キボウノカコシラズ
罵詈雑言が聞こえる。
複数名の怒鳴る声と泣き叫ぶ声が煩く耳元で唸っている。
「っ…さいなもう!!」
長時間聞いていると鬱な気持ちになる。その嫌な声をかき消すかのように強く怒鳴った。
すると、しんと静かになった。
あたりを見回す余裕が出来、見回してみると、あたり一面火の海だった。
そして、遠く離れた瓦礫の上に、ある人物が立っていた。
その人物に何故か懐かしみを覚えた。
「…て…」
何かを言っている。
「…どう…して…」
「どうして…助けてくれなかったの?」
少女は涙を零した。
その涙は熱くなった瓦礫の上へ落ち、蒸発した。
時間が止まる。
「…っ!エイヴァ…!!」
必死に少女の方に手を伸ばす。
だが、少女はもう目を合わせようとしなかった。
「…『希望』が…消えてしまった…」
そう呟く。涙だけが只々流れる。
「…やめてくれ…!やめろ…!やめろ!!!」
頭を抱え、泣き叫ぶ。
心には、『希望』がすっぽりと消え、空虚感だけが残った。
「っ…!!」
勢いよく飛び上がる。冷や汗が背中を伝った。
「なんだよ…!前からずっとこればっかり…!」
毎回同じ夢を見る。いや、毎回同じ過去を見るといった方が良いのだろうか。エイヴァと呼ばれた少女が火の海で立ち尽くしている姿。
「助けろつったって、何をすれば良かったんだよ…。…エイヴァ」
当然返事は返ってこない。
何故、エイヴァの過去を知っているのだろうか。知らない内にエイヴァと出会い、過去を食べてしまったのか…。
思い当たる人物が一人しかいない事に不安を覚え、頭を抱える。
シュマンが…エイヴァのはずが無いと、自分で正しいのかも分からない答えを信じ込む。
「…ミヴェル…お前の過去を教えてくれよ…。そしたら、お前の弟の過去も分かるからよぉ…」
少年声が暗い寝室に響く。
「…こっちは急いでんだよ…ミヴェル、早く姿を現してくれ…」
本人に届くことのない言葉を吐いた。
その頃、同時刻、ミヴェルはと言うと、
ある人物と、出逢ってしまっていた。
「…エイヴァ?」
思わず声に出してしまう愛しい弟の名前。
その声が届いたらしく、青年はこちらを振り向いた。
「…誰ですか?貴方は…」
その言葉にガクンと体が脱力する。探し求めていた者が、見つかったと思っていたが、人違いだった事に絶望を覚えたからだ。
「…エイヴァじゃ…ないのか…。失礼した。弟だと思ってしまったよ」
自分の吐き出したい気持ちを抑え、いつもの他人に対する振る舞いをする。
「…もしかして、ミヴェル=ソワールさん…?」
目を見開いた。相手が自分のことを知っていたのである。その理由は次の青年の発言で理解した。
「β基地のミヴェル=ソワールさんですか?私は、希少種猫保護施設α基地に所属しているシュマンといいます!ミヴェルさんのことは、以前から知っていました!『両性』なんですよね!」
グイグイと話を進める青年に少し戸惑ったが、ニコッと微笑んで対処する。
「確かにそうだけど、どうして僕のことを知っていたんだい?β基地にも保護員は沢山いる、僕はその中の一人にすぎないのに…」
「私も…!『両性』だからです!同じ種族の方に会えて良かった…!」
シュマンは大いに喜んでいる。ミヴェルは「それはよかった」と言い笑い返した。
「…エイヴァじゃ、なかったのか…。似てるのに…違うのか…」
「え、何か言いました?」
「いや…!なんでも無いんだ!すまないね」
ふと呟いた言葉が聞かれていたのに驚き口を隠す。
それにしても、本当にシュマンはエイヴァに似ているな…とミヴェルは思った。
綺麗な黒髪に漆黒の目、笑った時の雰囲気まで過去に見たエイヴァの顔と照らし合わせてしまう。
