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我らは過去を食らう猫(モノ)  作者: 実音(みおん)
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クロヤ=ノワールの考察


シュマンの初仕事は、結構急な事だった。


シュマンはジュネスと共に町の市場に来ていた。この町は大抵の所が寂れて人通りが少ない所が多いのだが、町の中心部、大きな広場には沢山の人が住み着き、商売をしている為、人通りが異常に多い。


この町は、かつては旅人が旅の途中で訪れる休憩所の様な所であり、外国の文化が混じり合っている。公用語は主に英語だが、世界のどの語を話しても言葉が通じるという点があり、世界中の商人達が住み着いたのだ。それがなぜ町の中心部だけなのかは不明だが…。


シュマンは人混みを見て小さなため息を吐いた。人混みは苦手だと言うシュマンを横目みて、ジュネスは「大丈夫?」と声をかけた。


「やっぱ、別の日にしておく?今日はいつもより人が多い気がするし…」


「すみません…。でも大丈夫です。行きましょう」


シュマンは引きつった笑顔をジュネスに向け、一歩を踏み出した。


その瞬間、何かが自分の行く手を阻む。


長い髪の毛を引っ張られて振り返ったら、ジュネスが不思議そうな目でシュマンを見ていた。


いや、シュマンを見ていたのではなく、シュマンの目の前にいる存在を見ていたのだ。


「…コウモリ…?」


シュマンの目の前の黒い物体、コウモリは足の爪でシュマンの髪を一房掴みながら忙しく飛んでいる。そして「きょ!きょ!」と鳴くと、煙と共に手紙に変化した。


「…な、なんなの?これ?」


驚いた様子でジュネスが尋ねる。


「これは…クロヤさんのドラキュットの能力ですね…」


ドラキュット(正式名称は吸血猫(バンプァイアキャット))の特性は、吸血・永年の他にも、物をコウモリと化し運搬したり、コウモリを手下に持ったりとコウモリを使う能力がある。


こういう所はクロヤさんもドラキュットなんだな…とクロヤの中身は白兎だと思っているシュマンは思った。


「手紙が来たってことは保護施設関係かな…」


シュマンは手紙を開けて中身を見ると、急に驚いた様な表情になった。


『全ての希少種猫保護施設関係者に告ぐ。最近この地域に猫狩りが出現しているという情報を得た。希少種猫と行動している保護員は希少種猫を守り、手が空いている保護員は逃げ遅れている希少種猫を探し、他の保護員の手助けをする事。我も中央広場へ向かう。猫狩りに注意するように。


クロヤ=ノワール 』


手紙の内容は以上の通りだ。


「ジュネス姉さん!今すぐ保護施設へ行きましょう!猫狩りが出現したようです!」


「え、ええ…!」


シュマンは冷静にジュネスを保護施設へ送ると、再び中央広場へ向かった。


人が多い。何処に猫狩りがいるか分からない。


警戒しながらまだ避難していない希少種猫がいないか探す。


普段、人混みは苦手なシュマンにとっては、人混みの中を歩くのは疲れる事だった。


人混みから一旦離れ、ベンチに腰を下ろす。


「はぁ…疲れた…」


ため息を吐き、ぐったりと体の力を抜く。かなり疲労したようだ。


知らない内に、シュマンは眠ってしまった。










「…ァ……」


耳元で誰かの声がする。


「…ヴァ…エイヴァ…」


女性の声…?


