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アドの冒険  作者: ほまりん
13/18

第11話 トンガル・ガンダルク

 投稿が遅れてしまい申し訳ございません……。今週はあまり忙しくないので、投稿の数も増えると思います。懸念があるとすればダークソウル3を買ってしまったことだけです。

 太陽がぎらぎらと大地を睨みつけている。しかし、そこまで目を輝かせている太陽からも俺の姿までは見えないはずだ。俺の頭上に生い茂る緑色の葉が、その視線を遮っているのだ。


 現在、俺はスフィアから歩いて2時間程の位置に存在する、ウィリルハという冒険区域にいる。大きな毒の沼地を中心として約半径5kmの区域だ。

 ウィリルハは四方全てを木々で囲まれていて、更に広がった枝葉が上空をドーム状に覆い尽くしている。覆われていないのは中央にある毒の沼地の上空だけだ。スキルのおかげで毒の影響は受けないとはいえ、湿気が高く、じめじめしていてあまり気分は良くない。

 ウィリルハはポイズンスポット――毒に犯される危険の高い場所――に認定されている。出現するモンスターはEランク相当のものばかりだが、ポイズンスポットであるため、『状態異常耐性〈毒〉』か『状態異常耐性〈全〉』のスキルを所持している者、もしくはCランク以上の者達以外は探索を禁じられている。

 Cランク以上の者達が探索を許されているのは恵まれたステータスが、ある程度の毒なら防いでくれるからだ。ステータスの恩恵はそれほどに優れている。


「これで、後は4つ……」

 手にした果実を背負ったリュックへと入れる。と、そこでもう一つ目的の物を発見した。さっと回収し、集めなければいけない数は、残り3つとなる。

 現在俺がここにいるのは冒険者組合で受注したクエストを遂行するためだ。クエストとは冒険者組合の掲示板に貼り出されている、人々からの依頼書のことを指し、駆け出しから抜け出し一端いっぱしの冒険者と認められたE級以上の冒険者がそれらのクエストを受注することが出来る。

 今回のクエストの内容はポイズンフルーツを一定数集めること。ポイズンフルーツは毒素の多い魔力が漂う地域、つまりはポイズンスポットでしか取れない。

 俺は『状態異常耐性〈毒〉』のおかげでポイズンスポットでの探索が許されていることもあり、最近このクエストをばかりを受注している。なぜなら、このクエストはE級冒険者が受注できるクエストの中では最も報酬が高い。ポイズンスポットでしか取れないこの果実は、殆どのE級冒険者にとって手の届かない物なので自然と価値も上がるのだ。

 しかしC級冒険者以上の者たちにとってはそれでも価値が低く、中々採集に行く者が現れないため、結果、この果実を集めるのは毒を防げる『状態異常耐性』スキル持ちのEもしくはD級冒険者ばかりとなる。その数は少なく、ポイズンフルーツの供給も不足しがちだ。

 E級冒険者の俺にとってはかなりうまいクエストなので、この事実は少し喜ばしい。だがポイズンフルーツは、主に矢や短刀に塗る毒薬へと加工されるので、毒を扱う冒険者達にはなるべく早く改善されて欲しい状況だろうと思う。


 さて、今俺は1人だ。相棒のガルはどこにいるのかというと、中央の毒沼から魔力に乗って散布される毒素の届かない場所、ウィリルハの外周にあたる部分でテキトーにモンスターを狩ってもらっている。ガルには『状態異常耐性』のスキルがないため、ポイズンフルーツのとれる場所までは近づけないからだ。

 ガルでは、モンスターをいくら倒しても稼ぎにはならない。狼であるガルにはドロップアイテムの回収が難しいからだ。

 しかし、モンスター討伐に意味がない訳ではなく経験値を入手することだけは出来る。テイムされたモンスターが得た経験値は調教師テイマーにも共有され、ガルがモンスターを倒せば倒すほど俺もステータスが上がっていく。だがその逆、俺がモンスターを倒してもガルに経験値が入ることはない。テイムとはそういうものらしい。