「…おかしな事を聞くが、君は…本当にシュマンなのか…?」
思い切って聞いてみる。シュマンは驚きの表情をし、こちらを見た。
「…?私は私ですよ?シュマンです。…うーん、実は私、記憶喪失でして…師匠に会うまでの記憶が無いので断言は出来ませんけど…、今はちゃんとしたシュマンですよ?」
その言葉の真意が理解出来なかったが、体の何処かに響いた気がした。目を丸くする。
「…ミヴェルさんは、弟さん、エイヴァさんを探しているんですよね?」
シュマンの言葉に再び驚く。まさか相手が自分の情報を知っていたなんて思ってもいなかった。
「…何故、僕のことを…」
「すみません、実は以前受けてた仕事が貴方を探す事だったんです。β基地長さんからの依頼でして、期限が過ぎているから戻ってくるようにという事をミヴェルさんに伝えてくれって…」
「そ、そうなのか…。なら、迷惑をかけてしまったようだね、すまない…」
理由を理解し、ひとまず安心する。
そして、そんなにももう時間が過ぎていたのかという事に、焦りを覚えた。
「一刻も早く…エイヴァを探さなくては…エイヴァは…」
「ミヴェルさん…?」
自然と体に力が入る。風が足元から舞い上がる。
「僕のせいで…エイヴァには残酷な過去が存在してしまっている…。それを早く食ってやらなくちゃ…エイヴァは救われない…。それはエイヴァの過去を知っている僕にしか出来ない事だ…!エイヴァは…今も何処かで…苦しんでいるだろうな…。そして、僕もそろそろ…」
そこまで言うと、声が急に細く小さくなった。シュマンは最後の言葉までは聞き取れなかった。
「ミヴェルさん…弟想いなんですね」
「兄弟をもつ人なら、誰でもそうだと思うよ。人は他人を助けるために精一杯だ」
シュマンの方を見て微笑んだ。
「そろそろ失礼するよ。急に話しかけて済まなかったね」
「いえ…!またいつか会いましょう!」
シュマンは背筋を伸ばしてニコッと微笑んだ。そして手を振ってお別れをしてくれた。
「…面白い人だったな…。そして…エイヴァに本当に良く似ている…」
そこまで言うと、黙り込んだ。大きな深呼吸を一つして、胸元に手を当てる。
「…ダメだ。過去に囚われてちゃ…。クロヤも言ってたじゃないか。…」
「過去を思い出すと…エイヴァをまたあの過去に陥れてしまう…。ダメだ…!僕が僕からエイヴァを助けないと…!」
懐から薬を取り出し、ゴクリと飲み干した。
「落ち着け…!自分…!そうじゃないと…もう一人の僕が、エイヴァを不幸にさせてしまう…!」
捨てた薬の入っていた包装紙には、『精神安定剤』と書かれていた。
ミヴェルと会ったことをクロヤに伝えると、ある言葉が返ってきた。
「そのミヴェル=ソワールは…男性だったか?」
シュマンはその言葉に首を傾げ、意外な質問に少し驚いた。
「…男性でしたけど…どうしました?」
「いや、なんでも無いのだ。ありがとな、我やエスポワールの代わりにミヴェルに伝えてくれた事を感謝しよう。手間が省けた」
「あ、ありがとうございます」
クロヤは欠伸を一つして、「少し寝る」と言って机に伏せて寝てしまった。
静かな空間にクロヤの寝息の音だけが聞こえる。
「クロヤさんも…大変ですね…」
保護施設に戻った時にたまたま出会ったアマノによると、クロヤは何日も寝ていなかったらしい。アマノの心配そうな表情が印象に残った。
多分、ミヴェルの事についてずっと悩んでいたのだろう。
「…ミヴェルさんは、弟さんの過去を食べて、記憶を消してあげたいらしいです。残酷な過去があるって…辛いですよね…」
眠っているクロヤに語りかけるような独り言を呟き、近くにあった毛布をかけてやり、基地長室を後にした。
