僕の嫌いなタイプ
「あら長瀬君じゃない、おはよう。今日も冴えない顔してるのねー」
「うるさいな、元からこういう顔なんだよ」
「あらそう? それは失礼しました」
毎日毎日飽きもせず僕をからかってくる女子、秋瀬なる。僕はああいうタイプが一番嫌いだ。自分が可愛いって分かってるから嫌われないと過信して堂々と人をいじれるんだ。全く最低な女子だよ。顔がよければなんだってして良い訳じゃないんだ。僕ははっきり思うよ、秋瀬なるは嫌いだ。
「お前ばっかずるいよ」
「なにが」
一部始終を見ていた友人が溜息をつきながら僕の肩を叩いた。
「とぼけんなよ。あの秋瀬さんに毎朝声かけてもらえるなんて、男子みんなお前のこと羨ましがってんぞ」
「あーそうですか。僕は是非誰かに代わって欲しいんですけど」
「お前くらいだよ、秋瀬さんに興味示さないの。性別間違えてんじゃねーの? 本当に男ですか?」
「失礼だな。僕は派手な女子は嫌いなんだよ」
そう、昔から僕は清楚で純粋なザ・大和撫子が好みなんだ。いくら可愛くても派手で性格がひん曲がってるような女子はこっちから願い下げだ。けど、どうしてかそういう女子しか僕の周りには寄ってこないんだよな。
「お前さ、秋瀬さんのことそんな知らないだろ」
「はぁ? 知りたくもねーよ」
「可哀想に、まぁ教えてやる義理もねーけど。後で知って後悔しても知らねーぞ」
そう言うと友人はまた僕の肩を叩いた。
こいつも勝手なやつだよ。人のことを訳のわからん理由で憐れみやがって。実際、秋瀬なるに絡まれてる僕は憐れなんだが、それを分かってくれるやつはどこにもいないんだよな。
放課後。僕は静かな場所を求めて学校から離れた市立図書館へ来ていた。
学校の図書室も良い環境なんだが、万が一秋瀬なるに見つかったりしたらまたからかわれるので、それを避けてわざわざここまで来たのだ。おかげで自分と同じ高校の制服は全く見当たらない。
しかし念のためと図書館の奥まった場所にある机へ向かう途中、僕は見つけてしまった。思わず足を止め、窓際の席で本を読むその人を見つめてしまう。
それは中学時代に一目惚れした名も知らない少女だった。卒業間際に思い切って呼び出して告白したものの、相応しくないからとフられてしまった。だから僕は、その少女に相応しいよう自身を改めたのだ。しかし、それからその少女を見かけることはなかった。
もうダメだって諦めてた、けどまさかこんなところで会えるなんて。
真剣な顔でページをめくる少女に声をかけようか迷っていると、少女の方が気づいて視線をこちらに向けた。一瞬戸惑った表情を見せた後に、口元を緩めて微笑み、また視線を本に戻した。
微笑みかけてくれた。それだけで僕は嬉しかった。
思わずにやけてしまう口を抑え慌てて少女から見えない位置の席に座った。カバンを漁って読もうと思っていた本を出すものの集中できるはずもなく、結局僕は閉館時間まで少女のことをずっと考えていた。
相変わらず少女は綺麗だった。とくに日の光を浴びて本を読む姿は絵になるほど美しかった。なによりその微笑みは天使と見まごうほどだ。まさに理想、清純、無垢、まだ男を知らない純白の結晶。ああいう女の子が、いや僕はあの子が好きなんだ。忘れられないんだ。もしかして、よくこの図書館に来るのだろうか。テスト勉強とか、しててもおかしくないよな。
そうして僕の図書館通いは始まったのだ。
予想どうり、少女はほとんど毎日図書館へ訪れていた。いつも窓際の席で本を読んだり勉強をしていたりする。たまにうたた寝をしていて、そんな姿もまた可愛らしい。
僕はというと、少女を盗み見出来る席を見事探し出し、片手間に本をめくりながら少女を観察していた。なんか僕、ストーカーっぽい?!
