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我らは過去を食らう猫(モノ)  作者: 実音(みおん)
8/30

愛狂、そしてまだ見ぬ真相

…熱い。


…身体中が熱い、痛い。



顔半分を火で燃やされながら、あの人を見る。


酷く泣き叫んでいる。周りには、炎が上がっている。


「…や…嫌だ…!嫌だ!!」


頭を抱え叫ぶ。この声はあの人に聞こえているのだろうか…


苦しみと悲しみの中で、目を覚ました。


「…エイヴァ…」


あの人の名を呟く。


額には汗が流れている。


「…ああ、またか…。僕は…」


額の汗が、涙に変わった。









「ちょっ…!シュマン!こっち来い!」


「どっどうしたんですか!?急に…」


資料と睨み合いっこをしていた師匠が唐突にシュマンを呼んだ。師匠は凄く急いでいるようで、言葉がひとつひとつ早口になる。


「ずっと言うのを忘れてた…クロヤからの伝言だ!」


「クロヤさんから?」


師匠は深く深呼吸をし、落ち着いてから真剣な顔でシュマンに聞いた。


「シュマン、俺と同じ、保護施設の保護員にならないか?」


周りが急に静かになる。


シュマンは師匠の言葉の意味を理解するのに、時間がかかってしまった。


変な緊張感がシュマンを襲う。


「そんなに深く考えなくていいぜ!てか今日クロヤに伝えなきゃなんねーんだ!すまない!!」


今日中に決めなきゃいけないのか…


こんなにも早く将来の事を決めなきゃいけない時が来たのか。シュマンはまだ心の整理がついていなかった。今まで、生きているので必死だったから。


「保護員になりたいという気持ちはあるんです…。でも私は…まだ未熟者で…」


「俺が見るにシュマンはもう一人前だ。ちゃんと今持ってる完璧を分かっているし、実行出来ている。だから心配する必要は無いと思うぞ?」


シュマンの遠慮関係なく師匠が言う。


シュマンはしばらく黙り込んだ後、口を開いた。


「…私、保護員になります!」


勢いよく返事した。師匠はそれを聞き、ニッコリと満面の笑みで笑った。


「よし!ついてこい!保護施設に挨拶に行くぞ!」


そう言いダッシュする師匠。身体が子供だからなのか、結構速い。ふと空を見上げてから、師匠を追いかけた。


あたり一面、星空だ。


軽く決めてしまったが、大丈夫なのだろうか。


8部の期待と2割の不安がシュマンの中に存在した。


「あ、シュマン。保護施設での挨拶が一通り済んだら、クロヤの所へ行ってくれ。保護員になる話とは別に話があるらしい」


「はぁ…なんの話でしょう?」


「多分、お前のその「炎が出せる」能力についてだ」


シュマンは、自分の手のひらを見た。今は男性化しているから、男性らしいゴツゴツとした大きな手をしている。


少しだけ、手に力を入れてみる。


すると、手のひらの真ん中から、炎が上がった。


シュマンが持っている、「両性」と「過去を食らう」能力、どちらも手から火が出せるなどということは、どの書物にも記されていない。エルフ(キャット)は手から火が出せるというが、シュマンにはエルフ(キャット)の血は流れていないし、その他の希少種の血も流れてはいない。流れているのは「両性」の血だけだ。


「過去を食らう」能力は、突発的に起こり、家族や兄弟間に広がる病気で例えると感染症のようなもので、大抵は生まれながらにして持っている。「炎を出す」のもそれと同じ原理かどうか調べたが、シュマンの過去を唯一知っている師匠によると、火を出し始めたのは8歳ぐらいの時からだという。