 残りのポイズンフルーツを採取し、クエストの目的を達成した俺はガルがモンスターを狩っている付近へと向かう。詳細な場所は分からないが、ある程度近づけば心を通わせた俺たちはお互いの居場所を把握できる。

 すぐに合流し、スフィアを目指してウィリルハを出発した。今日は俺が借金を背負ってから1ヶ月と少し。Eランクになり、ポイズンフルーツの採集クエストに出会ったことで予想を大きく上回るペースで稼いだ俺は今日、借金を返済することが可能になる。万が一に備えて革鎧を一新した以外は贅沢をせず、貯金を続けたかいがあった。

 ガルに跨り、草原を駆ける。風が体を打ち付けるが、今日は日差しが強く暑いこともあり、強化されたこの肉体には丁度心地よい涼風だ。

 気持ちが良い。金が貯まり、気分も良い。しかし、俺のテンションが高揚している時は、得てして何かが起こる。例えば初めてダンジョンに潜った日、警報機を作動させて散々な目にあった。例えば今も愛用するこの剣を購入した翌日、ガルと出会い強烈な死闘を繰り広げた。


 そしてこの日もまた、例に漏れず何かが起きるのだった。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 借金が50000ペリー。昨日の時点で冒険者組合に預けているお金が46000ペリーで、手持ちが3000ペリー。今回のクエストの報酬が5000ペリーで、今日の宿代が2000ペリーだ。返済額と宿代を抜けば余りは2000ペリーとなる。確か2000ペリーあれば、鍛冶屋で武器を研いでもらえたので、冒険者組合に行く前に道中の鍛冶屋に寄ることにした。

 素人の俺では剣を研ぐ技術もなく、それどころか砥石すら持っていないので、この剣は購入してから一度も手入れしていない。それでもそこまで切れ味が落ちていなかったのは、俺が採集クエストのみを受け続けて主なモンスター討伐はガルに任せていたからだろう。


 鍛冶屋に入る。店内の様子は装備品店とあまり変わらず、様々な武具が展示されていて、扉からまっすぐ進んだ先にカウンターが存在する。扉を開けるとすぐ、店員さんが挨拶をしてきた。

「へい、らっしゃい。今日はどのようなご用件で?」

「剣を研いでもらえないかと伺いました」

「それなら2000ペリーですぜ。鍛冶師の手が今丁度空いているので、すぐにでも始められやすがいかがしやすか。かかる時間は約30分程かと」

「今からお願いします」

 剣を店員さんに手渡す。この鍛冶屋は後払い形式を採用していた。曰く、先にお金をもらっておいて、お客様の要望に応えることが出来なかったら嫌だかららしい。仕事を終え、お客様に満足していただけて初めてお金を受け取れるとそう考えているようだ。


 30分程、ガルと念話でお喋りしつつ店内に飾られた武具を眺める。これらは売り物ではないが、鍛冶師の腕前をアピールするために展示されているのだ。鍛冶場は店の奥に存在していてそこで仕事をしているようだ。俺の剣も店員さんが店の奥へと運んでいた。

 と、そこで店員さんとは別の人が奥から出てきた。身長は成人男性にしては低く俺より少し高い程度で、作業着に身を包んでいる。あの長く伸びた髭はおそらくドワーフだろう。ドワーフは鍛冶を得意としている種族のため、殆どの鍛冶師はドワーフだ。時々ヒューマンの鍛冶師が見かけられる。

 彼が手に持っている剣は間違いなく俺の物だが、刀身が普段よりも光って見える。研いでもらった直後はあんなにも輝いて見えるものなのか。

 自分の剣だと分かっていたので、名前を呼ばれるまでもなく、カウンターへと向かう。ドワーフの男性は店員さんに剣を渡すとこちらを見てきた。


「この剣はお前さんのものか」

 毛むくじゃらの髭に覆われた口を開き、俺に尋ねてきた。

「はい、そうです」

「これは俺が作った物だ」

「そうなんですか!?」

「ああ」

 驚く。まさかこの人の作品だったとは思いもしなかった。世間は案外狭いということだろうか。

「アルバの装備品店で買った物だろう。うちで製造した武具は、下級武具はあそこに、上級武具は別の店に提供している。アルバの装備品店にもいくつか値の張る武具をやってるがな」

