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 8匹に増えた魔羊が、城の前で群れているのを寝ぼけ眼で眺める。なんというか、凄く牧歌的で平和である。相変わらず、空は暗いし、枯れ木は不気味であるが。

 なんだかんだで、転生してから六日目の朝なのだが、一向に冒険者なり勇者なりの侵入者が現れる気配はない。よっぽど人里離れた位置に、この迷宮はあるらしい。私としては、迎え撃つ準備が全く出来ていない現状で来られてもミルカちゃん無双しか出来ないので、見つかっていないのは好都合としか言い様がない。

 それはそうと、魔羊が8匹になった結果、この島も手狭になってきた。元々小さい島なのである。人口(羊口?)密度が上がった今は、どうしても窮屈に感じてしまう。

 何匹か迷宮の方に移せばいいのだが、あっちはあっちでまた狭い。上手くいかないものである。


 頭が回り始めたところで、今日の活動を始める。と言ってもやる事は、たまっているDP10ポイントとMP20ポイントを使って少しだけ迷宮を広げることだけである。それが終わったら、MPが枯渇して気絶し、気がついたら翌朝である。何と言う効率の悪さだ。それでもやらないよりはマシだと思って、寝室に戻る。


 “迷宮拡張”の画面を開いて、さてどこを広げるかと思案する。本当は迷路状にしたいのだが、それをするにはDPもMPも足りなすぎる。今日広げられるのは、4マス分。現状4×4になっている小部屋を横に4マス足して、長方形の部屋にしようか。そしたら、魔羊の半分をこっちに移そうかな。扉を守るエリアボスとしては、頼りないばかりだけど。そうと決まったら、ミルカちゃんに頼んでおかないと。私、気絶しちゃうし。


「ミルカちゃん、ミルカちゃん」

「魔王さま、なんでしょう?」

「ちょっとお願いがあるんだけどね――」


 椅子に座っていたミルカちゃんに呼びかけて、お願いする。


「分かりました!」


 ミルカちゃんは快く引き受けてくれたので、ファーストもいるし、大丈夫だろう。


 早速、拡張に取り掛かる。まずは、DP10ポイントを使って、綺麗な正方形だった小部屋に出っ張りが出来る。その横に、MP10ポイントを使って、広げる。身体を脱力感が襲うが、無視して、更に、DP10ポイントを使って、広げる。最後に、残りのMPを使おうとしたところで、画面に赤い文字が割り込んできた。


「ん?」


 なんだろうか。初めてのことである。まさか、侵入者……か?

 私は焦る気持ちを抑えて、赤い“お知らせ”の文字をタッチする。

 画面が切り替わって映されたものは――。



迷宮レベルアップ!

迷宮レベルが2になりました。


・DPを1000ポイント獲得しました。

・宵闇の島の面積が広がりました。

・新機能“城改築”が追加されました。

・“迷宮拡張”に罠1種、フィールド1種が追加されました。

・“魔物創造”に魔獣系2種、スライム系1種、植物系1種、妖精系1種が追加されました。



「おお……なんか色々増えた……」


 ちょっとした感動である。特にDP1000ポイントが嬉しい。これでなんとか、迷宮らしく出来そうだ。

 浮かれたまま、新しく増えた魔物のチェックに入る。



迷宮Lv.2 


必要ポイント10ポイント

魔獣系:眠り羊、迷宮ネズミ

スライム系:スライム

植物系:マッシュ


必要ポイント20ポイント

妖精系:シルキー



 眠り羊来た! 流石スライム並! スライムと一緒に来た!

 

 ミルカちゃんに新しく創造出来るようになった魔物のことを聞いてみた。すると、以下の回答が得られた。

 迷宮ネズミは、そのまんま迷宮に生息しているネズミで、非常にすばしっこいらしい。

 スライムは、想像通りの魔物で、核を潰さないと勝てないが、ステータスが軒並み低い為、最弱の魔物とされている。

 マッシュは、キノコ型の魔物で、普段はキノコに擬態して、敵が近づくと襲いかかるそうだ。

 シルキーは、家事特化の妖精で、戦闘能力は低いものの、一匹いれば家事を任せられてとても便利だという。


 その話を聞いて考える。食事は必要ないものの、魔王城という建築物がある限り、掃除等の家事をする人は必要だと思う。そんなの自分でやればいいとも思うんだが、私は一日の大半を睡眠に費やしている。とてもではないが、家事能力があるとは思えない。

 前世はきちんと掃除も料理も裁縫も出来たんだけどな……。はぁ、とため息。

 

 とりあえず、一匹ずつ創造してみようかという結論に達した。眠り羊以外。

 あくまでも、眠り羊以外である。隔離部屋がない現在、迂闊に創造したら、ミルカちゃん以外の全員が寝てしまいそうで怖い。そんな理由で後回し。

 DPを50ポイント消費して、一匹ずつ創造する。

 黒い霧が4匹を象っていく。霧が晴れた時、そこにいたのは――。


 首をキョロキョロさせているネズミ。

 不定形の青い体をプルプルさせている謎物体。

 2本足で歩くキノコ。

 2対の羽を持った手の平サイズの可愛らしい女の子の妖精。


 シルキーだと思われる妖精が話しかけてきた。


「主様、主様。生み出してくれてありがとう! これから、いっぱい働くね!」


 空中でくるくる回って、アピールするシルキー。


 か、可愛いぃいい! ミルカちゃんも可愛いけど、この子もすっごく可愛い!

