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我らは過去を食らう猫(モノ)  作者: 実音(みおん)
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人の過去を食らう猫(モノ)

ある寂れた町の裏道にて、1人の男が黒い影に追い詰められていた。


その男は急に現れた黒髪の人物に突然攻撃され、なんとか攻撃を避け逃げて今に至る。

 

「もう、逃げられませんよ。」


だが、黒髪の人物にとうとう追い込まれてしまった。


男は混乱している頭をフル回転させ、なんとか逃げる道はないかと考えた途端、手足に何かを締め付けられた感触がした。見ると、何やら炎らしきものが手足首に巻きついている。


必死で解こうとすると、


「それは炎の手錠です。むやみに取ろうとすると2000度以上の火炎があなたを襲います。気をつけて下さい。」


冷静な顔で黒髪が言う。


これでは動くことも出来ず、男はしばらく黒髪を睨んでいると、黒髪がこちらの様子に気づいたらしく、


「あ、別にあなたを殺すとか…!どっかに売り飛ばすとかそんなことしませんよ…!少しだけ眠って頂くだけですから!」


黒髪は慌てた様子でそう言うが、信用出来ない。てかお前は一体誰なんだと男は考えていると、何処からか少年のような声が聞こえてきた。


「ご苦労、シュマン。お前の仕事は終わりだ。」

 

「お疲れ様です。後は任せます。師匠」


師匠と呼ばれた声の主は、どこにいるのか分からない。


その時、男の手首に巻かれていたあの炎の手錠が外れた。


と同時に、世界が真っ暗になった。







「……師匠、本当にこれで良かったのですか?私にはこの男を脅しているようにしか見えなかったのですが…」


黒髪の人物改め、シュマンはそう言った。


シュマンは足首にまである長い黒髪に、チャイナ服に似た赤い服を着た、冷静沈着な人物である。

性別は両性、つまり男性と女性の両方であり、今は男性寄りの姿だが、女性の姿に変わることも可能だ。



「あ?そーじゃねーと美味しく頂けねーだろ?頭を使え、シュマン」


シュマンに師匠と呼ばれている男は、シュマンより若い…まだ幼い少年だ。本名は不明。だが少年の姿をしているが、実は26歳とおっさんだったりする。今はこのように口の悪いハッキリ言うとクソガキである。

茶髪の男子である。肩ぐらいまで髪を伸ばし、黒のネックウォーマーを着用し、茶色のパーカーを着ている。


そして、シュマンと師匠は共に猫であり、ネコ耳と尻尾が生えている。シュマンはオレンジ、師匠は黒色の猫耳と尻尾である。


「人の過去を食べるしかいきる方法が無いなんて、毎日が大変ですね。」


「仕方ねーだろ、過去を食らう(モノ)になったからには、そーするしかねーじゃねーか」


 人の過去を食らう(モノ)


