが言う。

 そこに関しては、同意せざるを得ないところだ。


「何よ? 何だってのよ?」


 非難めいた視線を向けてやると、当のナターシャは怪訝気な顔をしていた。

 わざわざ説明してやるのも面倒だ。適当にあしらっておこう。


「ひとまず、お前は大人しくしてろ。話がややこしくなりかねん」


「……ふんっ」


 ナターシャは二の句を継がない。

 機嫌を損ねてしまったが、とりあえず納得はしてもらえたようだ。


「……新顔か……それも森人(エルフ)とはな」


 シュヴァルツが興味深そうに呟く。


「私たちを追ってきたんですか? 今度はいったい何のために……」


 アンナが俺の側に来て、シュヴァルツに問いかける。


「……此度の遭遇は全くの偶然……お前たちには用などない」


「そうかよ」


 微妙に気に障る物言いに、俺は眉を顰めた。

 嫌な偶然もあったものだ。今日は厄日に違いない。

 それはいいとして、気になることがある。


「お前、もしかしなくてもカーティフを通って来たか?」


「……それがどうした?」


「あそこで何かやらかして来ちゃいねえだろうな?」


 シュヴァルツを睨みつけながら尋ねる。

 やつはあのクソ魔女の従者だ。何をしでかしているかわかったものではない。

 返答次第では、問答無用で叩き潰してやる。


「……邪推するのは結構だが、我はただ通りがかっただけだ……それに、すでに滅びた村でいったい何ができると言うのだ?」


 不意の一言に息が詰まる。

 聞き間違いではない。確かに聞こえた。


「すでに滅びた、だと?」


 動揺を隠せず、絞るような声になってしまう。


「……まず間違いなく死霊使い(ネクロマンサー)の所業であろう……生き残りはいない……文字通りの全滅だ」


 シュヴァルツは淡々と告げる。

 それが真実だとするならば、すでにアンナの両親は……。

 

「そ、そんな……嘘です……」


 悲痛な呟き。

 アンナの表情には絶望の色が浮かんでいた。

 それを見て、胸が締め付けられるような苦しさを覚える。


「おい、冗談だったらやめておけよ。本気で殺すぞ」


 シュヴァルツの言葉を否定したい一心で言う。


「……信じられぬと言うなら、自らの目で確かめてくるがいい」


 話は終わりだと言わんばかりに、シュヴァルツは歩を進める。


「……さらばだ……次に会ったそのときは、再び死合うとしよう……楽しみにしているぞ、強き少年よ」


 そのまま、やつは俺たちの前から去って行った。

 引き止めはしない。もはやあいつに関わっている余裕などありはしない。


「くそっ! ふざけやがって!」


 誰にぶつけるでもなく、苛立ちを吐き出すように叫ぶ。


「嫌……そんなの嫌だ……」


 目に涙を溜めながら、静かにアンナが呟く。

 その痛ましい姿を見ていられず、とにかく今掛けるべき言葉を探した。


「とにかく、カーティフに行くぞ! 希望を捨てるにはまだ早い!」


「は、はい……」


 頷いてはくれるものの、アンナの声に力がない。

 励ましの言葉などあるはずもなく、俺はただ歯噛みするばかりだった。


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