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緊急招集

 この世界は「風・火・土・水」の4つの元素から成り立っている。

 そして元素には、「結合・分離・相剋・相乗」の法則があり

 我々はその法則の元、彼らから恩恵を受けて生活している。


 今でこそ常識だが、その昔――人々は法則の存在を知らず、この恩恵を当たり前のように乱用していた。結果、元素自体が枯渇してしまい、世界存亡の危機にまで発展したという。

 この危機を救ったのは1人の魔導師。名はアムル。

 アムルは元素と人の心の法則を解き、同じ法則化にあるこの2つを結びつければ枯渇は免れるのではないかと考えた。

 そこで生まれながらにして魔力を持った人間を探し出し、4大元素の精霊と契約させた。

 これにより、人々が彼らを通して恩恵を受ける仕組みに変えたのだ。

 しかし、これでは彼ら4人に大きな負担がかかってしまう。

 そこでアムルは彼らに国を作らせた。

 彼らに忠誠を誓った大人にのみ「コア」という魔力の結晶を与え、精霊の恩恵を受けられるようにした。


 青の王と水の精霊……ヴァッサー・レイに忠誠を誓ったものには、水の力を。

 赤の王と火の精霊……レ・フォティアに忠誠を誓ったものには、火の力を。

 白の王と風の精霊……ケーニヒ・アリアに忠誠を誓ったものには、風の力を。

 緑の王と地の精霊……トルバ・ロワに忠誠を誓ったものには、地の力を。


 またそれぞれの元素の力を凝縮した「オーブ」を生み出し、コアを持つ者のみ使用できるようにした。

 こうして、4人の王管理の元、元素の乱用は消え世界の消滅は免れたのだという。

 だがしかし、それは必ずしも良いことばかりではなかった。

 常に業を生み出す人の心とリンクした為、魔物が急激に増えたのだ。

 また人間の中にも業に飲まれ、恩恵を受けるだけではなく己で支配する事を望む者、業により人を捨てる者……狂人まで出てきた。

 4人の王は、それぞれの戦力を一つに纏め、業に対抗する為の組織を形成した。

 元素が生み出し悪しき業を、元素の力を持って軍が消滅させる。

 軍と4人の王……この5つの力関係で世界は均衡を保っていたわけだが……。


 それが今、得体のしれない敵に脅かされているらしい。




「おい聞いたか。例の話」

「あぁ聞いた聞いた。なんでも何者かに襲撃されて壊滅。今機能停止状態なんだって?」

「しかもそこにいた人間全員、神かくしのように消えちまったって話だ」

「この件に関して今日王様達が集まって会議をするそうだぞ」

「ほら、噂をすれば青の王のご登場だ」


「聞こえてるっての……」


 まったく、人とは何故こうも噂話が好きなのだろうか。

 突然呼び出しを受け、本部に来てみれば各所で自分が呼び出しを受けた原因であろう襲撃事件の話で盛り上がりをみせていた。

 聞き耳を立てれば、今回の犯人について憶測を立ってるものの多いこと多いこと。

 あるものは単独犯といい、あるものは大男二人の犯行。そしてあるものは怪物を連れた女……。

 残念ながらどれも正しくてどれも違う。

 とはいえ、仮にも本部所属隊員。ある程度の推察はできるのだなと思った。


「失礼致します。ヴァッサー・レイ。特別招集を受け参上致しました」

 案内された会議室の扉を叩き、中にいるであろう人々に声を掛ける。

「待ってたよ。さ、入って」

「失礼致します」

 聞き慣れた声から合図を受け、俺はその重たい扉を開いた。

 室内にいた人物達に形式ばかりに頭を下げて、自分用に設けられた席に座る。

 メンバーは俺を含めて5人。


 火を司る赤の王:レ・フォティア。

 風を司る白の王:ケーニヒ・アリア。

 地を司る緑の王:トルバ・ロワ

 それに……。


「司令は……?」

 いつもいる初老の軍司令とは違うシルエットにその名を呼ぶと、苦笑したトルバが今日は代役だと言った。

「代役?」

「今回の件……あまり大事にはしたくないからな。直接詳しい人間に来てもらったんだ」

「俺達の事も司令から聞いてるから通名でなくていいってさ」

 そういうと、黒いローブを来ていた大男が目深にかぶっていたフードを脱ぎ挨拶してきた。

