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アドの冒険  作者: ほまりん
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プロローグ

 プロローグです。少し物語の最初よりも後の話をしています。プロローグの部分に追いつくのは第5話から。

(もう駄目かもしれない)

 少年は心の中でそう思う。

 突如発生した異常事態イレギュラー。現れたのは味方殺しにより強化され変色したワー・ウルフ。ダンジョン内の通路の交差点で偶々出くわしたのである。

 駆け出しの少年が強化種に勝てるはずもない。踵を返し全力逃走。モンスターが、目の前に現れた獲物を逃すことなど万が一にもあり得ないことで、強化されたワー・ウルフも当然それを追いかける。『敏捷』に適性があり足の速い少年は本気で逃げれば追いつかれることはなかった。

 迷路になっており、いくつもの曲がり角が存在するこの階の特徴を利用し、くねくねと走ることでワー・ウルフに差を縮めさせないようにする。



 不運だったのは、そのモンスターと遭遇したタイミングだ。その日のダンジョン探索を終え、帰路に着き、地上への出口に向かっていた時にばったり出会ってしまったのだ。反転し逃げたので、逃走すればするほど出口から遠ざかっていくことになる。まだダンジョンの構造を詳しく把握出来ていない俺は闇雲に逃げ回ることしか出来なかった。気づけば下層へと進む階段に追い詰められ、仕方なく階段を下り地下へ潜っていく。

 それを繰り返すこと2度、未だ自分の到達したことのなかった7階層まで来てしまった。4~6階層までとは違い、この階層からはがらりと生息するモンスターが変わる。まだ冒険者になって日も浅くステータスも低い。はっきり言ってこの階層で生き延びるのはほぼ不可能に近いのではないだろうか。更に不運なことにワー・ウルフの強化種が階段前を陣取ってしまったため帰り道が塞がれてしまった。正に絶体絶命という奴だ。

「この糞スキル……!」

 自身のステータスが記された冒険者カードを一見し、悪態を吐く。つくづく自分の生まれ持ったスキルを呪う。スキル名を見ただけで分かってしまうバッドスキル――スキル所持者にとってマイナスの影響をもたらすスキルのこと――『悪運』。冒険者カードに記された説明内容はこうだ。


 スキル『悪運』 取得条件:なし 効果:何かと悪いことが起きる


 アバウトすぎるその説明は、絶賛大ピンチの自分をかなり苛立たせる。

 冒険者カードを持たず、自分がどんなスキルを所持しているか知らなかったあの時、両親が魔物に殺された時には気づかなかったが、きっと彼らが死んでしまったのもこのスキルが原因だ。

 もう一つ自分に備わっていたレアスキル『幸運』は何をしているのか。冒険者組合の受付嬢曰く、『悪運』と『幸運』そのどちらかを持っている人は数人見たことがあるが、その両方を保持している人を見たのは初めてらしい。その為どのように作用するか分からないといっていたが、少なくとも今の状況に陥ってしまったのは『悪運』が必要もないのにがんばりやがったせいだと確信が持てる。

「ま、いつまでもスキルを恨んでいても仕方がないか……」

 そう思い、顔を上げる。自分が死んだ理由をスキルに押し付けるのもダサい。自分も死んでしまって、一家全員がたった一つのスキルに殺された、みたいになるのも許せない。

 組合は駆け出しの冒険者が帰還しなかったとしても、救援を寄こすことはないだろう。そんなことをしてもらえるのは中級以上の冒険者のみだ。駆け出しの死亡率は非常に高く数も多いため一人一人のために、一々人員を割いていられない。この危機を脱するには自分の力で何とかするしかない。

「よし、行こう」

 昨日購入した、切れ味がそこそこ高く心強い剣を強く握りしめ、腰を上げる。震える膝を叩き広間――ダンジョン内は基本的にいくつもの通路と広間で構成されている――から出る。このままここにいても手強いモンスターに何度も襲われ力尽き、果ててしまうだけだ。まだワー・ウルフと闘い、勝利しこの階層から脱出する方が生き残れる可能性は高い。

 覚悟を決める。誰が聞いても無謀としか言わないであろう賭けに出る。



 一介の冒険者ならばここで諦めてしまうだろうが少年はそうではなかった。どんな時でもどんな危機でも決して諦めない、それが少年であった。

 弱気にもなる、恐怖もする、泣くこともあれば挫折することもある。それでも最後には立ち上がり前を向く。



 父親譲りの諦めの悪さは自分にとっての最大の武器だ。諦めたらそこで何もかも終わってしまう。そんなことで僅かでもある希望の芽を摘み取ってしまいたくはない。

 何より自分が憧れた英雄達はこのような危機を幾度となく乗り越え光を掴んで見せた。自分も英雄達のように輝きたいのなら、英雄達に近づく為に冒険者になったのならば、


「ここで冒険しなくて、どうする?」


 少年は嗤う。この先にいる、死闘を繰り広げるであろうモンスターを見据え一歩踏み出す。

 その目には確かに希望の光が宿っていた。先ほどまでの怯えた様は嘘であったかのように鳴りを潜めている。堂々とした態度を崩さずワー・ウルフの前まで歩を進める。ワー・ウルフはとっくにこちらの気配を感知していたようで鋭い眼でこちらを睨んでいた。薄闇の中、その眼光はぎらぎらと輝いている。

 少年は顔に笑みを貼り付け、剣の切っ先を強敵へと向ける。

 互いが戦闘態勢に入り、構える。辺りを包むのは静寂だ。聞こえてくる音はワー・ウルフの荒い息遣いのみ。少年は一つ、深呼吸をする。

 そして、

「うおあああああああああああああああああ」

「グルルルルルルルルルルルルァァァァァァ」

 両者ともに床を蹴りつけ接近する。戦いの幕は開かれた。ここからは命を懸けた本気と本気のぶつかりあいだ。彼らの目に映るのは、眼前の敵と勝利し雄叫びを上げる未来の自身の姿のみだ


 少年、アド・スミスの冒険が始まった。

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