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我らは過去を食らう猫(モノ)  作者: 実音(みおん)
23/30

ミヴェル=ソワールの過去と希望1


両親が亡くなった時、僕は既に希少種猫保護施設と関わっていた。


とある街に広がった疫病。それはミヴェルの両親にも発病し、そして両親は息絶えた。


両親が死んでいく最期を、まだ赤ん坊だった弟(妹)のエイヴァを抱きながら看取った。エイヴァをぎゅっと強く抱きしめ、言葉にならない声を涙と共に漏らした。


そんな時、病室にとある人物が入ってきた。その人は希少種猫保護施設の保護員だった。


「…こんなに早く亡くなられてしまわれるとは…。悲しい事です…」


そう言い一緒に泣いてくれた。


そして何日か、引き取ってくれる人が見つかるまで、僕は希少種猫保護施設に住むことになった。


僕は前から、両親から自分達は希少種猫だという事を聞いていた。そして希少種猫保護施設に協力する事も、分かっていた。


その当時、『両性』の種族は珍しく、まだ謎が解明されていなかった為、普通保護された場合は希少種猫保護施設へ住むところ、僕らは特別に研究員の家に一定期間引き取ってもらう事になった。それは最初詳しくは知らなかったが、カイヤの父親が研究をしている、希少種猫保護施設と関連している事から推測できた。


その事も両親と保護員から聞いていた。なので不思議と疑わなかったし、むしろ待遇を受けた気がした。


そしてある日、僕はまだ幼かったエイヴァを希少種猫保護施設にあずけ、先に引き取られた。


エスポワール家。


研究員の父親が男手ひとつで一人息子を育てているという一家だった。ちなみに母親とは離婚したらしい。


そして、その時にカイヤと出会った。





カイヤの第一印象は、今もそうだけど、口が悪いめんどくさがりの大人びた子供。彼が生きてきた環境のせいでもあるが、最初は僕とは釣り合わないと思った。だからいつも喧嘩して、一向に仲良くなれなかった。


でも何年か過ごしていると嫌でも仲良くなるのだろう。知らない内に隣にいることが当たり前になった。エイヴァがやってきて仲介役になってくれたことも理由のひとつだが、僕は長年カイヤを見て、良いところを知るようになった。


カイヤは…普段あんな憎まれ口をたたいているが、本当は周りを見て発言しているのである。僕もそこそこ周りが見える人だと自負していたが、カイヤはその先を行く。予測までして、僕を様々な危険から助けてくれたこともあった。


そんな時、僕はいつも感謝が遅くなった。


…きっと、あの時も、カイヤの忠告を聞いていたならば、僕はきっと…




一人で悩む必要はなかったのに


















とある建物内に入る。


カイヤがずっと疑問に思っているという家の近くの建物内。近くと言っても実は結構離れていて、家から歩いて軽く10分はかかるだろう。カイヤが家から見て近くと感じるのは、周りに家が建っていない事と、この建物の煙突が妙に長い為である。


何故こんなところに建物を作ったのか。カイヤの父親で研究員であるキル=エスポワールさんに話を聞くと、「実験の失敗で家を吹き飛ばしたくない」と、冗談抜きの口調を聞いた。確かに…とは思ったが、未だ納得がいかない。それでいてカイヤをこの建物内へ近づけようとしないものだから、余計に謎は深まるばかりである。


2部の疑問と8部の興味で所々で足が止まった。


暗い廊下。ドアが空いている部屋を覗くと、重なった資料となにやら実験道具らしきものが無造作に置かれていた。


そんな部屋がいくつも続く。なにかの実験台にされるのではないかと少し謎の寒気がした。


「遅かったじゃないか。ミヴェル。調子はどうだ?」


とある部屋に入るとそこにはキルさんがいた。ペンを走らせながら僕に問う。


「すみません…建物内が気になって足を止めていたら、少し時間がオーバーしてしまってました。…本当にここはいろんなものが置いてありますよね」


そう正直に言うと、キルさんは少し微笑した。


「お前は、俺の職業が気になるのか?」


密かな笑いとともにキルさんが問う。僕は素直に首を縦に動かした。それを見てキルさんは再び微笑む。


「…どうだろうな。まあお前の予想している職業が正解だと言っておこう。研究員だと言うことは大体分かっただろうが、希少種猫関連だと気付く所まで行くとは…予想外だった。そういや、ミヴェルとはずっと職業当てクイズをしていた気がするな」


