第5話 『強化種』との遭遇
プロローグに追いつきます。
アド・スミス 14歳
ランクF
力724 物理防御582 敏捷987 技術899 魔力300 魔法防御300
適性 敏捷、技術
職業 探検家
魔法 なし
スキル 『悪運』 効果:何かと悪いことが起きる。
『幸運』 効果:何かと良いことが起きる。
『剣術』 効果:剣を上手く扱うことが出来る。
『武器強化〈剣〉』 効果:装備している剣の切れ味上昇。
更新された冒険者カードを確認する。かなり能力値も高くなったけど、最近は適性のある敏捷や技術でさえあまり能力値が上がらなくなってきた。ステータスが高くなればそれに反して、伸び率は悪くなっていく。そろそろランクアップの時期かもしれない。
「本日は、普段よりも早くダンジョンの探索を終えられたんですね。この後何か予定があるんですか?」
受付嬢モードのソフィーさんが質問してくる。彼女の言う通り、今日の俺はいつもより早く探索を終えた。
「はい、そうなんです。今日はこの後、新しい剣を買いに行くつもりで」
剣の予約を入れた日から、10日が経った。無駄遣いを控え、毎日頑張って魔物を刈ったため想定よりも早くお金を貯めることが出来た。『幸運』のおかげでドロップ率が高いのが救いだ。
冒険者組合の扉を開け外に出る。いつもとは違い、まだお日様が沈んでおらず、人通りの多い大道を鮮やかに照らしていた。
うんっと伸びをし、ダッと駆けだす。目指すはアルバの装備品店だ。ついに新しい剣が買えると思えば、自然と胸が躍る。
しかし今日で、これまでの冒険を助けてくれていたこの剣ともお別れだ。村の皆のお金で購入したということもあって思い入れがある。そう考えると少し寂しいが、いずれこの剣では倒せないモンスターとも戦っていかなければならない。
今まで、ありがとう。
心機一転、全力疾走。しかし、他の人の邪魔になっているのですぐに走るのを止めた。焦らなくても、剣は逃げない。ゆっくりと歩いて行こう。気持ちを落ち着けると、周囲の喧騒が耳を包む。
スフィアの町は、今日も賑やかだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おじさん、剣を取りに来ました!」
装備品店の中に入り、開口一番にそう言った。突然のことに少し驚いた表情を浮かべる店主さんだったけど、俺の顔を見て「ああ、あんたか」と呟く。どうやら覚えていてくれたらしい。
「一応名前の確認をしておく、名前は?」
「アド・スミスです」
答えながらてくてくとカウンターまで歩を進める。
「よし、少し待っていてくれ」
そう言うと、おじさんは店の奥へ引っ込む。わくわくしながら待っていると、鞘に収まった剣を持ってくる。
「これだ、確かめてくれ」
おじさんから剣を受け取り、鞘から引き抜く。刀身が天井に備えられたライトに照らされ、きらっと光る。ちゃきっと構えてみた。
うん、間違いない。この剣であっている。でも……
「この剣で大丈夫です。ですが、この前の時よりも剣に何というか……つやがあるような」
そうだ。前回よりも刃の鋭さが増している気がする。特に俺に損はない、というか得だらけだけど気になったので聞いてみる。もしかしたら俺の勘違いかもしれないし。
「お、良く気付いたな。実はあの後、この店の品を作ってる鍛冶師に頼んでな、研ぎなおして貰ったのさ。そいつは長え間、埃をかぶってた上、手入れもしてなかったし切れ味が落ちてることは間違いなかったんでな」
「ありがとうございます!」
ばっと頭を下げてお礼を述べる。おじさんといいおばさんといい、俺はスフィアに来てから誰かに恵んでもらってばかりだ。
「装備品店としてなまくらを売るわけにもいかねえからな。当然のことをしたまでよ」
おじさんはにかっと、見ていて気持ちいい笑顔を浮かべる。出会った時に抱いていた、怖そうだという思いは俺の中から消え去っていた。
厚意に感謝をし、剣を鞘に納め、代金を払う。そして元々装備していた剣を外し、新たな武器を腰に差した。
「その剣はどうするんだい。なんならうちが廃棄処分しといてやってもいいが」
おじさんが俺の元相棒を指差し、そう尋ねてくる。この剣は村の皆の思いが込められているので、捨てるつもりはない。宿屋に戻り自分の借りている部屋に置いておこうかと思っている。