「第五支部のルリンといいます。よろしくおねがいします。”リョウ”さん」 

 スキンヘッドにサングラスとか、その風貌、名前負けしてるというか、いかにも怪しいが。

 精霊王ヴァッサー・レイや青の王という通名ではなく、ここにいる4人しか知らない本名で俺を呼んだって事は司令からも相当信頼されているんだろう。

「なんつーか……ヤクザみたいだなオイ」

 不思議と初めて会った気がしなかったし、悪い奴ではないだろう。

 まぁよろしくと挨拶を返すと、お前キャラ戻すの早すぎ、とアリアこと”カミシロ”さんが笑った。

「そうだよリョウ~。もうちょっと敬語続けろよ。こん中じゃ一番下でしょ?」

 隣にいたフォティアこと”イツキ”さんが俺達軍内じゃ上司になるんだよと笑う。

 それを無視して、で、本題まだ?とカミシロさんに言えば、トルバこと”ジュンヤ”さんが、これまた笑いながら、まぁ始めるかと、皆を着席させ灯りを消した。


 薄暗くなった部屋。テーブルの中央に光り輝く水面が浮かび上がる。

「今回、皆さんにお集まり頂いたのは他でもありません。先日発生した第七支部襲撃事件についてです……まずはこちらを御覧ください」

 ルリンの言葉に合わせて、水面のスクリーンに一人の人物が映しだされた。

 そこに現れたのは白いフードを深くかぶり、長身で細身な体型に似合わない大鎌を構えた男だった。

 隣には狼にしては巨大な、全身に炎を纏った魔物の姿がある。

「こいつらが犯人?」

「はい。襲撃前の監視カメラにこの少年がはっきり映っていました」

「犯行に及んでいるのはこの白いフードを被った少年で間違いありません」

「念の為、データベースを参照してこの人物と該当するデータを照会してみたが、該当はなかったそうだ」

「マジで? データベースに引っかからなかったの?!」

 ジュンヤさんの言葉にイツキさんが声を上げる。

 俺も驚いた。軍のデータベースは世界一の情報量を誇る。

 武器や魔法関係や歴史はもちろん、この世界の生きる生きとし生けるものはこのデータベースで管理されてるといっても過言ではない。

「その事については後ほど……次に、これが実際の捉えた映像です」

 またルリンの声に合わせて映像が切り替えられる。

 今度映されたのは支部の門前に設置されていた氷の監視カメラの映像だった。

 狼にまたがり姿を表した白フードの少年。

 彼は狼から降りるとまず辺りを見回し、周囲に誰もいない事を確認した。

 そして、腕に嵌めていた腕輪から2種類のオーブのようなものを取り出した。

 1つは透明の、もう1つは黒のオーブだ。どちらも見たことがない。

 彼が透明なオーブを頭上高く放り投げると、光が降り注いだように画面が真っ白になり何もみえなくなる。

 光が落ち着き、再度彼らが映った時には先程の資料にあった大鎌が出現していて……。

 白フードが鎌を振り下ろした瞬間、門は真っ二つに割かれた。

 本当に一瞬の出来事だった。

 この映像を見ていたもの皆、一体何が起こったのか分からなかった。

 そのまま中に入っていく男。付いていく狼。監視カメラはそこで途絶えた。

「この後、奴らは制御室を鎮圧、破壊。修復不能な程損害を与えました」

 映像が途絶えたと同時に、ジュンヤさんが明かりを付け、スクリーンが消える。

「しかも配備されてた隊員、および研究員は全て神隠しのように全員行方不明。現在第五支部……調査部が全力あげて行方を追っているそうだ」

「他に何か証拠はないの?」

「残念ながら内部の監視カメラも綺麗さっぱりだ」

 カミシロさんがため息をついた。

「で、まさかこれだけの情報でこの人物、捕まえろとかいうんじゃないよね?」

「つーか第七支部って育成専門部署だよね。そんなとこの復旧困難になる程破壊されてる装置ってなんなの?」

 それは俺も思った。

 第七支部は主に新規団員の受付や、新人育成を担当する部署だ。

 コア付与年齢である16歳を対象に、俺達4人のうち誰の力をメインで使うか、また魔物と戦闘する際どんな武器を使うか、その武器の使い方は等、わかりやすく説明する。他にも能力を測ったり、ランクUP試験を開催したりしている完全なサポートメイン。

――そんな部署なのに何故狙われた? 