「愛しいエイヴァ…ずっと、側にいておくれ…」



「シュマン…!」


「!!」


ガバッと起き上がると、目の前にクロヤの顔があった。そして案の定、クロヤは飛ばされる。


今回は15mぐらいだろうか…


「シュ…!シュマン!!急に起き上がるでない!!我は…!」


赤面しながら焦りを露わにして言うクロヤ。


「す、すみません…クロヤさん…!」


少しだけ吹き出しそうになったが、それをなんとか抑えて謝る。過去3回も飛ばされている所を見るとなんだか笑えてくる。


「…お主、何故笑っているのだ?」


「あ、すみません…!!」


シュマンは自分の口を隠す。無意識でニヤついていたようだ。


「…で、怪我はないか?いつも初仕事は誰かと一緒にしてるのだが、急な事だったのでな…大変だっただろう」


「い、いえ…大丈夫です。ちょっと人酔いしただけですから…」


シュマンはニッコリと笑って答える。その笑顔は若干疲労しているようにも伺えた。


「まあ、後の事はやっておくから、シュマンも保護施設へ戻るといい。エスポワールに連絡を入れておく。奴を頼れ。よいか?」


「あ、はい…。ありがとうございます」


お礼をすると、クロヤは少しだけ顔を赤らめた。嬉しそうな顔だ。


「良いのだぞ、礼なんか…。 !!」


クロヤは途中で話を止めた。そして遠くの方を睨む。


シュマンもそっちの方向を見てみると、家の角からこちらの様子を覗いている人物を見た。


猫狩りだ。


「猫狩りか…!シュマン!気をつけろ!」


こちらにバレたのが分かったのか、猫狩りはジリジリと近寄ってきた。


「…シュマン、ここは我がいく。シュマンは保護施設に伝えてくれ!」


「で、でも…」


クロヤのあの全身に渡る傷跡を思い出した。不自由なクロヤにとって、猫狩りを仕留めるのは苦しい事だと思った。


「…我は大丈夫だ。こんな傷跡で体が動かないのなら、今頃保護員長なんて勤めていない」


クロヤはそう言うと、猫狩りの元へ駆けて行った。









この光景を一言で言うと、「一瞬」だろうか。


シュマンは目の前の光景に目を見開いた。


猫狩りが倒れていて、その上に黒い長身が乗っかっている状態。


クロヤの口元にはその猫狩りの血が付いている。


「…どうしたのだ?シュマンよ。驚いているようだが…」


ニコッと笑いながらクロヤは言う。いや、ニコッというよりニヤッとした笑顔だ。少しだけ寒気がした。


「あはは…ちゃんと吸血鬼してる…」


若干引き気味にシュマンは言う。


クロヤは口に付いた血をハンカチで綺麗に拭き取り、真顔でシュマンの方を見た。


「お主、過去は食べないのか?」


「え…?」


突然のことに、シュマンは驚く。


「エスポワールなら、いつも猫狩りを仕留めた後、過去を食べていたのでな…あれはエスポワールだけか?」


「あ、はい…。私は過去を食べるのは最低限にしていますし…」


まだ少しだけ抵抗がある。といったらどんな反応をするだろうか…。


「そうなのか…」


(そういう所、ミヴェルに似てるな…)


無意識にミヴェルと照らし合わせてしまう。クロヤは考察していた。


(もしかしたら…シュマンがミヴェルの言う「エイヴァ」なのだとしたら…)


シュマンは黒髪、「両性」の種族。そして、「過去を食らう猫」。


どれもがミヴェルと一致している。


クロヤは深く深呼吸をして、思い切ってシュマンに尋ねてみた。


「シュマン…ミヴェル=ソワールという名に、心当たりはあるか?」


「え…?」


案の定、シュマンは驚き戸惑った表情をする。


「…うーん、心当たりないですね…誰ですか?その人」


今になってクロヤは気づいた。


シュマンの過去の記憶は、師匠が食べてしまったことを。


「…そうか、ならなんでもない」


「そうですか…」


クロヤはシュマンにバレない程度にため息を吐いた。


何故自分がミヴェルの為にここまでやらなくてはならないのか。


元々はあいつが撒いた種だろう?


クロヤはミヴェルと関わってしまったことを少しだけ後悔した。










暗い夜の事だろうか。


クロヤは自分の所属する希少種猫保護施設α(アルファ)基地からほど遠い見慣れない町の夜道を歩いていた。


この町に絶滅しかけている数少ない希少種猫が潜んで住んでいるという情報を聞きつけ、保護員長自ら様子を見に行ったのだ。


要は吸血猫(バンプァイアキャット)は血の味で種族が分かるという能力も持っているから行ってこいとβ(ベータ)基地の保護員長から言われたからだ。


「β基地にも吸血猫(バンプァイアキャット)の保護員はいるはずなのに…何故なのだ…」


そんな愚痴をこぼしながら、β基地へ向かう。実を言うとβ基地の基地長とはあまり仲がよろしくない。そのこともあってか、クロヤの気持ちは最悪だった。それに今日は雨も降っているから、余計に気持ちが落ち込んだ。


