第13話 初、パーティ結成
今回も短めです。
扉の前は邪魔だからと、組合内の酒場の席を取り、そこで詳細を話し合うことになった。俺はジュースを、4人はお酒と少量のおつまみを注文する。ガルには肉料理を一品注文してあげた。遠慮したのだが、ジュースとガルの分は奢ってもらうことになった。
注文を終え、改めて対面する冒険者達を見る。先程までのおちゃらけた雰囲気は嘘の様に静まっていた。リリーさんをからかい楽しんでいたギスターさんも、言い争いが始まる前までと同じように、獰猛な気配を纏い直している。
身を縮めてちょこんと座っていると、ヘインさんが口を開き、そこから会話が始まった。
「さて、単刀直入に言うよ。僕達が君を勧誘したのは、君の持つスキルに用があるからだ」
黒髪黒目の彼は、出来る限り俺から恐怖を取り除こうと笑顔で接してくれる。それがすごくありがたかった。
「俺の、スキル?」
「うん、そう」
周りの客たちから、A級冒険者と一緒にいるあの少年はなんだという目を向けられる。それに集中力を削がれながらも思案し、思い当たるスキルの名を述べた。
「もしかして『幸運』ですか」
「そうだね、半分正解。でもそれだけではなくて、もう一つある」
もう一つあるのか。俺の持っているスキルの中からA級冒険者に役立ちそうなものを探すも見つからない。わざわざ俺に頼るということは純粋な戦闘力を欲している訳でもなさそうだ。『調教』のスキルが目当てならもっと高ランクの調教師を頼ればいいし、となると残るは必然的に……。
「……『悪運』?」
「当たりだ、坊主」
俺の出した答えをギスターさんが肯定する。でも、どうして悪運なのだろうか。
「では、何故その2つのスキルが必要なのか説明しよう」
そしてヘインさんから、理由が語られ始める。
「へい、おまち!」
その時ちょうど、注文していたお酒とジュースが届いた。
「まず僕達は今、一つの武器を作成する為に必要な材料を集めて回ってる途中でね」
かなり高位の冒険者になると、店で売られてる武具だけでは満足出来ない場合に、特注で製作してもらうケースが増えてくるらしい。その時は、材料は自分達で集めにいかなければならないそうだ。
「殆どは集め終わって、残るは一つだけなんだけど、それが中々面倒だ」
話の筋が見えてきた。その材料を集めるために俺のスキルがいるのだろう。
「入手場所は、僕達にとっては全く危険のないD級冒険区域だが、手に入るかは完全に運に左右されてしまう。というのも……」
「今回の目的が、そこに出現するレアモンスターのレアドロップアイテムなのさ」
「レアモンスターのレアドロップアイテム……」
彼の言葉を繰り返す。
レアモンスターとはその名の通り希少性の高いモンスターのことで、出現地域に向かったとして会えるかどうかは完全に運次第だ。モンスターにもよるが、1日中探し回っても遭遇確率は平均5%程度らしい。
レアドロップアイテムとは通常のドロップアイテムとは違い、時々手に入るドロップアイテムのことだ。例えばスライムなら、ドロップアイテムはスライムゼリーで、レアドロップアイテムはスライムの核、という風に出来ている。こちらはレアモンスターの遭遇率ほど低くはなく、大体通常ドロップの2割程度がレアドロップになる。しかし通常ドロップ率自体が3割程度なので、実際のレアドロップ確率は6%ほどだ。
そしてレアモンスターのレアドロップということは。
かなりの低確率だ。A級冒険者ともなればその健脚と気配察知能力を活かし、遭遇確率をぐんと上げることはできるだろうが、それでもどれだけかかるか分からない。そこで俺のスキルに頼ろうということだろう。
「レアモンスターの名前はネチャリスパイダー。D級冒険区域ハイエスタに出現する、唯一のCランクモンスターだ。そのモンスターとの遭遇率を上げるため、今回は君のスキル『悪運』に頼りたい。そしてレアドロップアイテムのために『幸運』が必要になってくるという訳さ」
「レアモンスターと会いたいなら『幸運』に期待するのが普通なんじゃ……」
「Eランクに過ぎない君が、D級冒険区域でCランクのレアモンスターに出会ってしまう。これはかなりの『悪運』だと僕は思うのだが、どうだろう」
なるほど、俺からしてみれば滅多に遭遇しない強大な敵に襲われることになる。
『忠臣』のような例外を除き、スキル所持者の周囲の状況はスキルに影響されない。つまり、今回は強力な味方がいるためCランクのモンスターに襲われた所で実害は皆無に等しいが、その味方の存在はスキルに影響せず、『悪運』が発動してしまえば、俺だけに脅威となるネチャリスパイダーが、襲い掛かって来る可能性は高い訳だ。スキルとはそこまで万能なものではないので、スキルの効果が及ぶのは基本的にスキル所持者だけなのである。
「そう、ですね。確かにそうかもしれません」
納得する。彼らが俺をパーティに誘うのも理解が出来た。丁度説明が終わると同時に届いた、おつまみとガルの肉料理を気にせず、ヘインさんは話しかけてくる。
「さて、説明を終えて、だ。改めて、僕達のパーティに一時的に加入してくれないか。君にとっても、たくさんの経験が得れるだろうから悪い話ではないと思うのだが……」
彼らに何かしらの悪意がないことは分かった。それで十分だ。生涯に2度とあるか分からないA級冒険者からのパーティの勧誘を断る理由なんてあるはずがない。未だ下級冒険者の俺がスフィアの中でもトップクラスの冒険者達と冒険することが出来るのだ。
確かに、自分が彼らの思いに応えられるのかと不安に思う所はある。しかしそれでも、それに勝る興奮が俺の中で湧き上がってきた。『悪運』に感謝したのはこれが初めてだ。お前も偶には役に立つじゃないかと内心で褒める。
出された肉料理を食べるのをやめ、口周りを汚してこちらを見つめてくるガルを見つめ返す。
――お前も、行きたいよな!
――もちろんだよ!
ガルの目はきらきらと輝いていた。きっと俺の目も同じぐらい輝いているに違いない。やはり俺とガルは似たもの同士だ。恐れ多いとか危険だとか、そういうことを考える前に、目の前に『冒険』が転がっているのを見過ごすことが出来ない。
結論は出た、いや、結論なんて最初から出ていた。
こんなチャンスを、逃してたまるか。
「もちろんです。むしろ、俺達の方からお願いします。あなたたちと共に『冒険』させてください!」
「おんっ!」
俺の表情は、きっと喜色満面といった感じだろう。かなり食い気味な俺とガルにヘインさんは少し驚いたような顔を浮かべる。しかしすぐに、爽やかな笑顔に戻り、手を差し出すとこういった。
「喜んで。少しの間だけど、素晴らしい『冒険』を共に繰り広げよう」
差し出された右手に、俺の右手を持って行き、握手を交わした。ぐっと握られた手に、彼の生気が伝わってくる。A級冒険者、ヘイン・ウィスパータのとてつもない力を本能で感じ取る。
俺は今から、こんな人物とパーティを組むのか。そう考えると、更なる興奮が込み上げてくる。今にも爆発してしまいそうになる激情がふつふつと煮えたぎっていた。
「なんだ、てめえも」
そんな俺を見て、ギスター・スベルグリアは不敵に笑う。
「『冒険者』なんじゃねぇか」
先日、ブックマークが2桁いきました。初めての感想も頂けて凄く嬉しいです。
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