「確かにアルバの装備品店で買いました」

 偶然だが運命のようなものを感じる。些細なことだけど、何となく、この先もこの人が作った装備を使っていきたいと思うようになった。それで少し気になったことを質問してみる。


「別の店というのはどこの店ですか?」

「武器屋ベルギステントと防具屋グラスナークだ」

「えええ!?」

 それが本当ならかなり凄い。今出てきた2つの店名はスフィアの中でも1、2を争う武器屋と防具屋の名前だ。まだこの町に来て2ヶ月ぐらいの俺でさえも知っている。冒険者であるならば大抵の人が知っているはずだ。

 しかしその2つの店は一般人では装備を売ってもらうことさえ不可能だ。まず、べらぼうに高い値段もそうだが、何より店主に認めてもらわなければ購入すらもさせてもらえない。理由は自分たちの店の商品を使って無様な真似を晒されたくないからとのことだ。武具屋の商品の価値は、購入者が活躍すればするほど上がっていく。当然逆パターンもあるため、彼らの言い分は十分納得出来る。

「儂は仕事に戻る。その剣は大事に使え」

 そう言って、俺の驚きが冷めぬままにドワーフの男性は店の奥に引っ込もうとする。慌てて声をかけた。

「あの、名前は何て言うんですか!?」

「トンガル・ガンダルクだ」

 こちらへ振り返ることなくトンガルさんはそう答えた。そしてそのまま奥へと行ってしまう。


「おやっさんが、あんなに喋るとは珍しい」

「?」

 トンガルさんが消えた先を店員さんは見つめ、ぽつりと呟いた。

「いやね、あの人はかなり無口なお人でして、知り合いと会った時でさえ最低限の会話だけで口を閉じてしまうんす。それが初対面の相手にあそこまで口数が多くなるとは……、お客さん、おやっさんに気に入られましたね」

 こちらに目線を移し、にやりと笑いかけてくる。気に入られた理由も、そもそもトンガルさんがどれほど無口な人なのかも分からないので曖昧に「はあ」と相槌を打つことしか出来ない。

「さて、世間話も程々にぼちぼち会計に移りましょうや」

 店員さんの言葉で思い出し懐から2000ペリーを取り出す。店員さんに渡し、勘定が済んだところで、

「確かに、きっかし2000ペリーいただきやした。ではこちらの品をどうぞ」

 剣を返される。先程から、刀身を光らせていたこの剣は、自分で持って見てみると一層美しく見える。かざしてみると、その映えた刀身に俺の顔が映り込む。鏡として使うことも出来るのではないかというぐらい、研ぎ澄まされている。

「ありがとうございました」

「またのお越しをお待ちしてやす」

 礼を述べ、会話中、大人しく待ってくれていたガルを引き連れ鍛冶屋の外に向かう。通りに出て、ちらりと後ろを振り返ると、そこには確かに「トンガルの鍛冶屋」と書かれた看板が建物の上部に取り付けられていた。






 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 組合に預けていたお金、計46000ペリーを引き下ろす。組合は10万ペリーまでならお金を預けておけるのだ。それ以上の金額になると銀行に預けておかなくてはならない。

 ついさっき、ソフィーさんへとクエスト達成の報告を終え、報酬の5000ペリーが手に入った。俺史上、初めて持った大金に冷や冷やしながらも、窓口へと持って行く。

 そして、遂に。

「アド・スミスさんが抱えていた借金、総額50000ペリー。本日を以って、完済とみなします」

「やったあああ」

 万歳をする。それだけじゃこの嬉しさを表現するには物足りなかったので、ガルと一緒にくるくると躍る。ガルも風切り音がしそうなほどぶんぶんと尻尾を振っており、「やったね、ご主人様」と満面の笑みで言ってくる。


