第3話 新しいスキルと職業と
かなり説明回。
「ソフィーさーん」
「あれ、アドさん。今日は随分とはや……い……どうしたんですか!」
アド君が帰ってきた。受付嬢として接しようと彼の方を向くが、思わず素の声が出てしまう。
「全身血だらけですよ!?」
そう、彼は上から下まで血で赤黒く染まっていたのだ。元気そうなので、本人が重傷を負ったという訳ではなさそうだが、これだけ血にまみれているというのはそう無い話だ。特に小型のモンスターばかりと戦う駆け出しは、かかる返り血の量も少ない。
「そうなんですよっ。魔物の群れに襲われて、群れのど真ん中に突っ込んで戦って……」
勢いよく喋りだした。興奮しているようで、早口で捲し立ててくる。声が大きい。
「す、少し落ち着いてください。もう少し声を落として、ゆっくり話してくれませんか?」
手を胸の前に掲げ、宥めるように動かし落ち着かせる。
彼は目をぱちくりとさせ、少しして「あっ」と声を上げる。周りをきょろきょろと見渡し、恥ずかしそうに俯いた。建物内にいる他の人達から、変な目で見られていることに気が付いたようだ。顔を赤くし、身を縮こまらせている。
「……とりあえずここを、移動しましょう」
今の彼の姿は目立つ。このままここにいては話し辛いだろう。他人の目に晒されないよう、冒険者組合の中にある一対一の相談室に行き、そこで話を聞くことにする。
……その前にシャワーか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「そっか、災難だったね」
アド君の話を聞き、少し同情して言葉をかける。ここでは周りの目を気にする必要はないので、プライベートで接する時と同じように、敬語は使っていない。
今、私と彼は机を挟み、向かい合って椅子に座っていた。
ここが冒険者と受付嬢が二人で話をする為に組合内に用意された部屋、相談室だ。椅子と机、机の上に置かれたランプ、壁に備え付けられた、緊急時に鳴り響くベル以外何もない。部屋は正方形の形をしていた。
「でも、トラップに気を付けなかった君の自業自得だよ?」
しかし話を聞く限り、彼の不注意が招いたことだ。今回の件は彼に非がある。「次からは気を付けるように」と、戒めるように彼に言った。
「はい……」
その辺は彼も理解していたようで、しょんぼりと項垂れている。まるで悪戯がばれて叱られた犬のようだ。普段はつやつやとしているその水色の髪も、今は彼の気分を表すようにぐでんとなっていた。
一応彼の担当なので忠告はしておいたけど、ミスは誰にでもあることだ。彼も十分反省しているようだし、あまり言い過ぎないようにする。トラップには注意しろと、既に冒険者になった時に散々言われている筈だ。
「でも、すごいね。そんなに大勢のモンスターを倒しちゃうなんて」
次は彼を褒めることにした。厳しいことを言った後に、甘い言葉で慰める。いわゆるアメとムチという奴だ。
これで彼の好感度上昇を狙う……!
