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二日目の朝

 窓から差し込む日差しに顔を照らされ、俺は目を覚ます。

 ゆっくりと身を起こし、大きく欠伸一つ。


「おはようございます」


 すでにアンナは目を覚ましていたようだ。

 部屋に備え付けられていた椅子に座り、こちらへ朝の挨拶を送ってくる。 


「おはよう……しっかり休めたか?」


「はい。ユーマこそ疲れは取れましたか?」


「まあな。やっぱり睡眠ってのは大事だって再認識させられるよ」


 充分な食事と睡眠を取ることができ、俺は全快とまではいかないものの、気力体力共に充実している。これなら何の問題もなさそうだ。

 さて、これからどうするか考えなきゃな。


「今日はどう行動するのが良いと思う?」


 俺はアンナに提案を促す。

 この世界の新参者である俺に最適な案など思いつきようがないし。


「昨日のユーマとカエデの話から、ユーマは安全だと思いますが、私の方はその限りではありません。できれば、この街も早めに出てしまうのがいい……と、言いたいところですが」


 一拍置いてアンナは続ける。


「やはり長旅になる以上、先立つものは必要です」


 なるほど、つまりアンナが言わんとしていることは……。


「仕事をするなりして、金を得ておく必要がある……そういうことか」


「はい」


 確かに無一文で旅を続けるというのはあまり賢いことじゃない。今回のように偶然無料で宿と食事を手配できることなんてそうそう期待できない。これから先、アンナに不便をさせないためにも、金を手に入れておきたくはある。


「やっぱり、追手が来て見つかってしまう危険は避けるべきじゃないか?」


 先立つものが必要。それはよくわかるが、俺にとってはアンナに危険が及ぶのを避けることが最優先事項だ。あまり悠長なことはしていられないとも思う。


「う~ん……悩みますね」


 アンナが困り顔になってしまう。そう簡単に仕事を見つけて金を得られるかもわからないし、俺としてはさっさと街を出てしまうのが良いと思うんだけどな。


 二人そろって悩んでいると、部屋の戸が叩かれる。おそらくはカルロスだろう。

 

「俺が出る」


 アンナに一言言って、俺はそちらに近づき、戸を開ける。予想通りの人物がお盆を持ってそこにいた。お盆の上には朝食が乗せられていた。朝食は部屋で食べろってことか。他の宿泊客との関係でそうしているのだろうと適当に予想する。

 俺はカルロスに朝の挨拶をする。


「おはようございます」


「おはよう。朝食を持ってきたから食べてくれ。すぐにもう一つ持ってくるよ」


 カルロスはお盆を俺に渡し、去って行く。何とも至れり尽くせりだな。

 俺は渡されたお盆をアンナに差し出す。


「ほらっ、先に食べてな。俺は後でいいから」


 どうせ俺にとっては楽しくもない食事だ。ただの栄養補給でしかないんだからな。

 アンナはお盆を受け取って、小さな机の上に置く。

 しかし、なかなか食べ始める気配がない。


「食べないのか?」


「ユーマといっしょに食べます」


 アンナは、きっぱりと言い放つ。

 俺を気にする必要なんてないんだけどなぁ。本当に良い娘だ。


 そう間を置かずにカルロスが俺の分のお盆を持ってきたので、俺はそれを受け取り、アンナと向かい合うように小さな椅子に腰掛ける。


「いただきます」


 朝食はパンにサラダ、スープにヨーグルト。実に健康的なメニューだ。もちろん味はしない。量もそう多くはなかったので、俺たちはさっさと食事を済ます。

 お盆を返すために、俺たちは一階に降りていき、カルロスとおばさんの元に行く。


「ごちそうさまでした」


 俺とアンナは軽く頭を下げる。やっぱり礼儀ってのは大事だよな。


「お粗末さま。君たちはこれからどうするの?」


 そう言ったのはカルロス。


「あまり長居するのもご迷惑になりますし、すぐにここを発とうと思います」


 だらだらとここで過ごしていても仕方ないし、無料で泊めてもらっている身だしな。


「あんたたち、お金を持ってないんだろう? 大丈夫なのかい?」


 カルロスから聞いたのであろう。おばさんが俺たちを心配してくれる。

 この人たちになら、多少事情を話しても支障はなさそうだ。 


「それなんですよ。早めにこの街を出なくてはいけないんですけど、金がないのも困りますし。どうするか悩んでいたところです」


 少し冗談めかして言う。早めにこの街を出なくてはならない事情なんて概して良いものではないだろう。怪しまれずに済むといいが。


「ふ~ん、何やらワケありのようだね……詮索はしないでおくよ」


 おばさんの言葉に俺は内心ホッとする。本当に良い人だ。


「あのさ、そういうことならうってつけの話があるんだ」


「ほ、本当ですか?」


 アンナがカルロスの言葉に反応する。

 話を聞いてみるまでは何とも言えないが、本当に俺たちのニーズを満たしてくれるならありがたいことだ。


「僕は今日からモルダさんって商人の護衛をすることになってたんだけど、代わりにやってみないかい? 行き先がランドンだから数日は拘束されることになるけど、報酬はかなり良いよ」


「腕も確からしいし、うちの息子よりはモルダの役に立つだろうね」


「それはそうかもしれないけど、言わなくてもいいことでしょ……」


 おばさんの言葉にカルロスは肩をすくめていた。


「アンナ、どう思う?」


 俺はアンナに意見を求める。俺からすればこれ以上なく良い話だが、ランドンという場所がどこにあるのかもわからないし、安易に飛びつくわけにはいかない。


「カーティフへ行くには、遠回りになりますが……ご厚意に甘えるべきかと」


 アンナがそう言うなら、変に悩む必要もないな。


「お願いします。その依頼、受けさせてください」


 深々と頭を下げてカルロスにお願いする。


「少しでも命を救われた恩を返せるなら僕としても本望だよ。モルダさんとは、一時間後にギルドで待ち合わせることになってるから遅れないように。受付の人に言って、引き合わせてもらってね」


 頭を上げると、カルロスはニコリと気の良い笑みを浮かべていた。 

 打算でこの人に近づいた俺が言うのは少し憚られるが、この人たちと出会えてよかった。


 そうだ、大事なことを確認するのを忘れていた。 


「いきなり俺たちが依頼を引き継ぎましたって言っても信じてくれますかね?」


 下手をすれば依頼を取り下げられることもあるかもしれない。そうなっては本末転倒だ。


「ああ、それは大丈夫。ちょっと待ってて」


 カルロスはいったんその場を去り、すぐに戻ってくる。

 その手には羊皮紙が握られていた。カルロスからそれを受け取る。


「モルダさんに会ったら、僕が君たちに依頼を任せた旨を伝えて、これを見せるように。万が一のとき、依頼を任せるに足りる人物であることを条件に、代理人を立てることの了承は得てある。今回はそういうことにしてしまおう」


 うっかりばれてしまったらカルロスの信用に関わりそうだが、俺たちを思ってのことだ。何も言わないでおく。


「本当にお世話になりました」


 カルロスたち親子に見送られ、俺とアンナは宿を後にした。




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