 一頻り喜んだ後、再びソフィーさんの元へと駆け寄り、後回しにしていた冒険者カードとモンスターカードの更新を行う。

 冒険者として認められるのはEランクになってからだが、Eランクになることはそう難しい話ではない。なぜなら、Fランクの間はステータスの成長が早いからだ。そして俺はここ最近、冒険者としての厳しい現実を実感していた。

 更新を終えた2つのカードを確認する。しかしそこには、昨日とあまり変わらない値がそこには記されていた。



 アド・スミス 14歳

 ランクE

 力101   物理防御87   敏捷196   技術154   魔力410   魔法防御410

 適性 敏捷、技術

 職業 探検家

 魔法 なし

 スキル 『悪運』 効果:何かと悪いことが起きる。

     『幸運』 効果:何かと良いことが起きる。

     『剣術』 効果:剣を上手く扱うことが出来る。

     『武器強化〈剣〉』 効果:装備している剣の切れ味上昇。

     『調教』

 効果:適性のあるモンスターとの意思疎通が可能になる。また、それらのモンスターを調教テイムし、仲間とすることが可能になる。調教テイム出来るモンスターの数は、スキル所持者の力量に依存する。

     『不屈』

 効果:戦闘を行う際、諦めない限り時間経過と共に身体能力が向上していく。戦闘が終了した時、元に戻る。体力の減少量の低下。


 ガル・スミス 1歳

 ランクE

 力500   物理防御285   敏捷437   技術198   魔力410   魔法防御410

 種族補正 +敏捷 -技術

 適性 力

 魔法 なし

 スキル 『忠臣』

 効果:主君の戦闘時、全能力値が1.2倍。主君が危機に陥った際、全能力値が倍化。



 この1ヶ月強で、まともに伸びたのは適性のある敏捷と技術だけだ。それ以外は1日に2か3程度しか上昇していない。これではDランクに到達するのは1年はかかるだろう。FランクからEランクへの昇格にかかった期間は1ヶ月。正に桁が違う。

 はっきりと言えば舐めていた。冒険者はCもしくはDランクの冒険者が一番多いと知っていたが、それぐらいならすぐにでも追い抜かせると思っていた。ランクが上がれば上がるほど、どんどんステータスの伸びが悪くなっていくということも聞いていたが、そこまで大差はないだろうと過信していた。自分の見積もりの甘さを苦々しく思う。

 ガルの方もあまり俺と変わらないステータスの伸び方だ。変わったことと言えば、先日ガルの年齢が1歳になった。俺と出会ってからは1ヶ月しか経っていないので、彼は約11ヶ月もの間ダンジョン内をうろうろと徘徊していたことになる。そう考えるとなるほど、ガルのステータスが元々俺よりもかなり高かったのは当然だといえるだろう。

 更新結果をショックに思い、しょんぼりと、手に持った冒険者カードを眺めながら冒険者組合の扉へ近づく。


 歩くときは前をしっかりと見なければいけない、そう思った。


 外開きの扉を開けた冒険者のパーティが組合内に入ってきて、前を見ずに歩いていた俺と先頭の男がどんとぶつかってしまう。どしんと尻もちをつき、衝撃で冒険者カードを手放してしまった。

「どこ見てやがんだっ!」

 ぶつかった男性に怒鳴られる。乱暴な物言いだが、どう考えても彼が正しいので謝ることにした。

「す、すいませ……ん」

 謝罪しようと顔を上げた瞬間、ぶつかった男性の正体に気づく。そして後ろに並んでいた冒険者達に顔ぶれを見て、自分がどんな人物に非礼を行ってしまったのか悟った。


 ギスター・スベルグリア

 ヘイン・ウィスパータ

 リリー・マッキュポン

 サミリア・テレシスタ


 彼らはこのスフィアの、いや、世界的に有名な冒険者達、世界中に100人と存在しない――




 ――A級冒険者達だ。

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