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クレメアへの道中

PVが10000突破したみたいです。いつもありがとうございます。

 照りつけるは太陽の陽ざし。流れる汗を手の甲で拭う。


「ちょっと暑いな」


「ちょっと暑いですね」


 俺の言葉をアンナが反芻する。


 早いもので、ランドンを発ってから、もう六日目。だいぶクレメアに近づいたはずだ。

 道中、野盗に襲われることもあれば、魔物に襲われることもしばしば。

 なるほど、乗合馬車が運行を停止したというのも納得のいく治安の悪さだった。

 ほら、今も前方に野盗らしき男たちが……。


「ちっ、本当に治安の悪いこと悪いこと」


 俺はボリボリと首の後ろを掻いた。ついでに大きくため息一つ。

 集団の数は十人前後。すでに俺たちに気づいているようで、ゆっくりとこちらの方へ歩いてきている。

 ある程度の距離まで近づいてきたところで、先頭の禿げ野郎が口を開いた。


「有り金全部置いて――」


「お断りします」


 禿げ野郎の言葉を遮り、丁重にお断りする。

 左手の中指を立てて、相手を挑発することも忘れない。


「ユーマってば……」


 背後からアンナの呆れ声。

 とりあえず弁解はしておくか。


「クソみたいなやつらには、これくらいやって丁度いいんだよ」


 俺の言葉に、男たちの表情が怒りに歪んでいくのがわかる。


「有り金全部置いて行けば、命だけは助けてやろうと思っていたが」


 そう言って、禿げ野郎はナイフを取り出し、俺に向ける。

 それに続く形で、他の男たちも各々の武器を構え出した。


「あの世で後悔するんだな、クソガキ!」


 禿げ野郎を筆頭に、集団が俺めがけて殺到する。

 各個撃破は面倒だし、後ろのアンナが狙われることにもなりかねない。一網打尽にするとしよう。

 右腕に闇を集中させる。


「死ねぇ!」


 俺の目前まで来た禿げ野郎が、ナイフを振り上げる。


「お断りだっつってんだろ!」


 右手を振るい、一気に闇を解き放つ。

 怒涛の如く押し寄せるソレに、やつらは成す術もなく呑み込まれる。

 後には、意識を失い倒れ伏すやつらの姿があるのみだった。


「ふぅ……」


 脱力感を振り払うように、深呼吸。


「ユーマ、大丈夫ですか?」


 アンナが俺を心配して声を掛けてくる。

 俺は心配を掛けないように、ニカッと笑って応えた。


「ああ、何の問題もない。さっさと先を――」


「動かないで」


 凛とした声が、耳に届く。

 そちらに目を向けると、それなりの距離を置き、俺に向けて弓を構えた見目麗しい女性の姿があった。歳は二十前後くらいか。緑を基調とした軽装に身を包んでいる。すらりとした長身に、目を引くのは尖った耳。


「エルフ……嘘……」


 アンナの言葉を俺は聞き逃さなかった。

 エルフ。俺が元いた世界でも、伝説上の存在として広く知れ渡っている。

 だが、今はエルフがどうこうといった話をする気はない。


「あんたが何者かは知らねえけど、不愉快だ。さっさとその弓を降ろせ」


「さっきの禍々しい力……あなた、《魔族(ディアク)》なの?」


「はっ?」


 ディアク? いったい何のことだ?


「惚けてないで答えて!」


 エルフが声を荒げる。まったく、本当に何だってんだ?


「そもそもディアクってのが何なのかわからねえよ」


「馬鹿言わないで。そんなこと言って誤魔化そうとしても無駄よ」


 駄目だ、話が通じていない。もう何を言っても無駄な気がする。

 いっそのこと、とっちめてやろうか。


「《魔族(ディアク)》とは、魔の力を振るう亜人たちのことです」


「亜人、ねぇ」


「何よ……本当に知らなかったの?」


 アンナが俺に説明するのを見て、エルフが呆れたような声を出す。


「仮に俺がそのお仲間だったとして、何が問題なんだ? そいつらに親でも殺されたのか?」


「っ……!」


 何気なしに放った一言。

 だが、気のせいだろうか。ほんの一瞬、激しい怒りがエルフの表情に宿った気がした。


「《魔族(ディアク)》は滅ぼすべき存在。一人として生かしておくわけにはいかないのよ。例外はないわ」


 努めて静かに、彼女が答える。


「どうして……いや、そんなことはどうでもいい」


 出かけた問いを引っ込める。長々と話をしていても仕方がない。


「もう一度だけ言う。弓を降ろせ。これ以上はただでは済まさん」


 その言葉に嘘はない。フェミニストを気取るつもりはないからな。

 