僕はその言葉を聞いた瞬間、少し胸が温かくなる感触がして、自然と達成感で笑っていた。


僕が初めてキルさんと会った時、キルさんの職業を当てるクイズをキルさんから出された。キルさん並の子供と仲良くなる方法の一つなのだろうか。小さい頃の僕はそのクイズを楽しんでいた。会う度に答えを出して間違って、ヒントを貰いどんどん謎に迫っていく事は、僕の好奇心を膨れ上がらせた。


そしてその答えが「希少種猫研究科研究員」だと言う確信に迫る度に、同時にその職業に、関心を持ち始めた。そして今では、それは将来の夢へと成長した。


「やっぱり…!やっと分かった…!カイヤに聞いてもなんかの研究員であること以外知らないって言ってたから…。希少種猫関連の事だった事が解明して、なんだが特別な気分です。…凄い」


「まあ、自分の事をペラペラと他人には話したくないのでな…。研究員自体元々珍しい職業だ。質問攻めにあうのが面倒だったからカイヤにも言わなかった」


「なんか…そういうの、憧れますね」


少し俯き照れ笑いながら言う僕に、キルさんは何かを察したようだった。


「…研究員、もしくは…希少種猫保護施設関連の仕事が気になるのか…?」


「…まあ、はい。…調べている内に将来なってみたいな…って…」


はにかみながら言うと、キルさんは手を止めて僕を見た。


「…俺は今、お前の種族について調べているわけだが…。それが終われば希少種猫保護施設へ返される事になるだろう。希少種猫なら、希少種猫保護施設に入れば嫌でも保護員になる。まあ、それに反論する奴は…まああまり見当たらないが」


「そ、そうなんですか!?」


僕は一気に喜びが沸き上がり、思いっきりジャンプした。ずっと憧れてた仕事が将来出来るとなると、将来が楽しみになった。


そして同時に、僕にある不安が生まれた。


「…てことは、研究が終われば…。カイヤとは離れ離れなんですか…?僕…せっかく出会えた親友と…離れたくないのに…」


もう10回以上も僕は同じ事を言っている。初めてあの施設に返されることを知った時、カイヤに会えなくなることに信じられずショックを受けたものだった。


今では納得せざるを得ない真実だが、憎みつつも大切な存在だったカイヤと離れ離れになる事は、その時の僕にとっては分かっていても有り得ないことだった。


「まあ、今の生活には期限があるわけだが…。それは…」


キルさんが何かを言い出す。少し間をおき、僕の方を見て言う。


「まあ、カイヤも保護員になれることはなれるが、希少種猫に比べて普通の猫は信用性が低く、なるには試験と面接が必要だ。カイヤがそれに合格できたら、希望はあるんじゃないか?」


「ああ…確かに。カイヤって勉強面に関しては壊滅的ですからね…」


少し絶望が見えた気がした。溜息か自然と出る。


そして僕は、半分冗談でこんな事を呟いてしまった。


「あ〜あ。いっその事、カイヤが希少種猫だったら良かったのになぁ…」


微かにキルさんの耳が動く。少しだけ変わった表情に、僕は気付けずにいた。


「…そうか。まあ…あいつ自体だな」


キルさんはそう言い、「いつもの検査、始めるぞ」と言い、動き出した。僕は軽い絶望のまま検査を受けた。


血液採取、身体測定など。しかもそれを男女両方、2回やらなくちゃいけない。


まあこれも希少種猫の研究の為だと、希少種猫保護施設の役に立っていると思うと、退屈ではなかった。


検査の途中、キルさんがある事を言った。それはミヴェルの絶望を少しの希望に変えた。


「…カイヤに聞いてみてはどうだ?さっきの保護員になるかの話。勉強なら今からでも間に合う。…あと、カイヤには俺も自由にさせてやりたいしな」


いつもよりその検査が楽しいものになった。












その日の夜、例の事をカイヤに話すと、カイヤはだるそうな口調で壁にもたれかかった。


「確かに俺は、親父が書いた『希少種猫一覧(あの本)』」をみるのは好きだが、まさか親父みてぇな仕事につきたいとかミヴェルが言うとは思わなかったぜ…。あんな奇妙な仕事やってる奴の何処がいいんだか…」


