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アドの冒険  作者: ほまりん
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第9話 シスターと受付嬢

 お互いの仕事に就いた理由を話し合ってから、しばらく時間が流れた。俺たちはまだ中庭にいる。きらきらと光る池の水面とそこに浮かぶ睡蓮の花。地面を彩る緑の植物に果実の実っている果物の樹。いつまで見ても飽きない光景と外気の心地よさが、俺たちをこの場所へと留めさせていた。中庭はかなり広く、ガルとはしゃぎまわれるスペースがあるほどだ。


「へぇ~、じゃあミルはマイアおばさんに修行をつけて貰ったんだ」

「そうなんです。人一倍厳しかったんですが、その分上達は早かったです」

 この短時間で俺とミルの距離は縮んだ。会話して、ガルと遊び、休憩を挟んでまた遊ぶ。今は二度目の休憩だ。

 ついさっき、ミルに「呼び捨てで良いですよ。それと、無理をなさってるなら敬語も構いません」と言われたので言葉に甘えさせてもらっている。この町に来てから人と話す時は敬語を使っているが、村にいた時はずっと素の口調だったので、実はまだ慣れていない。

 ミルが敬語を崩すことはなかった。本人曰く、普段からどんな相手でも敬語で話すようだ。シスターになるための修行中は敬語が強制だったため、体に沁み込んでしまったらしい。その割にマイアおばさんは結構ガサツな喋り方だったけどと、ついそんなことを考えてしまう。いけない、マイアおばさんに失礼だと自分を戒めた。


 庭に設置されたられたベンチに2人並んで座って雑談していると、俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「アドく~~~~~ん!」

 聞き慣れた声だ。案の定、振り向くとそこにはソフィーさんの姿があった。庭の入り口の所で大きく手を振っている。すごく嬉しそうだ。

「ソフィーさん! こんにちは」

 思わぬ来客に挨拶をする。茶色の髪を揺らしながら、ソフィーさんは小走りでこっちに近づいてきた。そして俺の隣にいるミルに目線を移した瞬間、ぴたりと足を止めた。

「アドくん……その子は誰?」

「この治療院で働いていて、俺の傷を治してくれたシスターのミルです」

「初めまして」

「え、ええ。初めまして……」

 ミルはにっこりと笑い、ソフィーさんに挨拶をした。ソフィーさんもそれに返す。


 続けてミルにソフィーさんの紹介をする。

「で、こっちが俺の担当をしてくれている、冒険者組合の受付嬢のソフィーさん」

「そうなんですか……。綺麗な方ですね」

「あ、ありがとう。でもあなたもすごく整った容姿をしてると思うけど……」

 お父さんが言っていた。女の人はよく思ってもいないことを言うらしい。特に女性間のお世辞は大抵が嘘だと聞いた覚えがある。でも今回は本当に二人とも美人だから、嘘ではないと信じたい。

「そ、そんなことないですよ。ね、アドさん?」

 ミルは照れたように俺へと向き、尋ねてきた。

 いやいや、そんなことあるに決まってる。決まってるのだが、ここで肯定するということは面と向かって「君は綺麗だね」って言ってるようなものだ。それは凄く恥ずかしい。だが、ここで何も言わないというのも彼女を傷つけてしまうだろう。

 俺も男なら、勇気を出せ。

「ミルは、かわいい、よ」

「!!」

 流石に目を見て言うことは出来なかったので、俯いて答える。恥ずかしすぎて体が熱い。おそらく俺の顔は真っ赤だろう。ちらりと横目でミルの様子を窺うと、少し照れたように顔を下に向け、もじもじとしていた。その仕草のあまりの可愛さと、大胆な発言をした羞恥で直視出来ない。再び視線を下へと向ける。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


(ぐ、ぐぬぬ……)

 そんな2人を見て、悔しそうに歯噛みしている人物がいた。ソフィーだ。自分の大好きなアドが、完全に魅了されてしまっている。ソフィーは理解していた。男という生き物はこういう女が好きなのだと。しおらしく、いじらしい。そのうえ丁寧で、いちいち仕草があざとい。

 これを天然でやっているなら凄いが、そうでないのなら腹立たしい。まだどちらなのかは分からないため、怒りは静めておこう。そう、彼女が自分を抑えた時だ。


 ミルが顔を上げ、ソフィーにしたり顔を見せつけてきた。


(こ、こいつ~~~~~~~)

 思わず、下唇を噛むソフィー。だがミルはすぐさま俯き、先程までと同じ表情に戻った。いたいけに恥じらう、男を惹きつける、あの表情だ。ぶん殴りたくなる。

 ミルは完璧にネコを被っていた。しかしそれに気づいたのはソフィーだけで、アド自身は全く気づかずメロメロにされてしまっている。

(くっ……!)

