第14話 ハイエスタでの冒険①
大学生活が始まり、しばらく安定した更新ペースを保てません。すみませんがお許しください。
目の前の光景に、ガル共々驚く。ぽかんと口を開け、突っ立っていた。
「くたばれ雑魚共おおおお」
ギスターさんが声を上げる。獰猛な色をその目に宿し、群がるモンスター達に次々と襲い掛かっていた。口角がぐいと吊り上がっている。
彼が一度接敵するたびに、敵の体は木端微塵になっていた。彼は火魔法のエンチャントを拳と足に纏っており、彼の攻撃が当たった箇所は爆砕される。
楽しそうに嗤いながら虐殺をする彼の姿は怖かった。
蹂躙が終わり、辺りにモンスターの姿はなくなる。十数体いたモンスター達は気が付いたら消えていた。
それだけのモンスターにいきなり囲まれてしまったのは言うまでもなく『悪運』のせいだろう。このD級冒険区域とされているハイエスタに到着して、僅か数分でこの群れと遭遇した。
そのことには流石のA級冒険者達も驚いていた。この規模の集団に出くわす可能性はかなり低いにも関わらず、最初の戦闘がこれなのだ。ヘインさんは、これなら『悪運』への期待が高まるねと嬉しそうにしていたけど。
「終わりだ。次はお前の番だぞ」
狩りを終えたギスターさんが、ポケットに手をつっこみこちらに歩いてくる。視線の先にはリリーさんがいた。
「分かってるわよ」
杖を持つ小柄な少女は、偉そうにする獅子の男に不愛想に答える。道中で分かったことなのだが、この二人は仲がいい。二人の間には目に見えぬ絆のようなものがあり、二人が会話をする時は、他の人に対する口調とは異なる、どこか親しみを感じさせる口調に変わっている。
本人達に「仲がいいんですね」と言ったら口を揃えて否定してきたが。
しばらく行くとまたもやモンスターの群れに到着した。規模は先程と変わらない。どうやら今日の『悪運』は絶好調らしかった。これならば、ネチャリスパイダーにも簡単に会えるかもしれない。
ざっとリリーさんが一歩、前に進み出た。
群れを見据えたリリーさんは杖を構え、魔力を練り始める。一瞬にして、彼女の魔力が膨れ上がった。
ぞくりと背筋が凍る。
あまりにも強大なその魔力に、いつの間にか俺の全身を冷や汗が伝っていた。しかし、魔法の準備をする彼女から目を離すことが出来ない。
魔法を行使しようとしている彼女目がけて、モンスター達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。モンスターの中には、魔法でやり返そうとしているものも見られた。
だが彼らが彼女に傷を負わせることはあり得ない。普通の魔法使い達よりも何倍も早く魔法を完成させ、彼女は特大の魔法を放った。
「メガフレイム」
敵群に向かって、放たれる巨大な業火。その大きさは敵の全てを包み込むほどだった。炎に呑まれたモンスターが、触れた所から蒸発されていく。
モンスター達は、一匹残らず消え失せた。
「こんなもんかしらね。どう? ギスターのよりは迫力あったでしょ」
リリーさんがドヤっとした表情で俺に尋ねてくる。
彼女の言う通り迫力はあった。だが、肉弾戦よりも魔法戦の方が見栄えが良いのは当然のことだと思う。
しかしそんなことは口が裂けても言えないし、かといって彼女に肯定すればギスターさんに何をされるか分からない。
結果、お茶を濁すように曖昧に微笑むことしか出来なかった。その反応に彼女は物足りなさそうに顔を歪める。
「じゃあ次はサミリアの番ね」
「ああ」
金髪のエルフの女性が、リリーさんの言葉に頷いた。
その後サミリアさん、ヘインさんの順でそれぞれの技を見せてくれる。ここに来る前に、俺がハイエスタでの探索を不安に思わないよう、安心させるために自分達の力を披露すると、ヘインさんに説明されていた。
それで彼らは順番ずつ技を披露していたのだ。
特にサミリアさんの魔法は凄かった。あれが噂に聞いていた、エルフにしか使えないという精霊魔法。
フェニックスとか飛び出してきた時は目ん玉が飛び出してしまった。
それに比べるとヘインさんは地味だったが、彼が実力をまだ隠しているのは知っている。彼が実力を発揮しようとすると、一度に大量の魔力を使ってしまうらしく、いざという時に備えておくと言っていた。
他の3人の力を見ただけで十分なので特に反対はしない。
「次は君の番だね」
ヘインさんが経験値の光を吸収しながらそう言った。
「次?」
もう4人全員がパフォーマンスを終えたので次は無いはずだけど。彼は誰に向かって言っているのだろうか。首を傾げ、頭上に疑問符を浮かべる。
と、そこで彼の瞳が俺を見つめていることに気がついた。
……。
「えっ、俺ですか!?」
一拍遅れて反応する。いやいやいや、今の俺がハイエスタのモンスターを倒せるはずがない。にも関わらずヘインさんは笑みを浮かべて「そうだよ」と告げてくる。
「あ、ガルくんも一緒でいいよ」
「がるっ!?」
付け足すように言った彼の言葉に、ガルも驚きの声を上げた。
「冗談ですよね?」
何となく彼が冗談を言っている訳ではないと分かっていたが、どうしても確認してしまう。
「心配しないで。アドくんとガルくんにはサミリアがエンチャントをするから。それで十分戦える筈さ」
今ばかりは彼の笑みが怖かった。すごく彼は楽しそうだがその宣告は無慈悲だ。
