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我らは過去を食らう猫(モノ)  作者: 実音(みおん)
17/30

大切なモノ

買い物のついでに、希少種猫保護施設へ行ってみたのが、正解だったようだ。


ジュネスは、保護施設にシュマンがいると思いやってきたのだが、そこにシュマンの姿はなかった。


何人かに行方を尋ねると、先程クロヤと話していたという情報を聞き、最上階にある基地長室へ向かう。


「失礼しまーす…。青年君…いるかしら…?」


ドアを開けて呟くも誰の返事もない。奥にいると思い、中に入っていった。


「相変わらず、この部屋は物がたくさん置かれているわね…。クロヤ基地長さんに部屋を掃除していいか聞いてみようかしら…」


ドサドサと資料や段ボールが山になって連なっている。そこを上手く避けてかわすと、基地長の机が見えてきた。


ジュネスは自分が見た光景に驚く。


「あら…失礼、邪魔だったわね」


机の上に覆い被さって銀髪の青年が気持ちよさそうに眠っていた。そして、それを幸せそうに見守るとある人物がいた。


その人物はジュネスに気付き、一瞬ビクッとなるが、コホンッと咳払いをして立ち上がった。


「ジュネス様でしたか、失礼しました。クロヤ様の寝顔が美しくて…つい…」


「いいのよアマノさん、邪魔しちゃってごめんなさいね」


その人物…アマノ=スィエルは少しだけ微笑んだ。相変わらず、瞳は閉じている。


「アマノさんは、基地長さんの事が好きなのね」


そう言うと、アマノは照れたように下を向いた。


「そんな…クロヤ様は私には到底手の届かない場所にいらっしゃる…。私はただ…」


「言い訳は無用よ!青春してていいじゃない♪それに、広まっちゃってるんだから今更抵抗出来ないでしょ!」


ビシッとアマノを指差してジュネスは蔓延の笑みで言った。アマノはそれを見えているのかもわからない閉じた瞳で見届け、小さなため息を吐いた。


実際、アマノがクロヤのことが好きなのは保護施設内で広まっている。


だが、アマノはそれに戸惑っているようだった。


「あの…皆様勘違いしてらっしゃるようですが、私は実は、男なのです」


ウンウンと笑顔でアマノの方を見ていたジュネスが、一瞬固まった。


…ん?これは…


「え、ええええぇ!!そ、そうだったの!?信じられない!!」


当然のリアクションにアマノは再びため息を吐いた。


「…申し訳ありません、私の血族は皆女顔なのです。勘違いされても仕方ないと思っています。だからあまり広まれるのも…」


「別にいいじゃない!むしろ大歓迎よ!!」


アマノに覆い被さるようにジュネスほ大声を出した。ジュネスは腐っている女子と書くアレだ。こういう話題は持って来いなんだろう。


「クロアマ…いや、アマクロかしらねぇ…」


「…?なんのことでございましょう?」


ジュネスが自分の妄想の世界へ入ってしまったことにそんな事を知らない純粋なアマノは首を傾げた。


「とにかく!今のままでいいと思うわ。誰だって恋はするもの!「両性」の種族を見習いなさい!恋に性別は関係ないのよ!」


ジュネスはこれまでにないガッツポーズを繰り広げた。アマノはそんなジュネスのテンションについていけず、若干呆れていた。


本当に、腐っている女子の勢いは止まらない。










「ところで、何の御用でございましょう。何故こちらに来られたのですか?」


アマノの無機質な言葉で本来の目的を取り戻す。


「あ、そうだったわ。青年く…シュマン君見なかったかしら?」


「ああ、シュマン様ならジュネス様の店に戻ると仰られていました。なので今頃戻っているのでは」


どうやら上手いこと入れ違いになったようだ。納得したジュネスは「ありがとうね」とお礼を言った。


「君もまた、私のお店にいらっしゃい!美味しいお茶を淹れて待っておくわね♪」


「良いのですか?ではお言葉に甘えさせていただきます」


アマノは少しだけ微笑んだ。


そういや前より感情変化が分かりやすくなったな、とジュネスは思った。