なら、その「炎を出す」能力はなんなのか…それを調べるため、クロヤはシュマンを呼んだのだ。


「…この能力は…一体…」


シュマンは自分の手のひらの中で燃えている炎を見ながら呟いた。







保護施設に着き、他の保護員達との挨拶を得た。


シュマンのことを前から知ってる人が沢山おり、好調なスタートをきることができた。多分師匠が言いふらしていたのだろう…。


シュマンは師匠に道を教えてもらい、保護施設の中のもっと奥の所、クロヤの部屋に着いた。50mはあるであろう長い廊下を歩いたその先にある黒いドアである。


ドアには、「基地長室」と書いている。


コンコンッとドアをノックした。中から少し低めの声が聞こえる。


「失礼します…」


恐る恐る部屋に入る。


部屋の中は酷く散らかっている。資料がドサッと積み上げられており、クロヤの姿が確認出来ない。


「部屋を片付けろとよくエスポワールに言われるのだがな、片付ける時間が少ないのだ。すまないな、散らかっていて」


「いえ…大丈夫です…」


クロヤの声を頼りに資料の山を慎重に歩いていく。


クロヤの元にたどり着くのに結構時間がかかってしまった。


「シュマン、エスポワールから用件は聞いたか?」


クロヤはペンを走らせながら言う。


「は、はい…私の「火を出せる」能力のことですよね…」


緊張気味にシュマンが言った。


「別に緊張しなくて良いぞ。すぐ終わる」



トントンッと資料を片付けて、ファイルにしまい、伸びをするクロヤ。そしてシュマンとしっかりと目を合わせて、こう言った。


「お主のその能力を調べるために協力を得たいのだが…」


クロヤはそこまで言うと、顔を赤らめて顔を伏せた。


「ち…血を頂きたいので…お主の血を持ってきてくれまいか…?採血は専門の医師をホールに呼んでいるからそこでするといい…」


シュマンは察した。すみませんね、両性で。


ホールに降りると医師が待っていた。そして採血してもらう。


採血中、師匠がちらっと覗きにきた。


「よお!シュマン!どうだ?調子は」


「この通りですよ、私の能力を調べるために血が必要って…」


「ああ、あいつはいつもまずは相手の血を吸って相手のことを知るんだ。お前は両性だから採血だが、俺男性だから直接吸われたぜ」


あの時のあの一件を思い出して少しだけ寒気がした。あの時は申し訳ない行為をしたな…と後悔した。


採血が終わり、自分の血を持ってクロヤの所へ戻る時、師匠に呼び止められた。


「俺を一緒に行ってもいいか?お前のこの能力、俺も気をなるんだ」


「…?いいですけど…」


「あんがとな!!」


師匠はそう言い長い廊下を突っ走った。はしゃぐ子供のように…


「師匠はいつでも元気ですねぇ…」


少し呆れ気味にシュマンは言った。


「…ん?」


シュマンはふと思った。師匠の方を見て呟く。


「師匠…私と初めて出会った時から成長してないな…」


12歳ぐらいの、まだ成長期の来ていない子供の体格をした師匠。シュマンと出会って今年で6年目、成長しても良いはずなのに背は伸びていないし、声も変わっていない。


昔、ジュネスから「師匠さんは永年猫(えいねんびょう)の血を引いているから若いのよ」と聞いていたが、永年猫(えいねんびょう)でも、この6年で背ぐらいは伸びるはずだ。なのに師匠は1㎝も伸びていない。


「…ししょ…」


「シュマン!早く来いよ!おせーぞ!!」


師匠に聞こうと思ったら、師匠に呼びかけられた。


師匠って…今何歳なのだろう…


そして、何故成長しないのだろう…









「ご苦労だった。すまないな」


「いえいえ、大丈夫ですよ」


ニコッと笑うシュマンに少し頰を赤らめながら、クロヤはシュマンの血を受け取った。


もうだいぶ、というかほぼ完璧にシュマンに慣れたクロヤは、シュマンの顔をしっかりと見て、そして物を通じて触れるぐらいにまでなった。だが、あの「自由の1週間」の時、二人のそれをニヤニヤ見ていた師匠がシュマンの背中を押して、バランスを崩したシュマンがクロヤの胸にダイブしてしまった件については、クロヤは顔を真っ赤にして、そして20m飛んだ。


