表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/44

ドマの村の異変

 妙なエルフ、ナターシャに付きまとわれることになりながらも、歩き続けてざっと数時間。

 俺たちは、前方に村らしきものが目に見えるとこまで来ていた。

 アンナに聞いたところ、あの村の名はドマというらしい。


 まだ夕暮れは訪れていないが、今日はあの村で休息を取ることにした。

 ここまで来たら、急いで野宿をする必要もないからな。


 俺たちは村に足を踏み入れ、宿を探して歩く。

 ややあって、俺たちはその村の異常性に気付いた。


「……誰もいない?」


 そう独り言つのはナターシャ。

 彼女の言う通り、この村には人の姿が全く見えない。人のいる気配すら全くない。

 不気味な静けさが村全体を覆っている。

 ドマはそう大きくない村だったが、それにしても異常だ。


「ねぇ! 誰かいないの!?」


 ナターシャが声を張り上げる。

 しかし、それに応える者はいなかった。


「アンナ、どう思う?」


 村人の不在の理由が見当もつかなかったので、アンナに問いかけてみた。


「考えられるのは、魔物や盗賊の襲撃を受けて、村を捨てるしかなかったとか……」


「そこらへんが妥当なところね」


 ナターシャがアンナの答えに同調する。


「ちょっとお邪魔してみよう。何かわかるかもしれない」


 俺は近くの民家を指差し、そちらへ向けて歩き出す。

 二人もその後に続いてきた。


「お邪魔します」


 戸を開けて、民家の中に入る。

 やはりと言うか、一応の挨拶に返事は返ってこない。


「やっぱり誰もいないみたいですね」


 そう訝しむ声を出したのはアンナだ。


「なあ。これって、そういうことだよな?」


 生活感のある大して広くない屋内を探索するうちに、床に広がる赤を見つける。

 まさか俺の勘違いということもないだろう。これは……。 


「血痕……ひどいものね」


 俺の考えていた通りの解答が、ナターシャの口から放たれる。

 床元に夥しい血の跡が残っていた。

 もはや、この村で何か異常な事態があったのはほぼ確定だろう。

 しかし、どうにも違和感が拭えない。


「行こう」


 俺は静かに二人を促した。

 その民家を後にして、さらに捜索を続ける。些細なことも見逃さないように、注意深く。

 結果、わかったのは三つ。現在、この村には誰もいないこと。どの民家にも荒らされた形跡はないこと。血痕は村のところどころに残っていること。

 俺の中に芽生えていた違和感が明確な疑問となって現れる。


「この村で襲撃が……何かがあったことは間違いないだろう。だが、そうなるとおかしなことがある」


「死体がないこと、ですか?」


「ああ」


 アンナの言葉に、俺は頷いて肯定する。

 最初の民家で見つけたものといい、明らかに致命的な出血量と判断できる血痕がいくらか見受けられた。流された血の主は、おそらく命を落としていることだろう。だが、村に死体は一つとしてなかった。深手を負いながらも、辛うじて生き永らえており、逃げ出したと言うのも考えにくい。これだけのことをやらかす襲撃者が、それを許すとは思えなかったからだ。

 死体がない理由については、国の衛兵のような連中が片付けたという線もあるが、それなら誰かしらが駐屯していて然るべきだろう。

 それにしても、襲撃者は何の目的でこの村を襲ったのだろうか?


「ちっ、わかんねえことだらけだ」


 とりあえず考えるのは保留だ。

 襲撃者が戻ってくる可能性も否定はできない。

 少なくとも、警戒だけはしておくべきだろうな。

  

「死体がない……まさか」


 ナターシャが何やら考え込んでいる素振りを見せる。

 それが妙に気になったので、俺は問い質すことにした。


「何か心当たりがあるのか?」


「……いえ、何でもないわ」


 ナターシャは、そのまま口を閉ざしてしまう。

 これ以上追究しても意味はなさそうだ。


「どうします? この村に残るのは少し危険な気もしますけど」


 アンナが不安そうな顔で聞いてくる。


「村の人間には申し訳なくはあるが、せっかく設備自体は整っていることだ。適当に使わせてもらおう」


 例え、件の襲撃者が襲って来ようと撃退してやればいいことだ。

 それに、先を急いで野宿しているところを襲われることもあり得る。

 言ってしまえば、心配するだけ意味がないってことだ。


 俺たちは、捜索の途中で見つけた宿の元に行き、部屋を借りることにした。


 だが、ここで一つの問題が発生する。


「何で、お前も同じ部屋にいるんだよ?」


 アンナと俺が同室。ここは何の問題もない。

 そうでなくては万が一のときアンナを守れない。

 だが、このエルフについてとなれば、話は別だ。

 いっしょの部屋にいる理由もなければ、それを容認する道理もない。


「あらっ、何が不都合でも?」


 ナターシャは偉そうな態度で言い放った。

 俺は反論するべく、口を開く。


「ただでさえ狭いんだ。お前は他の部屋に行きやがれ」


 寝床に関しては、他の部屋から毛布を持って来れば何とかなるが、単純に狭い部屋に三人は窮屈に過ぎる。


「危険がある以上、私たちが離れているのは得策じゃないでしょ?」


「俺たちの身は俺だけで守れる。お前の方はお前の方で何とかしろ」


「冷たい男ね。器が小さいといった方がいいかしら?」


 そう言って、したり顔になるナターシャ。

 今のはちょっとイラッとくるな。ちょっとからかってやるか。


「俺の器が小さいと言っても、お前の胸よりはマシだろうよ」


 ナターシャの平原のごとき小さな胸を見ながら、厭味ったらしく言ってやる。


「なっ……! い、言ったわね!」


 ナターシャは顔を真っ赤にして怒りを表現する。

 どうやら、彼女はその平坦な胸にコンプレックスを持っているらしい。


「胸なんて脂肪の塊じゃない! あんなのない方が良いに決まってるわよ!」


「負け惜しみにしか聞こえんぞ?」


「ああ、もう!」


 ナターシャはやるせない表情を浮かべ、綺麗な髪をクシャクシャと掻いていた。


「ユーマ」


 アンナの底冷えするような声に、慌ててそちらを振りむく。

 そこには機嫌の悪そうなアンナの姿。


「あ、アンナさん?」


 逆らってはならない。そう感じさせられるほどの妙な迫力。

 思わず、さん付けして呼んでしまった。


「ナターシャさんを庇うわけではありませんが、そういうことは言ってはいけませんよ? 女性はそういうのを気にするんですから」


「は、はい」


 実際、あまり品のある発言ではなかったのは俺も認めるところであるので、大人しく頷いておく。

 しかし、この不機嫌っぷり。もしかして……。


「……気にしてるのか?」


「何を、ですか?」


 アンナは笑顔だったが、その迫力は並大抵のものではない。

 俺は二の句を継ぐことができなかった。


 その後、言い争った結果、ナターシャも同室に泊まることになった。

 ちなみに、決め手は俺から提案したジャンケンだった。


展開でここが気になると言う点がございましたらどんどん指摘していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