そんな日常的な会話をしていると、机で寝ていたクロヤがいつの間にか目を覚ましていた。だが起き上がろうとはせず机に顎をつけて眠たそうにしている。


「…なんの話をしていたのだ…?」


「あら、基地長さん。おはようございます。コーヒーでも淹れてきましょうか?」


「…ん、ジュネスか…。…!!?」


瞬間、クロヤはビクッと跳ね上がり、クロヤの後ろにあった本棚へ思いっきり背中をぶつけた。衝撃で本棚の本が2、3冊バサバサと落ちる。


「ななななぜ…!!?おおお(おなご)が…!!」


「クロヤ様、落ち着き願います。…申し訳ありませんがジュネス様、ご退出頂くと有難いのですが…」


「あ、あら、なんかごめんなさい…。そうだったわね…。じゃあ、失礼するわ」


女性嫌いのクロヤに気をつかったジュネスは基地長室を出て行った。


基地長室には、クロヤとアマノの二人が残る。


クロヤは深い深呼吸を一つしてから元の机の位置に戻った。


「シュマンは…帰ったか。アマノ、我が寝てからどのくらい経ったか分かるか?」


「はい、34分と18秒でございます。クロヤ様の健康状態だと、もう少し寝た方が良いと思うのですが…」


「いや、我はもう十分だ。我々も次の仕事に向かおう」


アマノが繊細な言葉でそう言うとクロヤは拒んだ。アマノはクロヤの健康状態を気遣い、少し顔を曇らせた。


「クロヤ様、無理なさらないでください。このままだといつ倒れてもおかしくありません、自分を大事になさってください」


「気にしなくて良いぞ。それより、今は希少種猫の方が優先順位は高い」


そう言うとクロヤはいつもの黒いコートを着用し、基地長室を後にした。


「…これだから…クロヤ様は…」


ため息を一つして、クロヤの後を追う。


クロヤの姿が見えた。クロヤは自分のコウモリと何か話しているようだった。


「ああ、…そうか、今すぐ向かわせる…」


「どうされたのですか?クロヤ様」


声をかけるとクロヤは一瞬だけビクッと体が動いた。アマノの方を見て安心した顔で話す。


「丁度良かった。アマノ。至急、ジュネスの店へ行って欲しい。ジュネスの店の行き先は分かるか?」


急な仕事が入った。アマノは冷静にうなづいた後、行き先がジュネスの店だと言うことに少し疑問と不安を抱いた。


「ジュネス様とシュマン様に…何かあったのですか…?」


「いや、ジュネスの方は大丈夫だ。だが…」


そこまで言うと、クロヤは少し黙り込んだ。


ふと以前、クロヤから聞いていた話を思い出した。


「もしかして…ミヴェルが…」


「…とにかく今すぐ向かってくれ…」


そう言うとクロヤは足早に去っていった。


アマノは今は何も考えずに急ぐことにした。











ジュネスの店へ行く途中でジュネスに出会った。無事だった事に少し安心した。


そして、先ほどコウモリから聞いたジュネスの店で起こった内容と照らし合わせて、只々無事を祈るとともに、以前ペアを組んだ事もあるあの同僚の顔を思い出していた。


「…ミヴェル…」


ふとその人の名前を呟いた。


ジュネスに一通りの説明をすると、ジュネスもシュマンの事を思って焦りの表情を浮かべていた。


「ジュネス様は保護施設にお戻り下さい。貴女にはここは危険です」


「いや、一緒に行くわ…!青年君が心配だもの!」


ジュネスはアマノの方をしっかりと見、そう発した。


「ですが、ジュネス様。貴女は能力上は回復猫(リカバリーキャット)の方ですが、あのエルフ(キャット)の血も引いているのですよ?いつ狙われても可笑しくない」


「自分の身は自分で守るわ!それに、私だって保護員の一人なの!いつだって誰かのサポートをしてあげるから!だからいいでしょ?」


ジュネスはアマノに向けていた目線を一層強くして輝かせた。もう何を言っても効かないなとアマノは諦め、ついてくる事を認めた。






ジュネスの店に着いた。


店内は窓が木の板で固定されていて分からない。この前この地域を襲った台風の対策で固定したままなのだろう。


ドアは開けっ放しだった。一体、何が起こったのだろう。


(…一応、準備はしておくか…)