外に出て、あたりを見回す。
最近は保護施設で泊まったり宿屋で泊まったりしてろくにジュネスの店へ行けていなかった。
久々に、戻ってみようと思う。
師匠やジュネスは元気にしてるだろうか。
シュマンの歩く速度が上がった。
保護施設から南西に何分か歩いて、角をいくつか曲がった所にジュネスの店がある。昔は結構道に迷った。
この寂れた町に愛着を持つことが出来るのは、きっとここがシュマンにとっての居場所となったからだろう。
鼻歌を歌いながら軽快な足踏みで歩く。そして角を曲がると何も変わっていないジュネスの店があった。
「ジュネス姉さん…今いるかな…?事前に連絡入れた方が良かったかも…」
少しだけ後悔したが、もう遅い。思い切って店の中に入った。
「ただいまです!!」
「あら、おかえりなさい」っとジュネスの声が聞こえる。それと同時に師匠の「おせぇぞ!シュマン!」と笑いながら怒る少年声が聞こえた。
…と思っていた。
「…なんですか…!これは…!」
店内は酷く荒れていて、皿やティーカップなどが割れ、あたりが水浸しになっていた。
そして、店の真ん中で見覚えのある人物が、頭を抱えてうずくまっていた。
「し…師匠!!どうしたんですか…!?これは一体…!」
師匠の近くまで駆け寄り、話しかけると師匠は全てに絶望したかのような目をこちらに向け、怯えながら言った。
「…俺は…!俺は!!何をすればよかったんだよ…!!」
「何をって何ですか!?しっかりしてください!師匠!」
「触るな!!」
肩に手をかけると振り払われた。
師匠の体は震えている。
「俺はミヴェルの『希望』を持っていたのに…ミヴェルとエイヴァを…助ける事が出来なかった…」
「し…師匠…」
シュマンはその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
シュマンが来るほんの数分前。
店にある客が入ってきた。
それはジュネスも一度は見たことがある顔で、師匠が今一番探していた人物だった。
「ミヴェル…!どうしてここに…!」
「あれ、君はあの時の…久しぶりだね。ジュネスさんはいるかな?」
ミヴェルはニコッと微笑むと小さな小包を取り出した。
「この前…雨に濡れていた所をジュネスさんが親切に店の中に入れてくれて、おまけにお茶まで頂いたんだ。だからその時のお礼がしたくって…質素なものだが、贈り物をとおもってね」
ジュネスから大体の話は聞いていた。黒髪の好青年に出会ったと。まさかその好青年がミヴェルだったことに師匠は驚愕した。
「ジュネスが言ってたのは…お前だったのか…!」
「そんなに驚くことかい?それとも…僕だった事が不思議だったのかい?」
「いっいや…!別になんでもねーんだ!ジュネスに伝えておくぜ!ジュネス今少し出かけてるから」
「ありがとう!お願いするね」
そう言い微笑んだ。作りモノのような本物の笑顔を。
ふと、本来の目的をおもいだした。思い切って、本当の事を打ち明ける。
「…唐突ですまないが、俺は…実は希少種猫保護施設の保護員だ。種族は「過去を食らう猫」ある任務でお前をずっと探していた」
驚くと思ったがミヴェルは案外驚かなかった。
「同じことが今日は二回も起きたよ。さっきも黒髪の保護員に出会ってね。名は…シュマンと言ったかな…。君もその黒髪の保護員と同じ目的かい?」
ミヴェルの言葉を聞き、驚愕した。
シュマンが、ミヴェルとこんなにもあっさりと会ってしまったのか…。
「…シュマンは…」
「…?」
「シュマンは…お前を見て何かおかしくはならなかったか?…何かを思い出してしまったとか…」