 抱きしめたいくらい可愛いけど、とても小さいので、抱きしめることが出来ないのが残念だ。


「こちらこそよろしくね! 一人じゃ大変だと思うけど、この魔王城の家事を任せていいかな? 人手が足りないようなら……」

「主様、このくらいならわたし一人で大丈夫だよー。任せて任せて!」

「わかった。それじゃ、頼むよ」

「うん!」


 そういうとそのままシルキーは、微妙に開いた扉の隙間から、寝室を出て行った。他の部屋の状態を見に行ったのかもしれない。

 私は残りの3匹に向き合う。さて、どうしようか。とりあえず、気を使ってか、黙って見ていてくれたらしいミルカちゃんに意見を聞いてみようかな。


「ミルカちゃん。この子達、どこに配置したら良いと思う?」

「そうですね……」


 ミルカちゃんは、3匹に近づいて、顎に手を当てて考える。

 ミルカちゃんが近づいたことに驚いたのか、迷宮ネズミがマッシュの後ろに隠れた。臆病者なのかな。いや、1匹だけだからかもしれない。ほら、ネズミって集団で行動するし。


「迷宮ネズミは迷宮にいてこそ、真価を発揮するので迷宮に。マッシュは木の近くが良いと思います。スライムは、どこでも大丈夫ですが、迷宮の防衛力を優先的にあげなければならないので、迷宮ですね」

「んじゃ、そうしようかな」


 私は、ベッドから降りて、3匹に声を掛ける。


「君らこっちね」


 ぴょんぴょん、とことこついてくる3匹の後ろにミルカちゃんが続く。玉座の間を抜けて、外に出ると……。


「気がついたら、島が巨大化していた……」


 呆然と呟く。少し窮屈に感じていたレベルの広さだったのが、魔羊たちが駆け回って余裕がある広さになっていた。あと、木が数本増えている。


「そういえば、宵闇の島の面積が広がったとか書いてあったっけな……。てかこの島、宵闇の島っていうのか」

「魔王さまが“宵闇の魔王”なので、恐らくそこから来ているんですね」

「へぇ……」


 半分上の空で答えたが、視界の端をスライムが跳ねているのを見て、正気に戻った。


「マッシュ、適当にそこらの木のそばにいて」


 顔なのかよく分からないキノコの傘を上下に動かすと、マッシュはとことこと近くの木にそばに行った。そして、瞬く間に普通のキノコと見分けがつかなくなった。擬態って凄い。

 それを確認すると、私は迷宮の扉に向かおうと思ったが、さっきミルカちゃんに頼んだことを思い出した。どうせなら、一緒に移動させてしまおう。


「ファースト、3匹連れてこっち来てー」

「メェ~~」


 ファーストが一声鳴くと、ぞろぞろとファーストと魔羊が3匹やってきた。


「君たち、迷宮の中に移動ね。スライム達と仲良くしてね」


 皆、それぞれ鳴いて、了承の意を伝えてくれた。


 皆を連れて、両開き扉を開き、迷宮の中に入る。きちんと“迷宮拡張”でした通りに、部屋が広がり、通路が伸びている。ただ、小部屋が綺麗な長方形でなく、1マス分へこんでいるのが気になる。拡張している途中でレベルアップしたのだから、当然であった。すぐに、DPを10ポイント使って、拡張しておく。ゴゴゴッと音が鳴りながら、部屋の角が広がったのを見て、私は満足する。


「ファースト達は、この部屋。スライムと迷宮ネズミは、好きなところにいて良いよ」


 そう言った途端、迷宮ネズミがあっという間に通路の方に走っていった。

 そんなに、私といるのが嫌だったのだろうか……。


 それぞれが、思い思いの場所についたのを確認したので、私はミルカちゃんを連れて、再び寝室に戻ることにする。限られたポイントを使って、どんな風に迷宮を作るか、二人で考えないとね。





 木々をかき分けて、一人の青年が森を歩む。

 ここは、魔の森。魔力樹の群生地だ。魔力樹は、背が高く枝葉が広い。その為、昼間でも薄暗く迷いやすい森だ。しかし、夜になると魔力樹は魔力を発光させて、幻想的な光景を作りだす。

 青年は人間族ではない。耳は人間族より長く、先が尖っており、顔立ちはまるで作り物のように整っている。それだけだと、エルフのようだが、浅黒い肌がそれを否定していた。

 青年の種族はダークエルフ。大陸の多くの国では忌み嫌われる少数種族であるが、今いるこの国においては関係がない。


「あれは、扉じゃねえか。こんな所に、ダンジョンが出来てやがる」


 青年は、悪態を吐く。

 ポツンとそこだけが刈り取られたように開けた場所に、ダンジョンの扉があった。


「自然発生型なら攻略。迷宮創造型ならギルドに報告だ。チッ、メンドクセーな」


 青年はブツブツ文句を言いながらも、扉に手を掛ける。


 これが、運命の出会いになるとも知らずに――。



 


これから少しリアルが忙しくなるので、更新が不定期になります。申し訳ありません。

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