「……」


 俺の処遇をどうするか決めかねているのだろう。視線を少し下に向け、何やら考えている様子だ。構えた弓は一向に降ろしてもらえていないがな。


「んっ?」


 ふと、それの存在に気づいた。


「おい、エルフ」


「種族名で呼ばないでちょうだい。私にはナターシャって名前が」


「いいから後ろを見ろ。こんなことしてる場合でもなさそうだぞ?」


「隙を作ろうとしても無駄よ」


「七面倒臭いやつ……もう勝手にしろ。俺も勝手にする」

 

 言い切ると同時に、俺はエルフめがけて全速で走り出す。


「くっ……!」


 迫る俺を迎撃すべく、エルフが番えていた矢を放つ。

 俺は頭を腕で守りつつ、思いっきり身を沈める。

 なんとか矢を回避することには成功したようだ。


魔業の崩刃(ラム・デ・ディアブラ)


 身を起こし、即行で魔剣を生成。完成したそれを手にして、エルフに迫る。


「そんな……」


 彼女の顔が絶望に染まっていく。

 俺はそのまま魔剣を構えて……。


 彼女の横を通り過ぎた。


「えっ?」


 間の抜けたエルフの声が耳に届く。


 俺の狙いは彼女の背後。豚顔に肥満体、土色肌の魔物。いわゆるオークだ。

 この旅路の途中でも遭遇した経験があったため、すぐにその正体に気づけた。

 数は三匹。どいつも棍棒を手にして、こちらに近づいてきていた。

 

 一番手前のオークへと急速に接近し、左胸の心臓があるだろう部分に魔剣を突き立て、即座に引き抜く。


「ブギャアアアッ!!」


 オークの耳障りな断末魔が響く。一匹目。


「ブゴォオオオオッ!」


 仲間を殺された怒りからか、残りのオークが雄たけびを上げた。

 持っている棍棒を乱雑に振るってくる。その風圧からも、その威力は窺い知れた。

 一撃でもまともに喰らえば、ただでは済まないだろう。

 だが……。


「おお怖い怖い」


 鈍重に過ぎるその攻撃を見切って躱すのは、そう困難なことではなかった。

 黒騎士との戦いを経ている今、この程度の攻撃を喰らうことなどまずあり得ない。

 

 俺は攻撃後の隙を狙って、オークの首元へと魔剣を薙ぐ。

 首を斬り裂かれ、悲鳴を上げることもなく、オークは倒れ伏す。二匹目。


「ブ、ブゴッ……!?」


 最後の一匹は、明らかに怯えた様子を見せていた。

 じりじりと後ずさったかと思えば、さっと踵を返し、この場から立ち去ろうとする。

 別に逃がしてもいいんだが、あえて逃がすこともない。今回は大人しく討たれてもらおう。


 魔剣の形を組み替えていく。構成するのは、槍。


堕落の影槍(ランス・デ・ロンブル)


 長槍を構え、逃げるオークの背中めがけて思いっきり投擲する。

 放たれた槍は、見事に命中し、オークの身体を貫いた。

 槍が刺さった部分から、闇が侵食していく。オークの身体は黒い灰に分解され、跡形もなく消えてしまった。三匹目。


 これで全て片付いた。


「何のつもり?」


 振り返ると、憮然とした表情でエルフが俺を見据えていた。

 

「魔物がいた。お前は接近に気づいていなかった。危険そうだから倒した。それ以上の何かがあると思うか?」


本来ならを守らねばならない必然性などないはずだが、駆け出したときに迷いは一切なかった。内に何かを抱えているらしい彼女を死なせてはいけないような気がしたから。


「……助けられた、だなんて思わないわよ」


「結構だ。恩を売る気はさらさらない」


「でも、一応……本当に一応、ありがとうと言っておくわ」


「さいですか」


 とりあえず、また矢を向けてくる気はもうないようだった。


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