しかし、そういう打算的なことは抜きにしてもその話が本当なら純粋に凄いことだと思う。冒険者になって一週間の駆け出しが、100を超える魔物を全滅させたというのは俄かに信じることは出来ない。
「そ、そうですか?」
「うん、そうだよ」
「えへへ……」
質問に肯定すると、その幼い顔を嬉しそうに綻ばせた。その愛らしさに、にやけそうになるのをぐっと堪える。彼の前では、私はしっかりしたお姉さんなのだ。
彼の担当をしている私は、彼の冒険者カードを更新しそこに記されたステータスを記録する義務がある。当然私自身も彼のステータスを把握しており、今朝見た内容もうろ覚えではあるが記憶に残っている。それほどの窮地を凌げるほど高いステータスでもなかったし、強力なスキルも魔法も持ち合わせていない。
唯一、彼を救った可能性があるのはレアスキルの『幸運』だろうか。『幸運』が発動し、偶然魔物達のとった行動が全て裏目に出た、というのは考えられない話ではない。幸運を所持する者たちの噂は耳にしている。
曰く、一度迷えば脱出不可能と言われる森で遭難したが1日と経たず脱出することが出来た。
曰く、ドラゴンに襲われ絶体絶命のピンチに陥るも、世界に3人といないS級冒険者が駆けつけてきて命を救われた。
曰く、金が欲しいと呟いた瞬間に空から金が降ってきた。
現実に起こっても不思議でない物から、眉唾物の話まで色々な種類の噂を知っている。それらを考慮すると、もしかしたらそれだけの魔物を倒せるほどの奇跡が、彼の知らないところで起きていたのかもしれない。
しかし話の限りでは、激戦の行方はどちらかというと『悪運』に左右されている気がする。少なくとも、2つ目のトラップの位置は運が悪かったとしか言いようがない。よく生きて帰って来てくれた。
「今日はもうダンジョンの探索はしないの?」
時刻はまだ、お昼を過ぎた所だ。彼はいつも夜ご飯の時間までせっせとモンスターを倒しているので、この時間なら再びダンジョンに潜ると言い出してもおかしくはない。
「流石に今日はもう止めておきます」
「そうね、その方がいいわ。ゆっくり休んで明日に備えなさい?」
毎日長時間戦い続けている彼の体が心配だったので、一安心する。偶には休みも必要だ。
「はい!」
元気な彼の返事を聞き、椅子から立ち上がる。ダンジョン内での話は全て聞き終えた。これ以上ゆっくりと話している時間はない。私が空けた受付に、休憩中だった他の受付嬢が、代わりに入ってくれているのだ。なるべく早く戻らなければならない。
私に続き、彼も立ち上がる。彼の装備は、彼がシャワーに入っている間に水魔法が込められた洗剤で洗っておいたのでピカピカである。ついさっきまで血に染まっていたとは思えないほどだ。ついでに洗浄代金は一回につき100ペリーだ。洗剤が私個人の私物ならお金はとらないのだが、組合のものなので仕方がない。
「じゃあこれから、今日の君の活動記録をつけるけどその前に――」
ドアノブを捻り、ドアを開ける。振り向き、彼の顔を見てこう尋ねた。
「カードの更新、しておく?」
「お願いします!」
目をきらきらさせ、彼はそう答えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アド・スミス 14歳
ランクF
力433 物理防御279 敏捷703 技術672 魔力150 魔法防御150
適性 敏捷、技術
職業 なし
魔法 なし
スキル 『悪運』 効果:何かと悪いことが起きる。
『幸運』 効果:何かと良いことが起きる。
『剣術』 効果:剣を上手く扱うことが出来る。
NEW『武器強化〈剣〉』 効果:装備している剣の切れ味上昇。
更新された冒険者カードに記された内容に驚く。ステータスの伸びがこれまでよりも格段に良い。
ダンジョンに潜る以前に組合の職員から、ダンジョンのモンスターを倒した際はフィールドにいる同種のモンスターを倒した時よりも貰える経験値が多い、と説明された。原因は二つある。
ダンジョンを徘徊するモンスターたちは、フィールドのモンスターたちよりも強力であることが原因の一つ。もう一つの原因は、得られる経験値の割合がフィールドのモンスターの方が低いこと。フィールド上のモンスターから溢れる経験値は殆ど空中で霧散してしまうからだそうだ。