そう言いカイヤはため息を吐いてよっこらせと体を持ち上げた。そして近くにあった机と椅子に寄り、椅子にドカッと座った。


カイヤは生まれてきた環境からか知らないが、自分の父親…キルさんを嫌っているようだった。


幼い頃に両親を無くした自分にとってはそんな感情なんて分かるはずもなく、そんなすれ違いに少し頭を抱えた。


「キルさんみたいな仕事だけが全てとは限らないよ!希少種猫を直接保護しに行く一般保護員や、その保護員の援助をする救助援護員、基地長援護班なんていうエリート軍団まであるんだ!可能性が秘められてる!カイヤだって希少種猫に興味があるのならぴったりの職業だと思うんだ!カイヤにおすすめなんだって!一緒に保護員になろうよ!!」


少しカイヤの態度にイラついたのもあってか、僕は熱心に説得した。少し言いすぎたか

、強要してしまったかと反省する。


カイヤは案の定、不満そうな態度で僕をじっと見た。その目線に少し怯んでしまう。


「…ご、ごめん。強要しすぎた…。カイヤ、ごめん、忘れてくれていいよ。カイヤの将来はカイヤで決めてよ…」


本当に強く言いすぎたと反省し、カイヤに謝った。自分でもらしくないことをしてしまった。


カイヤはそんな僕の態度に、ため息を吐き、口元を細長く広げた。「しゃーねーなぁ」と呟き、椅子から立ち上がり僕の方をしっかりと見た。


「ミヴェルがそこまで言うから、興味湧きちまったじゃねぇか。親父の仕事以外の仕事あるの知って、確信持てたぜ。」


そう笑顔で言い、僕の手を掴む。


僕はその瞬間、カイヤに秘められた可能性を感じた。


やっぱりカイヤは…僕の『希望』を裏切らない。


「いいぜ、一緒になってやる!」


カイヤの威勢の言い発言に、僕は圧倒された。


確信と共に、僕のカイヤに対する信頼も、高まった気がした。


だからこそ僕は、最後まで、カイヤの『希望』を求めたのかもしれない。


最後までカイヤを…信じていられたかもしれない…。


…あの出来事が起こるまでは。











ある日、僕がいつもの検査を終えて帰ろうとすると、キルさんに足止めされた。


「どうしたんですか?検査はもう終わりましたよ?」


いつもの調子でそう言うと、キルさんは僕の前にある資料を見せた。


その資料を受け取ると、「両性」の種族に関する情報がびっしりと詰まっていた。


「普通なら秘密事項だが、お前になら見せてもいいだろう。一応確認してはくれないか?後…これも一つの経験になるだろう」


そう言い本棚の本を読み返すキルさん。僕はそんなキルさんの行為が素直に嬉しかった。きっとキルさんは、応援してくれているのだろう。そんな気遣いに感謝しつつ、渡された資料に目を通してみる。