「いえ、持って帰ります」
「そうか」
最後にもう一度お礼を述べ、店を出る。これからも、この店で装備を買おうと思った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「はああああ」
3匹のモンスターたちを一纏めに斬る。剣の切れ味は素晴らしく、『武器強化』のスキルも相まって、すぱっと簡単にモンスターを真っ二つにしてしまった。
この剣に変えるまでは出来なかった芸当だ。
昨日装備品店に行った俺は、早速ダンジョンに潜った。今はこの剣の試し斬りをしているところだ。
場所は3階層。出現してくるゴブリンやキックラビットは1階層に比べると格段に強いが、俺は既に4階層までは進んだことがある。この10日間でかなりの実力をつけたのだ。
ドロップアイテムの回収に移る。落ちているのはゴブリンの耳が1つだけ。残念ながら3匹中、1匹しかドロップアイテムを落とさなかったようだ。この確率は普通なのだけど、『幸運』を持っている俺にとっては物足りなく感じる。
今日は5階層に挑戦してみようかと考えている。5階層を探索できるほどの実力はあったのだけれど、これまでは武器が貧弱だったため、何かあった時に対応出来ないと止めていたのだ。無茶をして死んでは元も子もない。
しかし今日は話が別だ。今の俺の腰に装備されているのは、今の俺の実力では釣り合っていないかもしれないほどの剣。これまでの階層の敵なら、ばっさばっさと斬り倒せる。少し、無敵になったような心地がした。
そうして、浮かれていたことがいけなかったんだろうか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「来るなあああああああ」
ダンジョン内に響く絶叫。足だけは自信がある俺をもってしても、追いかけてくる怪物との距離が開くことはない。
十字路を右に曲がった瞬間、突如姿を現す1匹のコボルド。
――相手にしている暇なんてない!
コボルドが攻撃してくる前に、急いで脇をすり抜ける。「グルッ!?」と驚いていたが今は無視だ。
化け物が俺を追いかけ、十字路を曲がったことを気配で知覚する。次の瞬間だった。
「グルアアアアアアアアア」
咆哮が耳を横殴りにした。恐怖が全身へ行き渡り、足に込める力を更に大きくする。限界まで速度を出し、ひたすらに前進する。
バキバキっと骨を粉砕する音が聞こえた。おそらくコボルドがそれに喰い殺されたのだろう。振り返り見る余裕すらない。手を振り、脚を動かし、全速力で疾走する。
だがしかし。
今まで目にした中で最大級の大きさを誇るそのモンスターからは、決して逃げることが出来ない。いくつもの曲がり角を駆使して逃げ続けるも、撒ける気配が一向にない。自分がどう進んできたのかも分からないまま、必死の逃走劇を繰り広げる。
何度目かの分かれ道を過ぎると視界の先に下へと進む階段が姿を現した。他に逃げ道はない。下へ進めば進むほど、敵の強さは上がっていく。だが躊躇している暇はなかった。
「だあぁぁっ」
思いっ切り踏み込み、飛び込んだ。何段もの段差を飛ばし、地面に着陸する。足の裏から頭の頂上まで衝撃が突き抜け、体中に痺れが広がる。だが立ち止まってはいられない。
3方向に延びる通路の中から左の通路を選択し、突き進む。どちらへ逃げても変わらない。どうせもう道なんて分かりやしないんだ。
どしんと音がする。化け物が着地した音だ。思わず後ろを振り向いてしまう。化け物はきょろきょろと見回し俺の姿を捕らえる。再度咆え、そのままノーモーションで駆け出した。
前へ向き直り、一本の矢のように疾駆する。
現在の階層は6階層。俺は5階層でそれと遭遇した。もう一度言う。浮かれていたことがいけなかったんだろうか。
――『強化種』なんてふざけるな。
俺が出会ったそれは。
いくつものモンスターを喰らい進化し、体積を増大させ色を普通の個体よりも黒く染めあげた、生まれて初めて目にする
ワー・ウルフの『強化種』だった。
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