アマノはそう心の中で呟いた。


そして、手首につけていたあるモノを起動させた。鎖のようなそれは、手元から落ち地面の中へ入っていく。


そして鎖が全て地面の中へ入って行った後、アマノは次は周りを見回した。さっきまでアマノのその行為を見ていたジュネスが首を傾げる。


「あの、何をしているの?」


「…ジュネス様は、私が使用する武器を知らないのですか?」


質問を質問で返された。少し戸惑ったがアマノの腰に設置されている(むち)に目がいって指差した。


「え、アマノさんの武器って、その鞭だよね?」


「ええ、そうですが」


そう言い再び空を見上げるアマノ。ジュネスは納得がいかなかった。


「じゃあ今さっきの鎖みたいなのは…?」


「…ああ、マイナーなのであまり知られていませんが、それは…」


そこまで行った時に鳴き声が遮断した。さっきも見たコウモリが飛んできたのである。


「あら、前も見たことがあるわ。そのコウモリ…」


「クロヤ様の使いのコウモリです。…クロヤ様、今から店内を侵入してエスポワール様の救出、及びシュマン様の捜索を開始致します。ある程度はコウモリから聞いています。何か異変が起こり次第、ご連絡致します」


アマノがそうコウモリに伝えると、コウモリは再び空を駆け上がり飛んで行った。ジュネスはその言葉の内容に耳を疑った。


「師匠さんや青年君に…何かあったの…!?」


「…残念ですが。…詳しくは後でコウモリが教えてくださいます。今はエスポワール様の救出を援助願います」


「…う、うん、わかったわ」


少しもやもやが残りつつ、ドアをゆっくりと開けた。












ドアを開けると、店内は酷く荒れていた。


絶句して声を出せないジュネスを横目で見ながら、アマノは状況の確認をする。


アマノは見知らぬ地の状況確認をする時、いつもは閉じている目を開く。


辺りが水浸しになり、ガラスの破片などが散らかり足元が危ない。窓を板で固定していなかったら外にも被害が出ていただろう。


しばらくその虹色を覗かせた後、ゆっくりと目を閉じ先へ進んだ。


「いました。エスポワール様、ご無事で…」


「師匠さん…!!」


ジュネスが師匠の元に駆け寄った。師匠は水浸しになった床に倒れて動かない。


ジュネスが師匠の脈を取る。そしてジュネスの表情が和らいだ。


「…!気絶しているだけだわ…!良かった…!」


ジュネスは子供を優しく包み込むように師匠を抱きしめた。目には涙が浮かんでいる。


そんな光景を見てアマノは少しだけ優しく微笑む。そしてふと、師匠の足元に落ちている本に気づいた。


「…?これは…」


その本はあるページを開いていた。そのページはある少女が写っていた。


アマノはその少女の面影のある人物を知っている。


「……」


無言でアマノはその本を回収した。


師匠を背中に背負い、保護施設へ戻る。


帰り道の途中、再びあのコウモリに出会った。


「クロヤ様、エスポワール様は無事に保護しました。今は気絶している状態です。後は目立った外傷は無し。ひとまず保護施設へ戻ります」


そう伝えると、コウモリは「キョ!キョ!」と鳴いてアマノの肩に止まった。


「…今思うと、可愛いわね、その子」


ジュネスが横でそう言うと、コウモリはビクッとして動揺した後、師匠のネックウォーマの中へズボッと入ってしまった。ジュネスはそれに少しがっかりする。


「嫌いなのかしら…」


「いいえ、このコウモリはクロヤ様の血から出来ています。簡単に言えばクロヤ様の分身ですね。なので女性がお苦手なので御座いましょう」


「はあ、そうなのね…」


脳裏にクロヤを思い浮かべてジュネスは苦笑した。


ジュネスのこの様子だと、大分今の状況になれてきたようだ。


「……青年君はどこへ行ったのかしら…?心配だわ…」


ジュネスが曇った表情を見せた。


…アマノは、シュマンの居場所はわからないが、状態なら何となく理解できた。


前からシュマンの真実を、クロヤから教えてもらっていた。


(クロヤ様は、どうして隠していたのでしょう…?)


