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朝の7時に間に合いませんでした。すみません。
昨日、あの後、DP5ポイントで魔羊を一匹創造した後、寝室に戻って、ベッドの上で3マス迷宮の通路を広げ、そのまま気を失うようにして寝た。
活動している時間に対して睡眠時間が随分と長いが、それは眠り羊という種族の宿命だと思って諦めている。そもそも、MPがすぐ枯渇するのである。回復する為にも、睡眠が多くなるのは仕方がないことなのである。そう、仕方がないのである。
私は、城の外に出ていた。目の前には、四匹の魔羊。隣には、ミルカちゃん。
私は悩んでいた。この迷宮がヒト族の大陸に出現してから、既に数日が経っている。そろそろ、いつ侵入者が現れてもおかしくない。だというのに、迷宮は、迷宮とも言えない一本道。生息しているのは、魔物でさえない眠り羊。そして、魔王たる私も脆弱。何か、何か策を考えねば。
目の前の魔羊達に目で問いかけるが、奴らは「メェ~メェ~」と鳴くばかり。使えない。
やはり、頼れるのはミルカちゃんだけだ。助けて、ミルカディア~。と、ミルカちゃんに視線で訴えかけてみるが、伝わることはなくニコリと微笑みだけが返ってきた。
結局は、自分で考えるしかないということか。せめて、この魔羊らが戦えればなぁ。……そういえば、こいつらのステータスってどうなっているのだろうか。確か、クラス特性の《ステータス閲覧》で配下のステータスは見れるはず。私は、試しに一番右端にいる魔羊のステータスを閲覧する、と念じてみると、自身のステータスと同じような感じにステータスが出現した。
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name/
sex/雄
race/魔羊
class/迷宮動物
Lv.1
HP 10/10
MP 10/10
ATK/F
DFE/F-
AGI/F+
INT/F-
MNT/F-
DEX/G
CHR/F
LUK/G
種族特性/《魔毛》
クラス特性/《迷宮内復活》
▲
能力値はやはり低い。迷宮レベル1で創造出来る魔物でさえない動物なのだから、こんなものだろう。ちなみに、種族特性の《魔毛》は通常の羊毛より魔力を多く含んだ毛のことである。能力値には何も影響はない。
残りの魔羊もステータスも見てみるが、似たり寄ったりだった。
結局、私が強くなって、迷宮レベルを上げるしかないという結論にたどり着いてしまう。しかし、私が安定的に、迷宮拡張・魔物創造出来る様になるには、かなりの時間を要する。その間、魔羊では迷宮を守れない。でも、新たな魔物を召喚するには、迷宮レベルを上げなければ。迷宮レベルを上げるには、私のレベルを上げて、【創造】をきちんと使えるようにならなくては……堂々巡りである。
私は、額を押さえ、「どうすればいいんだ……」とぼやく。
「低レベルな冒険者であれば、私でも殺せると思いますが、どうでしょうか?」
「その手があったか!」
目からウロコだった。
何故か私は、無意識のうちにミルカちゃんを戦闘要員としてカウントしていなかった。おそらく、分からないことを教えてくれるサポート役という面を強く意識しすぎてしまったのだろう。前世のゲームでは、進め方を教えてくれるサポート役の殆どが、直接戦闘はしなかったこともあるかもしれない。
しかし、ここにいるのはサポート悪魔というクラスであるだけの魔物である。迷宮産ではないので、復活は出来ないが、それは私も同じである。現時点では、ミルカちゃんが倒されてしまったら、イコールで私の死である。しばらくは、ミルカちゃんに頼らざずにはおえないだろう。そうとなったら、ミルカちゃんのステータスも確認しなくては。
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name/ミルカディア・クイックシュタイン
sex/女
race/ベビーデビル
class/サポート悪魔
Lv.1
HP 100/100
MP 120/120
ATK/E+
DFE/D-
AGI/C
INT/B
MNT/D+
DEX/C
CHR/C
LUK/D
種族特性/《誘惑》《飛行》
クラス特性/《知力補正》
スキル/【睡眠無効】【火魔法Lv.1】【暗黒魔法Lv.1】
称号/宵闇の眷属、ネームドモンスター
▲
……ん?
思わず二度見する。
あれ? めっちゃ強くない?