恐る恐るミヴェルに聞くと、ミヴェルはアハハと腹を抱えて笑った。
「エスはおかしな事を言うね!シュマンは普通に接してくれたよ。何かあったのかい?エス、随分と真剣だけど」
「あ、いや…。シュマンは俺の弟子でもあってな!その…まだタマゴだから迷惑かけてねーかなーってなっ!」
「心配いらないよ、親切でまっすぐな人だった」
「なら良かったぜ…!」
なんとか誤魔化せたみたいだ。
ミヴェルを見て何も思い出さなかったということは、シュマンはエイヴァでは無い確率が上がった。それが師匠にとって安心できる事だった。
そう思えると、自然と他人ごとのように思えてきた。
変に警戒していたミヴェルも今では弟を探している優しい兄という可愛い印象を持つことができる。
「弟探し、俺も手伝ってやるぜ!一人で探すのって時間かかるししんどいだろうしな!α基地が全力でサポートすんぜ!」
「いいのかい…?…僕はα基地にいろいろ世話になってばっかだな…。…ありがとう、まあ先ずは一旦β基地に戻るよ。基地長に迷惑をかけてしまった」
「しばらく叱られてくるよ」とミヴェルは無邪気に笑いながらそう言った。師匠を蔓延の笑みで笑う。
「それじゃ、エス、よろしくね。本当に感謝する」
「あー、俺、実はエスって名じゃねーんだ。あの時は偽名を使ってただけで…」
師匠は軽はずみに自分の本当の名を言ってしまった。
「俺はエスポワール!性の方だけしかわかんねーけどよ!よろしくな!」
この一言が、相手を変える事も知らないで…
「…エスポワール…?」
「…カイヤ=エスポワール…じゃないか…」
師匠はそのミヴェルの言葉を聞き取れずにいた。
エスがカイヤなんて…そんなのありえない…!!
私は信じていたよ、エスがカイヤだという事に。
カイヤは今頃、どこかの保護施設で保護員として働いているはず…
α基地にいてたじゃないか、エスポワールって名でね。ほら、顔が似ているだろう…
カイヤは僕より年上だった…こんな少年のはずがない!それに…カイヤは希少種猫じゃない!
…カイヤの父親がどんな奴だったか覚えていないのかい?あいつだったら、自分の息子にも手を出しているはずだ。それに、お前がカイヤの過去を食った理由も分からないのかい?
違う!カイヤの過去を食ったのは僕じゃない!!
カイヤの過去を思い出してごらん。記憶の最後にほら、お前の姿が映っている。悔しそうな顔だね…何か自分のモノを取られた顔だ。
違う…カイヤは、そんなことしない…!希少種猫の能力を…盗む事なんて…
事実だよ。カイヤは確かに、お前と私の「過去を食らう猫」の能力の一部を盗んだ。聞いたことあるだろう?確か…カイヤの父親は「盗猫」っていう希少種猫の遺伝子を使って、何かをしていたはずだ。
…それがあのエスと、どう関係があるんだよ!
…危険な実験はそれなりの失敗を持ってくる。カイヤは失敗作さ。何故少年のままなのかも、これで証拠がつく。さあ、目の前にあの憎たらしいカイヤがいるよ。お前はどうするんだい?
カイヤは…僕の親友だ。憎んでなんかない。
へえ…カイヤはお前とエイヴァを引き離したんだよ?愛する弟を引き離されて、憎たらしくないのかい?
……僕は…カイヤを信じたい…!
そう…。だからエイヴァ探しも時間を使ってしまったという事か。せっかくまだ探しやすい昼に時間を与えてやったのに、もう時間切れだ。
…!落ち着け…!!自分…!!絶対に、お前を外に出すものか!!
精神安定剤を毎日飲んで私を封印してるのは知ってるよ。でもさ、その薬、飲み過ぎて効果が薄まってるの、気付かなかったのかい?
…!落ち着け!落ち着いてくれ!!僕は…!!
さあ、私の出番だよ!!
