遭遇
転送された先は、自分の領地にある小さな街のとある路地。
ここにはある動物が集まっている。
その動物に会うために、まずは近くの店で奴らの食料を調達。
俺の顔を見るなり、店主は笑っていつものですねと紙袋を渡してきた。
「ありがとう」
「いえいえ。アイツらも王様が来てくれるの待ってますよ」
「だといいんだけどねー」
軽く世間話して店を出る。入り組んだ路地を進み、目的の場所へと向かう。
突然食料を出して脅かしてはいけないので、事前に紙袋の中身も取り出した。
缶詰にミルク……よし。
必要なものを確認して、再び歩く。もう少しで目的地……という所で先客がいたのか声が聞こえた。
「ふふふ、やっぱ可愛いなぁ。お前達は俺の事分かるんだなぁ」
聞こえた声は男のものだ。
柔らかい、優しい声が聞こえる。落ち着きのある、心地良い声。
その声を聞いた時、何故か懐かしいと思ってしまった。
懐かしいって、俺は何を考えているのだろう。
「リアルだと、アイツがいないとすぐ逃げられちゃうからなぁ。今のうちにもふもふしとこーっと」
言葉の端が弾んでる。
それがなんだか、嬉しい。
知らないはずの男なのに。
声を聞いた時にまた誰かの姿が脳裏をかすめた。
わけわかんねぇ……なんなんだよ。俺、さっきからおかしい。
おかしいついでに、何故かわからないけれど、この人物の前に立ってはいけない気がする。
どんな顔をしていいのかわからない。
どんな顔も何も、俺はこの国の王だし、相手は多分会ったこともない奴だし、そんなこと気にする必要ないのに。
ふと、男がこちらを振り返った。
慌てて柱に隠れ、様子を見る。
そのまま顔が見られるところまで移動した。
男は白いフードを身にまとっていた。
黒髪に黒目がちな瞳、長い睫毛が遠くでも分かる。
童顔で中性的な……結構整った顔立ちだ。
肌も白く、細身でなんというか先程見た資料の男を思い出させる。
あの資料では顔が見えなかった。服装も似ているといえば似ているけれど……。
まさかな。
男は首をかしげながら気のせいかと呟くと、また自分を囲む動物を見た。
「まさかこんなにいっぱい猫がいるとは思わなかったなぁ」
そう言いながら、ふにゃふにゃとした笑みを浮かべて、可愛いなぁと猫達の頭を交互に撫でる。
この表情……知ってる。
やはり俺はこの男を知ってる。
話かけようと思った。以前のように、名前を呼ぼうと思った。
しかし、名前がでてこなかったのと、彼が敵である証が視界に入った。
「あ、お前は怪我してんなぁ」
そう言った彼の腕から、資料に映っていたあの腕輪が見えたのだ。
男は腕輪に向かって何かを呟いた。腕輪が男の声に反応するように緑色に輝いた。
腕輪の光は猫の怪我に集まり、光が落ち着くと猫の怪我がふさがったのが見えた。
間違いない。あの男は襲撃犯だ。
でも今使ったヒールの属性は大地魔法……ジュンヤさんの力だ。
こいつ、本当に俺達の誰も介さず魔法使えるのか?
いや、今その事はどうでもいい。捕えることが先決だ。
俺は音を立てないよう荷物を地面に置き、腰に下げていた銃と薬瓶を手に取った。
俺の武器は銃だ。水滴を銃弾に変え、水圧で発射する。
大抵は薬瓶を数種類用意して、様々な攻撃に対処できるようにしている。
確実に仕留めたい時は濃度の高い毒薬。捕獲目的なら麻酔等だ。
もちろん普通の水も銃弾に変えることだって可能。つまり水があれば弾は無制限。
得体の知れない相手でも、弾切れ起こさない分こちらが有利だ。
一発ぶち込んでやると、猫と戯れる男を観察し、距離を測り機会をうかがう。
「スギ」
誰かが男を呼んだ。
スギと呼ばれた男はその声がした方を見て、すみません、今行きますと言った。
共犯者がいるのか?
なんにせよ。このチャンスのがしてなるものか。
俺は、スギがこの場から離れようとした瞬間、前に出た。
「武器を捨てろ」
俺の声にスギが勢いよく、振り向く。
スギはひどく驚いた顔をした。
そして、唇を震わせ、リョウと俺の名前を呟いた。