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アドの冒険  作者: ほまりん
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第12話 A級冒険者

 今回の話は今までで一番短いです。

 燃えるような赤髪の男が俺を見下ろす。睨みつけるような視線に体を強張らせてしまった。この男性は俺がぶつかってしまった人で、名前をギスター・スベルグリアという。

 遠目からでも分かる、特徴的な髪色と醸し出す獰猛な雰囲気は周囲の人間を常に威圧し続けている。すぐにでも噛みついてきそうな野獣のような彼につけられたあだ名は『炎獣』。そんな彼の放つオーラを、一身に受けている俺は、恐怖で身がすくみ、腰が抜けて、なかなか立つことが出来ない。

 傍から見たらこの光景はヘビに睨まれたカエル、いや、獅子に睨まれたウサギといった所だろうか。何故なら、ギスター・スベルグリアという人間は、まぎれもなく獅子の獣人なのだから。


 その時、彼の目線がちらりと俺の傍に落ちている冒険者カードへと向いた。


 冒険者カードに記載されている内容は、基本的に本人の許可なく見ることが出来ない。冒険者カードにはステータスが記載されており、法律上ステータスは本人の財産とみなされているため、財産を覗き見することはいけないのである。

 無理にでも見ようものなら、犯罪とみなされ相応の罰を受けることになる。例外的に、不慮の事故でたまたま内容を見てしまった時、または、ダンジョンや冒険区域で冒険者カードだけが落ちていた時などは裁かれることはない。

 では故意でカードを盗み見た人間が、不慮の事故だと言い張ればどうなるのか。その場合は、今は亡き天才魔道具士によって作成された、嘘かどうかを判別出来る魔道具を用いて罰を与えるか判断することになる。


 この時ばかりは、流石の彼もまずいと一瞬で目を逸らした。今回は完全に事故なので見てしまっても罪に問われることはないが、良識の問題だろう。彼は野蛮な雰囲気こそ出しているものの決して悪人ではない。それが理解できていても、なかなか怖くて俺は、その場を動くことが出来なかった。何せ彼らはAランク、ガルと出会った時とはプレッシャーがまるで違う。


 と、そこで思わぬ出来事が起きる。

「こらっ!」

 後ろに控えていた、魔法使いの少女が彼の頭を杖で叩いたのだ。

「ぃってーな。何すんだクソチビ!」

「クソチビ言うなっ。あんたがそこの男の子をいつまでも怖がらせてるから殴ったのよ」

「ああ!? それなら言葉で伝えりゃいいじゃねぇか!」

「あんたみたいな馬鹿に通じる言語は肉体言語しかないと思ってね」

 いきなり始まった口論に驚く。

「っせーなっ。そうやってすぐに手を出すから未だに男と関係を持てねぇんだよ!!」

「なっ、それは関係ないじゃないっ。大体そういうあんたはどうな……」

「俺はお前とは違って既に何十人と経験済みなんだよ」

 しかもその内容が俗っぽい。

「ふ、ふん。大体、そんなこと自慢にもならないわ。男なら一人の女を愛しぬくと誓いなさいよ!!」

「一人の男も見つけられない可愛そうな子が、どの口で、言ってるんですかぁ?」

「くっ……」

 ギャーギャーと激しい言い争いが始まる。魔法使いの茶髪の少女、リリー・マッキュポンの顔は悔しさと怒りが入り混じったようなそんな表情をしていた。それに対して、ギスター・スベルグリアは余裕の態度で彼女をからかい楽しんでいる。


 どこか、威厳を感じたA級冒険者へのイメージにひびが入った。


 途端に始まった大物達の論争に唖然となり、ぽかんと口を開けていると、一人の男性が進み出てきて、冒険者カードを拾い、俺に手渡してくれた。そして愛想のある優しい笑顔で話しかけてくる。

「すまない、怖がらせてしまった。でもそこまで怯えなくても大丈夫、ギスターは見かけほど悪い奴じゃないから」

「あ、はい」

 手が差し伸べられる。その手を取るとぐっと引き上げられて、立つことが出来た。その間にも、後ろでは2人がギャースカと大声で言い争っている。だが、その争いを止める者がいた。

 サミリア・テレシスタ、金色の髪を持つエルフの女性だ。彼女は「黙れ」と一言呟き、2人の頭にチョップを炸裂させる。すると、2人はすっと口げんかを止めた。ギスターさんはにやにやと笑っているがリリーさんの顔は怒りで赤くなっている。


「さて、もう一つ君に謝らなければならないことがある」

 目の前の男性、ヘイン・ウィスパータの言葉に脳内で「?」を浮かべる。ギスターさんがぶつかったことだろうか。それならば全面的に俺が悪いので謝る必要はない。

「君のステータスを見てしまった」

「あ……」

「なるべく見ないように意識していたんだけどね、僕達では一瞬でも目に入ると内容が全て読み取れてしまうんだ」

 苦笑気味に彼が言う。

「その、別に大丈夫です。見られて困ることもなかったので」

 流石はAランク。ヘインさんが冒険者カードを拾う時、目を逸らしながら拾っていたのも見た。彼がカードを見たのは本当に一瞬のはずだ。盗み見たことに対する後ろめたさも感じられたので、攻める気になんてなれなかった。

「そして突然で悪いんだけど……」

 そこで急にヘインさんが笑みを潜め、真面目な顔を向けてきた。何事かと身構えると予想外の言葉が彼の口から発せられる。


「少しの期間、僕達のパーティに加入してくれないかな?」


 ……。


「……え?」


 そして、俺の次なる冒険の幕が開けた。

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