まあそれは、師匠が目覚めた後に明らかになるだろう。


とにかく、あの同僚が何かしら吹き込んだのだ。


しかもアマノが嫌う、女性の同僚に。











しばらく歩いていると、何かに見られているような感覚に襲われた。


アマノは冷静に立ち止まり、腰の鞭を手に持つ。


「…猫狩りです。私が敵を引き寄せて置きますから、ジュネス様はエスポワール様を連れて早く保護施設にお戻りください。そして援護要請をお願いします」


小声で端的にジュネスに内容を伝えると、ジュネスは驚きながらもゆっくり頷き師匠を背負って走って行った。


「…こんな時に…。いいタイミングなのかそれとも悪いのか…」


そうため息まじりに呟くと、「そんな事言うなよ」と、聞き覚えのある声が聞こえた。それはアマノにとっては会いたくなかった人物の声だった。


「…ミヴェル…」


「久しぶりだね、アマノ。相変わらず美しい」


アマノの目の前に現れた黒髪の人物…ミヴェルは少しニヤけてそう言った。アマノは不機嫌になる。


「ミヴェルが言うと全てただのお世辞事だ。お前、エスポワール様に何かしたのか?」


アマノが冷静ながらも少しきつめの声でミヴェルにそう言うと、ミヴェルはクスクスと笑った。


「お前はそのエスポワール様がカイヤだと言う事は知っているのかい?」


「…ああ、クロヤ様から聞いた」


「クロヤねぇ…」


そう呟きニヤニヤ笑う。美しいと思える顔が黒く染まる。


「…美しくない…」


「?何か言ったかい?」


ミヴェルはわざとらしくそう言った。アマノはそれに目と耳ををそらし不機嫌な態度を明らかにした。


「で、クロヤに教えてもらって大体知っているのかい?私とエイヴァと…そしてカイヤの過去」


「…まあな、だがミヴェル。それはただの過去に過ぎない。お前はそれに囚われすぎだ」


「どうして、あの残酷な過去に従うんだ」


風が吹く。ミヴェルが不機嫌になった証拠だ。


「…どうだっていいじゃないか、私は、エイヴァと一緒に、本来あるべきだった道を進みたいだけだから…!!」


瞬間、風が強くアマノに吹き荒れた。まるで無数のナイフのように切り裂ける強風は、アマノの頬に切り傷をつけた。


そして風と風の間からミヴェルが襲いかかってくる。


アマノはそれを上手くかわし体制を整えつつ豪雨の外へでる。


ずっと閉じていた目を開き、自分がさっきまでいた場所を確認すると、そこは豪雨と豪風でうづまき、竜巻が起きていた。



「ミヴェル、保護員に反抗する事は掟違反だ。また罰せられるぞ」


「そんな事今は関係ない。私はエイヴァを探さなくちゃ…!エイヴァがいないと始まらない…!」


再びあの竜巻がアマノに襲いかかってきた。アマノは次は自分の腰元にあった鞭を取り出し、勢いよく振り回す。


風が鞭の勢いに合わせて切れていく。が、ミヴェルはアマノでは手に負えない程の数の竜巻を作り出している。まるで弄ばれているかのようだ。アマノはチッと舌打ちをして一旦その場から離れ屋根の上に飛び移った。