しかしここまでの急激なステータスの上昇は稀だ。ダンジョンでモンスターと遭遇する確率はそう高くない。前にも言ったが、ダンジョン自体が広すぎるのだ。いくら単体当たりの経験値が増えたとはいえ、モンスターと戦う機会が少なければステータスはあまり上がらない。
今回は一度に大量のモンスターを撃破したからこんなにも成長したのだろう。ソフィーさんも目を丸くしていた。
だが今回のカード更新で一番注目するべき箇所はそこじゃない。そう、それは冒険者になって初めての、
「新スキルだあああああ」
スキルの発現だった。
ノーマルスキル『武器強化』。一言に『武器強化』と言っても様々なものがあり、それぞれが得物とする武器によってその効果は異なる。俺の場合ならば、『武器強化〈剣〉』といったように、剣を装備している時のみ効果を発揮し、効果は切れ味の上昇。
他にも、『武器強化〈槌〉』や『武器強化〈拳〉』など武器の種類だけスキルの種類がある。
取得条件は魔物達を一定数以上、同じ武器で狩り続けること。比較的入手しやすい為、冒険者になった者たちは、まず初めにこのスキルを覚えることが多い。冒険者の入門スキルといっても過言ではないほどだ。
俺は新スキルを手に入れた。ダンジョンから帰ってきた時のようにはしゃいでしまう。それをソフィーさんや他の受付嬢が微笑ましく眺めてきた。
「スキル『武器強化』の取得、おめでとうございます」
「はい、ありがとうざいます!」
ソフィーさんの祝いの言葉に礼を告げた。喜びが頂点に達する。
もしかしたら今日の魔物達との激戦は、このスキルが助けてくれていたのかもしれない。今思えば、俺の剣に、複数の魔物をまとめて斬り飛ばせるほどの切れ味はないはずだ。普段よりもずばずばと斬り易かった気がする。あの時は興奮していて疑問に思いもしなかったが、きっとそういうことだったのだろう。
そして『武器強化』を獲得したということは、だ。
「それで、あの! これで俺も『職業』に就けるんですか!?」
「はい、そうですよ」
俺も遂に職業を手にすることが出来るようになったということだ。念願の就職である。
……就職とは少し違うか。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『職業』。冒険者が誰とパーティを組むか決める時、欠かせない要素の一つにこの『職業』が関わってくる。『職業』はその人の戦い方を表しているからだ。
職業にはいくつもの種類があり、有名なのは『剣士』や『魔法使い』、『神官』などだろう。職業に就けばその職業に見合ったステータスが伸びるようになり、逆に必要のないステータスはあまり成長しなくなってしまう。
例を挙げると、『剣士』なら、力、敏捷、技術の3つにプラスの成長補正がかかるが、魔力と魔法防御の2つにはマイナス補正がかかってしまう。また、プラス補正がかかる項目の中でも1つだけ特に優れて伸びるものがあり、『剣士』でいえば、技術が最も伸びるようになる。
職業は大きく2つに分かれていて、先ほど挙げた『剣士』、『魔法使い』、『神官』などは下級職。『魔法剣士』、『賢者』、『聖者』といった、絶大な強さを誇る職業は上級職と称される。上級職に就くには、下級職を極め、更なる進化を遂げねばならない。殆どの冒険者は下級職であるため上級職の者はそれだけで尊敬されるのだ。
肝心の下級職の就き方に移ろう。下級職に就くにはそれぞれの決められた条件をクリアしなければならない。
まず、武器を用いて戦う職業、『剣士』や『盗賊』などになるにはその職業に就いてから使用する武器の『武器強化』を手に入れなければならない。『剣士』なら『武器強化〈剣〉』、盗賊なら『武器強化〈短刀〉』といった具合にだ。
それ以外の職業、『魔法使い』や『神官』などは話が変わって来る。『魔法使い』になるには最低一つ魔法を覚えることが条件で、代わりに一切の『武器強化』を習得する必要はない。『神官』を目指すなら、神に献身し、祈りを捧げ、神聖魔法を賜ることが求められる。