 この女、かなりのやり手だ。ソフィーはそう思い、気を引き締める。この時彼女はミルを敵とし、真っ向から勝負することにした。

 アドくんをこんな女にやれるか。

 ソフィーはアドの保護者でないにも関わらず、ミルにだけはやらないことを決意する。


 渦中にいるアドはつゆ知らず、女と女の争いが今、開戦の狼煙を上げた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あの、ソフィーさんはどうしてここに?」

 体の熱が冷め、落ち着いた時にソフィーさんに質問する。彼女が中庭に現れてからずっと気になっていたことだ。

「組合に君が目を覚ましたって連絡が入って。ちょうど私は休憩時間だったし、ここと組合はあまり距離もないから急いで来たの。直接君の無事を確認しに、ね。……無事じゃなかったけど(ぼそり)」

「え?」

「何でもない」

 最後に何て言ったのか、声が小さくて聞き取れなかった。本人は何でもないと言ってるので気にしないことにする。

「私からも質問していい?」

「もちろんです」

「そこにいる、ワー・ウルフの『強化種』は、君が調教テイムしたんだよね?」

 ガルを指差し、尋ねてくる。そういえばまだ、ソフィーさんに言ってなかったっけ。というか気絶していたから誰にも言っていない。

「そうです、色々あって仲間になりました。名前はガルといいます」

「じゃあ、『調教』のスキル、覚えたんだ」

「多分、そうなんだと思います」

 まだ冒険者カードを更新していないため、確定ではないけど十中八九間違いない。

 と、そこでソフィーさんが腕時計を見て「あっ」と声を出す。


「そろそろ休憩時間が終わるから、もう戻るね。アドくんも一緒に行く?」

 ソフィーさんは仕事に戻るらしい。ということは向かう先は冒険者組合だ。俺も冒険者カードの更新をしたいので、組合に用はある。どうしようか。

「う~ん」

「ガルくんも早めに冒険者組合で登録しといた方が良いと思うんだけど……」

「あ、そっか」

 ガルの額にはテイムの証となる紋章があるので町の人を怖がらせることはない。だが一応、冒険者組合などの施設で登録しておかなければ違法となってしまう。モンスターという存在はそれだけ危険視されているのだ。

「じゃあ俺もついていきます」

 ソフィーさんの言う通り、早めに登録しておくべきだろう。回復に費やした体力と寝込み続けて鈍った体を考えると、今日中に冒険に出ることは危ないが、組合でカードの更新とガルの登録をするぐらいなら支障はない。

「ミル、いつまでもここにいるのも迷惑だし、もう行くね」

「分かりました。入り口まで、見送りに行きます」

「ガル!」

「おんっ」

 座っていたガルに声をかけ、出発を知らせる。俺、ミル、ソフィーさん、ガルの3人と1匹揃って中庭から院内に入った。一度俺の寝ていた部屋まで行き、荷物と装備を回収する。そして、治療院の入り口まで向かった。


「まだ、アドさんの体調は万全とは言えません。今日明日は、ゆっくりと体を休めて下さい」

 ミルさんの言葉に頷く。俺も無理をするつもりはない。そしていざ、治療院を出ようというとこで、一つのことを思い出した。

「そういえば、怪我の治療代はどうすれば良いの?」

「それなら、治療院には既に冒険者組合の手で支払われています。アドさんは後日、その代金を冒険者組合に返せば大丈夫な筈です」

「なるほど」

「でも組合がアドくんにお金を貸してるって形になってるから、早めに返さないと返金額はどんどん上がっていくわよ」

「えっ!?」

 ソフィーさんの言葉に驚く。今の俺には殆ど金が残っていない。一つ目の理由は剣を購入したこと、二つ目の理由はガルから逃げる時、ドロップアイテムを貯め込んだバックパックをダンジョン内に捨ててきたからだ。更には宿代も払わなければいけないので、本格的に金欠だ。

「えっと……、ついでにいくらぐらいなの?」

「かなりの大怪我でしたので……、大体5万ペリーです」

「ごっ……」

 倒れそうになる。これは暫く借金生活だ。この悲しい事態にガルが念話で再び謝ってくる。ガル、もうお前には怒ってないから……。


「その、急かすのも悪いんだけど、私のシフトの時間が迫ってるからそろそろ……」

「そう、ですね」

 くよくよと落ち込んでいても仕方がない。切り替えが大事だ。とりあえず、カードの更新とガルの登録を済ませて、それから考えよう。

「ミル、ありがとう。また怪我したらここに来るよ」

「ええ、お気をつけて。ソフィーさんもお元気で」

 ミルにお礼の言葉をのべる。その後のミルの言葉にソフィーさんも挨拶を返していた。ガルも元気に「おん」と咆え、別れの挨拶をしている。

 治療院での時間は俺がこの町にきて一番穏やかだったかもしれない。名残惜しいが「じゃあね」と治療院を出発する。少し歩いたところで後ろを振り返り、ミルに手を振ると、小さな手をひらひらと振り返してくれた。


 前に向き直り、通りを歩く。するとそこで、ソフィーさんが話しかけてきた。

「アドくん、あの子には敬語を使わないんだね」

「はい、ミルが良いと言ってくれたので」

「……私にも使わなくていいわ。少し距離を感じるし」

「あ、そうですか。じゃあソフィーさんにも敬語を使わないようにします……するね」

「うん、そうしてくれると嬉しい」

 お母さんには、敬語を使わないと失礼だと教わったんだけど……。おばさんもミルもソフィーさんも、皆いらないと言ってくる。それどころか寧ろ使わない方が嬉しいらしい。もしかして敬語で話さない方が良いんだろうか。


 答えの出ない疑問を胸に、俺はソフィーさんとガルと一緒に、冒険者組合へと歩を進めていた。

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