シュマンと師匠は特別な子猫だ。


他の猫とは違い、人の過去しか食べることが出来ない。

何故そのようになったのか、二人とも原因を探しているのだが、未だ見つからない。というより、過去の事が思い出せないのだ。


 二人もまた、過去を食べられた被害者なのだから…。









「おめーも食うか?こいつの過去はうめーぞ!」


男の脳から取り出した、赤い色をした物体を食べながら師匠は言う。


過去というものはことごとくグロい形をしており、例えると人の臓器の一部を取り出したかのような、赤い液体で湿った物体である。


シュマンは少し抵抗しながら、仕方なく受け取ることにした。


そして、口の中にヌメヌメした物体がはいってくる。味はまあ…確かに美味しいと言える味だろう。


「…師匠、やはり私はこれに慣れません… なんか申し訳ないようなことをしてる様にしか…」


「うめーだろ!!ほら、もっと食え!」


「…話を聞いて下さい…。師匠」


シュマンは呆れた顔をして師匠の食べっぷりを眺めた。


そしてため息を吐く。いつものことだと諦める。


ふとシュマンの方を見た師匠が言った。


「おめーが決めた道だ。今さら後悔すんな、バカタレが。 いい加減自分の今おかれている状況に慣れろ!でねーといつまでたっても完璧じゃねーぞ!」


「…完璧……ですか…」


シュマンは再びため息をした。師匠の言葉で自分のおかれている状況を思い知ったからである。


「師匠はいいですね、決められた道があって…」


「私はいつまでたっても、完璧になれない…」


そう言ったシュマンに師匠は反応した。


「…この世に最初から作られた道なんてねーぞ、俺らが作っていくもんだ、俺だって、完璧な道はねぇ」


シュマンは急な言葉に驚いた。師匠はこれまで弱音を吐いたことはない。そして、弟子に対して思いやりのある言葉なんて発しなかった。


師匠は何事もなかったかのように男の過去を食べつき、手についた赤い液体を舐めていた。


そしてこう言った。


「明日の過去狩りは、お前1人でやってみるか?」










「師匠、私はまだ、未熟者です…!まだ私には早すぎると…」


「いや、十分おめーも成長したし、一回やってみたらどうだ?」

「しかもこれで成功したら、おめーはもう一人前、完璧だ」


「…完璧」


シュマンは戸惑った。師匠がいきなりいいだすものだから、やる気が出ない。何よりも勇気がない。自分なんかが過去狩りなんて出来るのだろうか、もし失敗したら…


完璧になれるはずがない。


俯いていると、師匠は顔色変えずにこう言った。


「失敗したら俺がサポートしてやるから、でもまあその時はおめーはまだ完璧じゃなかったことになるがな」


「…」


シュマンは完璧という語に弱い。

何故だかわからないが、自分が完璧であらなければいけないという変なプライドがある。


昔は完璧だったと師匠から聞いた。

でもいつから師匠にプライドを壊された?


よくわからない今の立場、自分の今置かれている状況…


本当にこれでいいのだろうか…


だったら、この師匠からの「試し」で自分の今の状況を変える事が出来るのならば、やってみてもいいんじゃないか?


だけど…師匠にプライドを壊された事により、自分は完璧じゃなくなった。自分はまだ師匠がいないと完璧に過去狩りが出来ない、未熟者だ。


葛藤していると、師匠は呆れた様子で


「いつまでも俺にくっついたまま生きるな、シュマン。自分で自分を作れよ。だから完璧になれねーんだ」


とため息混じりで言った。


シュマンはその言葉で決心した。










屋根の上に、その長い黒い髪をなびかせている男が一人、下の様子を眺めていた。


もちろん不安げな顔をし、額には汗が滲み出ている。


「あいつがターゲットだ、あいつの過去はお前が好きそうな味だからなぁ。言っとくけど、食べ過ぎはよくないぜ?相手が記憶喪失になるからな」


「…はい。」


そんな怠けた言葉でシュマンの緊張を和らげてやりたかったが、声を掛けても掛けなくても別に変化はなかったようだ。


師匠はシュマンに見えないようため息し、シュマンの無事をただただ願った。


だって、今のシュマンが完璧になれるはずがないから。


シュマンは昔の自分を探している。あの完璧だった時のあのシュマンを。

だがそのシュマンの過去は俺が食っちまった。だから今のシュマンは過去に戻れない。戻れたとしても完璧になれずに過去のシュマンに殺されてしまうだろう。


かといって新しい完璧な自分を、今のシュマンには見つけることが出来ない。あいつは俺がシュマンの過去を食っちまったせいで過去とは真反対な性格になってしまった。シュマンには1人で過去を食らうという残酷な生き方は、出来ないだろう。


俺が見てきたシュマンは、俺の食べた過去のシュマンより、少し優しすぎるから…



師匠はあたりを見回し、教会の時計を見てから、シュマンに合図を出した。


「過去狩りの時間だ、始めるぞ」


「はい…!」


その瞬間、シュマンが黒髪をなびかせながら、暗い夜の町へ落ちていった。






























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