その他にも、『騎士』のように『武器強化〈剣〉』と『武器強化〈盾〉』の両方を取得せねばなれないものや、『召喚士』のように特殊なスキル、『召喚』を身につけなければいけないものなど様々な条件が存在する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アドさんが就くことが出来る職業は、『剣士』、『戦士』、『探検家』の3つです」
俺がなれる職業をソフィーさんが教えてくれた。『武器強化〈剣〉』の取得と共に解放された職業はそれだけらしい。だが、俺のなりたい職業はその選択肢の中にあった。
「いかがなさいますか? 一度職業を選べば、上級職になるまで変更は一切出来ませんのでよくお考えください。もちろん、自分の好みの職業に就けるようになるまで保留しておくというのも構いません」
彼女の声には、慎重に選ぶのよ、という彼女の思いが込められていた。この先の俺の未来を大きく決めることになるのだ。何も考えずに選ぶのだけは止めなさいとそう忠告されている気がする。
心配してくれているのだろう。当然なのかもしれない。ここが、アド・スミスという一人の人間の、人生の分かれ道なのだから。
「俺がなりたい職業は……」
決意していた。冒険者になる前からずっとだ。この職業になると決めてから、他の職業に心を揺さぶられたことさえも、ただの一度もない。馬鹿だと笑うかもしれないが、決め手となったのはその職名だ。何て夢の詰まった名前なんだろうと、そう思った。
ごくりとソフィーさんが息を呑む音が聞こえる。どうやら緊張してくれているらしい。それほどに俺に親身になってくれているのが嬉しかった。深呼吸し、意を決して口を開く。
「俺がなりたい職業は、『探検家』です!!」
「探検家ぁ!?」
ソフィーさんの驚いた声が、建物内に響き渡った。
「一体どういうつもり!?」
ソフィーさんがカウンターから身を乗り出して尋ねてきた。
近い近い近い近い。
受付に立っている間は、受付嬢として俺に接するのに、今はその仮面が剥がれて素が出てしまっている。その様子と表情からは彼女が仰天していることが見て取れた。
「そ、ソフィーさん、落ち着いてください。他の人達も皆、こっちを見てますよ?」
慌てて落ち着くよう促す。
「そうね、分かった」
彼女は返事すると、胸に手をあて、すーはーすーはーと息を吸っては吐く。
「落ち着いたわ。で、どうして『探検家』にしたの!?」
またもや前のめりに聞いてきた。いや、全く落ち着けていない。敬語も消えてるし、どう考えても今の彼女は冷静じゃない。
「えっと…………、名前に惹かれて」
「たったそれだけの理由で!?」
普通はそういう反応をするよなあと思う。
確かにテキトーな返しに聞こえるかもしれないけど、本心なんだ。
「本当に一旦、落ち着きましょう! いつものソフィーさんらしくないですよ!?」
「普段の私なんてどうでもいい。私が担当した冒険者の死ぬリスクを高めるようなこと、簡単には見過ごせないの!」
本気で怒っている。だがこれは俺の身を案じてくれてのことだ。
俺の選んだ職業、『探検家』。数ある職業の中でも最弱といわれているものである。取得条件は、他の職業のうち、どれか一つでも取得条件を満たすこと。簡単に言うと、他の職業に就けるようになれば『探検家』にもなれるというこだ。つまりこの『探検家』という職業は、誰が職業を選ぶ時でも必ず候補に入ることになる。
その時点で最弱の風格を漂わせている。
『探検家』は唯一、ステータスにかかる補正はない。『探検家』になった後も、なる前と同じように成長していくのだ。
『剣士』や『武闘家』、『盗賊』などの職業は、各々の長所を伸ばす代わりに魔法が使えなくなる。逆に『魔法使い』や『神官』などの職業は、魔法を極めることが出来るようになる代わりにそれ以外のことがてんで駄目になってしまう。基本的に『職業』の恩恵は一点に特化しているのだ。
しかし『探検家』は違った。剣もそこそこ扱えるし、武術だってその気になれば戦闘に使えるレベルまで身に着けられる。魔法も少しなら使えるのだ。だが決して、一つのものを極めることは出来ない。
とどのつまりは器用貧乏なのだ。剣技なら『剣士』、武術なら『武闘家』、魔法なら『魔法使い』、回復なら『神官』。足りない部分はパーティを作って補えばいい。『探検家』なんてどのパーティでも役立たず。はっきり言って、存在する価値がない。
