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「見ての通り、俺たちはひょろっとした体形だし、身長も高くない。これでも高校生になってだいぶ成長したんだけどな。小学校高学年ぐらいのころまでは、よく背の順で前から1、2番目を争ったもんだ。でもって二人とも運動は得意じゃなかったし、どっちかと言えば大人しい部類だったから、よく周りのやつにからかわれていたんだ。そこへ太一が転校してきた。確か小3だったか?」

「2年生の終わりごろだよ。」

 澄明が訂正する。

「そうそう、中途半端な時期だった。小さな学校だったし、うわさはたちまち広まったよ。」

「にゃるほど、それで太一様がお二人をいじめっ子から救ったわけですにゃ?」

 俺と澄明は目を合わせ、ほぼ同時に吹き出した。

「確かに、この流れだったらそう考えるよな。でも残念ながら違う。」

「にゃんと!てっきりハートフルなお話かと思いましたにゃん。」

 俺は大山のごとく横たわる太一を見た。

「太一は小学生にしては体は大きかったし、性格もこんな感じで横暴だから、みんな恐れをなしていたよ。前の学校で何かやらかしてきたんじゃないかってよくささやかれていた。太一は陰口を聞くたびに怒って騒ぎ起こすから、それはだんだん真実味を増してったよ。もちろん俺たちも恐いと思ってたけど、なるべく近づかないっていう方向で対処してた。ところがある日、クラスのリーダー格が殊勝なこと言いだしてさ。」

「“俺たちの平和な教室にやってきた怪物をやっつけようぜ”みたいなことだったね。それまでが平和だったかって言われると僕たちにはすごく疑問だったけど。」

「そうそう。で、太一以外のクラスメートで集まって作戦会議になった。全員じゃないけどそれなりの数いたな。俺と澄明はさっさと逃げるつもりだったんだけど、気づいたら連中に囲まれてた。そこでリーダー格が提案してきたんだ。俺たちに作戦のいちばん重要な役割を託すから、もし成功したら今後いっさいいじめないでやるってな。」

「卑怯なやつにゃん!」

「まあそうなんだけどさ、俺たちにとってはけっこう魅力的な提案だった。小学校生活はまだ4年も続くけど、いっとき危険を冒せば平穏が手に入るかもしれないんだからな。むしろターゲットがほかに向いてくれるなら好都合と思ったわけさ。」

「殺生なやつらにゃん!」

「だな。」

「あっさり認めすぎにゃん!」

「お前が言ったんじゃないか…」

 一呼吸おいてジュースを飲む。

「作戦ていうのは、悪口を紙に書いて机の中に入れておくっていうシンプルなものだった。作戦とも言えないな。俺たちの役目はその紙を太一の机の引き出しにこっそり入れることだった。見張りならそこらじゅうにいたし、簡単にやり遂げたよ。」

「そのあとはひどかったけどね。」

「ああ。いたずらに気づいた太一がキレて、机をひっくり返したんだ。まずいことに先生もその場にいなかったから、というかその時をねらってやったんだけど、誰もあの巨漢相手に太刀打ちできるやつがいなくてさ。誰がやったんだってものすごい剣幕でどなりちらす太一に恐れをなして、リーダー格がついにばらしちゃったんだ…俺たちの名前を」

「予想はしてたけどね。」

「腹が立ってきましたにゃん!ちょっとその主犯の名前を教えてほしいにゃん!」

 イズモは片方の手をこぶしでたたいた。好戦的なところは太一にも引けをとらない。

「聞いてどうすんだよ。もう何年も前の話だ。それに、やってることはそいつも俺たちも大した差はなかったしな。結局俺たちは太一にぼこぼこにされて、先生たちが駆けつけたころには誰が見ても太一が悪者になってた。事情を聞かれたときに本当のこと言えばよかったんだけど、そうしたらかなり気まずい立場になるのは目に見えてたから、とにかくふざけて遊んでただけだって言ったんだ。先生は明らかに信じてなかったけど、俺たちが頑としてゆずらないんで結局それで収まった。クラス全員がほっとしたことだろうよ。」

「でもそれじゃ、お二人とも殴られ損にゃ!」

「それがそうでもなかったんだよ。」

 あのときのことを思い浮かべる。大昔のことのような気もするし、ついこの前のことのような気もする。

「あの事件以来俺たちに対する嫌がらせがぴったり止んだんだ。一目おかれるようになったというよりは、本気で人が殴られるのを目の当たりにして怖気づいたって感じだな。」

「自分たちのしてることがいかに小さいかってことに気づいたんだよきっと。」

 澄明がしみじみと言いながらポテチの袋を開ける。

「かもな。で、何となく太一の後をついていくようになった。」

「にゃっ、ぼこぼこにされたのににゃんで?」

「何でかな。少しあこがれてたのかもしれない。こいつ何でも正面からぶつかっていくし、気に入らないものは片っ端から蹴飛ばしてくから。」

「あと、太一の後ろはみんな道をゆずるから歩きやすいんだ。」

「そうそう。最初はこそこそやってたけど、太一が突然振り返ってにらんでさ、どういうつもりなんだって聞いてきた。」

「正確には、“後ろから二人がかりでねらうとはいい度胸だな”だよ」

「よく覚えてるな…で、なんて答えたんだっけ?」

「伸之は仕返しするつもりなんかないって縮こまって謝って、“度胸がないからこっそりつけてるんだ”って僕が言ったんだ。そしたら太一は鼻で笑って、何事もなかったみたいにまた歩いて行っちゃった。僕たちはまた後をつけたけど、今度は何も言ってこなかった。弱そうだし無害だと思ったんだろうね。」

 イズモは熱心に聞き入っている。

「それで何となく一緒にいることが増えて、何となく中学、高校と一緒に過ごしてきた。」

「もはや何となくではすまされない仲の良さですにゃん。」

「腐れ縁てやつだよ。」

「そうだね。楽しいよりも腹立つことのほうが多いよ。いろいろ壊されるし」

 澄明もうんざりだという顔をしてみせたが、俺たちは知っている。事件後、しばらくの間太一が俺たちの周りのやつに睨みをきかせていたことを。たぶん太一もわかっていたのだ、主犯が俺たちじゃないってことは。


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