「は、はは……」
俺の口からは、ただ乾いた笑い声がこぼれるばかりだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
剣を振りかぶるスケルトンの攻撃を躱し、回し蹴りをお見舞いする。スケルトンのような骨で出来ているモンスターは、斬撃よりも打撃の方が効果が高い。スケルトンは剣を手放し、勢いよく吹き飛ばされる。
「左に注意ねー」
リリーさんの気の抜けた声が届く。彼女の言葉に従い左方に視線をやると、少し離れた位置から魔法の準備をしているインプの姿がそこにはあった。紫色の小柄な悪魔が少しずつ魔力を高めていくのを、黙って見ている訳にはいかない。
脇目も振らずに小悪魔めがけて走り出す。行く手を遮ろうとしてきたスケルトンには、相棒のガルが全速力で突撃し、噛みつき攻撃を見舞った。
インプが魔法を発動させる寸前で、その胴体を剣で薙ぎ払った。真っ二つになったインプの体が、ぼとぼとと地面に落ちる。彼が光となって消える瞬間を見ている暇がなかった。
「上を見ろ」
ギスターさんの命令に、上空を見る。そこには獲物を狙う目をした、カラスの姿があった。カラスの名前はブラックカーカー。鋭い目と嘴、真っ黒な体が特徴的だ。
間一髪の所で、地面に体を伏せ、回避する。すぐさま起き上がり、ブラックカーカーは後回しに、別の角度から近づいてきたスケルトンを、思いっ切り蹴飛ばす。そのスケルトンはどうやらさっき回し蹴りを食らった個体らしく、二度目の蹴りに耐えきれず消えていった。
「ガルっ」
ブラックカーカーの対処を任せようとガルに声をかけるも、返事がない。どうしたのかとガルの方へ振り向くとそこには。
そこにはスケルトンの骨をおいしそうに噛み噛みしているガルがいた。
そんな攻撃でもスケルトンはダメージを受けているらしくカタカタと歯を鳴らしている。
遊んでな「おいしい」いでさっさと「おいしい」スケルトンをかたづけ「おいしい!」……うるさいっ!
ガルは完全に骨の味を堪能する犬に成り下がっている。これは後で説教コース行きだ。
そうこうしている内にブラックカーカーは反転し、再び高速で迫って来る。視界の端には、もう一羽の黒いカラスが映った。
先ほど攻撃を避けられた方のブラックカーカーは経験を活かし、低空飛行だ。対するもう一羽は、一度俺の真上に飛び上がり、そこから急降下してきた。
「くっ」
彼らの攻撃に当たらないよう、右の方へダッと横っ飛びし、すぐさま俺の元いた場所に目を向けた。
すると低空飛行していたカラスの頭に、急降下していたカラスの嘴が刺さる瞬間を目撃してしまう。
……何とも言えない。
「カァッ!?」
味方が自分のせいで消えてしまった事実に呆然と動きを止めるブラックカーカー。偶然出来たチャンスだが、それを逃す前にさっと黒鳥に近寄り止めを刺す。その時丁度、ガルに美味しく味わわれていたスケルトンが光となって消えた。
一連の戦闘が終わり、一息つく。纏っていた緊張をすっと解いた。すると、それまでの戦闘を見ていたリリーさんが突然大声で笑い始めた。
「あはははははは、最後の、ブラ……クカー、カーの間抜けな、ははは! スケ、ルトンなん……か、おいしそ……うに食べら、れ、て、はははははは……ごっ、ごほっごほっ」
笑い過ぎてむせている。この人は本当に20を過ぎているのだろうか。涙目になりながら笑っている彼女を見ると、その身長も相まってただの子供にしか見えない。
他の3人は見慣れた光景だというように意に介してない。一人笑い転げている彼女を無視して、彼らに話しかけに行く。
「すごいですね、サミリアさんのエンチャント! ヘインさんの言った通り、俺もガルも、ランクが上の相手と互角に渡り合えました!!」
「おおんっ」
後で怒られることを知らないガルは興奮気味に尻尾を振っていた。へっ、へっ、と息を荒くしている。
「君達ぐらいのランクなら、サミリアのエンチャントもかなり効果を発揮すると思ってね。これがAランクとかになったらまた話は変わって来るんだけど……と、すまない。何も自慢している訳じゃないんだ」
ヘインさんが最期に、発言に他意は無いと謝罪を付け加える。
「はい、大丈夫です。分かってますから」
こうして会話している間もまだリリーさんは笑っている。流石に鬱陶しいと思ったのかギスターさんが地面に転がる彼女を蹴った。容赦がない。
「あいだぁっ、……何すんのよ!」
蹴られた腰を右手でさすりながら、きっと鋭い目をするリリーさん。
「お前の笑い声は耳障りなんだよ」
「あんたの下品な笑い声よりはましよっ」
「黙れ、まな板女」
「なっ……」
また二人の言い争いが始まった。ハイエスタに来るまでにも何度かあったので既に慣れている。ある程度ヒートアップした所でサミリアさんが強制的に止めさせるのがいつものパターンだ。
今回も例に漏れず、彼らの頭にげんこつが落ちた。基本的にチョップかげんこつが粛清の方法のようだ。
殴られた所を抑えながらこちらへと歩いてくるギスターさんとリリーさん、そんな二人に呆れるように溜息をつきながらも凛とした佇まいを崩さず後に続くサミリアさん。ヘインさんはそれを微笑みながら眺めている。
その光景には確かに、パーティとしての絆が感じられた。
感想・評価、よろしくお願いします。