そもそもだ。探検家に出来ることは、無職の者たちにも出来る。ステータスの伸びも変わらないのならば、わざわざ『探検家』になる必要もない。それが、人々が下した評価だった。一応何かしらの職業に就いておけば上級職への道が開く可能性があるので、『探検家』になることに全く意味がないわけではない。
まあ、何にも極められない『探検家』が、上級職に至れるはずもないのだが。
「落ち着けソフィー。君が取り乱しても仕方がない」
騒ぐソフィーさんに困っていると、一人の女性がソフィーさんに肩に手を置き、そう宥める。凄く綺麗な金髪をしている人だ。
「ティファ……」
どうやら彼女はティファさんというらしい。彼女は冒険者組合の受付嬢であるため、存在だけは知っていたが、名前までは知らなかった。
「そうね、あなたの言う通りだわ……」
何とティファさんが一声かけただけで、あれだけ激高していたソフィーさんが忽ち大人しくなった。俺が宥めようとしても無理だったにも関わらずだ。
「ごめんなさい、アドさん。恥ずかしい姿をお見せしました」
ソフィーさんは頭を下げ、謝罪をしてきた。
「すまない、アド君。彼女も悪気があった訳ではないのだ。寧ろどちらかと言えば君のことを思ってあのような……」
「だ、大丈夫です! 彼女が俺のことを心配してくれてるのは分かってるので!」
ティファさんの言葉を遮り、大きな声を出す。彼女が俺を思ってくれているのは他でもない、俺が一番分かっているつもりだ。
「む、それなら良いのだが」
「アドさん……」
ティファさんが頷く傍で、ソフィーさんが顔を上げ感激したようにこちらを見つめてきた。そんな目で見られると惚れてしまいそうになる。
さて、ソフィーさんが落ちついた所で、改めて自分が『探検家』を選んだ理由について話し出すことにする。ソフィーさんは俺の担当なのだから、いずれは話さなければいけないことだ。理由といっても大したことはないのだけれど、しっかりと話しておかねば彼女の気も静まらないだろう。
再び相談室に入室し、話を再開する。ソフィーさんは受付の代理をしてもらう同僚に、「何度もごめんね」と謝っていた。その人に迷惑をかけてしまっているのは、俺にも原因があるので少し申し訳なく思う。受付に戻ったら俺も謝罪しておこう。
「じゃあ、本当に名前だけで決めちゃったの?」
「はい。馬鹿なことだとは分かっているんですが、その、どうしても探検とか冒険とか、そういう言葉を耳にすると心が躍っちゃうんです」
昔から、英雄譚や冒険物語に憧れていたことが原因だと断言できる。だからこそ冒険者になったし、『探検家』になりたいとも思った。
「……どうしようもないわね」
「うっ」
ソフィーさんの言葉が胸に刺さる。本当にどうしようもない。他人から言われると、一段と心にきてしまう。
「でも、『探検家』になりたいんでしょ?」
「そうです……」
最後に確認するように彼女は質問してきた。気まずくて顔を見ることが出来ないので、俯いたまま返事をする。
「なら、しょうがないわね」
「良いんですか!?」
苦笑いを浮かべ認めてくれる彼女に思わず聞き返してしまう。
「もともと私が口出しして良いことでもないんだから、良いも悪いもないわ。君の人生なんだから、君が決めることだよ」
その後に続けて、「だからこそさっきはごめんね」と付け加えるように言った。
ソフィーさんの許可も得た。これで俺も『探検家』になることが出来る。嬉しさに身を震わせていると、「でも」と人差し指を立て、ソフィーさんが最後にこう言った。
「1つだけ、覚悟しておいて欲しいことがあるの。『探検家』になれば、他の人とパーティを組むのがとても難しくなる。この先、君の冒険はどんどん苛酷になっていくけど、君はもしかしたらずっと単独で、活動していかなきゃならないかもしれない。それだけは肝に銘じておいて」
『探検家』になると決めた時から、ずっと単独でやっていくことを覚悟していた。だがしかし、今日の魔物達との戦いで少し怖くなったのも確かだ。俺がパーティを組んでいれば、あの状況も、もう少し楽に切り抜けられたのではとも思う。