やはり経験豊富な研究員が纏める資料は素晴らしい。保護員でもない自分でも分かる程わかりやすく書かれた資料は僕の興味を引いた。


「…お前は、一般保護員よりは研究員の方が似合っているな。素質がある」


キルさんがふとそう呟く。僕はそれを聞いて若干戸惑ったが、それを好意と受け止めた。自分の夢を熱心に支えてくれる父親のような存在に、僕は疑問なんか感じなかった。


「キルさん、本当にありがとうございます…!」


強く感謝し、僕はキルさんに感謝と喜びの意味を込めて笑顔で言った。キルさんもフッと微笑み、僕の方を見る。


そして瞬間、キルさんの表情が真顔に戻った。その表情の変化に僕は冷や汗をかく。


「…歓喜の所、すまないが。再度考えてみて欲しい。俺がその資料をお前に見せたと言う事は、何を指すのかを」


キルさんは顔色を変えずに単調にそう言った。ミヴェルはその空気に感ずき、ある事を思い出す。


「…もう、ここでの生活も…終わりなんですか…?カイヤと…もう過ごせないんですか…?」


悲しみと不安が重なる。まだ信じられないその真実を鵜呑みにするしかないのか。そんな絶望感にため息を吐く。


「後日カイヤとエイヴァも呼んで話すが…、まあその日は近いだろうな…」


キルさんはそう言い、少し残念そうな表情を見せた。


しばらくの無言の間が過ぎる。僕はまだ半分信じられない。


「…明日にでも、3人を呼ぶと思う。そう思っといてくれ」


キルさんは「もう戻っていいぞ」と言い、僕に背を向けた。


僕は月日が過ぎるのが早いなとか関心しながら、そんな事よりも到底大きい悲しみを埋めようとした。…ちゃんとカイヤの前で笑えるのだろうか。


研究所を出た後偶然出くわしたエイヴァに不思議そうな目で心配された。…エイヴァにも、この事実は伝えられるのだろうか。


やがてやってくると知っていた事実を、僕は多分誰よりも、執着深く思っていただろう。


そんな事ばかり頭から離れず、晩を過ごした。











次の朝。


朝起きて鏡を見ると、目が少し腫れていた。知らないうちに泣いていたんだな…と自分に言う。


みっともない、こんな姿をカイヤに見せたらからかわれそうだ。…いや、むしろ心配されそうだ…。


朝からブルーな気持ちになる。自分の化けの皮が離れたみたいだ。


自分が本当はこんな臆病で泣き虫で、何より他人に迷惑をかけたくないと自分で抱え込む性格だとは、1番身近にいたカイヤでも知らないし、兄弟であるエイヴァにも分からない事だよな…。


そして、そんな性格を知っておいて、それを治そうともしない自分に、余計に腹が立ってくる。


思いっきり頬を叩き、目をゴシゴシ擦る。


少し顔がマシになったのを確認すると、作り笑いなのかも分からない笑顔を鏡に向け、いつもの自分を作り上げた。


「…くよくよしてちゃいけないんだ…。僕がしっかりしなきゃ」


そう自分に言い聞かせ、リビングに行った。




…今思えば、あんなになってしまったのも、自分のこんな性格があったのかもしれない。


知らない内に、そうなってしまった事に、ミヴェルの中のどちらかが安心感を持ってしまったのかもしれない。










カイヤといつも通り会話をして家を戻る。カイヤと話している時ももうすぐ離れ離れになるという事実が頭から離れず、早めに話を切り上げて、ひとりになりたかった。


気を紛らわそうと先程のカイヤとの会話を思い出す。確か、『女性時』より『男性時』の方がカイヤは接しやすいって、言ってたっけ?