けどいつか話しかけられたらな、と淡い期待を胸に抱きつつ、チャンスを伺っているところだ。
朝は秋瀬なるの精神攻撃に耐え、昼間は友人のくだらない話を聞き、夕方少女をみて癒される。最後に少女を見られれば何があってもその日は良い一日になるのだ。
少女様々だな。浄化のオーラでもはなってるんじゃないのだろうか。
しかし、そんな幸せな日々が続くとは限らない。
この日は一日中雨だった。雨の日は少女遭遇率が低い。それはここ数ヶ月で気づいたことだ。俺は天を睨みながらも、まだ諦めるのは早いと図書館へ足を向けたその時、悲劇は起きた。
「あ、長瀬君。朝ぶりねー」
秋瀬なるだ。放課後こいつに捕まるなんて、最悪中の最悪。昼に見かけるだけでも気分が下がるのに、僕のテンションはだだ落ちだ。
「なんだよ、なんか用か」
「素っ気ないなぁ。一人でさみしそうだと思って声をかけてあげたのに」
「余計なお世話だよ」
僕は秋瀬なるを振り切ろうと足を早めた。
「あ、ちょっと待ってよ! 秋瀬君いっつも放課後さっさと学校出るよね、それも朝来た方とは違う方向に。どこへ行ってるの?」
「うるさいな、君には関係ないだろ」
「気になるんだよー。ねぇ教えて?」
「君には全然相応しくないとこ」
「えー、どこそこ」
「図書館だよ」
「そうなの、面白そう! 私も一緒に行く!」
結局、どんなに足を早めても秋瀬なるはしぶとくついてきて、図書館まで辿り着いてしまった。
これから毎日ここへ来るとか言い出したらどうしよう。どこか別の場所へ案内すれば良かったかもしれない。
「図書館の雰囲気って素敵よね。長瀬君もそう思うでしょ?」
「はぁ? 確かにそう思うけど、君はどうせ口先だけだろ」
そんなことより、なんとかこの女を撒いて少女のいる席の方へ向かわなくては。
「悪いけどちょっと探し物あるから、ついてくんなよ」
「やだな、私のことストーカーみたいに」
「実際そうだろ」
あからさまにイライラした態度で言ってやると、流石に悪いと思ったのか、秋瀬なるは視線を落として分かったと言い、カウンターの方へ向かった。その隙に俺はいつもの場所を目指す。
「でもね、残念だけどあの子はいないよ?」
背中からそう囁かれた気がして慌てて振り向くが、そこには誰もおらず、視界の端の方で何やらやり取りをする秋瀬なると図書館員の姿だけがちらついた。
やはり少女はいなかった。雨の日は図書館に来るのも大変なのだろう。もしかしたら親に早く帰ってきなさいと言われているのかもしれない。諦めてまた晴れの日に出直そう。
盛大に肩を落としながら、そういえばと入り口で秋瀬なるの姿を探す。あいつ、一人で帰れるのだろうか。仕方ないし少し待ってみるかと柱にもたれかかったその時、図書館員に話しかけられた。僕は慌てて姿勢を正す。
「そんな緊張しなくて良いのよ、注意しにきたわけじゃないから」
「そ、そうですか」
ひとまず安心する。けど、だったらなぜ声をかけられた?
