種族と恋愛 時々師匠
おかえりなさい。
「ジュネス姉さん」
シュマンが唐突に声を掛けてきた。
なんの用だろうと、ジュネスがカウンターから顔を出す。
「この前は…ありがとうございました。私の悩みを解決してくれて…」
ジュネスはニコッと笑った。
「そりゃ姉弟なんだもの、当たり前の事をしたまでだわ」
シュマンはその言葉で少しだけ表情を和らげた。
「血は繋がってないけど、ジュネスさんは、私の立派はお姉さんです。昔から、私に愛情を注いでくださって、感謝の一言です」
「まぁ、お互いあの師匠さんに拾われた猫っていう関係だけど、私も良い弟を持ったなぁって思ってるわ。今は妹だけどね」
クスクスと笑いながらジュネスは言った。それにつられてシュマンも笑顔になる。
「次は、青年君が人々を愛する番よ?私や師匠さんが愛したように、青年君もきっと、他人を愛せる。君の完璧は、その事でしょう?」
シュマンが持っている完璧…
それは人に愛されるということ。
シュマンは両親を失った。そのことにより愛情を注いでくれる人がいなくなり、愛されることを忘れてしまった。
だが今は、愛してくれる者がいる。
人に愛される事によって優しくなったシュマンには、人に愛され、愛して欲しいという師匠の思いがあった。
それが今満たされている、シュマンの完璧。
道を作れとは、人々を愛してやれという思い。
今回の事でその師匠の思いがシュマンに伝わった。
「君なら、いいお父さんになれると思うわ」
「いっそのこと、私と結婚しちゃう?」
頷きながらジュネスの話を聞いていたシュマンだったが、そのセリフを聞いた途端、身動きが止まった。
「えっえー!!そんな!私がジュネス姉さんと…!!そんな!失礼ですが拒否させていただきますよ!!」
「いいじゃない♫青年君もう18だし、私達実際親しいじゃない?」
ニコニコしながらジュネスが言う。
それに対しシュマンは赤面し、驚いている。
「いや!私にはどうしても無理な事情がありまして!!」
「無理な事情?」
ジュネスが首を傾げる。
シュマンは布団で半分顔を隠しながら言った。
「…私が…両性だからです…!」
「仮に、今(女性時)の私が男性に恋をして、付き合い始めたとしたら、その男性を絶望させてしまう…」
「え、でも青年君の種族は同性愛が当たり前って聞いたことがあるわよ?」
シュマンはそれを聞いて悲しげな顔をし、目を背けた。それを見てジュネスはあっ!っと何かを思い出して口を隠す。
「ごめんなさいね…失礼なこと、言っちゃったよね」
「いえ…大丈夫です。まだ希望はありますから」
ジュネスは希少種の心を感じた気がした。
過去を食らう猫も十分希少種で、闇市場で高値で売買されるのだが、それよりも希少なのが、「両性」だ。
男性・女性 どちらの精神・身体を持っている、そしてその生命力が他の猫よりも優れていて売買中に死ぬ事がないという理由で、遠い昔に「両性」の猫は数多くの猫狩りにより狩られてきた。だから今では、その数が減り、希少種となったのだ。
「過去を食らう」能力と「両性」、両方を持っているシュマンにとっては、他の誰よりも孤独を感じているだろう。
しばらく無言のまま俯いたままだった。時計の針だけがチクタクと鳴っている。
「…なんだこのお葬式状態は…てかなに勝手にシリアス展開になってるんだ!」
少年声が空気を壊す。シュマンは驚き男性化してしまった。ジュネスは冷静に「あら、師匠さん」と声をかけた。
「僕に内緒で話を進めるな。てか聞いている限り話がずれまくっているぞ」
「あら、そうだったわね。なんの話だったかしら…忘れちゃったわ」
ジュネスはとぼけてそう言う。師匠は呆れ顔だ。
「あの…師匠の性格、変わってません?あのクソガ…口が少々悪い少年みたいな性格じゃなくて、硬い感じになってますよね」
「今一瞬クソガキっていいかけただろお前!!」
「言ってないですよー。ワタシハナニモイッテマセーン」
シュマンは棒読みで師匠をからかった。師匠はその態度にイラっときたがいつものことだと笑いながら自分の怒りを鎮める。
シュマンは結構人(特に師匠)をからかうのが好きらしい。
まあそれはその人を信じているからできることだ。だから師匠はからかわれるたび少しだけ安心する。
簡単に言えば、シュマンがSで師匠がMなだけだ。断じて同性愛要素は含んでいない。
だがジュネスはニコニコとまるである薔薇の花を見るような目でそれを見ている。ジュネスはもしかしたら腐っている女子と書くアレかもしれない。
「仕事終わりですものね、一時的に性格を変えてるのよ」
「ああ、師匠性格コロコロ変えますもんね」
シュマンが納得した。そういや師匠とも出会った時の師匠は冷静な敬語キャラだったと思い出す。
同時にひどい変わり様だと思った。
「ところで、何故青年君はその男性が絶望すると思ったの?」
「え…」
急に本題へと戻り、真剣な顔で聞いてきたジュネスにシュマンは戸惑った。
「…だって、その男性は私を女性としてを見て愛してくれている訳ですから、男性化したらその男性の想いも変わってくる…だから絶望すると思うんです」
少々悩んだ挙句、自分なりの正論を言った。その言葉に、ジュネスはムッとした表情をした。
「それ、ちゃんとその男性の気持ち、考えてる?」
「え…?」
ジュネスは少し怒った様子でシュマンの方をじっと見た。シュマンは戸惑う。
ふと師匠の方を見ると、師匠はため息をして、「ジュネスにスイッチが入ったから後は頑張れ」と小声で言って外へ出て行った。
頑張れって言われても…
「いい?青年君、恋に性別は関係ないのよ?その男性だって、女だからの理由で青年君と付き合った訳ではないわ!心から見て好きになったから付き合ったのよ!」
すごく熱心に語るジュネスにシュマンは少し引き気味に話を聞いた。
本当、腐っている女子の話は怖い。(いろんな意味で)
「とにかく!愛されているんだから愛してあげなさい!これこそ青年君の求める完璧だわ!」
「はい…」
シュマンは例え話がここまで進展するとは思わなかった。話を聞き過ぎて疲れた顔をしている。
やっと終わったか、っと師匠が戻ってきた。師匠はずるいです…とシュマンは思った。
「お疲れ、シュマン。ジュネス、青春を語るのはいいが程々にしろ。あともうすぐ開店時間だ。仕込みは出来ているのか?」
「あら!もうそんな時間!?開店準備しなくちゃ!」
そう言ってジュネスは慌てて店の中へ駆けて行った。
「はぁ、『青春』なんて名前、あいつに付けなきゃよかったな…」
「ジュネス姉さんのジュネスって、『青春』って意味なんですか?」
「ああ、フランス語で『若さ・青春』だったかな…」
師匠はため息混じりで上の天井を見ながら言った。何かを思い出しているのか、少しだけ、師匠の表情が険しくなった。
「師匠、ジュネス姉さんって…」
思い切って聞いてみる。師匠はゆっくりシュマンの方を見て、悲しげな笑みを浮かべた。




