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「伸之様、大丈夫ですかにゃ?」

「…大丈夫に見えるか?」

 やっとそれだけ返し、涙目で額を触る。痛みとともに温かいぬるっとした感触があった。

「大変、血が出てますにゃ!!救急箱はどこですにゃ!?」

 洗面台の近くの棚だと答えると、イズモはすっ飛んでいった。ものの1分で戻ってくる。救急箱のほかに洗面器とタオルまで用意してあった。

「さあ、その手を離してくださいにゃ!」

「い、いい、自分でやる」

「自分の目じゃ見えませんにゃん」

 イズモはタオルをひたして絞り、丁寧に傷口を洗った。痛いけれど悲鳴はあげるまいと必死だった。それからほかに両目に異常がないか調べ、安堵したようにうなずいた。

「しばらく青あざが残りそうだけど、問題なさそうですにゃ。」

 ガーゼを当てた上からテーピングされる。しかしこれは…

「もうちょっと別の貼り方があっただろう」

 バッテンに貼られた白いテープをなでながら言う。

「二箇所止めておいたほうが確実ですにゃん。」

「漫画みたいだな」

「手当てする前のほうが漫画みたいでしたにゃん。ど真ん中がぷっくりふくれていましたにゃ。翔子様という人の腕、かなりプロってますにゃん。」

「小学生のころとはいえ野球をやってたからな。いいピッチングだってよく監督にほめられてた」

 それが気に障って辞めたわけなんだが。

「こちらはどうされますにゃん?」

 イズモが翔子のケータイを差し出す。

「ほとぼりが冷めたころに返しに行くよ。ないと困るだろうし、今日中には行かなきゃならないかあ…いったいどんな顔して渡せばいいんだ」

「どんな顔してもおでこのバッテンマークは変わりませんにゃ」

「こいつ、確信犯か…もしかしてさっき俺のすぐ後ろに立っていたのも」

「違いますにゃ!伸之様の雄姿をしかと見届けようとしていただけですにゃん!でもあんにゃ反応するとは思わにゃくて…」

「おかげで俺は大ケガしたけどな。肉体精神、両面で」

 イズモはがっくり肩を落とした。

「申し訳ありませんにゃん!伸之様は何も悪いことしてにゃいのに、私のせいですべてをぶち壊してしまいましたにゃん。やはり、私が事情を説明して謝ってきますにゃん!」

「待て待て、お前が行ってもよけいこじれるだけだ。…悪かったよ、さっきのは八つ当たりだ。お前がいてもいなくても結果は大して変わらなかったんだ。まあ、おでこに傷を負うことはなかったと思うけど」

 イズモは首を振り否定する。目には涙がにじんでいた。

「私さえいにゃければ、翔子様はきっといい返事をしていたと思いますにゃん。」

「そんな顔するなって」

 目のやり場に困り、箱ティッシュを差し出す。

「お前がいなかったら、告白する気にもならなかったんだ。おかげで少し吹っ切れたよ。ありがとな。」

 イズモは涙を拭きチンと鼻をかんだ。ごみ箱にポイッとシュートしてうまく入ると、笑顔に戻っていた。

「伸之様、うな重の件は忘れにゃいでくださいにゃん!」

「げっ、忘れてた」

 なんて切り替えの早いやつだ!しばらく財政難が続きそうだな。

 とか思っていると、我が家のインターホンがタイミングよく鳴った。

「やべ、澄明と太一だ!」

「お友だちですにゃ?お茶をいれてきますにゃん。」

「ちょっと待った!」

 救急セットをまとめいそいそと下へ行こうとするイズモのしっぽをつかむ。

「いぎゃっ!しっぽはやめるにゃん!!」

こいつ、弱点あったのか。

「お前は何もするな」

「お客様にお茶を出すことの何が不満なのですにゃ?」

「それは別にまずくない。が、やつらとは彼女のいないものどうしずっとつるんできたのに、今俺の家にはネコ耳家政婦がいると知られたら、非情にまずい。」

「一から説明すればいいですにゃ」

 ピンポーン

「あんな突拍子もない話で納得するバカがどこにいる!!」

 ピンポーン

「伸之様はバカじゃにゃい!ちょっと柔軟なだけですにゃ!」

 ピンポーンピンポーン

「すべて鵜呑みにしたわけじゃない!ただ、ほかにうまく説明できないからとりあえず話に乗っただけで…」

 ピンポンピンポンうるさいなもう!!

「とにかく、もし仮にお前の話を信じたとしても、お前がネコ耳少女っていう時点でアウトなんだよ!いくら雄弁に説明したって俺はリンチにされる。あいつら敵に回したら俺のつつましくも平和なスクールライフが消し飛ぶんだ!な、俺のためを思って大人しくこの部屋に隠れていてくれ!」

 イズモは目を丸くして聞いていたが、やがてあきらめたようにため息を吐いた。

「せっかく伸之様のお友だちと会えると思ったのに、残念にゃ。でもそこまで言われたらいたしかたないですにゃん。大人しくここに閉じこもって掃除でもしてますにゃ。」

「ああ、頼むよ」

 俺はホッと胸をなでおろした。なんとか今日は生き延びられそうだ。

「でも伸之様、どうせバレるんだったら早いほうが傷が浅いと思いますにゃん」

 イズモはそう言い残し、部屋の引き戸をパタンと閉めた。恐ろしいこと言わないでくれ!

 ピピピピピピピピピピンポーン

「ああもう、今行くっつーの!!」


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