「さっき本を返却してくれた女の子からね、言伝を頼まれてて。普段はこんなことしないんだけど、彼女は常連さんだから特別にね」
「女の子って?」
「珍しく一緒に来てたじゃない。髪が長くて綺麗な女の子よ。あなたと同じ学校の」
もしかして、秋瀬なるのことだろうか。
「彼女が一緒にいた男の子に伝えてくれって。私は先に帰るから、ついて来てごめんねって。あと、やっぱりいなかったでしょ、とも言ってたかしら。あら、これは言伝ではなかったかな」
なんだ、あいつ図書館員にそんなこと頼んでたのか。とことん人に迷惑をかけるやつだな。この図書館員も、あいつのこと誰かと勘違いしてるみたいだけど大丈夫か? あいつが常連なわけないだろ。そんなにそっくりなやつが出入りしてるんだろうか。なんにせよ、今日はさっさと帰るに限る。
「わざわざありがとうございました」
「いいえー、またいらっしゃいね」
今度は晴れの日に来ますよ。
しかしその後、図書館で少女を見ることは二度となかった。ついでに言うなら、朝秋瀬なるに話しかけられることもなくなった。
秋瀬なると関わらずにすむのは最高だが、少女に会えないとなると話は別だ。せっかく再会できたのに、せめて告白しときゃ良かった。またフられても、気持ちを伝えないまま会えなくなるよりはずっとましだ。
そんなある日、秋瀬なると図書館へ行った日のことを思い出す。
そう言えばあの図書館員、なんか意味深なこと言ってたよな。あの背中から聞こえた声も、何と無く秋瀬なるににていた気がする。もしかして、秋瀬なるはなにか知ってんのか? 考えたくはないが、このまま不完全燃焼でうじうじしてもいられねーし。俺からあいつに話しかけるなんて寒気がするが、もうそれしか手はない。ダメでもともと、当たって砕けろ、だ。
なんとか自分を鼓舞して、僕は放課後秋瀬なるの教室を訪れた。
「なるちゃん? もう帰ったよ。なるちゃん帰りは早いんだー。告白なら朝か昼に来ないと。まぁ成功はしないだろうけどね」
「だれがあいつに告白なんか!」
「あ、違うの。珍しい」
たく、散々な目にあったぜ。なんだあの女子生徒。秋瀬なるに用がある男子は全員告白だと思ってんのか? とんだ思い違いだな。しかも平然としやがって。秋瀬なるは女子まで自分の手中に収めてんのか? 恐ろしいやつだ。けどここで負けてはいられない。僕は少しでもあの可憐な少女に会える可能性があるならそれにかけたいんだ。仕方ない、明日の朝出直すか。
しかし、翌朝も秋瀬なるは教室にいなかった。とりあったのは昨日と同じ女子生徒だ。
「おい、朝に来てやったのにどういうことだ」
「そんなこといわれてもねー、なるちゃん人気だから」
「また告白か?」
「今更告白する人なんてほとんどいないよー。たぶん今は図書室で誰かに勉強教えてるんじゃないかな。気になるんだったら見てこれば?」
「あぁそうですか。失礼しました」
たく、昨日は俺に告白かとか聞いてきたくせに、バカにしやがって。僕は怒りを必死に抑えつつ図書室に向かった。
確かに秋瀬なるは図書室にいるらしかった。しかし、その姿は確認できない。図書室には人だかりができていて、その中から秋瀬なるらしき声が聞こえてくる。周りに立つ生徒たちはみなそれぞれにメモ帳やらルーズリーフやらを持ちペンを構えていた。これじゃ誰かに勉強を教えるどころか、ただの勉強会じゃねーか。
俺はさっさと諦めて昼に行くことにした。流石にあの中に入って行く勇気は持ち合わせてはいない。
しかし、だ。
「あー、なるちゃんね、いないよ」
俺が尋ねる前に例の女子生徒はこたえた。完全に覚えられたようだ。つか、何でいっつも出てくるのはこいつなんだよ。なんだ、受付嬢なのか?
「たまたまだよー。いつもはお昼教室なんだけどね、今日は美化委員のお仕事があるから。偉いよねー、嫌われ委員を率先して引き受けるなんて。あ、気になるなら花壇に行くといいよ。図書室より人は少ないと思うし」
俺は辟易しつつも裏庭にある花壇へ向かった。
そこには人影が二つあった。何だよ、一人じゃなかったのかよ。僕は内心で舌打ちしつつ、物陰に隠れて秋瀬なる一人になるのを待った。
昼の裏庭は思ったより静かで、二人の話し声はよく聞こえてきた。どうやら秋瀬なるに話しかけているのは男子生徒のようだ。別に盗み聞きするつもりはないけど、そう、これは不可抗力だ。それより、はやくそのどうでもいい世間話終わってくれねーかな。
罪悪感とストレスとで僕の気持ちは焦るばかりだった。
だが、そんな世間話は男子生徒の緊張した声によって終わりを告げた。
「秋瀬さん、あの、大事な話があるのですが」
「なに?」
「俺、秋瀬さんのことが好きなんです。頑張って秋瀬さんに見合う男になるので、付き合ってください!」
何だよ、今更秋瀬なるに告白するやつはいないんじゃなかったのかよ。たく、ひどい現場に出くわしたもんだぜ。
あぁ可哀想。どうせ秋瀬なるのことだ、こっぴどい振り方をするに違いない。そうだな、あなたが私に見合うようになるなんて一生かかっても無理なんじゃない? とか。あー、そんなこと好きな女子に言われたら心折れるなー。
「ごめんなさい。私、ある人に見合う女の子になるために今の自分になったの。だから、他の人が私に見合うとか、そういうことは考えられないの。自然体でいられる人を探して、私は誰かに無理して欲しくないから」
ほら見ろ、ある人に見合う女になるためにだって……え。今の誰、本当に秋瀬なる?