レベル1で、これって……。
「ふふん。悪魔系の魔物は、一番弱いレッサーデーモンでも中級迷宮の中でも上の方の迷宮でないと生息していません。つまり、悪魔系はドラゴン系に並ぶエリート種族なんですよ! 私がサポート悪魔でなかったら、こんな初級も初級の迷宮になんていませんからね!」
ミルカちゃんが、(ない)胸を張って、自慢げに語ってくれた。よっぽど、自分の種族に誇りがあるらしい。
しかしこれなら、並の冒険者では、ミルカちゃんを倒すことは出来ない。ここに来てようやく、少し安心した。
ミルカちゃんはステータス的に、魔術師型だ。それも、火力というよりはデバフ系が得意なサポートタイプ。《誘惑》は自分よりCHRが低い相手を状態異常[錯乱]にする事が出来る。【暗黒魔法】は、状態異常、弱体化系の魔法である。本人も【火魔法】は、一応の攻撃手段として持っていると言っていた。
そして、【睡眠無効】。これによって、もし私が《眠りへの誘い》をonにしても、ミルカちゃんだけは起きていられる。最終手段として、侵入者を強制的に[睡眠]状態にして、ミルカちゃんと二人がかりで殺すことも出来る。流石に高レベルだと、ミルカちゃんと同じように耐性系スキルを持っているかもしれないが……。
それにしても、本当にサポートするために生まれてきたようなステータスである。クラス“サポート悪魔”は伊達ではない。
「まあ、私のステータスの高さの秘密は、種族的なこと以外にもう一つあるんですけどね」
「もう一つの秘密って?」
「名前持ちであることです」
「どういうこと?」
私は首を傾げる。どうして名前がステータスの高さに繋がるのだろうか。
「私の称号は二つ。“宵闇の眷属”の方は、魔王さまの配下である事なのですが、もう一つ“ネームドモンスター”というものがあります。つまり、名前持ちですね。魔物は、上位の存在によって名前を付けてもらうことにより、通常よりも大きな力を持つことが出来るんです」
「あれ、じゃあミルカちゃんは、誰に名前を付けてもらったの?」
「邪神様です。サポート悪魔は、邪神様によって生み出されますから……」
「なるほど、そういうことか」
邪神によって生み出され、尚且つ名前持ちなら、レベル1であのステータスなのも頷ける。
魔物は名前を授かることによって、強くなる。魔王という上位存在である私なら、魔物に名前を授けることも可能なのではないか。
「ミルカちゃん、私がこの魔羊達に名前を与えたら、この子達もネームドモンスターになる?」
「どうなんでしょう……。そもそもが魔羊は魔物ではありませんし……」
「物は試しってことで」
私は、一番初めにステータスを見た魔羊に近づいて、しゃがむ。この魔羊は、他の奴に比べて角がシャープで、AGIが高かった。
「今日から君は、ファーストね」
早くて、一番目に名前を付けたから、ファースト。単純だけど、私にはネーミングセンスはないのだ。勘弁して欲しい。
「メェ~」
ファーストが了承するように鳴くと、私の身体をもう何度目かのだるさが襲った。感覚としては、MPが半分、すなわち10ポイント使った感じだ。突然だったので、私はそのまま地面にへたり込む。
「名前を付けると、MPが持ってかれるのね……」
上位存在でないと名づけ出来ない理由が分かった。今回は魔羊だったからこそ、10ポイントで済んだが、強い魔物になればなるほど多くのMPが必要となるのだろう。これは、多用できない。それならと、ファーストを群れのリーダーに据えることにする。
「ファースト、魔羊のリーダーを任せる。これからも増えてくと思うけど、よろしくね」
「メェ~~」
ファーストは力強く鳴いた。なんだかちょっと、賢くなってる気がする。
名づけすると、どのくらいステータスが上昇するのか確認する為に、ファーストのステータスを開く。
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name/ファースト
sex/雄
race/魔羊
class/迷宮動物
Lv.1
HP 20/20
MP 15/15
ATK/F+
DFE/F
AGI/E+
INT/F+
MNT/F
DEX/F
CHR/F+
LUK/F
種族特性/《魔毛》
クラス特性/《迷宮内復活》
スキル/【統率Lv.1】
称号/ネームドモンスター、魔羊リーダー
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名付けの効果は劇的だった。全体的に能力値が上がり、G評価がなくなった。特にAGIの成長は著しい。既に、私も能力値だけでは負けている。しかも、魔羊のリーダーを任せたせいか【統率】スキルまで獲得している。名前を得るだけでここまで変わるものなのか。たぶん、上位存在のMPを貰う事に意味があるのだろう。
これなら、どんどん名づけしていきたいが、それにはMPがただ創造する以上に必要である。迂闊には出来ない。でも、強くなるし……。
「ちなみに、ネームドモンスターは復活するのに、名無しの倍のダンジョンポイントが必要ですよ」
「マジで?」
「はいっ」
即座に方針が決まった。
まずは、迷宮拡張と魔物の数を増やすのを優先して、名づけは後回しにしよう。そうしよう。
「メェ〜」
ファーストもそれが良いと言ってるみたいだしね。