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我らは過去を食らう猫(モノ)  作者: 実音(みおん)
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私の完璧

シュマンが暗闇の中、目を覚ますと、店のカウンターの様な物が目に入った。客は誰もいない。店員も居ない様だ。


身体を起こそうとすると鈍い痛みが走った。胸に巻かれた包帯が少しだけ血で滲んだ。


胸を見て、女体化してしまったんだなとシュマンは思う。むしろ女体化して正解だったかも知れない。生きようとする生命力は男性より女性の方が強いと、聞いたことがある。


しばらく横になっていると、カウンターの奥の方から足音が聞こえた。

シュマンは驚きながらカウンターの奥の方を見た。心臓がバクバク鳴っている。


そしてゆっくりと身体を起こした後、カウンターから目を離さずに攻撃態勢に入る。何が出てきても大丈夫なように、 手で拳をつくり、構える。


シュマンの尻尾が狸のように膨れ上がった。警戒心だ。


ギィ…と、ドアの開く音がする。


だが、誰かが現れる気配がない。


警戒心を抱いていたシュマンだが、数分経っても誰も出てこないので少しだけ安心した。


気づけば身体が男性の身体に戻っている。攻撃態勢に入る時はいつも男性化するので、癖でやってしまったのだろう。


「無駄な体力を使ってしまったな…」


シュマンはそう言うと全身の力を抜いた。


途端ー


「わー!!」


「ワッ!!」


誰かに背後から驚かされた。再び身体が女体化する。そして計二回の性別転換と怪我によりシュマンの体力は限界に近づき、一瞬だけ世界が白くなった気がした。


「だっ大丈夫!?青年君!」


高い女の人の声が聞こえる。


シュマンは息を切らしながら女性の方を見た。そして、女性の顔を確認すると、


「……ジュネス…ねぇ…さん…」


そう言い、本日二度目の気を失った。







目を覚ましたら店の中は明るかった。さっきまで暗闇で不気味に見えていた店内は、今見ると見慣れた店内で、明るさと暗さの雰囲気の違いに感心した。


「さっきはごめんなさいね、青年君。今は…女性の方だけどね」


ジュネスは顔の前で手を合わせ、ごめんねポーズをして謝った。


「いえ…大丈夫です」


シュマンは少しだけ困った顔をしながら言った。


ジュネスはカールした青い髪の毛を肩ぐらいまで伸ばしたお姉さんという感じの女性(猫)である。肩出しの服に透明な布を羽織り、下半身はこれも布を巻いた様な長いロングスカートを履いているカラダを主張した服装だ。


そしてシュマンにとってジュネスは、いつ頃からは忘れていまったが、小さい頃から一緒にいる姉の様な存在だ。


「ジュネス姉さん、師匠は何処にいますか?」


師匠が居ない事に気がついたシュマンがそう言った。


「過去狩りに行ったわ。青年君、今日はまだ何も食べてないでしょ?」


確かに、今日は何も食べてない。過去狩りに失敗したから…


「…師匠に合わせる顔がないです…

こんな未熟者の私には…」


シュマンは悲しそうな顔でそう言った。その表情から、過去狩りに失敗したのを悔やんでいることも確認出来た。


「やっぱり私は、まだ完璧になれない…。昔に戻れない…」


「どうして、忘れてしまっている過去の完璧な自分に、戻りたいの?」


ジュネスの急な質問の内容に、シュマンは驚いた。


「どうしてって…」


シュマンの言葉が詰まる。


しばらく黙り込んだ後、シュマンは口を開いた。


「なんか…自分は完璧じゃなきゃいけないプライドがあるんです…。そのプライドはいつか忘れたけど、師匠に壊された…」


シュマンが上を向く。何も描いていない白い天井をぼーっと眺めている。


「何故かわからないけど、完璧じゃなきゃいけない…よくわからないんです…」


ジュネスは何と無く確信した。両親を殺されたシュマンは、今でも無意識に犯人を探している。前…つまり殺人鬼時代は殺人技術、及び人に殺す行為において完璧にマスターしていた。それを使い、いつか両親殺しの犯人に出会う事を信じて、無意識に人を殺していたのだ。