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
頭を抱え、ミヴェルが唐突に叫ぶ。その瞬間、ミヴェルの周りから暴風と水が吹き、ミヴェルの周りを渦巻く。
物がどんどん吹き飛ばされる。台風が来たかのようなその激しさに、師匠は机に捕まり必死に堪える。
「ど…どうしたんだよ!!ミヴェル!!」
嵐の中で必死に叫ぶと、ピタッと風がやんだ。物が散らかり、辺りが水浸しになっている。
「…ヤ…エスポワール…久しぶりだね」
その声と姿に目を覚ました。さっきよりも声は高く、背も低くなり女性の姿をしていた。
「お前は…もしかして…」
クロヤから聞いていた。昼のミヴェルと夜のミヴェルの特徴の違い。
それは、「性別が違う」という事。
この前朝方に師匠が会ったミヴェルは昼のミヴェル、その時は男性だった。
そして、クロヤがミヴェルに会う時間帯はいつも夕方から夜にかけてだ。その時のミヴェルは、女性になりかけていることが多いと言う。
「…今は昼だぞ…何故夜のミヴェルが…」
「昼のミヴェルはもう時間切れさ。ずっと時間を与えてやったのに、なかなかエイヴァを見つけられないからね。…いや、気づかなかっただけかもしれない」
「どういうことだよ…それ…!ちゃんと説明してくれよ!」
師匠はここぞとばかりに怒鳴った。散々エイヴァの過去に囚われていたからだ。それでもミヴェルの過去が…そしてエイヴァの過去が知りたかった。中途半端は嫌いだ。
「そうか、カイヤの過去はミヴェルが食べてしまったからいちいち聞きに来るわけか…。過去を忘れて…さぞ幸せだったよなぁ!カイヤ=エスポワール!!」
夜のミヴェルは目を見開いて師匠の方を睨んだ。その目からは師匠に対する恨みが込み上げている。
風がミヴェルの感情を伝えるかのようにミヴェルの周りを吹き荒れる。
「はあ?俺はカイヤじゃねぇ!どんな証拠があってそんなこと…」
そこまで言った瞬間、何かを思い出した。
ずっと俺、記憶喪失だったじゃねーか…
「…自分の過去も知らないで、相手の過去を思いやれるなんて、随分と楽なことだね。君の過去が私達の過去にも関係してるの、知らないで私達を助けようとするなんて…なんて卑怯な奴なんだ…!」
「違う…俺はカイヤじゃねぇ…。きっと俺はまた違う人物で、お前らの過去とは全然関係ねぇ過去を持っていて…」
「現実逃避かい?カイヤ=エスポワール。でも事実なんだ。カイヤ=エスポワールは確かにここにいる。私の目の前にね!」
ミヴェルは師匠を追い詰めるように師匠に近づき、師匠の耳元で囁いた。
「思い出せ。カイヤ=エスポワールの過去を…。今…そっちに返してあげるから…」
瞬間、師匠の身体に何かが入ってきた感覚がした。それは身体中を駆け巡り、脳へと到達する。しきりに、脳に激痛が走る。
「あ…ゔぁぁぁぁぁぁぁ!!」
頭が割れそうなほどの激痛。師匠は頭を抱え、涙を零す。
脳裏に、ある情景が浮かんだ。
私はある日、親友から『希望』を託されました。
親友は今の人生に絶望していました。自分の事なんて人には言いませんでしたが、何となくそれが分かりました。
親友は自分の事よりも弟の事を気にかけていました。
弟を救いたいと何回も言っていました。
私は、親友を元気づけてあげる事しかできませんでした。
私が励ますたび、親友は私に微笑んでくれました。
もちろん、ホンモノの笑顔です。
…でも、いつからかそれはニセモノへと変わっていきました。
いや、変わったのではなくて、交互にそれは現れるのです。
ホンモノの笑顔の時は弟の心配をしていました。
ニセモノの笑顔の時は、弟の自慢話を言っていました。
親友は交互に現れました。
ある日、親友はこの町から出たいと言いました。
理由は分からなかったですが、私はそれに何らかの返答をしました。
その返答が『希望』だったのです。
親友は私からの『希望』通りに事をこなしました。
あの時の『希望』が、正しかったのか、間違っていたのか、それは人それぞれです。
それは2人の親友の自分に対する態度も変えたと思います。
『希望』は、正しかったのでしょうか?
私、カイヤ=エスポワールは、2人のミヴェルのうちのどちらかに、過去を食われてしまいました。
なので真実はわかりません。
ただ一つ分かることは…
私は、最悪な人間だったということだけです。
エスポワール
フランス語で「希望」という意味