「そっか、ありがとう。はっきり言ってもらえて助かった。秋瀬さんのおかげで次に向けての勇気がでたよ。秋瀬さんも頑張ってね。秋瀬さんが努力して釣り合わないほど凄い男なんかそうそういないから、大丈夫!」
「うん、ありがとう」
男子生徒が走り去る音は段々と小さくなり、やがて裏庭に静寂が訪れる。俺は物陰からそっと顔を出した。そこにはしゃがんで水をあげる秋瀬なるがいた。手の動きは繊細で、花々を傷つけないようにかとても丁寧だ。そんな秋瀬なるを、日の光が真上からスポットライトのように照らし出す。その姿にはなぜか見覚えがあった。
「いつまでそこにいるの? 長瀬君」
「え、あ? ばれてた?」
「影がね、見えてたよ。ずーっと。全く盗み聞きなんて趣味悪いぞー」
「ち、ちが、これはわざとじゃ」
「分かってるよ。長瀬君は中学の時から卑怯なことが嫌いだったもんね。ずっと見てたから知ってるよ」
中学の時の俺を知ってる。やっぱり、秋瀬なるは……。
「でもまさか、信じられない。だって俺が告白したあの子はもっとおとなしくて地味な子だったはず」
「そんなこと思ってねーよ! 勝手に代弁すんな!」
「じゃあ、どんなこと思ってたの?」
秋瀬なるは俺の方を見て微笑んだ。あの少女と、全く同じ顔で。
「信じられない。だって、あの子は……」
その次の言葉は出てこなかった。俺は、あの少女の何を見ていたのだろう。秋瀬なるのどこを見ていたのだろう。
「仕方ないよ、私はもうあの頃の私じゃないんだから。でもね、私はすぐに分かったよ。長瀬君があの時告白してくれた不良だってこと。入学式の日、すれ違ったその瞬間から、私はずっと長瀬君のことを意識してた。本当はね、今の私が受け入れられてないって悟った時、元に戻そうと思ったの。でも親友が泣きながら止めるから諦めたんだ。今の私を好いてくれてる人はたくさんいる。その人達を裏切ることはできないって。でも、長瀬君に図書館で見つかった時は相当揺れたよ。嬉しかった。好意を向けられてるのが。だから何も言わなかった、言えなかったの。けどそんな日々を重ねるうちに辛くなってきちゃったんだ。騙してるみたいじゃない。だから出来れば長瀬君の方から気づいて欲しかった。でも秋瀬なるは相当嫌われてたみたいだから、そんな願い叶うはずもなかった。図書館に一緒に行った日、あれは気づいてもらうのとお別れと同時に済ませるつもりだったの。結局どっちも中途半端になっちゃったけどね。ごめんね、紛らわしくて。ちょっと話しすぎたみたい。長瀬君も混乱してると思うからこれくらいにしとくよ。本当はもっといろいろお話ししたかったな。けどもう、お終いだね。最後にこれだけ言わせて」
秋瀬なるは立ち上がると大きく息を吸った。
「黒髪は似合ってるけど一人称僕は無理があると思うよ口調に合ってない!!」
一息で言い切ると肩で大きく息をしながらじょうろ片手に走って裏庭から去った。取り残された僕は一体どうすれば良かったのだろう。
翌朝、俺は物凄く鬱屈した気持ちで校門をくぐった。
「おはよ。今日はやけに機嫌悪いな。やっぱり秋瀬さんに毎朝話しかけてもらえなくなったのが寂しいんだろ。最近、毎日秋瀬さんのクラスに行ってるらしいじゃんか。嫌よ嫌よも好きのうちだったってことか? そして相手にされなくてへこたれてる。どうだ」
「うっせー黙れ。俺に構うな。だいたい、毎日行ってるってどこ情報だよ。そんなのここ一日二日の話だろ」
俺はあからさまに嫌な顔をして絡んでくる友人を投げやりに手で払った。無意識に歩調が速くなる。しかし友人も負けじ歩を速めてついてきた。
「連れないなー。あ、でも行ってたってのは本当なんだ。一切興味示してなかったのに、一体どんな心境の変化が?」
「黙れくそが。お前なんかに話してやる義理はねーよ。俺は俺なりに結論出したんだからほっとけ」
「おー怖。お前そんなだったっけ? つーか一人称、ナチュラルすぎて気づかなかったけど俺にしたんだな。あー、やっと違和感なくなる」
何なんだどいつもこいつも。俺が今まで一生懸命優等生男児になりきろうとしてたのは全て無駄だったって言うのか? あ?