「実は怪しい兵器を作ってるとか、そんなオチ?」

 イツキさんの問いにルリンは首を横に振った。

「いえ、危ないものは何もないです。ただ、特殊な機械があるんです」

「どんな?」

「それは」「コア生成機だ」

 ルリンの言葉を遮るようにジュンヤさんが言った。

「ここで入隊志願者の希望を聞き、その人物にあったコアを生成する。生成されたコアを使い、簡単なテストも行っている」

「他にも初期能力の測定したり、オーブ同士の合成による能力継承装置なんかも破損しました」

「これらを襲撃してるってことは、新たな戦力を得てほしくないのか。もしくは……」


「例の、魔王の手先……」

 カミシロさんがぽつり呟いた言葉に、周りがしんと静かになった。


 魔王。

 それは人間を心底憎み、根絶やしにしようとする存在。俺達が軍を作ることになった元凶。

 あまりにも強大な力を持ち、精霊王達は4人でようやく封印することができたという。

 最近その魔王に復活の兆しがあるらしい。

 あくまで噂程度だと思っていたがこうタイミングよく襲撃事件が起こるとその可能性も捨てられない。

「魔王の事は伝承でしかを知らないけど、もし魔王復活の為に人の命や魔力、コアなんか必要だったら、話も合うよね?」

 カミシロさんの言葉にルリンが頷く。

「マジ?」

「実は……この少年の特徴及び場に唯一残った魔力を解析し検索してもデータベース内に該当データはありませんでしたが、連れている魔物……こちらが意外なものとデータが酷似していたんです」

「意外なものって?」

「……魔王3将軍の1人、炎狼龍インフェリオです」

「つまり……100%クロってことか」

「だから、事が大きくなる前に俺達が直接対応しろと」

 ルリンが再び頷いた。

「加えて、この少年が使用した魔力も微量。残留元素をチェックしましたが四元元素何にも反応がありませんでした」

「俺達を通さず魔法を使うってその時点でおかしいじゃん……」

「いや、生まれつき魔力を持っていた可能性もある。容姿からして、コアを付与されない16才未満である可能性も……」

「あり得るな。その場合だと、この少年は魔物に操られているかもしれない」

「魔王が作った魔力の塊とかかもよ? 復活の為の器とか、改めて造られた類の可能性も……?」

 皆それぞれ、少年について話をする。

 それを遠巻きにして、俺は配られた方の資料を見た。

 通常、魔物退治に使う武器は銃。剣。籠手。杖の4種。

 そこから魔物を退治した際、奴らが落とす汚れた元素の塊を浄化し武器に合成して強化していく。

 中には強化を繰り返すとデザインも変わるものもあるけれど……。

 確かに少年の持つ大鎌はどこにも属さない代物のようだ。

 鎌の他に盾も装備しているらしい。よく見ると、鎌と盾の表面のデザインが酷似してる。

 盾表面の周囲には文字が書かれているが、よく読めない。

 右腕にはこれまた腕の細さに合わない腕輪をはめている。

 先程の映像で取り出したと思われる黒と透明のオーブの他にも青、赤、白、緑のオーブに似た宝石が埋め込まれている。

 

 ……あれ? 

 俺、この腕輪は知ってる気がする……。

 確認の為、資料を回転しながら見つめてみる。

 どこかで見たことがある。でも……どこだ?

 同じように、少年の資料をカミシロさんが手にした。 

「武器も装飾品も全部見たことがない代物だね。こういうのもデータベース検索済みなんでしょ?」

「はい。該当なしです」

「え?」

 ルリンの言葉に自然と声が出た。

「どうした?」

 そんな俺をジュンヤさんが見る。

「えっと……この腕輪、本当にデータベースになかったの?」

「ええ……そうですけど?」

「でも……俺、この腕輪……」

 どっかで見たことあるよ、と言いかけた瞬間、頭の中を誰かがよぎった。


 一瞬だったのでよくわからないが、そいつはよくこの腕輪を付けて、俺の隣にいた……気がする。

 俺はもう一度資料を見た。急に湧いた違和感に血の気が引くのが分かる。

 なんだ? この右隣にぽっかり空いた感じ……。

 振り向いてそこに何もない事に、切ない。苦しい。嫌な気分になる。

 ここには誰かがいた気がする。

 誰か、誰かの専用スペースだった気がする。

 一体誰の……?