スカートを翻し、女性時の僕は少し微笑した。


家のドアを開けた瞬間、エイヴァに声をかけられた。


「ミヴェル…、カイヤのお父さんから、書斎に来いって…」


いつもの可愛らしい声でそう僕に告ぐ。丸い目が僕の目を捉えた。


…ついに来たか…


「わかった、エイヴァ。キルさん、僕に何の用だろうね。もしかしてお説教とか…」


そう笑顔でエイヴァに言うと、エイヴァは「怖いー!」と僕の背に隠れた。それを見て僕は笑う。


「はあ…まあ行ってくるよ」


エイヴァは「うん…」と小さい声で返事し、靴を履き庭へかけていった。


「…行きたくないな…」


そんな事を呟きながら書斎へ行く。


カイヤの家の1番奥の離れた場所に、キルさんの書斎がある。もうここともお別れか…というように、ゆっくりと廊下を歩いていった。





書斎の前に着いてから2.3分した後に、エイヴァに引きずられてカイヤがやって来た。


「君も呼ばれたのかい?僕もだよ」


カイヤが来るのは既に知っていた事だが、知らなかった様に大げさに驚く。


「なあ、俺らなんか悪い事でもやった覚えあるか?」


カイヤが面倒くさそうに言う。随分とお疲れな様子だ。


「いいや、無いとは思うんだけどなぁ…」


そう言い頭を抱えて考える振りをする。カイヤはため息を吐きながら考えている様子だった。きっと「もういたずらする歳じゃない」とか平和な事を考えているのだろう。


不意に、エイヴァがギュッと後ろから抱きついて来た。なにか不穏な空気に感づいたのか「大丈夫…?」と僕に小声で話しかける。


僕はそれに小さく頷き、カイヤがドアノブを開けたのを確認する。


「遅かったな、カイヤ、ミヴェル。」


キルさんはそう言い、闇から顔を出す。カイヤはいつもの通り、キルさんに不満をぶつける。


そして事実が打ち明けられた。


やはり分かっていてもこの事実は辛い…。重りになって押し寄せてくる。


驚き怒りを撒き散らすカイヤに、僕は冷静に答える事が出来ているだろうか。


僕は…カイヤとエイヴァ以上に自分を取り乱しすぎていないだろうか…。


絶望に落ち込んでいた時、キルさんのある言葉が耳に入った。


それは、カイヤがキルさんに怒りをぶつけた時に言った言葉だった。


「落ち着け、カイヤ。…言っておくが、まだ期限でもないしお別れでもない。ミヴェルととエイヴァが引き取られるのは、隣の町に住んでいる人物だ。お前だって、もう外へ出ても良い年頃だろう」


目を見開く。一瞬理解が遅くなってしまった。


…どうやら僕は…取り乱し過ぎて簡単な事に気付いていなかったようだ。


そうだ、カイヤはもう16歳…外へ出ていい歳なんだ…。


「ほ…本当なんですか!?それは…!」


カイヤよりもエイヴァよりも早く、僕はその言葉に反応した。キルさんは「やっと気付いたか…」とでも言うように僕だけにふっと笑った気がした。


「やったー!!カイヤ!いつでも会える!」


エイヴァは喜びを露わにしてカイヤに抱きついた。カイヤはエイヴァを受け止めると蔓延の笑みでエイヴァの体を持ち上げ高く上げた。


安心感と希望で僕は固まったままだった。喜びに満ち溢れている。


「ミヴェル!これからも会えるんだ!もっと喜べよ!」


カイヤがそう言い僕の背中をドンッと叩く。びっくりして僕も思いっきり笑った。









…本当に、僕は考えすぎだ…周りが見えてない…


…喜びとは反対の事を頭にふとよぎった。










皆が安心して書斎を出た後、僕とキルさんだけが残った。


「キルさん…。また会えるって先に言ってくれたら良かったのに…ヒヤヒヤしましたよ」


そう安堵しながら言うと、キルさんはニヤリと笑った。


「予想以上にお前の反応が面白くてな、つい遊んでしまった」


そう言いニヤニヤしながらこっちを見る。


本当に人を騙す…というかその気にさせるのがうまい人だ。キルさんは冷徹とかそんな印象を持っていたが、実は相手をからかって甘えたいだけの子供の様な大人なのかもしれない。


息子であるカイヤにもこんな事をしないのだから、僕はキルさんのお気に入りなのだろう。


「本当に、お前は見ていて面白いな。からかうだけの価値がある」


キルさんは子供の様に笑った。そんなキルさんが想像とかけ離れすぎていて、僕は吹き出してしまう。


「キルさん…!本当あなたは可愛い人ですね…!」


僕は笑いすぎて疲れてたまたまあった椅子に座り込んでしまった。キルさんも笑みを浮かべたまま僕の笑いに応じる。


そして笑いがやっと引いた時、キルさんは冷徹な表情に戻り、僕にこう言った。


「どうだ?自分の性格を掘り出された気分は」


その瞬間、僕の背筋が凍る。


「え…」


「…やはりお前は、自分の性格に囚われやすいな。ここ数日のお前の焦り、俺には見えていた」


キルさんはそう無表情で言う。何を考えているか理解出来なかった。



「どうして…キルさん…」


「これだから、お前は扱いやすい。カイヤは変に感が鋭いからな…」


「…キルさん…どういう事ですか…?」


まだ具体的な情報把握が出来ていない。ただ、今目の前にいる人物が、僕の性格を利用している事は分かった。


僕を利用して…一体何を…


キルさんの言動と行動に警戒した。


「一体…何をするんですか…」


「…ミヴェルになら、打ち明けてもいいな…」


キルさんはそう呟き、真っ直ぐに僕の方を見た。キルさんを警戒しているはずなのに、僕は何故か、その瞳の真剣さに吸い込まれる。


「…ミヴェル、俺の野望と、後悔を聞いてくれ」


『野望』『後悔』その二つの言葉が引っかかる。


「ミヴェルになら…」という事だから、きっと誰にも言っていない事なのだろう。


一体、僕に何を話すのだろうか。


キルさんは僕から目線を離さず、ずっと黄金の真剣な瞳を僕に向けていた。


そして、こう打ち明けた。




「俺は…過去を食らう猫だ」











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