そうだよ本当の俺は雑で野蛮で言葉遣いの汚い元不良ですよ。気性は隠せても治りはしませんでしたよ。ただ誰よりも純粋な恋心を持ってると自負してますよ。
「結局お互い中途半端にまとまるんですね。なんか、分かります」
「本当にな」
背中から突如聞こえた声に、俺は動揺を隠し落ち着いた声で、振り返らずに答えた。友人を撒こうと速めていた歩調を、今度は意識的に緩める。声の主はくすくすと笑いながら俺の隣に並んだ。
「私、黒髪気に入ってるんでもう染めないでくださいね?」
「不良に戻る気はねーよ」
「それは良かったです。私の場合、不良に合うのは委員長タイプかなーと思って試しに挑戦してみたんですけど、逆に馴染みすぎちゃいました。実は敬語の方が話しやすかったりするんで、そこだけ戻してみました。あ、立ち位置はもう変える気ないですけど。いかがです?」
「別に、どっちでも変わらねーよ」
変わらない。一体何が変わらないんだ?
「照れてますね、分かりますよ。あの時と同じ顔してるもの」
「うるせーよ。あの時と同じ心境なんだから仕方ないだろ」
「へー、それってどんな心境ですか?」
俺は、正面に回り込んでいたずらな笑みを浮かべる天使に向かって言った。これは情けない悪魔の叫びだ。
「俺と付き合えよ。合うとか合わないとか、そんなの付き合わずして分かるもんじゃないだろ。お互い行き違うくらいなら最初からこうすべきだ」
「好きな女の子の顔も名前も分かってなかったのに、随分な言いようですね」
「俺は不器用なんだよ」
「分かってます。でも、その分真っ直ぐですよね。だからこそ私は素直な言葉が聞きたいです」
あの頃のおっとりとしていて物静かな彼女は一体何処へ行ってしまったのだろう。まさかこれが俺のせいで新たに開かれた彼女の本性だというのだろうか。
しかし、そんな面にも惹かれてしまった俺がいることを、もう無視出来ない。きっと、阿保みたいに威勢が良くて馬鹿みたいに曲がったことが嫌いで、そのくせ肝心なところで勇気を出せない俺は、俺が最も嫌いだと思っていたタイプ彼女によって変えられていくのだろう。
「好きです。付き合ってください」
俺はしっかりと少女の目を見た。少女も俺を見つめ返す。あの時の不安に揺らぐ視線とは違う、光溢れた眼差し。返事はもう、決まっているだろう。
「はい、喜んで」
少女漫画の読み切りでありそうなお話書いてみました。え、うそ……って思ってしまうよううなことも、二次の世界ならありえちゃうんです! 珍しく男主人公ですが、このちょっと抜けてる感じ、どっかの作品の彼に近視感を覚えました。私は男主人公になると途端に話が破綻するな、とつくづく思います。
でも、箸休め程度の気楽に読める作品にはなったかなと。暗い話ばっかだとつかれちゃいますもんね。作者が。
ここまで読んでくださりありがとうございました。連載作品の方もよろしくお願いします。
それではまた。
2015年 5月日26 春風 優華