それでも、それでも俺は『探検家』の道を進むことを曲げはしなかった。その支えになったのは、亡き父のあの言葉だ。
――――いいか、アド。この世界にはでっけぇ夢が詰まってる。まだ誰も体験したことのない、英雄達でさえも経験したことのない、夢だ。そしてそれは、必ず未知の中に存在する。未知は怖い。知らないということは足を竦ませ、前に進もうという意思を削り取る。だがな、そこで一歩踏み出す勇気のある奴だけが、きっとその夢に辿り着けるんだ。
アド、未知を恐れるな。恐れるべきなのは、未知を恐れるお前自身だ。何も知らない世界に飛び出して、命を懸けて『冒険』しろ。誰も知らないその場所を、お前の刃で切り開け。白紙の地図に、その足跡を刻み付けろ。
お前は俺とは比べもんにならねえぐらい、でっけえ男になってくれ――――
ソフィーさんの忠告に、「はい!」と威勢よく返事する。それを見て安心した彼女は目を細め微笑んでくれた。
「じゃあ、恵職部屋に行こっか」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者組合を出て少し南に行ったところにある、恵職部屋。その名の通り、神に職業を恵んでもらう部屋だ。
職業はそれぞれの職業を司る神々から授かる。『探検家』ならば冒険を司る神、『冒険神』から与えられるらしい。『魔法剣士』のように、剣を司る神『剣神』と魔法を司る神『魔神』の、2柱の神に加護を与えられることでなれる職業もあるようだ。
恵職部屋は白の壁、白の床、白の天井に白の柱と、とにかく白かった。所々に金の装飾が施されており天井の中央には大きな穴が開いている。そこから差す光がこの部屋を神々しく見せる演出に一役買っていた。
光の中心に立つ。目を閉じ祈りを捧げる。するとどこからか、重々しく、聞いただけで平伏したくなるような、そんな声が聞こえてきた。
――汝の欲す、未来は何ぞ。汝の歩む、道はいずこ。
これは遠回しにどの職業に就きたいのか聞いているのだろうか。そうと信じ、その声に答える。
「俺は『探検家』になりたいです。見たこともない世界を『冒険』し、『探検』する。それが俺の望みです」
――良かろう。汝の願い、確かに受け取った。
瞬間、俺の体が青い光に包まれる。それと同時、本能で察した。今自分は、『探検家』にジョブチェンジしている。体に劇的な変化は見られないが、それでも何故か理解することが出来た。
――汝はこの時を以って、『探検家』として生きることなる。如何なる困難にも立ち向かえる強き心を持ち、険しき旅を乗り越え……
と、そこで別の声が横から乱入した。
――やっと、我の加護を授かろうとする骨のある奴が現れおったか! おい小僧、我の地位向上の為にその世界で大物になれ。最近、周りの神々が我のことを見下してきて鬱陶しくて敵わん。やれ、「お前の信者は弱い」だの、やれ「お前の職業は人気がない」だの、見返してやりたいが今の所事実なので何も言い返せんのだ!! 頼む小僧、我の神界での扱いの酷さを改善して……、お、おい、何をする! やめろおおおお
ぶつりとそこで声が途絶える。もう何も聞こえない。部屋の中は静かだった。
「な、何だったんだ今の?」
何が起きたのか全く分からない。途中まで頭の中に響いていた声は神様っぽくて威厳もあったが、後半割り込んできた声の主は謎だ。偉そうにしていたから、彼も神様なのだろうか。
「終わった?」
少し離れた位置で見ていたソフィーさんがこちらに歩み寄ってくる。冒険者がジョブチェンジする時は、その人の担当をしている受付嬢と一緒でなければならないという決まりがある。神聖な部屋で、粗相をしないか監視するのが目的だと言っていた。
「あ、終わりました」
「不思議な感じだったでしょ」
確かに不思議だった。特に最後。
「は、はい」
ジョブチェンジの時はいつもああなのだろうか。説明では神様の声がするとしか聞いていなかったので分からない。
「じゃ、もっかい組合に戻って、カードを更新し直そっか」
ソフィーさんの提案に乗り、組合を目指して一緒に恵職部屋を出た。
……後でソフィーさんに聞いてみよう。
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