「リョウ」


 名前を呼ばれて我に返った。

 資料を片手に言葉をつまらせた俺を見て、皆不思議そうな、怪訝そうな顔をしている。 

「腕輪がどうしたの? 見たことあんの?」

「あー……っと思ったんだけど、なんか違うっぽい」

「なんだよー。手がかりになると思ったのに」

 イツキさんの問いに返すと、カミシロさんがわかりやすくため息をついた。

 俺だって、何か手がかりになると思ったよ。

 でも、俺自身が困惑してるのに、説明して余計混乱させるようなマネはしたくない。

「とりあえず一度は接触してみないと分からないってことか」

「しばらくはそれぞれ自分の領地内の警備徹底かな。次の出現場所の予測も立てられないんでしょ」

 ルリンが頷く。

「おおよその予測でしかありませんね。もし新戦力を得て欲しくないというのであれば、また簡易設営した該当部署を襲ってくるかもしれませんし……」

「簡易部署ってどこに設置したの?」

「青の大陸と白の大陸の国境付近です」

「んじゃ早速俺行」「いや、俺に行かせて」「え?」

 カミシロさんの言葉を遮って言った。

 再び視線が集まる。

「領土視察ってことにすればうろついても王臣は変に思わないでしょ」

「いや、まぁ……そうだけど」

「何? なんかまずい?」

「まずくはないけど、リョウってばいつも調査関係は面倒くさがって他人に任せきりじゃん? だから意外と思って……」

「イツキさんそれさ、俺が普段仕事してないっていいたいの?」

「違うよ! 珍しいって思っただけ!」

「思ってるようなもんじゃん、うわーそういう目で見てたんだー。ひどーい。俺だってがんばってるのにー」

 バカ正直に言ったイツキさんに棒読みで返してからかっていると、カミシロさんが手を叩いた。

「はいはい。リョウくんはバカで遊ばない」

「バカって俺の事? そっちの方が酷くない?」

「とりあえず施設近辺の偵察はリョウくんに任せて、各自国領地周辺の警備強化ってことで様子を見よう」

「ちょ、スルー?」

「敵は得体の知れない相手だから、無理せず遭遇しても応戦しないようにね」

 イツキさんの存在を無視して話がまとまっていく。

 言っておくが彼をいじめているわけじゃない。これが俺達の日常だ。

 王の能力は代々継承制。俺達は次期王として、共に育った幼なじみでもある。

 昔からこうだ。

 統率力の高いカミシロさんが俺達をまとめ、観察力の高いジュンヤさんが情報収集等裏方作業にまわり、イツキさんと俺はそれに文句をいいながら、従う……というか、遊ぶ。

 王の座についてからも何も変わらない。


「以上、終了。解散!」

「了解しました~じゃあレ・フォティア、自国領に帰還しまぁすっ!」

 イツキさんは挨拶すると早々に部屋を出た。

「ついで、ヴァッサー・レイ帰還しまーす」

 俺も挨拶して部屋を後にした。

 ジュンヤさんはルリンと一緒に情報を収集するの為残るらしい。

 カミシロさんも同様だそうだ。

 俺は移動魔法を使う為外に出た。

 移動魔法は風魔法。突風に包まれるので誰かを巻き込まないよう、使用許可されている空き地に移動する。

 周りに危害を加えないよう距離を置き、白のオーブを取り出して空高く放り投げた。

 目指すは、簡易施設のある自国領の街。

 ……と、いいたいところだが、行きたい場所があるので寄り道することにした。

 こういうもやもやした気分の時、払拭してくれる。どうしても行きたい場所が……。

 頭上に現れたのは魔法陣。

 その魔法陣に手をかざし呪文を唱える。


「パリオート」


 集まりだした白い光が俺の身体を纏い、念じた場所へ転送した。


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