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「ほんと、何でもかんでも壊すよな太一は。ゲームでも、窓ガラスでも、常識でも。」

「あと、一度貸したものはだいたい戻ってこないね。ラジコンとか漫画とかお金とか…君も気をつけた方がいいよ。」

「私はそもそもとられて困るものがありませんにゃ。でも心にとめておきますにゃ。」

「それと、大食いだから一緒に食事をするのもおすすめできない。横取りされるからな。」

「カラオケは命取りだね。耳栓なしは拷問に等しい。」

「待ち合わせは30分遅れるのが当たり前だな。こっちが遅れるとめちゃくちゃ怒るけど」

「お二人とも、にゃんだか悪口合戦になってきてますにゃ」

「あとトイレが長い。」

「声がでかいな。遠くにいてもすぐわかる。」

 イズモはやれやれという顔で空になったコップを持ち台所に下がる。

「褒め言葉にやたら弱いね」

「手汗がすごい」

「デブっていうと怒るよ」

「デブで済むレベルじゃないよな」

「会うたびに顔がでかさにびっくりするんだよな」

「フルフェイスのヘルメットが取れなくなったときは笑いこらえるのに必死だったなあ。」

「ハハ、ありゃ傑作だった。まだバイクの免許も持ってないのに」

「なるほど。てめえら心の中じゃそんなふうに思ってたのか。」

「…」

「…」

 まるで冬眠から目覚めたクマのように太一がのっそりと起き上がり、顔にかかったタオルを取って俺たちをにらむ。

「やあ太一、気がついたんだな」

「ほんと、よかった元気そうで」

 上ずった声で話をそらそうと試みる。しかしたとえ単細胞の野獣といえどもこんなお粗末なごまかしは通用しない。

「別にいいさ、思ったこと口にしたって。ただ、お返しはきっちりさせてもらうがな」

 かまえたこぶしがボキボキとえげつない音を立てる。

「イ、イズモ、助けろ!」

 台所のほうを見るとイズモは夢中で冷蔵庫を物色している。耳はよかったんじゃないのかよ!澄明は…澄明がいない!!あいつ逃げ足だけは速いんだよな…

「待て待て、確かに気分悪くしたのは謝るよ。でも暴力はいけない。田舎のお母さんが泣いてるぞ」

「るせえ!それほど田舎じゃねえよ!」

「…ですよね、知ってました」

 冗談で怒りを緩和する作戦失敗。なんか他に気をそらすものは…いるじゃないか、目の前に!

「あのさ太一、頭に血が上ってるのはわかるけど、近くにあんな生き物がいるんだからちょっとは気にしようぜ。」

「あんな生き物ってなんだよ?」

「そこでスルメを持ってるネコ人間だよ!」

 俺がビシッと指差した方を太一が見る。太一の真後ろに、父さんの好きな「あたりめちゃん」大袋を大事そうに抱えたイズモが立っていた。視線は耳、しっぽ、そして全体へと移る。

「…誰だよ」

「イズモと申しますにゃん!さっきはいきなり蹴飛ばして申し訳なかったですにゃん。」

「先に言っておくけどこいつは彼女でもなんでもない。」

「なんでもにゃくはないにゃん!イズモは伸之様の家政婦として雇われておりますにゃ。」

「雇った覚えはない!」

「(未来の)伸之様にちゃんとお金ももらってますにゃん。この格好は(未来の)伸之様の趣味で、(未来の)伸之様には大変満足していただいておりますにゃん」

「ややこしくなるから余計なこと言うな!」

「大事なところをかいつまんで言っただけにゃのに…」

 こいつ、部屋に閉じ込めたこと根に持ってるな?このままじゃ相手の怒りをあおるだけだ。焦って太一を見ると、不気味な沈黙をしている。長い前髪で隠れた目には今までにない種類の感情が宿っているようで、寒気がした。おもむろに口が開く。

「伸之」

「な、なに?」

 イズモに背を向けるようにしてでかい顔を寄せてくる。こ、こええ!

「なんであんな子がお前んちにいるんだよ」

 こんな巨体でもひそひそ声は出せるんだな。イズモは耳いいからあんまり意味ないけど。

「俺が聞きたいくらいだよ。突然現れてわけのわからないことを言い出して…」

「さっき俺を蹴飛ばしたってのは本当か!?」

 ごくりとつばを飲み込む。

「仕返しなら本人に直接やってくれ。俺は悪くない」

「バカやろう!女に手出せるわけねえだろ!」

 鎖骨をど突かれた。わりと痛い。

「太一にそんなポリシーがあったとは知らなかった。でもあいつ強いから遠慮する必要はないと思う。」

「そういう問題じゃねーよ!」

「じゃ、どういう問題だよ?」

 太一は言葉につまってそっぽを向いた。心なしか顔が赤い。

「まさか、一目惚れしちゃったとか?」

 冗談半分で言ったらすごい形相で睨まれた。…おいおい、冗談は顔のでかさだけにしてくれよ!

「おいコラ、なにニヤニヤしてんだよ」

「してないしてない。いや、こんなこと今までになかったから珍しくて」

「そんなんじゃねえよ!!」

 ゴフッと肋骨にもう一撃。照れ隠しでも暴力振るうのかこいつは。

「自分より強いやつに興味があるだけだ。いいか伸之、さっきのひそひそ話はチャラにしてやるから、なるべく好印象を持たせるように俺のことを紹介しろ」

「そんな無茶な。友人の首絞めてるところに遭遇したんだぞ?」

 ついでにどんなやつかってこともあらかた話してしまったし、今さら紹介とかする意味も…

「俺様の頼みが聞けないってのか?」

「はいはい、わかったよ」

 俺はため息をついてイズモに向き直った。


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