今は、殺人技術などの様なモノは兼ね備えていない。両親を殺した犯人の顔すら過去を食われた事により、忘れてしまっている。だが、体がシュマンの思考に関係なく完璧になろうとしている。そして無意識に、両親を殺した犯人を探しているのだ。


だから、シュマンの言う完璧は、殺人鬼の頃のあの完璧であると。


そして師匠がシュマンに求めている完璧はーー


なら、言うことはひとつである。


ジュネスはシュマンに向かって優しく微笑んだ。







「青年君は、今のままでいいと私は思うわ」


「え…」


ジュネスは微笑んでそう言った。シュマンの目をしっかり見ながら、弟を慰める姉のように、優しく…


「君の思っている完璧は、昔の君が知らない完璧よね?」


「はい…」


「わからない事を追い求めても、いつまでもわからないままよ?それより今持っている完璧を磨けばいいと私は思うわ」


「今持っている…完璧…?」


「そうよ!君は素晴らしい完璧を持っているわ!」


「でも私は完璧じゃ…!」


「君が思っている事が正解じゃないの、他の人達は、君の知らない君を知ってる」


ジュネスは再びにっこりと微笑んだ。シュマンは驚いたような、でも何処か悲しそうな顔をして、ジュネスの話を聞いていた。


「もう少し、今の自分を信じてみてはどう?」


自分の今持っている…完璧…


自分は今完璧じゃないから、昔の自分…昔の完璧を求めている。


だから、今自分が持っている完璧の可能性を、信じていなかった。


今の自分を…信じていなかった…


「…私は…」


シュマンは言葉を濁らした。自分の中にある、自分の今の完璧を信じずに、ただただ不可能な希望を求めて…



「…師匠は…どう思っているんだろう…。こんな私の事」


シュマンはしんみりといた顔をしながら、そう呟いた。


『今のシュマンは完璧になれない。』


ふと師匠の言葉がシュマン頭をよぎった。


ジュネスは、そんなシュマンの表情を見て、ゆっくりと深呼吸をしてから窓の外の空を見た。雲一つない空。今夜もまた、あの日と同じように星が煌めくだろう。


「師匠さんは…一見あんな感じで時々厳しい言葉を言うかもしれないけど、実は君の事を何よりも思っているわ。師匠さんはきっと青年君には、今の完璧を大事にしてほしいと思ってるわ」


その言葉を聞いて、シュマンの目から涙が一滴落ちた。


「私…師匠の所に行ってきます!」


そう言ってシュマンは外へ駆け出した。


ジュネスはその後ろ姿を見て、「立派になったわねぇ」と、微笑んだ。








寂れた町は昼でも暗い。

そんな暗い道を駆け抜ける。


性別転換し男性の身体となり、地面を思いっきり蹴り付け飛び上がる。家の屋根に乗り、師匠の姿を探す。


シュマンの血が2・3滴、空中を舞った。それと同時にシュマンの身体が一瞬バランスを崩す。が、シュマンは走ることをやめない。


胸に負った傷の痛みももう感じない。

ただ感じるのは、師匠への思いだけだ。


茶髪の少年を見つけた。下に降りてみると、少年はこちらに気づいてこちらを見た。


「シュマン…」


真顔でそう言う師匠に、シュマンは少し戸惑った。上手く言葉が出てこない。しばらく無言で下を向いていた挙句、ようやく口を開いた。


「師匠…」


「なんだ?シュマン」


「私を…殴って下さい…!!」


そう言ったと同時に右頬に痛みが走った。物凄い衝撃で飛ばされる。


「お前が言わなくても、やろうと思ってたんだかな」


師匠はそう言いニカッと笑った。少年が笑う笑顔だった。


「…まったく、師匠は相変わらずですね」


いつの間にかシュマンの顔には笑顔が浮かんでいた。


気持ちが軽くなるって、この事を言うんだな。


今まで悩んでたことが、嘘のようだ。


師匠、私は、もう過去を振り返らない事にします。


分からない過去を求めません。


それより、今私が持っている完璧の可能性を、信じます。


「お前は、優しいなぁ。昔と真反対だ」


そう言う師匠に、シュマンは再び微笑んだ。





「それが今の私の完璧です!」













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