ミヴェルも知らないうちに屋根の上に登っていたようだ。


「…ミヴェル、お前の望む道っていうのは、あのガディ=ジュエの人形になっていたあのミヴェルなのか…?」



そうアマノが言うと、ミヴェルはアマノを強く睨んだ。


「ガディ=ジュエはもういない。お前は自由なんだぞ。なのに何故…」


「自由…?何が自由なの?私は自由を奪われたからこうやってエイヴァを探してるんだ…!」


ミヴェルが再びアマノに襲いかかる。


竜巻に追いかけ回されながら、アマノは屋根と屋根を駆け抜ける。


着実と、あの人の方へと。



「エイヴァは…!男性時のミヴェルとカイヤによって!自由を奪われたんだ!ガディ=ジュエの元は自由で裕福で幸せだった…!そしてエイヴァも私も、美しく存在していられた!!なのにカイヤと男性時のミヴェルが…!ガディ=ジュエを殺してしまったから…!!私たちの道は遮断されたんだ!!ああ…かわいそうなエイヴァ…!あいつ達の所為で何もかも狂ってしまった…!!だから私がエイヴァの過去を食ってやらなきゃ…!早くエイヴァの中のカイヤと男性時のミヴェルの過去を…あの残酷な過去を!食ってやらなくちゃいけないんだ!!!」


ミヴェルが叫んだ。同時に竜巻が空全体に広がり、豪雨と豪風があたり一面を吹き荒れる。


「…それが目的か。なら、もう叶っている…」


アマノはミヴェルに聞こえないぐらいの小声でそう呟いた。そして、空を見上げる。


暗くなった空に、たった一つの炎の塊を捉える。


「…貴女の求めていた存在が、今そこにいますよ」


瞬間、その炎の塊が流星の如くミヴェルに衝突した。











ジュネスが保護施設に着くと、沢山の人に紛れてクロヤが駆けつけてきた。


「エスポワール!無事だったか…!?」


「クロヤさん!師匠さんは気絶してるだけです。大丈夫ですよ…!」


ジュネスがそう言うとクロヤの表情が少しだけ和らいだ。そしてカイヤの手をぎゅっと両手で握りしめ、「ごめんな…エスポワール…」と呟いた。


今にも泣き出しそうな表情だ。


ふと、自分が女子であることを思った。


隣に女子がいるのにクロヤは驚いたりしていない。


それほど、師匠の無事を願っていたのだろうか。それとも、これが希少種猫保護施設α基地長の風格、威厳なのだろうか。


クロヤは本当に、自分よりも相手を大切にする人だ。


「とにかく、エスポワールを基地長室に連れて行く。アマノは…」


そう言いクロヤは辺りを見回すが、アマノの姿はない。そう言えば、今さっきジュネスから猫狩りが出現したからアマノは後から来ると聞いていた。


「…アマノ…」


クロヤの周りには沢山の支持者がいるが、ここまで自分を信じてくれ、そして付いてきてくれた人はアマノしかいない。


それを失った時の虚しさが、少し痛感した。


「…とにかく、誰か基地長援護班を連れてきてくれ、我がエスポワールを背負う」


そう言い師匠を背負い基地長室に向かった。


「…痛感する。誰かを失うことの大切さを…」


ふと、そんな事を呟いた。


ミヴェルもきっと、そんな気持ちだったのだろう。


人は他人を助けるために精一杯だ。


男性時のミヴェルがいつも言っていた、その言葉を胸に刻み、今守るべきモノを背負い歩く。



これが我の、進んでいる道かもしれない。












師匠が目を覚ました。目線の先は資料が重なっている。


「…ここは…、基地長室…?」


頭が混乱している。整理しようと頭を捻ると、見たくもない光景が頭をよぎった。


そして同時に、あの時は髪がまだ短かったクロヤの姿を思い出す。


「…!!」


クロヤがいるはずのあの机の置いている場所に向かって資料の山を駆け抜けた。


目的地に着くと、クロヤはこちらに気付いたらしく、少し泣きそうな、だが安心して微笑んだ柔らかい表情を浮かべた。


「エスポワール、起きたのか…」


瞬間、クロヤの首元の襟を掴む。


「クロヤ…!なんであの時…!!伝えてくれなかったんだよ…!!親父の企みを…!あの実験の事だって知っていたんだろ!?」


師匠はクロヤを強く睨んだ。


クロヤは一瞬驚いた顔をした。そして、顔が暗くなり俯く。


そんなクロヤの様子に腹を立て、より強くいってしまう。


「なあ!?なんとか言ってくれよ!!クロヤ!!」




「…キル=エスポワールは、我が殺した」



一瞬で、世界が凍り付いたように時が止まる。


そんな中で、いつしかクロヤの瞳は、真っ直ぐと師匠の方に向いていた。








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