「わ、我はおおお(おなご)に…!触れて…!!」


「あの…今の私男性です…」


冷静に突っ込みを入れたシュマンだった。


その後、師匠の姿を見る者はいなかったのだが、まあその話は置いておいて、クロヤはシュマンの血を受け取ると、ペロッとシュマンの血を舐めた。


「…これは…」


クロヤが呟く。ゴクリッと師匠とシュマンは唾を飲む。緊張する。


「…いや、普通の「両性」の血の味だ」


「なんだよ!!」


師匠は思わず突っ込んでしまった。意味深そうな発言をしておいて特に何もなかった事に少し絶望する。


「シュマン、少しこの血、甘い。昨日甘い物を食べたな」


「あ、はい。ジュネス姉さんが作ってくれたパフェをいただきました」


「ああ、あれ美味しいよな」


「なに世間話してんだ!!シュマンの能力どこいったんだよ!!」


師匠ははたまた突っ込む。結構疲れた師匠だった。


「…血だけじゃ分からなかったな、まあ、今日の所は帰っても良いぞ。無駄足をかけてしまったな」


「また調べておく」と言ってクロヤは再び資料を見始めた。


「はあ、シュマンのその能力が分かると思ってワクワクしてたんだけどなー」


呆れ顔で師匠が言うと、部屋を出る。


シュマンは焦り気味に師匠の後をついていった。


二人が出て行った後、クロヤは手を止め、そしてもう一度、シュマンの血を舐めてみた。


「…あいつと、同じ血の味がする…」


ふと、クロヤが呟いた。










雨が降っている。


風も強く吹いている。


クロヤ=ノワールはその灰色の長い髪を風になびかせ、ある人を待つ。


「…来たか、遅かったな」


「何の用?クロヤ」


パッツンの前髪から見える漆黒の目がクロヤを写す。


「この前、新たな保護員を雇ったのだが…」


「その保護員は、お前と同じ「両性」…しかも「過去を食らう猫」だ」


「…!!本当か?」


ミヴェル=ソワールはガシッとクロヤの腕を掴んで強気味に言った。瞬間クロヤは顔を赤らめて、グッと力を入れてミヴェルを引き離した。


「さ…!触らないではくれぬか…!?」


「あ…すまない…「両性」も…アウトか…お前の女性恐怖症は大変だな」


「すまない…」


クロヤはミヴェルから目をそらした。まだ顔が赤い。


「…で、その「両性」…エ、エイヴァ…なのか…?」


言葉を詰まらせながらミヴェルが問う。どうやら、エイヴァという同じ「両性」の人物を、探しているらしい。


「…エイヴァは、エイヴァは無事なのか…!?僕がいなくても…ちゃんと生きて…!」


救いを求めるかの表情で、言葉が強くなる。


「まだその「両性」がエイヴァと決まったわけでは無いだろう?気が早過ぎる。落ち着け、ミヴェル」


「…そう、なのか…エイヴァじゃない可能性も…あるんだな…」


瞬間、降っていた雨がぴたりと止む。風も吹かなくなった。


「…エイヴァじゃなくてもいいから…会ってみたい…!会わせてくれ!クロヤ!!」


「それはダメだ」


きっぱりと断る。会わせてやっても良いが、会わせたくない理由がある。それは、次のミヴェルの行動で示された。


「…そうか…」


低い声でミヴェルは呟く。落ち込んだのだろうか、地面を見てだまりこんでしまった。表情は確認出来ない。


しばらく時が経つ。


瞬間、強風がクロヤを襲う。立っているのがやっとだ。雨も風に紛れて強く降る。


見ると、ミヴェルの周りに風と雨が集まり、渦を巻いている。だが、ミヴェル自身には風に吹かれたり、雨に濡れたりしている様子はない。竜巻のようにクロヤの周りを覆っている。


「…そうして皆僕とエイヴァの邪魔をして、何が面白いんだ!!」


叫ぶ。その声がクロヤを攻撃する。

とても力強いその声は、クロヤに焦りと恐怖を覚えさせた。


「僕が愛する弟を皆して保護とか言って僕から離して、一番信頼しているモノから離して、僕らを引き離す!!エイヴァは僕のモノなんだ!それを邪魔して邪魔して…!二人の関係を壊して壊して!!僕らの気持ちを顧みない!!ああ、可哀想なエイヴァ…僕のエイヴァが今も何処かで僕の帰りを待っているというのに!一人で可哀想だ…僕が隣に居てあげなきゃ、僕がエイヴァの全てを愛してあげなきゃ!!エイヴァと僕は救われない…!!」


「落ち着け…!ミヴェル!!自己過剰だ!!」


必死に止めるも、ミヴェルを覆う竜巻のせいで前へ進めない。ミヴェルの容体は悪化するだけだ。


「エイヴァ…エイヴァ…!君に会いたい…!エイヴァのあの綺麗な黒髪も、整った顔立ちも…全部覚えているのに…!皆が邪魔をするんだよ…!僕はただエイヴァに会いたいだけなのに…!会いたいって思う心の何処に悪意があるんだ!!エイヴァ…会いたいよ…!」


止まらないミヴェルに、クロヤはチッと舌打ちをした。そして脚に力を入れて構えて、光の速さでミヴェルの竜巻の中へ突入した。


何分か経ったのち、竜巻が消え、中の様子が明らかになる。


倒れこむミヴェルに、それを見下ろすクロヤ。クロヤの口元には血が付いている。


クロヤは口に含んでいたミヴェルの血を吐き出すと、ミヴェルの方を睨んだ。


「…(おなご)の血は…出来る限り吸いたくないのだがな…」


「お主、ちゃんと精神安定剤は飲んだのか?飲んでいれば、この様な騒動を起こさないで済むのに…」


クロヤは頭を抱え、雲が覆っている空を眺めた。


「…すまない…また、僕は…」


「まだ意識を持っておったのか、流石「両性」だな…」


ミヴェルは顔を上げて、クロヤの方を見た。


「…余計なお世話だ…」


そう言い、ゆっくりと目を閉じた。






























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