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邪神は嗤う

今更ですが、主人公の苗字を近衛から佐伯に変えました。


 そこには、わずかな光も存在しない。

 深すぎるほどに深い無辺の闇。

 さっきまで学校の教室にいたはずなんだけど、突然現れた魔法陣にクラスメイトたちといっしょに吸い込まれて、気づいたらこんなところにいた。

 いったい全体何がどうなってるというのだろうか。


「ようこそ、我が世界へ。佐伯悠真(さえきゆうま)……私は君を歓迎する」


 頭の中に男とも女ともつかない声が直接響く。驚きながらも、声の主に質問する。


「誰だ? 後、ここどこだ?」


 まずはこれを聞かなくては始まらない。声の主が答える。


「私は……そうだな、人の言葉を借りれば邪神となるのだろう。ここは先ほど言ったように私の世界。それ以上でもそれ以下でもない」


 邪神って……さすがに冗談だろ?

 何一つ今の状況を理解できてない以上、絶対に嘘って言えるわけでもないけど、素直に受け入れるにはあまりに馬鹿馬鹿しい話だ。

 邪神(仮)にさらに質問してみる。


「どうして俺はここにいるんだ?」


「お前たちを異世界の王族共が召喚しようとしてな。本来なら、お前らの世界から召喚される者はいったん女神の下に送られることになるが……そこに干渉して、お前だけはこちら側に来てもらったのだよ。欲を言えば、全員引き込んでやりたかったがね」


 なるほど、よくわからん。

 異世界だの召喚だの女神だの、ポンポン非日常的な言葉が飛び出してくる。

 もしかして、これは全部夢なんじゃないか? 魔法陣とかも普通に考えて有り得ないしな。うん、きっとそうなのだろう。

 そう思い、頬をつねってみる。普通に痛かった。


「そっちの事情には興味がない。できればさっさと帰してほしいんだけど」


「却下だ。お前は異世界に行く。これは決定事項なのだよ」


 俺の要求は、にべもなく断られる。

 そりゃそうだよな。わざわざ俺を掻っ攫ってきたわけだし、簡単に帰してくれるはずもないか。

 そうなると、次なる疑問が湧いてくる。


「どうしてわざわざ俺をここに呼んだ? 異世界に送るだけなら女神の下を経由しようと同じ結果になるんだろう?」


「フフフッ……理由はある」


 不遜な笑い声を漏らす邪神(仮)。

 理由って何だろう? 全く思い当たるところがないぞ。もしかして、俺が特別な存在とか……ないな、こちとら一般的高校生の枠内に収まる器だ。しょうもない考えは捨てよう。


「女神の下に送られた者は女神に祝福され、常人ならざる力を得ることになる……無条件で。そして、大抵の者はその力を以って、大した苦労もせずに大業を成し遂げることになる」


 いったいこの話と俺を召喚した理由がどうつながると言うんだろう?

 邪神(仮)の話は続く。


「私が見たいのはそういうものではない。もっと刺激的な物語が見たいのだよ。だから私がお前に力を与えてやる。それもとびっきりのものを」


「はっ?」


 話の流れから考えて、俺に力を与えるというのはおかしくないか? そんなことをすれば、結局こいつの忌避する物語と同じような筋書きになりかねないだろうに。


「大きな力には大きな代償が伴って然るべき。ああ、そうであればよいのだ。足掻きに足掻いて、苦しみ抜いて、私を満足させるだけの物語を見せてくれ。期待しているぞ」


「マジで意味が分からん。いったいどういう……!?」


 不意に、俺の身体に異変が起こる。

 とてつもなく不快な何かが俺の中に侵入してくる。


「お、おい、何が……ぐっ!?」


 内側から身体を喰われていくかのような強烈な痛み。

 何だこれ……何をされた!?


「油断すれば、存在ごと喰い尽されるぞ? そんなつまらん終わり方だけはしてくれるなよ……まあ、そうならないようにある程度の人選はしたつもりだ」


 邪神が何か言っている。

 くそっ……ふざけやがって……何だってんだよ!?


「がっ……あっ、ぐああああああっ!!」


 俺の中に侵入してきたソレは俺の自我すら蝕ばんでいく。かろうじて意識を繋ぎ止めてはいるが、油断すればあっという間に堕ちてしまうだろう。


「その力がお前に馴染むまでほんの一ヶ月といったところだ。破格の代償だとは思わんかね?」


 飄々とした声が頭に響く。うっとおしくて仕方がない。頼むから黙っていろ。お前なんかに構っている余裕はないんだよ!


 次いで、全身が沸騰しているかと思わされるような熱に苛まれる。

 常軌を逸した高熱に、ただただ俺はもがき苦しむのみ。もはや声を発することさえできやしない。

 やがて、気づく。自身の身体が作り変えられているということに。

 頭から爪先に至るまで余すところなく、俺の全身が崩壊しかけては再生を繰り返しているのだ。

 その事実に気が触れかける。当然、襲い来る痛みも尋常なものではない。

 全身を駆ける激痛と高熱に身体を、押し寄せる絶望に心を焼かれながら、俺は狂気と理性の狭間を漂い続けた。



 崩壊と再生のサイクルを気が遠くなるほどの回数繰り返して、もうどれくらいの時が経ったのかはわからない。数週間は過ぎたのか、それとも数日も経っていないのか。

 身体を襲う激痛は一時も止むことなく、俺を蝕み続ける。

 時には、いっそのこと意識を委ねてしまおうかとも考えてしまう。

 だけど、そんな考えが浮かぶたびにそれを振り切り、俺は最後の一線で意識を留め続ける。


 ああ、そうだ。こんな理不尽に屈してたまるか。

 こんなところで終わってたまるかよ。

 俺は俺だけのものだ。わけのわからない何かに委ねてたまるものか……!

 とにかく、耐えて耐えて耐え抜いてやるんだ。 


 永劫とも思える苦しみの果て、ある変化に気づく。

 痛みが和らいでいる。劇的な変化と言うわけではないが、それでもだいぶ楽になった。

 それから時間が経つにつれ、さらに痛みは和らいでいく。

 そして、ついに俺を蝕む痛みが完全に消え去った。


「ほう……思ったより早かったな。大したものだ」


 邪神の声も久々に聞いたようなような気がする。

 とりあえず言うことは一つだ。


「出て来い、クソ野郎。ぶっ殺してやる」


 俺をこんな目に遭わせたクソ野郎を叩きのめしてやらないと気が済まない。いや、殺したって溜飲が下がりきることはないだろう。


「くくっ……威勢の良いことだ。私を殺したいか?」


「ああ、数万回は殺してやりたいね」


「はははははは!!」


 邪神の高笑いが響く。

 ああ、実に不愉快だ。さっさと出て来いぶっ殺してやる。


「ならば私を満足させるだけの物語を見せてくれ。その果てに私を殺す機会を得ることもあるやもしれぬ」


「御託はいいから、出て来いって言ってんだよ!」


 そんなまどろっこしいことしていられるか。さっさとお前を殺させてくれ。


「我が勇者よ。今ぞ旅立ちの時だ」


 邪神のその言葉を最後に、俺は闇から違う場所へと飛ばされることになった。


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