ふと家の角を曲がった時、地面にうずくまっている男性を見つけた。


その男性は、β基地の保護員の証の白い腕輪をつけていた。β基地の保護員のようだ。


「お主、大丈夫か?怪我は…」


声をかけるとその保護員はクロヤの方を見た。


顔には酷い火傷の跡がある。それが先づ印象に残った。


「すみません…足を(ひね)ってしまって…少し休んでたんです…」


右足首を摩りながら男性は言う。


その右足首を見てみると、赤く腫れていた。


「この怪我は捻ったじゃ済まないだろう…!?明らかに骨折してる…!保護施設に連絡を入れるから大人しくしてろ…!」


クロヤはそう言い、β基地へ向けて自分のコウモリを放ち、そして自分の服を裂いて近くに落ちてあった木の枝と一緒に男性の足首にくくり付けた。


そのあまりにも素早い応急処置に男性は目を見開いた。


「…す、すみません…」


「これぐらいどうってことはない。保護員を守る事も保護員長の役目だからな」


「え…保護員…長…?」


男性は驚いた様子でクロヤの方を見た。てっきり自分の事を知っていると思っていたクロヤも、流石に驚いた。


「…我は希少種猫保護施設α基地長、クロヤ=ノワールと申す。吸血猫(バンプァイアキャット)だ…。我の事は知っていると思ったのだがな…知らなかったのか?」


「すみません…ここに来てまだ日が浅いですから…」


男性はハハッと笑いながら言う。愛想笑いをよくする奴だなぁとクロヤは思った。


「お主は、なんの用でここに居てるのだ?」


クロヤが問うと男性は暗い顔をした。


「エイ…僕の弟を捜しているんです…。弟も僕と同じ希少種猫で、幼い時に生き別れてしまって…、エイヴァは、今も僕の帰りを待ってるから…!」


男性は力強い感情を込めて言った。「こうしてる場合じゃないのに…」と自分を急かしさっきまでの落ち着いた様子は見られない。


クロヤはその男性の弟を想う心に感動してしまった。手を貸さざるにはいられなかったのだ。


「青年よ、その弟捜し、手伝わせてはくれまいか?」


「…いいんですか…?」


男性は驚いた様子だ。


クロヤは少しだけ昔の事を思い出してしまったが、感情をぐっと堪えて男性に向かって優しく微笑んだ。



…後になって後悔した。このやり取り全てが嘘だということに。


ミヴェルの弟を想う心も、ミヴェルの本来の心ではない事は知っている。


(エイヴァ)をこんなにも想う心は、愛情などではないのだ。


兄弟愛という愛情とはまた違う愛情、過去に囚われた愛情だということに、ミヴェルはいつ気付くだろう。


クロヤは再び、ため息を吐いた。










「え?シュマンの過去?」


保護施設内の小さな図書館、そこで本を読んでいた師匠に、クロヤは尋ねた。師匠は頭を抱え、考え込む。


「うーん…シュマンの過去なぁ…。俺色んな過去を食ってきたから特定の過去は曖昧なんだよなぁ…」


「どんな些細な事でもいい。頼む」


師匠は困った顔をして、しばし考えた、が、なかなか思い出せない。


「シュマンの過去って言ったら殺人鬼の頃の印象が強いからなぁ…。なぜシュマンの両親が殺されたのか、その犯人すらも顔が思い出せねぇ…」


シュマンの過去を振り返ると、何らかの理由で両親を殺され、その憎しみと悲しみから自分も殺人鬼化して、そして師匠と出会うまでずっと犯人を殺そうと、無意識に他人を殺していたのである。


「わりぃ!思い出せなかった!すまんな!」


「いや、別に構わないのだ。急ですまなかったな、ありがとう」


クロヤは少し残念そうな顔をして図書館を出て自分の部屋へ向かって行った。


その後ろ姿を横目で見て、師匠は今一度考えて見た。


ふと、脳裏に幼き日のシュマンの記憶が映る。


目の前に誰かがいる。ぼんやりとしていて特徴が掴めないが、確かに誰かがいる気配はする。


その人はニコニコと微笑んでいる。


『ー、君は可愛いね』


その人物が言う。


「…誰だ?お前…」


師匠はシュマンの中のその人物に話しかけた。








バタンッとドアを閉める。


ため息を吐いてクロヤは椅子に腰を下ろした。


「…アレしかないか…」


クロヤはダルそうに机の資料を探り、一冊のファイルを取り出した。


クロヤはずっと、このファイルの中身を見たくはなかった。


このファイルは昔、猫狩りのアジトに忍び込んで盗んだという資料の数々が挟んである。


その内容はこれまで売られた希少種猫の名前と、その目的とが書かれたものだった。


「…ちゃんと現実(まえ)を見ろ…過去に囚われるな…!」


クロヤがそれを見るのを嫌がった理由。それは、自分の名前が書かれてあること。


『クロヤ=ノワール ◯◯宗教団体の生贄として売る』


思い出したくない過去だ。見ているだけで吐き気がする。少しだけ、胸元にある古傷が痛んだ気がした。


込み上げてくる苦しみをぐっと堪え、ページをめくっていく。そして、あるところで手を止めた。


「保護施設の保護員だから可能性はあると思ったが…やっぱりか…」


そこのページにはあの黒髪の人物の名が書かれていた。そして、その弟の名も…


『ミヴェル=ソワール,エイヴァ=ソワール 人形目的として売る』


人形目的…?


「…ああ、やっぱりか…」


ミヴェルのあの様子から推測できた。


「ミヴェルは、()をモノとしか見ていないようだな…」


クロヤはそう言い放った。















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