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「イズモ、こいつは俺の友だちの太一で、それはそれは頼りになる男だ。」

「さっき伸之様と澄明様がしゃべっていたから知ってますにゃ。ケンカっ早くて多汗症で顔のデカいの太一様ですにゃん」

 さすが、すべてお耳に入っていましたか。隣から凍てつくような視線を感じる。でも、負けない!

「あのな、あれは言葉の綾で、言い換えれば男前で新陳代謝がよくて存在感があるってことなんだぞ」

「じゃあトイレがにゃがいのは?」

「うっ…きっと大食いだからだ。よく食べるのは元気な証拠だろ」

「にゃるほど。でも音痴はどう考えても褒め言葉ではにゃいんじゃにゃい?」

「ど、どんな歌でも自分の旋律を奏でられるなんて天才だと思わないか?」

「ふむ、これはもうひとつの才能ですにゃ。」

「だろ?太一は並はずれた人間なんだよ」

 いろんな意味で。

「いえ、伸之様の言語変換能力のことですにゃ。」

「俺のせっかくの苦労を無駄にするな!」

「そんなつもりはありませんにゃ」

 イズモはニッと白い歯を見せて笑った。

「太一様、私を子分ではなく友人として仲良くしてくださいますかにゃ?」

「も、もちろんですよ!いや、むしろこっちが子分にしてほしいぐらいで…」

 太一は腕を組みながらガッハッハと不自然に笑った。敬語を使ってる太一?新鮮というよりも気持ち悪い。それほどの影響力があるとは、キメラとは恐るべき生き物だ…それよりよかった、無理やりすぎるフォローに鉄拳が飛んでこなくて。

「伸之様、無事みなさんとお友達ににゃれたところで、お祝いのパーティーにゃどいかがでしょう?」

「お前はそのあたりめちゃんが食べてみたいだけだろ?」

「さすが、お見通しにゃん!」

 イズモがぴょんぴょん飛び跳ねると、袋の中がガシャガシャ揺れた。太一はそれをぼーっと見つめている。俺は何かを後悔した。

「澄明、もう安全だから出てこいよ。」

 廊下に向かって呼びかけると、プレーリードッグのごとくひょっこりと澄明が現れた。

「僕は初めて君を尊敬したよ。あの太一の怒りを鎮めるなんて」

「長い付き合いなのにこれが初めてか!まあほとんどイズモの力だけどな。かえって面倒なことになりそうな気もしてきたし」

「いやいや、上手くいけばあの子が太一をまっとうな人間にしてくれるかもしれないよ。」

「まっとうなねえ…あいつの身の上話聞いたらそうも思えないかもな」

 澄明は俺の言葉を聞き流し、意気揚々と居間のテーブルに腰かける。しかし太一が有無を言わさぬ調子でイズモにソファーをゆずったので隣り合わせになったうえに、座椅子を横取りされた。苦笑いで新たに客用の座布団を出す。

「まあまあイズモさん、まずは一杯ぐいっと行きましょう!こっちにお菓子もありますよ」

「私はどちらかというともてなす側にゃんで、どうぞお気遣いにゃく…って伸之様、にゃんですかこれは!!」

 イズモはがっつくようにお菓子ののった皿を見る。

「ウナギーパイだよ。今さら気づいたか」

「世の中にこんなものがあったにゃんて!私はにゃんと世間知らずだったのでしょう!!」

「こういうお菓子が好きなんですか?」

 太一が慣れない敬語で言う。

「お菓子というより、ウナギにとっても興味がありますにゃ!」

「君、その格好といい言葉づかいといい変わってるよね」

「おい、イズモさんに失礼だろうが!わきまえろ!」

 君こそ友人に対してもっと気を遣うべきだと澄明がもごもご言う。まあまあとイズモがなだめると太一はしぶしぶ引き下がった。恋の病の進行速度は恐ろしい。

「この時代で変なやつと思われても仕方ありませんにゃん。私は未来からやってきたネコ型キメラにゃんです」

 澄明はポカンとしている。当然の反応だ。太一はどこまで本気なのかわからないが「へえそうなんですか」と相槌を打っている。たぶん深く考えてないだけだろう。そしてイズモは引き出しから出てきて俺にした突拍子もない話を再度披露した。どういうわけか最初に聞いた時よりも本当らしく聞こえた。この短時間に感覚が麻痺してきたらしい。未来の俺の心残りが何だったかという点をうまくかわしてくれたことには感謝しておこう。

「…というわけで、私は伸之様のもとに参ったのですにゃん。」

「うん、なんというか…個性的な子だね」

 澄明は言いながらちらちらとこちらを見た。俺は肩をすくめる。

「俺にはよくわかりませんけど、主人のためにわが身を犠牲にするなんてすごいっすよ。マネできませんね。」

 だろうな、太一には一生できない行動だろうよ。

「別に犠牲になったつもりはにゃいですにゃあ。半分自分のために来たようなものにゃんで。」

「目的を達成するためには手段を選ばないところもすごいっすよ」

 太一は腕を組みうんうんとうなずいている。知能の発達したゴリラのようだ。

「さて、私のつまらにゃい話はこの辺にして、もっと面白いことをしませんかにゃ?」

「つまらないなんてとんでもない!」

 太一がブンブンと手を振る。

「あまり合理的じゃないけど、どっちかというととても興味深い話だったよ。」

今度は澄明も同意したようにうなずいた。

「それはうれしいかぎりですにゃ。しかし私はホストとしてみなさんをもっと楽しませたいのですにゃ。」


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